クロノダイバー・クロニクル   作:久本誠一

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決着。
全話の引きで真面目に倒し方を考えた人には謝っときます。


ダブルバレルの巨人討伐

 ライゼオル・デッドネーダーのセンサーが、突然その端に動くものを捉えた。こそこそと足音を忍ばせ、自分の後ろに回り込もうとしている。すぐさまその動きをなぞり体の向きを変えると同時に内蔵カメラをズームさせてそこにいた人間、気付かれたことに気が付きこちらを見上げる顔面に大きな古傷を持つ男の顔をスキャンしオール社並びに関連企業に登録された全社員の画像情報と照合させる。該当者―――――なし。つい先ほど一切の痕跡を残さず不可解な消失を遂げ、今も最優先捜索対象となっているサイキッカーのものとも一致しないが、この人間も侵入者であることに変わりはない。

 デッドネーダーに今回与えられたプログラムではこの周辺に存在する侵入者は全て敵として取り扱い、殲滅することを求められている。ゆえにデッドネーダーは、まずゆっくりと屈みこみながらその腕を伸ばした。男が拳銃を保有していることはセンサーに備わった金属探知機が認めたが、その程度の武器デッドネーダーの装甲の前では丸腰に等しい。仮に拳銃ではなく同サイズと形状に偽装した爆発物、それもサイズから想定できる中では最大威力の小型ニュークだと仮定してもなお、温度上昇の兆候を捉えてから防御システムにエネルギーを回せば問題ない。ゆえに、必殺の衝撃波を放つ必要もないとの判断に基づいた行動。

 金属の腕が自分に迫っても、男は逃げるそぶりも見せない。その表情を捉え続けるカメラには、そこで不意に男の口角が上がる様子が映っていた。しかしデッドネーダーにとっては不幸なことにそれが笑顔であると判断できるほど、またそれで何らかの警戒を行えるほど、この試作機に備わったAIは上等なものではなく。

 そこで男は大きく息を吸い、一声叫んだ。

 

「今だぜ、『兄弟』!」

 

 その言葉の意味するところをデッドネーダーには理解できず、その必要性も感じない。しかし男がそう叫んだ瞬間と時を同じくして、その内部プログラムに突如として新たな追加命令コマンドが打ち込まれた。といっても、内容はごく単純なものだ。

 

「サポート機体との連携開始」

「該当サポート機体への当機からのエネルギー供給」

 

 これらのコマンド入力者の優先命令権は、デッドネーダーが起動時に受けた命令である「侵入者の殲滅」を下した存在よりも低い。ゆえにそれと相反するのであればその動作は行わず、かつそれよりも優先度は下に。しかし命令権自体は確かなものであるため実行可能な範囲においては、可能な限り速やかに行う必要がある。この状況であれば、まず一つ目の命令は矛盾が発生しないため即座に実行可能。しかし二つ目のそれに関しては、そもそも戦闘中にエネルギーを自ら減少させるという行動が最優先命令と相反しないかを判断する必要があった。

 デッドネーダーのセンサーは、感知範囲内に同型機の存在を認めた。飛行してこちらに近付いてきている識別名「スター」は内蔵エネルギーがほぼ皆無の状態であり、今すぐ戦闘連携を行うというのであれば命令通りにデッドネーダーのエネルギーを分け与える必要がある事も確認する……そしてデッドネーダーは最終的に追加命令の妥当性認識、及びその実行が最優先命令とも相反しないという判断を下した。結果として拒絶されることなくその巨体に人間大の大きさである「スター」が取り付くとその体から専用プラグが伸びて接続され、そこから自身のエネルギーがあちら側へと流れ出していく。

 デッドネーダーの有り余るエネルギーをサポート機体側に供給することで殲滅効率とコストパフォーマンスを高める、それもライゼオル計画に元々想定されている既定の戦術である。現時点では開発が追い付かず何もかもが足りていないためその大前提であるデッドネーダーのエネルギーの無尽蔵性は存在せず結果として残存エネルギーの約半分が持って行かれたが、それでも逆に言えば残り半分。「スター」にエネルギーを譲渡してなお、デッドネーダーの戦闘継続にはまだその代名詞である衝撃波が発射可能なほどに余裕があった。そして瞬く間に充電を完了した「スター」が、プラグを解除してその隣に並び立つ。

 まるでそれを待っていたかのように、バックステップでデッドネーターの拳から距離を取りつつ男が今一度叫んだ。

 

「今だ、リダン!」

「オッケー、リューズ!それじゃあさっきのお返し、おいていけ(フライバック)!」

 

 背後から響く、別の男の声。その声紋が最初に対峙した侵入者のそれであることを照合、認識すると同時にデッドネーダーは残存エネルギー全てを集中させ、振り向きざまの衝撃波を掌から放った。先の戦闘から逆算した侵入者の反応速度から逆算して、回避はおろか反応することさえも不可能な速度と範囲で放つ絶対の一撃。

