「リューズ、遅い!」
「人にはいっつも協調性考えろとか言っといて、自分は油売ってていいの?」
大急ぎでベゼルシップに戻ったリューズを出迎えたのは、温かみも何もない仲間たちからの怒りのお言葉だった。笑って頭を下げる。
「悪い悪い、ちょっと野暮用でな。それよか話は後だ、さっさとずらかろうぜ」
「誰のせいで出発遅れたと思ってるのよ、もう!」
ぶつくさ言いながらも、すぐさまベゼルシップの操縦席にかじりつきいくつかの機器を猛烈な勢いで操作し始めるパーペチュア。ギリギリまで周囲に目を光らせていたリダンが、追手や目撃者の存在がない事を確認して扉を閉める。次の瞬間にはもう彼らはあの時代にはおらず、ベゼルシップはいつでもなければどこでもない時空の狭間を漂っていた。
「ふー……はい、これで大丈夫。後はメールナー博士、あなたを元の時代に送り届けるだけなんだけど、ところでリューズぅ?」
「……おう、どうした?」
一息ついたかと思えば妙にテンション高く目を輝かせてにじり寄ってくるパーペチュアの姿に嫌な予感を覚え、じりじりと後ろに下がりながら仕方なく聞き返すリューズ。
「あなた今回の仕事、前の娘に引き続き随分
「あん?」
何を言っているのか一瞬本気でわからなかったが、彼女の視線が自分の顔ではなくその下を向いていることでようやく思い出した。ベゼルシップが出航してなお彼の腕の中にはメールナーを抱き上げたまま、彼女も彼女で彼の首に手を回したままだったのだ。
「あー、いや、これは……」
流石に気まずくなり、とりあえず降ろすぞ、と声を掛けようとして。見るからにウキウキのパーペチュアとは対照的に、何とも不満気な様子が大人びた顔立ちの中にはっきりと出ているメールナーと目が合った。より端的にわかりやすく言えば、拗ねている。
「……前の娘?引き続き?」
「いや待てメル、俺はだな」
終わった話、どころか話題に出てきた『前の娘』……前回の依頼人であるマイ・グリーンフィールドとは何も始まってすらいないし、それを言うのなら今だって別段メールナーとも何も始まってはいない。
頭と理屈ではわかっていてもなぜか弁解めかした口調になってしまうのは避けられず、それを聞いたパーペチュアに至っては水を得た魚のようにますます生き生きと目を輝かせる。
「そうそうそう、その呼び方もずっと気になってたのよね。なんかすっごい距離近くない?」
「ぐ。というかパーペチュア、お前自称いい女だろうが!いい女があんまつまんない話に根掘り葉掘り突っ込んでくるなよ!」
「あら、面白い話なら根掘り葉掘り突っ込んでいいってこと?じゃあ言質も取れたことだし、遠慮なく続けさせてもらうわね」
もはや何を言おうとも発言全てが自分の墓穴を掘る結果にしかならないと察し、そう広くはないベゼルシップの壁まで追い詰められながら閉口するリューズ。しかしその程度の拒絶でこんなからかい甲斐のあるネタを手放すほど、彼女が甘いはずもなく。見上げてくるパーペチュアの瞳から、リューズは確かに獲物を追い詰めた肉食獣の輝きを幻視した。
そんな弛緩した空気が、壊れたのは唐突だった。いつになく真剣なリダンの声が、どこか冷ややかに響く。
「ねえ、パーペチュア。それにリューズも。そこの博士、本当にそのまま元居た時代に送り届けるの?」
「え?」
「……何?」
言っている意味が分からないときょとんと眼を瞬かせるパーペチュアに対し、リューズの反応はもう少し慎重だった。リダンの声色から彼の本気さを……場合によってはこの中で銃すら抜きかねない剣呑な雰囲気を感じ取り、そっとメールナーを降ろしていざとなれば自分が盾になれるようさりげなく後ろに庇う格好に移行する。本気の
残念なことにリダンは、こういう類の冗談を好む性質ではない。お高いプライドと幼少期に由来する対人経験の希薄さのせいでジョークセンスは壊滅的だが、趣味自体は決して悪くない男だ。長い付き合いでそれがよくわかっているだけに、リューズもこれから何を言い出すにせよ本気で彼の言わんとしていることに向き合う覚悟を決めた。
「そりゃどういう意味だ、リダン」
思いのほか、硬い声が出た。平常心だ、と自分に暗示をかけるように言い聞かせる。
隠そうとしても隠しきれない緊張に、付き合いの長い彼だからこそ辛うじて察せられたほどかすかに、だが確かにリダンの表情に不愉快そうな影が差す。無理もないだろう、と罪悪感がよぎった。それは、彼がこれまでの人生で彼を利用しようとばかりしてきた人間たちから散々に向けられてきた感情だろうから。そして、やっと出会えた同類なはずの自分たちからだけは見たくなかったはずの代物でもある。
