蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER 作:kocolokoro
砂嵐が吹き荒ぶ赤茶色の街を原色豊かな若者たちがねり歩く。ヒジャーブを巻いた女を囲むように歩く男たち、観光客然とした彼らを見て、地元の商人が我先にと呼び込みをかける。
「やっぱりクソ暑いわね」
押し売りの手を振りほどき、きりんは顔を扇ぐ。
押し売りされるのは石細工の竜の像だ。市場はすでに竜の土産屋で溢れ、観光客が入り乱れている。世にも珍しい竜の出現が人を呼び、刹那的な特需を呼び込んでいた。
異界のゲートを知る大団長なる人物がこの砂漠にいる。
ノワが残したわずかな手がかりを頼りに、中央アジアにあるイスラム圏の小国、日本とは勝手が違う国に少年たちはやって来た。チャーター便で皇神の軍事施設に着陸し、そこから街道をジプシーで二時間走らせた先の小さな街に、
「あれは?」
市場を通り抜ける最中、中央通りから逸れた脇道にテントを建設しているのを少年が見つける。出店と違う地味なテントに広げられた箱は通信機の類だ。
「この街は赤い竜討伐の最前線基地になる」
先頭を歩くコートの男が振り返る。
「それは、近くに赤い竜の巣があるということ?」
「皇神の衛星が赤い竜の潜伏先を捉えた」
あんぐりと口を開ける篇算者を一瞥し、クックッと笑いながらコートの男が歩き始める。
「君たちが機内食を嗜んでいる間だ」
「エイセイってすごい
篇算者の感想を無視してコートの男は歩き出す。
レンガ壁に囲まれた階段を登った先は、天然の岩肌の上に建つ住宅街だ。市場はみるみる眼下に遠のき、喧騒は砂漠の風にかき消されていく。
「ビーフオアチキン!ビーフ!ビーフ!」
青年がこちらの世界で唯一覚えた単語を連呼しながら、機内食に思いを馳せていた。誰もが能天気な奴と呆れる中、きりんがコートの男に尋ねる。
「居場所が分かっていて攻めないなんて、慎重ね」
「日本の企業である皇神が、他国の土地にクラスター爆撃?それこそ国際問題ですよ」
割って入ったのは
少年たちが並ぶ集団の後方をゆっくりと歩いている。
「一度目はデモンストレーションのために見逃してくれたが、二度目はない。当分、皇神からは動けんよ」
先頭を歩いていたコートの男が足を止める。
レンガ造りのシンプルな家だ。
富裕層の証である鉄柵の門扉に付いたインターフォンを鳴らすと、こじんまりとした老人が少年たちを出迎えた。首からネックレスを何本もぶら下げたラフなワイシャツ姿と言う金持ち然とした風貌の老人だ。
家の中は外と打って変わって近代的で、最新の家電製品には皇神のロゴが印字されていた。
「ようこそ、おいでなすった」
流暢な日本語だ。
少年は皇神が用意した老人を警戒しながら、家の中を見渡す。視える範囲に監視カメラは隠されていないが、掛け軸、兜鎧、刀、盆栽、ひな壇とジャパンフリークな品々が目につく。
「北斎の掛け軸が気になりますかな?」
老人が少年に声をかける。
物色する目線が気づかれた少年は沈黙でごまかす。
「そいつはワシがプログラミングして書いた代物でな。これでも昔はホワイトハッカーとして名を馳せとったんじゃぞ」
カハハと笑う老人に少年が呆れ返る。快活に笑う老人は皇神の手先というわけではないらしい。皇神の恩恵に預かる一市民ではないかと少年は結論づける。
「アルバート
ほんのり明るくなった雰囲気に、水を差すような冷たい声が響く。老人へ歩み寄るコートの男を見て、老人は頭を掻いて首を横に振った。
「断る」
「どういうことだ!」
コートの男の怒号を無視して、老人は一人部屋の奥へ進む。その後を追うと、中央に卓球台が置かれた、一面ガラス張りのベランダに出た。砂漠の眺望が広がる窓ガラスに巨大な傷が一つ走っている。
「あの山が見えるか?」
眼下に広がる黄色い砂原から視線を上げると、赤茶けた岩肌が広がる。その合間から青空に向かって伸びる二本の山を、老人は指さす。
「あの山合いに、赤い竜が入るのが見えた」
雄叫びが轟く。