 しかし破壊の嵐が、今度こそ正確に侵入者を跡形もなく吹き飛ばすことはなかった。肝心の衝撃波を放つための機体の腕が、空中に張り付いてしまったかのように動かない。

 

「おっと悪いな、その手首から先は不正侵入(ハック)させて貰ったぜ。お前がどれだけ馬鹿力だとしても、止まった時間は動かせねえよ」

 

 眼前にいた方の男が、低く呟く。実際、男からの機体への何らかのサイキック能力による干渉をデッドネーダーのセンサーは感知していた。「スター」にエネルギーを譲渡さえしていなければ、即座に反応してこちらをまず消し飛ばすことも十分にできた……しかし現実問題、もう追加の衝撃波を放つだけのエネルギーは存在しない。

 デッドネーダーの置かれた状態を人間に例えるならば、混乱していた、というのが最も正確な状態だった。「スター」への充電というイレギュラー事例によって大幅な変更を余儀なくされたエネルギー分配、現在自分が受けている腕が動かない正体不明のサイキック能力への対応、そもそも自分と連携を行うはずの「スター」がエネルギー充填完了済みかつ戦闘継続下にあるこの状況下でもなぜか沈黙を保ったまま動こうともしていない理由の分析、これら全てへの対応優先度再設定……完成作に搭載予定のより高度なAIならばいざ知らず、試作品には到底一度に処理しきれないほどの情報量。

 そしてその一瞬だが致命的な隙を、クロノダイバー・リダンは逃さない。パーペチュアから聞いていた話に従い、今度こそデッドネーダーの頭部付近の時間を一瞬にして数十億年単位で吹き飛ばした。

 計り知れない時の果てへと世界の全てを置いて行き、時の流れに老いて逝き。いかに外装から内部のセンサー、ネジのひとつに至るまでその全てが特殊コーティング済みの合金製といえど、星の一生にすら匹敵するほどの莫大な時間の流れに耐えきれるはずもなく。デッドネーダーの両の眼から光が失われ、その首が力なく垂れ下がったかと思えばその重みに経年劣化した接合部が耐え切れず頭部が胴体から落下する。数秒後ゆっくりとぐらついた首なしのデッドネーダー、力を失ったその巨体はついに派手な音と共に大地へ倒れ伏した。

 

『皆、急いでベゼルシップに!派手に暴れたもんだから、色々集まってきちゃうわよ!』

 

 感慨にふける暇もなく、パーペチュアの声が響く。素早く敷地の外へ向けて行きに使用した穴へと走りだすリダンに従い、リューズも後に続こうとして……いまだにそこに佇み続けこちらを静かに見つめている、スター・ライゼオルへと複雑な視線を向ける。

 

「リューズ?」

「……ああ。なんでもないぜ、メル」

 

 横のメールナーからの気遣うような声に、自分でも笑ってしまうほど説得力を感じない返事を返す。辛うじて試作品が完成していた「スター」を起動させ、彼女が持っていた権限からデッドネーダーに連携戦闘の指示を出し、まだまだ余裕のあったそのエネルギーを充電のための移譲という形であえて無駄打ちさせる。全てが綱渡りのような策だが、それ以前にもしこの「スター」の試作品開発が他の全てに優先するほどの急ピッチで行われていなければ、そもそも成立すらしない案だった。

 だが、そもそもなぜデッドネーダーと並び立つことがコンセプトの「デュオドライブ」やそれら大型機の専用武装である「マスドライバー」、サポートの小型機にしてもずっと以前から既に仮想空間でのシミュレーションが進んでいた「ソード」や「アイス」らより優先し、後発の「スター」の開発をこれだけ急ぐ必要があったのか……決行前にメールナーから聞いた話が、改めて脳裏に蘇る。

 スター・ライゼオル。主力機であるデッドネーダーに時空を越えての戦闘(・・・・・・・・・)を可能とさせるコンセプトで設計された、リューズの塩基配列(・・・・・・・・・)を元にした機体(・・・・・・・)。時空移動の様々な利権が絡んだ金の卵を産むガチョウに成り得る存在であるからこそ、ひときわ開発の急がれた一機。あの時感じた奇妙な感覚は、まさに彼自身がそのルーツであったからこそのものだった。

 変な話だ。流れる血も持たない機械が、ある意味じゃ他の誰よりも濃く俺の血を分けた兄弟とはな。なんとも奇妙で奇特な運命に、彼はまだどう感じるべきか自分でも決めかねている。

 しかし、それを決めるだけの時間は彼には与えられなかった。ここに至るまで誰にも口にしていない、彼がこっそり心に決めていたこと。それを、今ここでやらねばならない。

 

『リューズ!』

 

 パーペチュアが、その場から動こうとしない彼を何やってんだこのバカという気配も露にタイムレコーダー越しに催促する。実際こんな所でこれ以上悠長にしている時間がないのも、彼自身分かっていた。服の下で拳銃を握り締め早抜きから全弾を、先ほど工場の扉を破壊する時に行った直前への巻き戻し込みで実質その倍の弾数だけ叩き込んで修復不可能なほど「スター」を破壊する情景を思い浮かべる。後はその通り、やるだけだ。

