書いてて思ったけどこいつ単騎でもまあ強いのなんの。
「とりあえずメル、
リューズの反応は早かった。額に青筋を浮かべて全神経を五感のもうひとつ上の感覚、彼の持つ時間の流れへ介入する能力へと集中させる。小さな物体や限られた箇所の時間を止めたり巻き戻すのとはわけが違う、出し惜しみ抜きの最大出力。
瞬間、全ての音が止まった。あらゆる動きが凍り付いた世界の中で、地面には彼のみが認識できる巨大な時計を模したような意匠が視界いっぱいに広がって見える。今はまだその針は動いてはいないが、常に一定のペースで必ず動こうとするそれを精神力だけで抑え込んで彼は走り出した。
一歩ごとに凄まじい勢いで、彼の体力と精神力が限界に近づいていくのが自分でもわかった。時計の針を止め続けることに、全神経が持って行かれる。なにもせずとも途切れそうになる意識を必死で繋ぎ、脂汗を拭う余裕もなく。ともすれば自然に暗くなる視界を気合でクリアに保ち、自然とふらつく足には喝を入れてとにかくリダンの元へと走る。時間の流れ全体への強制停止はその能力を持つ彼の身にさえも余るほどの所業であり、彼自身これをやったのはほんの数えるほどしかない。そのうち一回がパーペチュアとの時系列上の初邂逅であり、そして今だ。それでも、やらねばならなかった。
「リダン!」
時間が止まっているのだからいくら叫んだところで聞こえるはずもなく返事がないことなどわかりきっていたが、それでも相棒の名を叫ぶ。物言わぬ機械、デッドネーダーの横を抜けてどうにか起き上がろうとする姿勢のまま停止したリダンに肩を貸すような格好で立ち上がり、止まった傷だらけの体を抱えて再びメルの所まで歩き出す……どうにか元居た工場の中、デッドネーダーの視界外へと転がり込んだ所で、ついに限界が訪れた。
消えていく時計の針は動き出し、音が、風が、光が世界中に一斉に蘇る。
「リューズ……?」
「よう、らしくねえ、じゃねえか」
笑おうとしたが、うまく声が出なかった。突然の瞬間移動に周囲を見回し、今にも死にそうな顔の相棒と急に消えた自分を探して敷地内をスキャンしながら歩きだすデッドネーダーの足を扉越しに見て、すぐにリダンも状況を把握する。先の戦闘で自分の体に負った怪我を片っ端から数か月後の状態まで時間を飛ばすことで治療しつつ、廊下の奥側まで避難し、壁に背中を預けるような形で汗だくのリューズを座らせた。
「ごめんねリューズ、少し休んでて……君が、今回の依頼人だね?」
「あ、ああ。なあ、一体、今何が起きたんだ……?」
「どうもこうもないよ、誰かさんの作ったあの化け物ロボット相手にちょっと油断したのさ。本気でやればどうってことないだろうけどね」
元々依頼を聞いた段階から好感度は低く、さらに(仮にも)自分を傷つけリューズを消耗させたデッドネーダーの開発者でもあるメールナーへのリダンの言葉は冷たい。痛感する無力さと自責の念にうつむく彼女を、しかし止めたのは他ならぬリューズだった。
「……別に、メルのせいじゃないさ。ライゼオルだって、遅かれ早かれ誰かが似たようなものは作ってたろうしな。ただ今日は俺が後先考えずに、少し張り切り過ぎたんだよ」
「リューズ……」
『そうそう。いい、メールナー博士?これはあくまで私の考えだけど、「作ったものに責任を負う」ってのはね、「作品が誰かに使われる度にいちいち知らない人の責任まで取って回る」って意味じゃないの……順番が前後したわね、初めまして。改めて私が時空移動理論の第一人者、パーペチュアよ』
「もしやとはおもったが、やはりあなたが……!お初にお目にかかります、メールナー・マフリーンです」
タイムレコーダーから飛んできた同じ研究者としてのパーペチュアからの援護に、リダンもそれきり反論したりはせずに肩をすくめる。しかし彼女はそれだけに留まらず、さらに異論を許さない凛とした調子で言葉を続けた。
『ええ、はじめまして。でも「ライゼオル」も今の是非は置いておいて、それ自体は実際素晴らしい効率と出力を両立させた奇跡の産物だと思うわ。あなたは天才よ、メールナー博士。それだけにオール社がこれを平和利用する気もないのが口惜しいけれど、それはあなたのせいじゃない』
「しかし……」
『しかし?じゃあ聞かせてもらうわ。あなた、私のことが憎いかしら?』
「憎むだなんて、そんな!」
『そうかしら?いい、あなたが私たちに助けを求めるに至った今の境遇は、もとはといえば私の時空移動理論があるからこそ成立しているの。今の「ライゼオル」の使われ方をもしあなたが気に病むのなら、同じ理屈で私にも復讐の念を抱いていないと筋が通らないわよ』
「ですが」
『ですがじゃないの、案外強情ね博士。でもね、意地っ張りで私に勝とうってのは無理だから諦めた方が賢明よ……というか、そうやって思わないと私がいたたまれないの!』
論理的な思想から一転してとうとうぶっちゃけられたあまりといえばあまりな、しかし本人からすれば切実な本音に一瞬言葉を失ったメールナー。そんなこったろうと思ったと声を抑えて笑うリューズの顔をちらりと振り返って、彼女もとうとう毒気を抜かれたように小さく笑う。
