Half time thief   作:久本誠一

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オリキャラの次はオリジナル設定が一気に加速する回。
当然どれも公式ではないですのであしからず。


未来へ向けた相談タイム

『それでそれで?もっと詳しく聞かせてよ』

 

 深夜、遮光カーテンによって閉め切られた安アパートの一室。拠点としている部屋に戻り夕食を終えたリューズに、白衣を着た明るい茶髪の女性が興味津々といった様子でその日の話題、マイからの依頼について先を促す。だがその体は半透明で、全身の向こう側にはアパートのものである白い壁が透けて見えている。

 これはホログラム、立体映像だ。実際の女性は遠く離れた、どころか時代すらも異なる、本来ならば決して交わることのない所に存在する。

 

「あのなあパーペチュア、お前自分の用事忘れてねえか?手元止まってんぞ」

『む。ちょっとぐらいはいいじゃない、最近今の(・・)私は面倒な学会とかお偉いさんへの挨拶とか、そんなことばっかりで全然研究も進まないんだから。あーあ、子供だった頃の私が羨ましいわ』

 

 これ見よがしにため息ひとつついてみせる、パーペチュアと呼ばれたホログラムの女性。

 

「それ、あんま子供(ガキ)お前(じぶん)に言ってやるなよ?この前もテンプホエーラーの前で半泣きになってたからな、お前の出した宿題がキツいんじゃないのか?」

『あ、それね?私にとっては時効だから教えたげるけど、確かその時はただの整備だけじゃ物足りないからって、無茶な魔改造して最高速度上げようとしてたのよね。いやー、あの時は若かったわー。絶対外しちゃいけないパーツ真っ先に外して、軽量化できたって喜んでたんだもん』

「あっそ。それで、それを聞かされた俺はどうすりゃいいんだ?」

『確か私の記憶だと……あと3日は泣かせときなさい。ああいうのは自分で弄って、痛い目見て覚えるもんよ』

 

 どこか奇妙な会話だが、当の本人たちにとっては何もおかしな点はない。リューズは、正確にはもうひとりの仲間とひとりの『商売敵』の計3人にとって『未来』の彼女と『現在』のパーペチュアは同一人物であると同時に、通信とホログラム越しになら互いに会話すら行う実質的な別人でもある。

 持って生まれた不可思議な能力と高度に発達した科学力、そしてそれに裏打ちされ彼女自身が道を切り開いた革命的理論。それらが組み合わさったことで、もはや時間の流れの秘密すらも人類は手に入れようとしていた。

 ……これは、そんな時代の転換点を少し過ぎ、巻き戻った時代の話。

 

『まあ、その話は置いておくとして。どうせしばらくはリダンとふたりで逃避行、宿題どころじゃないでしょうし』

「……悪かったな、アイツだけしか行けなくて」

 

 珍しく歯切れ悪く、目も合わせずにぶっきらぼうな謝罪の言葉を吐くリューズ。らしくもない、だが真剣な態度にしかし、ホログラムの向こうからパーペチュアは明るく笑いひらひらと手を振る。

 

『よしてよ、どうせ大丈夫よ。ここにいる「私」だって同じ目に合って、それでもちゃんと生きてるんだから……それよりほら、タイムレコーダー接続しちゃって。データ診てあげるから』

 

 その言葉に大人しく従い、腰に付けていたどこか金属製の蝶のような造形の小型機械を取り出してホログラムの方へと押しやるリューズ。タイムレコーダーと呼称されたそれは、時系列も無茶苦茶に時を駆ける彼らにとっては体感で定義するしかない己の時間感覚を確固たるものにするための命綱であり、どんな時代でも使える貴重な通信機器であり、時を渡るうえでの副作用を記録しその限界を判断するための判別機でもあった。

 

『お、来たわねデータちゃん。今読んであげるから、ちょーっといい子で待ってね……』

 