 しかし彼は、まだそうしなかった。

 

「……お前は、どうするんだ?なんてな」

 

 「スター」と向き合ったまま、問いかけるように呟く。反応など、最初から返ってくるはずもない。メールナーいわく「スター」には自我や人格を生み出すほど高度なシステムは存在せず、それどころかデッドネーダーレベルの思考型AIすら組み込まれてはいない。与えたプログラムと命令通りに動きデッドネーダーをサポートする、それだけの存在。逆に言えばだからこそ先ほどの戦いでは、充電完了直後に出撃を上書きする形で待機命令を入れたことによってデッドネーダーとの連携を防げたのだ。

 

「恨むなよ、兄弟」

 

 リダンもパーペチュアも勝利とここに押し寄せてくる連中への対応に気を取られてまだ気付いていないようだが、そんな自我のない、しかも時空移動の能力を秘めた危険な存在を、ここに放置するわけにはいかない。かといって「スター」が目覚めてしまった今では体内に秘めているデッドネーダー由来の莫大なエネルギーがベゼルシップの時空移動時に何らかの干渉を起こすリスクがあり、それを考えると連れていく選択肢はあまりに危険が大き過ぎる。つまりこの『兄弟』はどうしたってここで破壊しなければならず、ならばそれはオリジナルとしての、クロノダイバーとしての自分の役目だ。引き金に指をかけた状態で、暴発寸前にまで力を込める。

 だが、そこで誰も想像しなかった事態が起きた。「スター」は『兄弟』の言葉に、確かに反応するように小首を傾げてみせたのだ。あり得ないはずの挙動に、リューズが目を丸くしてメールナーが息を呑む。そして「スター」……スター・ライゼオルは、さらに別の反応を続けてみせた。周囲をぐるりと見渡し、改めて自らのオリジナルである兄弟に別れの挨拶とばかりに気さくに片手を上げて。ジェット噴射を数度吹かして、その場で大きくジャンプする。飛び上がった全身が空中で光を放った次の瞬間、スターの姿は跡形もなく消えていた。

 

「今のは……一体、『スター』に何が……」

「……さあて、な。デッドネーダーのプログラムがエネルギーと一緒に流れ込んで変なバグを起こしたとか、理屈を付けたきゃなんだっていいけどな。それじゃあメル、悪いがまた失礼するぜ」

 

 開発者だからこそその不条理さが理解できる、目の前で起きた信じられない現象に呆然とするメールナーへと近寄って、再びお姫様抱っこの姿勢で抱き上げるリューズ。二度目とはいえやはり慣れきれるわけもなく顔が熱くなり心臓の鼓動も早くなるのを自覚しつつも両腕はちゃっかり彼の首に回しながら、彼女はリューズが妙に嬉しそうなことに気が付いた。皮肉気な声は心なしか弾んでいるし、口角はわずかに上がっている。そんな表情をじっと見ていると彼もまた腕の中の彼女に目を落とし、かなりの至近距離で目が合ったことにまた顔が熱くなる。

 

「でもな、俺はこう思うんだ。そうだよな、黙って殺されるなんて俺らしくもねえ。あのスターが本当に俺の兄弟だってんなら、あれぐらいやってくれないとな!」

 

 リダンに開けさせた入口へと一気に走りながら、彼は消えたスターのことを考えていた。あの消え方は、実のところ彼にはよく見覚えがある……ベゼルシップが時空移動する際と、全く同じだったのだ。未来に向かったか、過去に跳んだか、はたまた時空の狭間に飲み込まれて消え去ったのか。どこかの場所でいつかの時代にまたひょっこりと会うことがあるかもしれないし、もう金輪際彼とあの数奇な兄弟が巡り合うことはないかもしれない。

 時空は移動できても神ではない彼には、そこまではわからない。しかしいずれにせよ、彼は今この場で兄弟に手を下さずに済んだのだ。




Q:どうやって2素材デッドネーダーを倒すの?
A:リダン(罠素材)とダブルバレル(罠素材)を盤面に無から並べて、かつデッドネーダー側に手札のスターを暴発させます
……流石にもうちょい何かやりようは多分あったと思う。

ちなみにOCG的には、
スター・ライゼオル強制特殊召喚、デッドネーダー素材コスト(2→1)

スター特殊召喚時効果破棄

リダン効果使用、対象を取るデッキバウンス。デッドネーダーへ

デッドネーダー効果使用、対象リダン(1→0)

ダブルバレル効果使用、単体効果無効。対象デッドネーダー

チェーン処理で破壊無効、デッドネーダーバウンス

……みたいな。ダブルバレルの効果は絶対もう少し派手なものでよかった。
スター・ライゼオル、メカクロノダイバー・リューズ説についても語りたかったけど、枠がないのでそれは次回更新(明後日)のおまけに。
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