「……わかりました。筋が通らないのはおっしゃる通りよくないですし、責任は会社の方に背負ってもらうことにします」
『ええ、よろしい。私たちは科学者ですもの、論理的に結論を出しましょう?』
澄まして答えるパーペチュアにもう一度声を出さないよう笑ってから、少し緩んだ場の空気を改めて締め直すようにリューズが体を乗り出した。とにかく敷地が広いうえに、その巨体に加え腕も足も少しでも重心を下に置いてバランスを取るためか丸っこいが、腰の部分はアンバランスに細い造形が仇となりデッドネーダーからはこの場所を覗き込むことが難しい。まだしばらく、安全でいられるはずだ。
「それで?今度は俺が聞く番だぜ。なあリダン、それにパーペチュア。通信が途切れてから、一体何があったんだ?」
「うん。つまんない話なんだけど、実は……」
そう前置きして、憮然とした表情のリダンが語り始める。それは、彼らが互いの仕事に分かれてから少し後の話。
「ほらほら、この程度?時間を飛ばすまでもないんじゃない?」
くるくると優雅に、リダンが舞うようにステップを踏む。ドローン軍団の照らす光をスポットライトに、催涙弾をパートナーにしてたったひとり彼のみを主役に縦横無尽に踊り回り、たまに飛び出してくる機体にはすれ違いざまに
「……でも、もう飽きちゃったな。リューズもひどいよね、せっかく一緒に仕事だってのに二手に分かれてやろうだなんて。というか前の仕事もそうだったけど、なーんか僕いいように使われてない?」
同意を求めるように辺りを見回して、返答代わりの催涙弾は驚異的な反応速度で身をよじって軽く回避。そのまま周囲をぐるりと手で指し示すようになぞり……。
「あぁ、もういいよ君たちは。
そう呟いた瞬間、彼を取り囲んでいた百機近くのドローンは一斉に動きを停止してその場に落下した。不意に静かになった森の中で、タイムレコーダーへと呼びかける。
「パーペチュア、こっちは終わったからリューズ迎えに行ってくるね。もういいでしょ時間稼ぎは」
『終わった、じゃなくて飽きたから終わらせた、の間違いでしょ?はいはい、わかったわよ。ちなみにリューズは今通信が切れちゃったから喋りかけても無駄だからね、工場内部は電波妨害が入っているみたい。まあ想定内だわ』
「別にいいよ、場所はわかるし」
そう言って自分が崩した塀の穴からすたすたと入り込み、下手な遊園地よりよほど広い敷地内全てを照らし出す眩しさに一瞬目を細める。
その直後、彼の勘が何かを感じて足を止めた。彼の持つ能力のあまりの強大さゆえに随分と久方ぶりに感じる、身に危険が迫っている感覚。それとほぼタイミングを同じくして、パーペチュアの緊張した声が響く。
『リダン、暗号通信が引っ掛かったわ!取り急ぎ翻訳できた要点だけ、「侵入者」「デッドネーダー試号機」「実地試験」「死亡可」「損害不問」……他はまだちょっとかかりそうだけど、まずいことになったわね』
「どうってことないよ、忘れたの?僕はリダン、クロノダイバー・リダンだから」
絶対の自信と共にそう返して自らの勘が指し示した一点、搬入路と搬入路に挟まれたある一角をきっと睨む。するとまるでそれを待っていたかのように隠されていた機械仕掛けの穴が地表に開き、地の底から見上げるほどに大きな『それ』を乗せた台が音もなくせり上がってきた。つい先日見た、決戦兵器の設計図を実物に落とし込んだ存在。
「ライゼオル・デッドネーダー……御大層な名前だけど、お手並み拝見かな」
呟くと同時に、デッドネーダーの両眼に光が宿る。
『聞いて、リダン。メールナー博士によればあれはまだ試作品で、しかも本来同時運用が予定されている専用サポートはまだほとんどが竣工前。スペック上の本調子には程遠い状態よ。それでも威力は折り紙付きだから両掌から出す衝撃波、マキシマム・ハイブリッドは絶対に食らわないで。敵の動きを察知した瞬間発射準備に即座に入ってしかもエネルギーの続く限り連発可能な専用センサーが両目部分に内蔵されているらしいから、まずはそこが狙い目ね。とにかく一瞬でけりをつけないと、やることは単純だけど手が付けられなくなるわよ』
「わかったよ。それじゃあその頭から、
つまるところ彼も、そしてパーペチュアも、まだ心のどこかで甘く見ていたのだろう。どれほどのものであったとしてもたかが兵器、たかが物理的な破壊。どれほどの力があろうとも単純な動きを繰り返すだけの鉄の人形が、リダンの持つ理外の力に対抗できるはずがない、と。
しかしメールナー博士の頭脳が産み出してしまった感知センサーと従来の常識を超えるエンジンであるクロス・システムによって裏打ちされたデッドネーダーの反応速度は、催涙弾の発射を見てから回避できるリダンのそれをさらに上回った。パーペチュアのアドバイスに従いその頭部へと能力を集中させようとした、ただそれだけの動きに反応し、先ほどの愚鈍な動きが嘘のような俊敏さで掌を構えるとそこから破壊の衝撃波を放ったのだ。
「っ!