 そもそも、なぜ時空怪盗『団』であるはずのクロノダイバーが、現在リューズ単身でこの時代に居を構えているのか。その背景には、この副作用の存在がある。

 時間移動は、決して世界中の誰もが無制限に行える便利な技術ではない。それが世界で誰よりも早く時間航行技術を確立させた天才パーペチュアが葛藤の末に出し、仮にとはいえ定義した結論だった。無機物ならば、まだ話は簡単だ。だが有機体は基本的に、時間の加速や逆行に耐えられるようにはできていない。当然だ、本来時とは常に一方的で不変の流れを刻み続けるものなのだから。想定外の挙動に耐えるようなリソースがあるのならば、その余力はより生存戦略上必要な部分に回す。そうやって人間は……いや、あらゆる生物はこの地球で発展と進化を続けてきた。

 それでもしかし、あらゆる人間が全く不可能というわけでもない。時間航行がバグじみた挙動というのならば、そのバグに適応した突然変異もまた一定数存在する。時空を翔ける権利の有無を分けるのは、残酷なまでに単純な論理。

 

 すなわち、後天的にはどうしようもない天賦の才の有無だ。

 

 より正確に言うならば、その人間を定義する二重螺旋構造であるDNAにとある塩基配列が組み込まれているか否か。前時代の調査ではいくら調べても浮かび上がってこなかった、時間航行技術の確立とそれに伴う理論によってはじめて存在が認識されたコード。時空移動によって発生する本来ならば人体には想定されていない負荷に耐え、適応するための魔法の言葉。

 リューズとパーペチュアは、不完全ながら『それ』を持っている。それゆえに彼らは自在に時空を翔けることができるが、多くの人間よりもはるかに適性の高い彼らですら時間から完全に愛され(のろわれ)ているわけではない。累積である一定の期間を移動すると、彼らの体には不完全なDNAコードでは打ち消しきれない負荷が溜まる。それを放置すると、あるいはさらに溜め続けると何が起きるのか?それは、当事者である彼ら自身ですら正直な所よくわかっていない。科学者であるパーペチュアの人並外れた好奇心と探求心をもってしてなお抗うことは不可能なほどに本能の奥底から込み上がる無限の嫌悪感と拒否反応が、その先を知ることを許さない。だから彼らふたりはある程度の時間を移動した後では、しばらくひとつの時代に留まって正しい時の流れの中で負荷が体から抜けるまで大人しく過ごす必要がある。つまり、今のリューズがそれである。

 そしてその影響を一切受けない、欠損のない完璧なDNAコードを持つ世界で唯一の人間。新時代の人類最初のひとりであり、真の意味でひとりぼっちの孤独な時の旅人。現在は襲撃を受ける過去のパーペチュアの手助けをしに、その前後のタイミングへと飛んだ男……それがこの場にいない最後のひとり、その名をリダン。

 そんな彼らにとって目下一番の目標にして最低限の勝利条件は、パーペチュアの無事……過去の彼女自身には、口が裂けても言おうとは思わないが。それに参加できていない負い目は、どうしようもないと頭ではわかっていてもリューズ自身が一番感じていた。ホログラム越しに可能な限りの支援を行ってくれる未来のパーペチュアも、過去で今頃、というのも妙な話だが、ともあれ大立ち回りを続けているであろうリダンと現在のパーペチュアも。誰も彼を責めようとはしないとわかってはいても、やはりもやもやとしたものが残る。

 

『あれ?リューズ、能力(ハック)使ったわね?』

「……ああ、そういや昼間に使ったな」

 

 時間移動と時間操作は、かなり密接な関係にありながら厳密には違う分類となる。前者はあくまで技術、対する後者はふたつとして同じもののない異能の類。そしてまだまだ前例とサンプルが圧倒的に足りていないものの、少なくとも現状判明している限りでは時間操作に関する特殊な力を持つ人間のうち、その全てが大なり小なり先述のDNAコードを持っている。そして特筆すべき事象として、自身の持つ特殊能力に関してはいくら使おうと時間移動時に発生する負荷やそれに類するものが現状一切確認されていない。生じさせる結果に応じて体力こそ消費するものの、五感のひとつのように自在に扱うことが可能な文字通りの異能である。