彼の能力を念頭に置いたうえでの緊張を見せてしまったのは、そんな彼の自分たちへの信頼に対するある種の裏切りに等しい……少なくともリューズはそう感じていたし、だからこそリダンの前でそういった感情を露にすることは避けてきたのだが。やっちまった、と苦い顔になる。しかし当のリダンはそれ以上追及せずまず最初に、と、ところどころ焼け焦げ擦り切れたままの白手袋の指を立てた。
「彼女には、リューズの時空移動の塩基を見ただけでそれを人為的に再現できる頭脳があるよね。あの会社はもうおしまいだろうけど、もしこの情報が他所に渡ったらまた狙われるだけだよ」
「それは……」
パーペチュアが、気まずそうに目を伏せる。彼の言葉は、正しい。スター・ライゼオルが何よりも問題なのは、それが単体での時空移動の技術をものにしている点。すなわち過去にリューズから採取され、複製され続けている生きた「検体」ではなく、ゼロから人為的にリューズの持つ塩基配列と同等の結果を再現できてしまっているというところにある。
大量破壊兵器に成り得るパワーを秘めた試作品デッドネーダーの存在だけでも、オール社の未来はもう閉ざされたも同然なのは間違いない。しかし本社のみならず系列企業の社員も含めればその数は莫大、その中にライゼオル計画を知り、さらにスター・ライゼオルの正しい価値をしかるべき闇のルートに流すことのできる者がどれだけいるのだろう。一斉捜査から逃げ延びて、さらに彼女の存在を力有る組織が知れば、彼女はまた狙われる。可能性は確かに小さいかもしれない。しかしゼロである、という保証はどこにもない。
「だがなリダン、それで
反論にすらなっていない苦しい反論に、リダンは表情ひとつ変えずに頷いた。もう一本、指を立てる。
「もうひとつ。彼女はあの時代に来てから、10年間働いてそれだけ年を取ったんだよね?今更元の時代に戻ったところで、何もなかったことにはできないよ。急に年を取りましたなんて話、そうそう受け入れられると思う?どれだけうまく収まってもゴシップ記事くらいにはなるだろうし、僕らの時代から見た場合嫌でも目に止まるよ」
「……!」
後ろのメールナーが動揺のあまり体を強張らせるのが、はっきりと伝わってきた。リューズもこれには反論できず、苦い顔で押し黙る。
いざ指摘されてみれば信じられない話だが、今の今までそのことが彼らの頭からはすっぽりと抜けていた。とにかく帰りたい一心でそこまで発想が至らなかったメールナーに、そもそも一度会った相手と次に顔を合わせる時は数十年後の姿、あるいはその逆といった事態も頻繁に発生するクロノダイバー。外見年齢のことなど、リダン以外には誰も考えすらしていなかったのだ。
「なら、誘拐の10年後の時代に送り届ければまだ神隠し、ぐらいで……」
パーペチュアがどうにか妥協案でとりなそうとするも、リダンはなおも首を横に振る。その口からはどこまでも冷徹に、しかし感情論ではなく覆しようのない事実だけが淡々と紡がれ重くのしかかる。
「駄目だね。そこの博士は、僕たちとは違う。本来いるべき時の流れからずれたところに放置したって、時間移動の拒絶反応で無駄に苦しんで死ぬだけだよ」
彼が暗く見据えるのは、メールナーの首筋に残る注射痕。最近は嫌でも慣れてきたため傷跡が残るような下手な打ち方はしなくなっていたものの、未来に来た当初のまだおぼつかない手つきで疑似血液を注射した際に付けてしまった傷だ。
リューズもパーペチュアも気付いてはいなかったが、リダンは彼女と初対面、あのデッドネーダーから逃れた工場の廊下でそれを見た時点で彼女もまた自分たちの
「その姿じゃ元の時代には戻せないし、他の時代にも置いて行く意味がない。ならここで苦しませずに終わらせてあげる方が、まだ慈悲ってものじゃないかな」
表情ひとつ変えずそう言い切るリダンにふざけるな、と怒鳴りたいのを、どうにか我慢する。辛うじて爆発を耐えられたのは、リダンも悪意や思い付きでこの役を買って出ているのではなく彼なりに十分に考えたうえでこの結論を出したことはわかっていたこと。そして事実、彼の言葉は理屈の上ではすべて正しいと頭では理解できたからだ。
この先の彼ら自身の活動と身の安全、そして彼女の未来。人間という種族全体に対してそもそもまるで期待をしていないリダン独自の人生観を差っ引いて考えても、あらゆる可能性を全てひっくるめて天秤にかけた結果としてやはりこうするのが一番リスクが低いのだと、言いたいことはわかる。
それでも、とリューズは思う。何の罪もない小娘がいきなり知らない相手、知らない時代にただひとり誘拐されて、強制的に大量破壊兵器なんてものを作らされて。自分たちとは根本的に違う本来日の下を歩けるはずの人間ならば、当然の権利として謳歌すべき友情も青春も全てかなぐり捨てての灰色の10年間。その果てにやっと掴んだ自由と希望の光、その対価が助けを求めた相手からの鉛玉だなんて、そんなのは馬鹿げている。