空気が歪むほどの一撃に対し咄嗟に攻撃の時間加速を中止して防御に回し、自分の前面の時を加速させることで飛んできた衝撃波を彼の元に辿り着くより早く時間経過による自然減衰、さらにはそのまま消滅させようとするリダン。それは歴戦の猛者である彼だからこそ可能だった瞬間的な判断であり、事実それ自体は間違った対応ではない。彼の身をこれまで何度も守ってきた、時間の守りは絶対の防御にして彼以外には不可侵のものだ。
デッドネーダーが
「う……わあっ……!」
時間加速の壁が発生する前に届いたその一撃には防御が間に合わず、苦痛の声とともに大きく吹き飛び、そのまま何度もバウンドして搬入路に叩きつけられるリダン。彼自身のタイムレコーダーも今の衝撃で跡形もなく粉砕され、パーペチュアの声も聞こえない。
本来ならば戦車を軽々と吹き飛ばし高層ビルすら一撃で倒壊させるはずのデッドネーダーの一撃を受けて今なお彼の全身が砕け散っていないのは、破壊寸前にパーペチュアからの介入によって彼のタイムレコーダーが全エネルギーを投射し生成した疑似的な電磁バリアと、辛うじて彼の本能が放った体表に纏う時間操作の膜ともいえるごく薄い防御が多少なりともその威力を減衰させたからだ。
……逆に言えばタイムレコーダーも壊れ彼の意識も薄れている今、同じ手は二度と使えない。衝撃波を放つ際の反動をその体躯で殺しきって再びゆっくりと近寄ってくるデッドネーダーを前にどうにか立ち上がろうとするも、体が言うことを聞かない。視界がぼやけ、目の前に迫ってくる鉄の巨体すらも滲んで見える。
「ぐ……!」
歯を食いしばってもう一度全身に力を入れ、しかし立ち上がれず、途中で無様にその場へと崩れ落ちる。久しく感じていなかった死の文字が、彼の脳裏をよぎる。そんなリダンに手が届くほどの位置で、デッドネーダーが立ち止まった。そのままゆっくりと重心を前に倒してかがみこみ、その腕で彼を掴み上げようとして―――――
「で、リューズが来てくれたんだ」
「お前……」
話を締めくくり感想を求めるリダンに、なぜかリューズがなんとも言えない目を向けてきた。そこに込められているものが少なくとも同情や心配ではないことを察知し、先んじて不機嫌になる準備をしておく。
「『僕はリダン』だの『お手並み拝見』だの言っといて普通に負けるの、だいぶダサいぞ」
「ちょっとリューズ!まだ僕は負けてないよ、まだ勝負はこれからですー!」
「いやどこがだよ、何をどう聞いても完敗してるだろうが」
リダンの不機嫌とは対照的に大きく笑い、ムキになる相方の肩をポンと叩くリューズ。普段ならこういう時には面白がってここぞとばかりに乗っかってくるパーペチュアが何も言わないのは、彼女もこの敗北には責任を感じているからだろうと自分のタイムレコーダーをちらりと見て察しをつける。全く仕方ない奴らだ、俺だってボロボロだってのに。
そしてそのまま笑いながら、だけどな、と続ける。
「『リダン』が負けたってんなら、お礼参りは『ダブルバレル』でやってやらねえとな?」
「リューズ……当然でしょ、うん」
『そうね、私もこのままじゃ終われないわよ』
改めて反撃の意識をひとつに、頷き合うクロノダイバー達。その横で真剣な顔で何事か考えこんでいていたメールナーに、リューズが向き直る。
「メル、とりあえず俺たちはあのデッドネーダーをぶっ壊す。実際のところ、あいつになにか弱点はあるのか?」
「……そう、だな。リダン君といったね、それにパーペチュア博士。君たちに今一度確認したいのだが、デッドネーダーはこれで2発、あの衝撃波を放ったと?」
『ええ、間違いないわ。物凄いエネルギー反応が、
パーペチュアからのお墨付きを得て、顎に手を当てて考え込むメールナー。ややあって、彼女は再び口を開いた。
