ソシャゲヒロインに刺されるほど愛される主人公になってた…… 作:ラブコメ
日が昇りかける前、オレは旅団の自室を飛び出していた。空はまだ薄暗い。季節的には今は夏なのだが風が冷えていて涼しい。空には飛行島とか、モンスターとか色々飛んでいる。
『兄貴! 朝から訓練ですか?』
『まぁな。一応、何があっても対応できるようにしておかないとさ。世界が大変かもだし』
『兄貴って、世界のこと気にしてるんすね? 別に人類とかどうでもよくないっスか?』
『うーん、一応俺も人間的な感覚持ってるからな……。何もしないっていうのはね。まぁ、それよりも『厄災』が復活した方が酷くなるからそれを避けたいって気持ちかもな』
『【厄災】が復活するとどうなるんすか?』
『太陽が消えるらしい。闇に飲み込まれるとか』
『あー、そういえば昔そんなこと出来るとか聞いたことあるような……太陽が無くなると何か悪いことが?』
『熱源が消えるから急激な寒冷化とか起こるんじゃないか? 作物が育たない、光合成が出来ない。最悪だよ。その上侵略行為しようとしてるんだからもう、最悪だよね』
剣を振りながら【魔剣】の質問に答えてやった。【魔剣ルシファー】と呼ばれるこいつをここまで手懐けられたのって何気にオレ凄くね? って何度も思う。
主人公、あんなに苦労して暴走しかけたりしたのに……。まぁ、気にしないで良いか。
『兄貴の成長速度エグイですね』
『当然だろ』
そりゃ、【主人公】だからね。才能はあるわ。
しばしの間、訓練をしてオレは自室に戻った。そして、椅子に座って窓の外を見ておく。
すると、誰かが自室を叩く音が聞こえて来た。
「あのぉ、ワレンさん? 起きてますか」
「当たり前だろ、何か用か」
レムリアの声だ。まぁ、よくあるイベントだったな。中々起きない主人公を起こしたり、一緒に強くなるために朝練をしたり……こういうのが積み重なって首を斬られるのだ。
「起きてたんですね。昨日はよく眠れましたか? ここで初めて寝て緊張とか」
「しねぇよ」
団長ユカリが与えてくれた本部にある一角の部屋。原作ストーリー通り、普通の一室、窓があって、ベッドと机といすがある。彼女は初めての部屋でよく眠れたのか心配だったようだ。
どんだけ、気遣い凄いんだよ。これがユーザーからの人気なんだろうけどさ。オレだって元は好きだったよ?
今だって、嫌いって訳じゃない。ただ、怖いだけなのだ。
「そうですか! それは良かったです! では、朝ごはんに行きましょう。ここに住んでいる人は皆、朝食をここで食べるんです」
「オレはいい。朝飯は食べる気しねぇからな」
「……あ、そうですか……。その、今、起きたんですか? それともだいぶ前から起きてましたか?」
「あ?」
「いえ、その、朝からどこか出かけたりしたのかなって……体力強化とかしてません?」
「あ? 意味わからねぇこと言ってんなよ。オレは特訓とか嫌いなんだよ。才能があるからな、しなくても強い」
「……………………ふーん」
あ! 今のは本来の主人公なら言わない真逆のことを言ったので呆れてしまった感じか? ふーん、だって! 主人公は努力家で謙虚だから絶対オレみたいにはならないからな。
「ワレンさん。食べたくなったら食堂来てくださいね」
彼女はそう言って出て行った。頭の上のスライムがオレを怪しむような視線で見ていたが気にしない。
『兄貴! あのレムリアと言う女、兄貴に呆れてましたね!』
『うまい具合にオレは会話を拒絶してるからな。呆れてモノが言えないだろう』
『なるほど! 勉強になります!』
『なんの勉強になるの?』
朝食はまたあとでいいな。特訓の後だから、直ぐに食べると胃がきつい。運動の後とかにすぐに食べられないよくある現象だ。
『兄貴こんだけ修行してたら最強になりますよ!! もうなってるくらいですけど!!』
『まぁね!! 世界救わないといけないし!! 救済したら普通に暮らしたいな、どっか平穏に住む場所も探しておくか』
『世界救い終わったら、魔界に行きましょう!! 悪魔とかうじゃうじゃいます!』
『いや、そこには行かない』
◆◆
「レムリア、朝食はよく噛んで食べるんだぞ? 消化に悪いからな」
