俺は、夢を見た。
 それはとても寂しい場所にいて、一人で歩いている夢。
 

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未だ見ぬ光の欠片

 

 私は救われた。

 君よって。

 でも、君は傍に居ない。恩を返したいのに……

 だから、私は光りをまた求めた。

 

 

 目の前の歩道橋では恐らく他者であろう人に微笑みかけ、荷物まで代わりに持って人助

けをしている女生徒の姿がある。制服を見るに、俺と同じ学校の生徒なのだろう。

「どうして、あんな事が出来るのかね」

 言葉にしてぼやく。

 俺には分からない。どうして、あそこまで無償の善意を他者に向けれるのか。

 俺にとって他人とは、悪の塊でしかない。

 他人とは、隙を見せれば隙間に入り込んできて、他者を貶める存在だとしか思っていな

い。俺の家は、財産は、全部身内に騙され、持って行かれ、吸い出す物が無くなった途端

俺は施設に投げ出されたんだ。大人は皆腐ってる。利害でしか付き合えず。大人のエゴを

然もあっているかのように語り押し付ける。

 そして今、歩道橋を渡りきった女生徒がたかだか、お菓子如きでお礼ね……

 俺の、捻くれた心じゃ理解出来ない位にまで荒んでる。

「はぁ、アホくさ」

 何故だか分からない感傷にさらされてまたくだらない言葉を口にした。ホント、何考

えてるんだかな、俺は。

 腐った思考に身をゆだねて、俺は女生徒を背にして歩き出す。

 今日は、きっと厄日だ。

 

 

 僕は生まれる事のなかった存在。

 でも、僕には見えていた。

 二人しか居ない世界で悲しく生きている二人を。

 僕は見ていたんだ。その世界が終わるその時まで。

 でも、酷く悲しい世界はまた現れて、僕はここに居る。そう、生まれる事の無かった僕

が、この世界で歩いているんだ。形あるものとして。

 することも、したいことも、今の僕には恐らく無い。だって、分からないのだから。

 僕は考える。何故この世界に形あるものとして生まれ出てきたのかを。

 そうだ。あの小屋へ行こう。

 あの少女が居たあの場所へ。また、あの子が困っているのかもしれない。

 

 

「すみませーん」

 少し大きめの声を出す。理由は店番が居ない。どうなってるんだ、このパン屋。

「誰か居ますか?すみませーん」

 タバコを咥えた男性がばつの悪そうに顔を出す。見た目、三十台半ばといった所か。

「おっと、悪いな。今ちょっと立て込んでてよ。わりぃけど、適当にお金置いていってく

れ。頼むわ」

「秋生さん。やっぱり私のパンは不味いんですねー」

 涙を見せまいと両手で顔を覆い、ものっすごいスピードで走りさっていく。

「俺は、好きだー!!」

 先ほど顔だけ見せた男性は、店に置いてあるはあるけど、とてもじゃないけど、食べれそうもないパンを加えて、追いかけていく。

 難儀な。

「って! 無用心すぎるだろう。何考えてるんだ? あー、考えても埒が明かない。とりあえず、しっかりここに、280円置いたからな? 置いたぞ」

 誰が居るわけでもないのに、そう言って、レジにお金を置くと、若いカップルといっても、年は大学生くらいだろう。腕を組んで、店に入ってくる。

 面倒だけど、説明だけはしておくか。いや、もしかしたら俺、店番……馬鹿な考えは止

そう。

「今、店番っぽい人が女性追いかけて居ないので、適当にお金置いていけだそうです」

 そういうやいな、大学生さん(仮)達は苦笑いを浮かべて、彼氏さんの方は頭をかいている。

「おっさん、またやったのかよ。少しは学べよな」

 おっさんなんて呼ぶからには常連の顔見知りなのだろう。

「あっははは、変わらないですね」

「まぁ、汐も時期に来るだろうし、店番でもすっか、久しぶりに」

「はい、朋也さん」

 話の流れを見るにこの大学生さん(仮)にお金を渡した方がよさそうだな。

「すいません。これ、パンの代金です」

「あぁ、悪いね。ぴったり頂きます」

 そう彼氏さんが答えると、彼女さんの方がありがとうございました。と頭を下げる。

 誰かが付いていないと悪いキャッチにでも騙されそうなほど、人の良さがにじみ出ている。まるで、岡崎をおっとりにしたみたいだ。

「お母さん、お父さん。ただいまー」

 どこぞで、聞いたことのある声だ。 

「アッキーなら早苗さんを追いかけてたよ」

 もしやと思い振り返ると……

「お前、岡崎汐」

 彼女さんがぽふ、と手をあらせると柔らかい笑みを浮かべる

「あら、汐ちゃんのお友達だったんですか? すみません。しらなくて」

「い、いえ」

「何も無い場所ですけど、ゆっくりしていってくださいね」

 え? え? この見た目、大学生のカップルが親? 出来ちゃった婚? 