「……あの試作品の保有できる最大エネルギー量は、そう多くない。あくまでもデータを取るための代物だからな。充填数はいいところ3、どれだけ多めに見積ったところで4が限度で、エネルギー効率を格段に高めるための外付け装置であるエクリプス機関はまだ実装段階まで開発が進んでいない。要のクロス・システムも未完成で、あれを動かす分には問題ないがそれ以外には碌な効果も発揮しないと見ていいだろう」
「つまり?あと2回、あれの前に身を晒せって?」
「いや、そうじゃない。確かにそれもひとつの手ではあるがね。だがあれにはもうひとつ、瞬間的にエネルギーを使わせる機構が備わっている」
もう一度正面からやり合うのは御免だと口を尖らせるリダンに、ゆっくりと首を横に振るメールナー。先に彼女の言わんとすることに気が付いたのは、やはりパーペチュアだった。
『耐破壊防衛システム……これね。自身及び味方機、つまりデュオドライブの破壊遂行に対し当然予想される反撃に対し、機体にかかる負荷が致命傷を与える前にその箇所からエネルギーを瞬間的に放出することで衝撃を相殺、機体を守ることがコンセプト、と』
「ああ、このシステムのエネルギー源はあの破壊衝撃波と同一。そしてデッドネーダーは最初の出撃以降、まだ補給を行っていないのだろう?」
「要するに、だ。あれをぶっ壊すような強烈なのを2回かましてやれば、あいつは木偶の棒になるってわけだ」
少なくとも何をすればいいのかの目標が見えてきて、拳を鳴らすリューズ。しかし意外にもそこに待ったをかけたのは、デッドネーダーの脅威を実際に体感しているリダンだった。
「……いや、多分それじゃ計算が不十分だよ、リューズ。あれを破壊できるような行動はどうしたって、その前にあのポンコツロボットに動く隙ができる。破壊工作に一手、それに対応して衝撃波に一手。そのつもりでかからないと」
『リダンの
「なら、その衝撃波とやらを避けられるぐらい遠隔で済む方法でやる必要があるわけだ。つってもなあ、銃くらいでどうにか出来るようには見えないのがな。
ああだこうだと手早く真剣に策を練るクロノダイバーたちに、メールナーも自分も何かできることはないかと自分のいるこの工場の、そしてライゼオル計画の実施ペースを改めて頭の中でなぞり直す。そこでふと、あることを思い出した。
「『スター』、だ」
「うん?」
『え?』
思いのほか大きな声が出てしまい、作戦会議中だったクロノダイバーたちが一斉に自分の方を向く。リダンも、パーペチュアも、その反応には困惑の色が強い。わからなくても当然のことだ、先日送ったライゼオル計画の資料にはまだ存在すらしていない、ほんの数日前にあるデータを目にした突然彼女の頭脳が弾き出し急遽製作が決定、その用途の
だが唯一、リューズだけは違う反応を見せた。彼女のことを励ますように小さく微笑み、小さく頷いて見せる。
「言ってみてくれよ、メル。大丈夫だ、今はどんな話だって俺達には有難いからな」
その謎めいた名称に、彼だけは心当たりがあるというのはもちろんその理由のひとつ。だがそれよりも彼が依頼を受けてからのわずか数度にも満たない短い逢瀬を通じて、彼女のことを信用に値する人間だと認めていたのも事実だった。そんな内心が伝わったのか、最初は躊躇いがちだったメールナーも次第に勢いづいて話し出す。
反撃の時間は、歪むことも止まることもなく刻一刻と近付いてきていた。
ちなみに今回の両者のムーブ、一応申し訳程度にはOCG的整合性が取れるように合わせてあります。
具体的にはそれぞれリダン(モンスター素材)、4素材デッドネーダー(3素材で召喚+召喚時に素材追加1)の対面状態から、
スタンバイフェイズにリダン効果使用、相手デッキトップを素材に
↓
デッドネーダー効果使用、対象リダン(4→3)
↓
リダン効果使用、自身除外
↓
……に反応してデッドネーダー効果、対象リダン(3→2)
↓
チェーン処理でリダン破壊
みたいな。なのでこのデッドネーダーは本文中にも語られている通り現状残り2つの素材を持った状態、かつクロスもなければ素材に双子も抱えてない状態です。
というとてもどうでもいい拘り。