 そしてそのうち、リューズの持つ能力に付けられた便宜上の名称が『ハック』。その内容は時間の減速から停止、そしてごく短期間の逆行。当の本人は後ろばっかり見て過去しか頭にねえ未練がましい力だ、などと自嘲気味に嘯くが、一方通行な時の流れに不正侵入(ハック)して逆しまに動かす、パーペチュアに言わせればそれこそ個人が持っていることがおかしいレベルの力だ。

 

『何これ?数センチくらいのごく小さい範囲に対して、百分の一秒間の巻き戻しを数千回続けてるって。どういう使い方したの?』

「血の気の多い嬢ちゃんに、仕事の話をする前に銃を突き付けられたんでな。引き金に掛けた指の時間を、ちょっと落ち着くまで自動で巻き戻るようにしてやった」

『ああ、そういうこと……』

 

 なんてこともないように返すリューズの言葉に、呆れ半分納得半分といった表情のパーペチュアが肩をすくめる。同時に顔も知らない依頼者に、少し同情する気になった。これだけ小刻みに時間を巻き戻されれば、リューズの能力に対する事前知識がなければ何が起きたかはまるで理解できないだろう。おそらく本人の体感では、いくら力を入れても指が動かないように感じたはずだ。厳密には百分の一秒分だけ動いては元の位置に戻されてを何千回も繰り返しているのだが、そんな細かい変化に頭に血が上った状態で気が付けるかはまた別の話だ。

 

『とりあえず、検査の結果は異状なし。もうしばらく大人しくしてれば、ベゼルシップを迎えに回すから。それで、リューズ?どうせそれまでに終わらせる気なんでしょう?せっかく受けた仕事の話、もっとよく聞かせてよ』

「全部お見通し、か……ったく、敵わねえな」

『そりゃね、どれだけ付き合い長いと思ってるのよ』

 

 次に肩をすくめたのは、リューズの番だった。確かに子供の方の彼女ならともかく、未来の彼女とは腐れ縁が長く続きすぎた。お互いつまらない嘘や誤魔化し、隠し事が通用するような仲ではないと言い切れる程度に。

 

「といっても、別にこれ以上面白い話もないんだけどな。スノーダスト・スワロー宅急便、主に冷凍品の取り扱いでひと財産を築いた宅急便の会社。現社長の名前はクリス・スワロー殿、御年69歳。別にこの辺の出じゃないが、若い時に住んでたこの街への恩返しとやらで会えてこの辺に住んで税金を納め、公共施設への寄付も欠かさないご立派な市民の鑑。俺が今いる街の郊外、自然公園のすぐ横にデカい邸宅があって主にそこに住んでる。社長っつっても今は半引退状態で経営にはたまに口を挟む程度、実質的な主権は今息子のレイ・スワローが引き継いでる。親子仲は良好で経営も順調、相続やらなんやらで揉めてる節もない……とりあえず、こんな所か」

 

 マイと別れてから午後のうちに集めメモ帳に纏めておいた情報を、つらつらと音読してやる。合法的に少し調べる程度で出てくる程度の情報だが、一応最低限の役には立つだろう。

 

『ふーん。それで、話題のおもちゃのラジコン戦車ってのは?』

「これと同じ型のやつだってのを、わざわざおもちゃ屋まで見に行ってきた。よくある緑色で無線式の、まあ安物だな。良くも悪くもガキのおもちゃだ。リモコンは別にいらない、本体だけ持ってきてくれればそれでいいそうだ」