「あ、御免。見た目分からないよね。如月くん」

 困惑している俺に、岡崎がそういう。すると、先ほど泣いて出て行った女性がお見苦しい所をお見せしましたと照れた顔で戻ってくる。

「おう、かえったぞー」

「あらあら、三人とも居らしていたんですね」

 ぶっきらぼうに答える男性と岡崎の母親(仮)のお姉さんみたいな人が、ぽふ、と、手を合わせて、柔らかい笑みを浮かべる。こっちも、あくどい人に騙されそうな人だと言おう。

「はい、お母さん」

 岡崎の母親(仮)は間違いなく、お母さんと言った。

「はぁ!? ちょっと待て、良くてお姉さんだろ。俺の目が悪いのか!?」

 あまりの出来事に思わず口に出る。ありのまま見た事を普通なら受け入れられなくて、ボケ担当じゃなくてもツッコミくらいするわ。

「あー、わかるよその気持ち」

「ちょとまて、岡崎」 

「なんだ?」「なんでしょう?」

 俺が声を上げると岡崎の両親が俺を見る。確定だ。こいつら親子かよ。

 もう、意味分からない。どうなってるんだよ、この家族!

「お二人じゃなくてですね」

 この家族が揃いもそろって天然なのか!?

 俺の心の葛藤をよそに、岡崎母が俺には眩しすぎる笑顔で言う。

「汐ちゃんがお友達を連れてきたみたいで」

「それも、男の子だなんて、まぁまぁ、それじゃええっと」

 今度は岡崎祖母のはずの女性が俺へと体を向ける。

 なんか、やな予感が……

「如月です」

 何答えてんだよ。俺……

「如月さんも、晩御飯一緒にいかがですか?」

 何故そういう話になる。

「俺、クラスメイトってだけで」

「んな、細かい事はいいんだよ。早苗の飯を食っていけって言ってるんだ」

 と岡崎祖父。スゲー違和感あるけど。

「細かくない細かくない」

「ごめんね。でも、早苗さんのご飯凄く美味しいから食べていきなよ。ね?」

 

 

 言われるがあままに、家に上がり晩御飯をご馳走になった。

 この家族は俺にはまぶしすぎる。

 掛け値抜きに接して、笑って、あたかも俺が家族であるかのように接してくる。

 どこまでも、俺には難しい。反応を疑い、相手に合わせて笑ったり、相打ちを打つ。

 俺が出来るのはこんな事だけだ。人を疑う事を覚えてしまってからはずっとこんなだ。

 もちろん、同い年にや一つ上の先輩くらいならそこまで考えない。警戒を覚えてからは

気が付くとしていた。騙す奴と騙される奴。俺は、騙される側なりたくなかった。 

 それが弱さでもあると思ってる。だから、疑う事で弱い部分を埋めているつもりになっ

ている。

 ようは言い訳。

「少し夜風にあたってくるね」

 クラスメイトである岡崎汐が席を立つ。おい、あんたが居なくなったら居ずらいでしょ

うが。

「あぁ、遠くに行くんじゃないぞ?」

「分かってるって、すぐ傍の公園にいくだけ」

 岡崎汐を見送ると、汐の父、朋也さんが俺に向きなおす。

「驚いたか?」

 その言葉の真意がつかめず俺は黙る。あまりにも抽象的すぎて返事が分からない。

「……」

「如月さんだっけ。アンタさえよければ、いつでもここに来ればいい。暫くは汐もこっちに居るしな。」

 突然すぎて理解が追いつかない。「お前も、言うようなった」だなんて、汐の爺さんであるはずの秋生さんが大笑いしているのが見えて、横ではその奥さんが微笑んでる。

 分からない。クラスメイトだというだけで、家に上がらせ晩御飯をご馳走し、いつでも来ればいいなどといい始める。

 理解できない……

 俺の事は一切しらないはずだし、知っていたら利点なんてあるはずがない。

 どこぞの馬の骨とも分からない野朗が年頃の女の子の周りをうろつくだけなんだぞ。

 見返りなんてあるはずがない。

 だから、俺は苦笑いを浮かべあいまいな返事を返すしか選択肢がなかった。

「気が向いたら、お礼をしに来ます」

「そうか」

 俺が見てきたなかで、トップクラスの優しい笑顔。それは、邪推すら消し飛ばすのに十分だ。何も、疑えない。

「あ、俺も、少し夜風に当たってきますよ」

 暖かい、でも、居ずらい。そんな感情に締め付けられて俺は、逃げるように外へ出る。

 当ても無く彷徨うのも無駄な気がするので、岡崎探しに公園へと足を向ける。

「もしよろしければ」

 声が聞こえる。そこのには一人の少女がいた。

「あなたを、お連れしましょうか」

「え……」

 俺は、あの夢と重ねていた。

 彼女はゆっくりと目を閉じ――

「この町の願いが叶う場所に」

 手を俺に伸ばすとそう告げた。 

 不思議と、ここだけが違う世界に感じる。そう、あの悲しい世界と重なるんだ。夢に見た光りの世界での女の子と目の前に居る彼女の姿重なる。

 まるで、金縛りにでもあったような体で、俺は、声を絞る。

「あ、あぁ……」




読んでいただいて、この後にOPが想像できたなら幸です


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