「分かってるよ、兄さん。兄さんもお水飲み過ぎないでね」
「勿論だ」
食堂でレムリアと兄のスラムが朝食を共にしていた。レムリアはサンドイッチ。スライムであるスラムは水しか飲むことが出来ないので水をごくごく飲んでいた。スラムは、レムリアが自身の食べる料理以外にサンドイッチの紙包みを持っていることに気付いた。
「レムリア、そのサンドイッチどうしたんだ? 朝から食べ過ぎは良くないぞ」
「違うよ。兄さん。このサンドイッチはワレンさんの」
「いらないって言ってたぞ」
「ワレンさん、さっきは朝から運動してて食べる気分じゃなかっただけかなって」
「運動? 今起きたばかり見たいな感じじゃなかったか?」
「うーん、首元に汗が滲んでた……あと、靴に砂浜の砂がかなりついてたし……ちょっと、汗臭かったから……もしかしてさっきまで一人で体動かしてたのかなって思ったの」
「ほぉ、流石は俺の妹だ。そんな所に気付くとは」
「冒険者なら些細な変化に気遣いなさいって言われてるからね!」
ニコニコ満面の笑顔でレムリアは応える。褒められたのが素直に嬉しいお年頃なのである。エミリアとスラムが話していると、そこへとある男性がやってくる。
エミリア、スラム、二人よりも前からギルド『閃光の調べ』に名を置いている先輩冒険者『ザッコ』である。兄貴肌があるオジサン系の男性。黄色髪のリーゼント。髭も生やしてガハガハ笑って居る。
「ザッコさん、おはようございます」
「おう、エミリアの嬢ちゃんにスラム、何やら面白い話をしてるじゃねぇか」
「あぁ、ワレンのことか」
「そうそう、あの新入りの事を教えてくれよ」
ソーシャルゲーム『天空セブンプリンセス』においてのガチャ限定キャラ。ザッコ。R、SR、SSR、そしてUR。初期ガチャのRランク、それがザッコである。
明確にワレンはザッコと言う直ぐに被るキャラが嫌いであり、初期キャラなのでどんどんボックスを埋めるだけの雑魚キャラだ。ユーザーから圧倒的不人気であるザッコであるのだが、人情溢れる性格である為にネタキャラに落ち着いていた。
そんな彼にワレンの事を聞かれたレムリアはニッコリ笑顔で答える。彼女の中でレムリアは昨日は自身の悪口を止めてくれた凄い良い人であり、ちょっと気になる人でもあった。
「ワレンさんは……ちょっと変わってる人ですけど、悪い方ではないと思います」
「そうかい、折角仲間になったわけだから仲良くしようと思ってたんだがな。昨日、話しかけたら気安く話しかけんなって言われちまってな」
「アイツはそう言う奴だよ。小生意気で人相が悪い。レムリアも俺も小言を言われている」
「そうか、スラム達も同じか……。ただ悪い奴ではないと」
「そうです! きっと悪い方ではないかと!」
ザッコがうーんとワレンとの対応について考え込んでいると、スラムが例の話を持ちかける。
「アイツは柄が悪いが、レムリアが好きなんだ」
「ぴゅ!?」
レムリアがそれを言われるとギョッとする。
「ほう、そうなのか」
「あぁ、アイツがこのギルドに入った理由もレムリアが居るからだ。昨日もレムリアの悪口を言っている団メンバーを裏で締めていた」
「マジか……あぁ、そう言えば新人がヤバいって言っている奴がいたな。そうかレムリアの事言って、締められていたのか」
「あ、あのザッコさん? ワレンさんが本当に私の事を好いていてくれているかはまだ分からないんです……」
「いや、俺が保証しよう。レムリアは渡さないが、アイツは間違いなくレムリアに惚れている。こんなに可愛いからな!!」
スラムが自信満々にスライム体を前に出す。それをレムリアは散々恥ずかしいことを言われたのでぽかぽか殴る。
「良い事聞いた、サンキュー。まぁ、取りあえずは悪い奴ではないんだな」
「悪い奴だ! レムリアに不純な動機を抱いているからな!」
「はいはい、取りあえず俺も新人にもう一度話しかけてみることにするよ」
そう言ってザッコは二人の席から離れて行った。
◆◆
ワレンは自室から飛び出して、街を散歩していた。自身の知識とどこまで同じか確かめるためである。
『兄貴、どうなんスか!』
『まぁ、大体、というかほぼ同じだな。やっぱり原作知識って凄いや』