『本体だけ?でも、わざわざ盗んでくれってことは……』

「ま、当然裏はあるだろうな。少なくとも、走らせて遊びたいなんてオチなわけがねえ。なんにせよ、さすがにまだ探り入れようにも情報が少なすぎるんだよ」

『依頼者の子は?』

「そっちは明日考える。なあ、とりあえずもう寝ていいか?明日は、朝からデートの予約を入れてきたんでな」

 

 久々に脳をフル回転させているのだろう、真剣な顔つきで顎に手を当てたパーペチュアから繰り出される矢継ぎ早の質問に片っ端から答えながら、合間にちょっと興味を惹けそうなワードを混ぜてみる。案の定、一発で食い付いてきた。

 

『じゃあ……え、待って。デート!?リューズが!?』

「相手はマイの嬢ちゃんだぞ。平日の真昼間から俺がひとりで自然公園なんて場所ぶらついて下見してるより、女連れの方がよっぽど自然だろ?ついでに嬢ちゃんの様子も見て、そっちの探り入れるかどうかも考えとく」

『なーんだ、そういうこと。いいんじゃない?リューズ目つき悪いから、不審者感は消しきれないだろうけど……あ、っとぉ……?』

 

 しょうもない軽口に対しうるせえ、と適当な軽口で返そうとして。

 不意に、ホログラム越しでも見て取れるほどに明らかに彼女の様子が変わった。先ほどの話でもないが、付き合いが長いからこそよくわかることもある。この女がこういう表情の歪め方をする時は、何かものすごく面倒臭いことに気が付いてしまったんだと相場が決まっている、ということだ。聞きたくはないが、腹をくくるなら早い方がまだマシだ。その前になんだかひどく煙草が吸いたくなったが、ホログラムなんて時代を考えればオーパーツもいいところな代物が外から見られる危険を考えればカーテンは開けられない。かといって閉め切った部屋の中ですぱすぱ煙を吐くと、後で苦労するのが自分の方なのは目に見えている。

 結局半ば無意識に胸元の紙箱へと伸ばしかけていた手は途中で引っ込め、床の上でどっかりと長い足での胡坐をかき直す。

 

「……よし、言ってみてくれ」

『えーっと、聞いたことない会社だったからちょっと調べてて、今その検索結果が出たんだけど。スノーダスト・スワロー宅急便、だったわよね?少なくとも私の歴史だと今リューズがいる時間から、もう一週間もしないうちに倒産するわよ。タイミングから見て十中八九、今回盗むそのラジコン戦車が原因ね』

 

 未来から告げられた重い宣告に深く深く、うんざりしたように息を吐く。いまだ依頼主であるマイの目的もラジコン戦車の秘密も皆目見当がつかないが、昼間に感じた彼の予感はどうやら気のせいではなかったようだ。負荷が消えるまでの間の、ちょっとした暇潰し……そんな程度では、もはやこの話は終わってくれないだろう。




本編に一切関わらないし全部書いてたら冗長になるから書かなかったおまけ設定
Q:この話ではなんでパーペチュアは暗黒企業に狙われてるの?
A:利権絡みがまずひとつとして、もうひとつの理由はパーペチュアが持つ時空移動適性のDNAコード。元々この暗黒企業は密かに人体改造による遺伝子組み換え(当然倫理的に問題しかないド違法行為)によって過去に何かしら、そりゃもう過去編として一本できるぐらいの何かしらがあって手に入れていたリューズの持つ不完全なDNAコードを社員に組み込むことで本来適性を持たなかった黒服たちの時空移動を無理矢理可能にしており、パーペチュアの持つそれのデータを得て両者を組み合わせることでより安定した長期間の移動を可能にさせようと目論んでいるため。もちろん理想を言えばリダンのそれが手に入れば最高なのだが、あまりにも神出鬼没かつ無制限に時空を移動できる彼を捉えるのは現実的でないためあくまで狙いは一般少女のはずのパーペチュア。だがそこに真っ向からクロノダイバーが喧嘩を挑み彼女のバックアップを始めたため、ややこしいことになっているのが現在カードイラストで見られる本編。
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