突然の出来事に少年たちが身構える。
にわかにざわめき出した部屋で、ただ一人、老人は舌打ちして砂漠を見下ろしていた。
茶けた竜だ。
のっしのっしと我が物顔で砂の大地を踏みしめ、首をもたげて二本の角を天に伸ばし、両翼を広げてみせる。
「ディアブロス」
異界から来た二人が揃って竜の名を告げる。
「案内を決めた次の日だ。砂漠にアイツが現れたのは」
老人が窓を閉めると、再び咆哮が轟いた。
少年たちは身構えた。
吠えると分かっていても、遠くにいるから安全だと理解していても、少年たちは身構えていた。
それは生物としての本能だ。
戦場では一瞬の判断の遅れが生死を分ける。あの竜と対峙して、今のように身構えてしまったら、命はない。
少年はおもわず生唾を飲み込んだ。
「お前さんらの到着を待ちわびていたかのようじゃな」
竜の叫び声でヒビが入った窓ガラスを、老人は恨めしげに見上げ、そして少年たちの方を振り向く。
「ともかく、昨日と今日で砂漠が変わった!禁足地にはもう誰も入れぬ!帰れ、帰れ」
「禁足地?」
少年の呟きに、老人は「死んだ親父がそう呼んでたわい」と突っぱねる。ディアブロスが咆哮するたびに壊される窓ガラスを見届けるしかできない状況に、腹をたてる他ない老人に、「アノ……」と篇算者が恐る恐る声をかける。
「大団長を見てまセンか?」
「大団長?」
首をかしげる老人に、「ゴリラみたいな金髪」ときりんがその容姿を付け加える。
「ああ!あの筋肉ダルマか!」
手を叩く老人に、「どちらに?」と篇算者が尋ねる。
「赤い竜が現れたと話したら、嬉々としてあの山に向かったわい。ワシは止めたんじゃがな」
頭を掻く老人に、「間違いなく来たのですか?」と十七架が詰め寄る。
真面目な監察官でなくとも胡散臭く見える老人の言葉だ。疑いの目に気づいた老人は渋々と言った様子で、首につけたネックレスを外した。
「砂漠に行くと言うんで水をくれてやったんじゃ。礼にとコイツをよこしてきよった」
「なにこれ?角?」
黒い紐に吊るした一本の角、黒い根元から白い棘が生えていると対照的な色合いだ。形状からしてサイの角のようだが、サイにしてはあまりにも大き過ぎる。
「いつか価値の分かる者が現れると聞いたんじゃが」
「ネルギガンテの棘!」
篇算者が叫んだ。思わず誰もが耳を塞ぐ。
「うるさい嬢ちゃんじゃの、何じゃ、そのネギ……ナントカ?」
「古龍、ネルギガンテです。たいへん希少な存在です」
興奮気味に話す篇算者の姿に、「ほほぉ、そんな珍しいものか」と価値に気づいたらしく、老人は満面の笑みを浮かべる。
滅尽龍ネルギガンテ、自然災害が龍の形を成した古龍と呼ばれる存在で、他の古龍を喰らう龍。修羅と呼ぶべき生態に身を置く古龍の神秘に惹かれた大団長が、宝物と言うべきその棘を俗物的な老人に残した。
俗物的だからこそ、この老人に託したのだろう。
余生を持て余した老人なら、その棘の持ち主がこの世界にいないことを調べ上げ、その価値を知ろうと他人に喋る時が来る。一滴の水がやがて湖になるように噂が伝播し、この星の何処かにいる青年たちの耳にも入るはず。
仲間に居場所を知らせる方法を思いつく頭のキレる人物、それこそ大団長以外に考えられない。
「大団長がここにいるのは間違いないようですね」
篇算者の自信に満ちた顔を見て、少年たちは頷き合う。
「では、アルバート
「待っとれ、地図を描いてやる」
コートの男の不躾な言葉尻も、金目に夢中な老人には響いていない様子だ。老人は嬉々として墨汁と硯を取り出し、鼻歌交じりに地図を描き始めた。
小話
第十話は本文が消えて投稿できないと表示されて、投稿されなかったのかと思い、一から本文を書き直したものを新しく上げました。
申し訳ないと言うことで二話連続の投稿です。
いよいよ物語も二章に入り、やってみたかった砂漠編です。
一話か出ているデデ砂漠の名称ですが、モンスターハンター内に登場するものと同じです。砂漠っぽい名前を思いつかなかったので、そのまま拝借しました。
アラビア語とか履修していれば、思いつくものなんですかね?