ワレンと魔剣ルシファーが町並みを見終えて、ギルド本部に戻る。するとそこには偶々ザッコが居合わせた。
「よう新入り!」
「あ?」
『兄貴誰っすか? この雑魚そうなの』
『ザッコだ、Rキャラの雑魚キャラ。まぁ、人情に厚い奴だな。というか昨日俺に話しかけて来ただろ』
『忘れてました』
「気安く話しかけんな」
「まぁまぁ、良いじゃねぇか。仲良く行こうぜ」
『凄い馴れ馴れしい奴ですね』
『こいつは一人の奴は放っておけない性格いい奴だからしょうがないのかもな。まぁ、真逆のキャラ行くから意地でも仲良くしないが』
ワレンが睨みながらザッコに対応を返しても、彼はどこ吹く風の笑顔であった。
「そう怖い顔するなよ。面白い話、持ってきたからよ」
「あ? なんだそりゃ」
「レムリアの好きな人についてだ」
「……あ?」
(おい、本当にこいつ食いついたな……。レムリア好きってのは本当か)
ザッコが冗談交じりにそう言うと、ワレンは動きを止めた。眼が泳いで、心なしか手が震えている。
『あ、兄貴!? 好きな人ですって!? もしかして兄貴の事ですか!?』
『馬鹿な……あれほど真逆の行動をしてたのに……』
『詳しくこの雑魚から聞いた方が良いのでは?』
『そうだな』
舌打ちをして、目線を気まずそうに空に向けながらワレンは彼に聞いた。
「で?レムリアは……誰が好きなんだよ?」
「気になるのか」
「……いいから早く言えよ」
まるで少女漫画の不良生徒が、優等生の女子生徒を好きになってしまったが素直になれないシチュエーションの如き彼の対応。
『これ、もしオレだったらどうしよう!? また刺される√進んでしまうんじゃないか!? いやだいやだ!!! 死にたくない!!』
『兄貴、まだそうと決まったわけではないっス!!』
冷や汗をダラダラ垂らしながら、同時に体を震わせているワレンを見て、ザッコはなんとも言えない気持ちだった。あまりに分かりやすい男だったからだ。
(わ、分かりやすいな……レムリア好きだって……)
ザッコは昨日は話も聞かずに無視されたというのにわざわざ足を止めて、自身から質問を返すワレンに益々レムリアの事が好きだと確信を強める。
「いや、すまん。実はまだいないらしい」
「なんだよ! ビビらせんな! このやろう!」
ワレンは一瞬だけ、笑顔を浮かべた。だがすぐさまいつもの怖い顔に戻して、舌打ちをしてザッコの側を去って行った。
『なんだよ!! 全然大丈夫じゃん! びびらせんじゃぇよ、バーロー!!』
『兄貴が嬉しそうで何よりっす!!』
ワレンが去った後、ザッコはよほどワレンはレムリアが好きなんだなと思った。そして、そこに丁度、物陰に隠れていたレムリアと頭の上に乗っかっていたスラムが現れる。
「余程、入れ込んでるんだな」
「あぁ、というかアイツ笑うんだな」
レムリアは少しだけ、頬が赤かった。それにスラムが疑問を投げかける。
「どうした? レムリア」
「あ、ワレンさんの笑顔……結構素敵だなって……思って」
「これはギャップ萌えとか言う奴じゃねぇか? スラム」
「くッ、レムリアはやらんぞ!!」
まだあって二日だが、ずっと鷹のように鋭い目つきで接されていたレムリア。もしかしたら、自分の事を好いてしまったという勘違いで意識をしていたが、更に普段とは違う満面の笑み。
ワレンは基本的に悪い顔をしている。
怖い顔をしている彼が急に笑顔になる……不良が子猫を助けると良いやつに見えてしまう理論。
ジャイ○ン映画になると急に良いやつに見える理論である。
レムリアはぽけぇっとワレンの笑顔を思い浮かべ続けてしまった。
◆◆
「レムリア、スラム。そして、ワレン。君たち三人に……任務を与える。ワレンは『閃光の調べ』に入ってから初めての任務だ。気を引き締めてくれ」
ワレンの笑顔事件の次の日、レムリア、スラム、ワレンは団長であるユカリから任務与えられる。これが最初の第一章。世界をかけた最初の一歩。
レムリアがワレンに最初に想いを寄せてしまう任務が始まる。
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それではまた!!