「リューズ……」
か細く不安げな声に、そっと振り返る。彼の服の裾をおずおずと掴む、メールナーと目が合った。顔色は緊張と恐怖で青白く、それでも懸命に自分の足で立っている。裏社会の住人でもないのに他人が手を汚すのは嫌がるぶん自分の行う殺人行為に対しては忌避感の薄いリダンから直で殺意を向けられているにしては、本当に気丈な態度だ。
「……大丈夫だ、メル」
出来る限り優しい声が出るように、意識して囁く。口に出してしまえば、もう後戻りはできない。彼の腹は決まった。
お前がどう思っていようがそれはお前の勝手だがな、リダン。この世界、それに人間ってのはな、そこまで捨てたもんじゃないんだよ。彼女の頭をそっと撫でてやり、ゆっくりと向き直りながらあえて一歩前に出る。
「悪いな、リダン。今度ばかりは、俺も譲る気はないんだわ。受けた仕事は、やっぱりきちんと完遂しなきゃだしな」
「……なら、どうするの?結局僕の杞憂でこの先そこの博士には何も起きませんでした、なんてお花畑、本気で言い出したりしないよね」
リューズとパーペチュアの身を案じ、彼らを大切に思うからこそ、リダンもここで折れるつもりはない。本人は否定するものの面倒見がすこぶる良くて少し踏み込めばすぐ甘くなるリューズから反発されるのは、想定内。決行することで今後彼から恨まれたとしても……それはとても辛いことだし想像するだけで心が張り裂けそうになるけれど、それで彼を喪うことになるよりは遥かにマシだ。
時の狭間で、クロノダイバー同士が睨み合う。まさか航行中のベゼルシップ内部で、しかもパーペチュアまで巻き添えを食いかねない位置にいるこの状況で、本気で殺し合いを始めるわけにはいかない。だがお互いに退くことができない以上、このままで終われるはずもなく。指一本うかつに動かせないまま、その場の空気がいつか訪れる最後の瞬間に向けて刻一刻と張りつめていく。
そしてパーペチュアは、そうしている間にも必死になってその天才と謳われた頭脳をフル回転させていた。リダンとリューズのスタンスは、それぞれ向いている方向こそ違うもののお互いに正しい。正しいがゆえに、どちらも決して譲りはしないだろう。だがもしも、第三の選択肢を示すことができれば。全てを丸く収める方法が、何かあるならば。今ここでそれを出せずして何が天才か、何が仲間かと知恵を絞り続ける。
「本気だね、リューズ?」
「愚問だな、リダン」
視線は相手の一挙手一投足を片時も逃さず見据えたまま、彼らの手がゆっくりと腰の銃をいつでも引き抜ける位置へ伸びていく。今にも撃ち合いが始まりかねない中で、ついに叫んだのはパーペチュアだった。
「お願い、待って!」
スター・ライゼオル、メカクロノダイバー・リューズ説
※なおこの説は本人のサイボーグ化という意味の「メカ」ではなく、あくまでモデルにした存在というメカゴジラ的文脈での「メカ」であるものとする
根拠……というかほぼ答えだけど、これが2枚のスペック対比
クロノダイバー・リューズ
効果モンスター
星4/闇属性/サイキック族/攻1800/守1300
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):自分フィールドのX素材を1つ取り除いて発動できる。
このカードを手札から特殊召喚する。
(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。
デッキから「クロノダイバー・リューズ」以外の「クロノダイバー」カード1枚を手札に加える。
スター・ライゼオル
効果モンスター
星4/光属性/炎族/攻1800/守 0
このカード名の、(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、
(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。
(1):このカードは自分フィールドのX素材を1つ取り除き、手札から特殊召喚できる。
この方法で特殊召喚したターン、自分はランク4のXモンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。
(2):このカードが特殊召喚した場合に発動できる。
デッキから「ライゼオル」魔法・罠カード1枚を自分フィールドにセットする。
なんとなく言いたいことはわかるでしょう。
同じレベル、同じ打点、対の属性、細かな違いやリューズ側だけの利点こそあれ全般的に上位互換じみたとてもよく似た効果がふたつ、そして同じランク4テーマとしてクロノダイバーよりもずっと後発のライゼオル。
つまりはそういうことです。