蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER 作:kocolokoro
反射光を防ぐサングラス、砂嵐を防ぐスカーフで口を隠し、夜の寒さをしのぐウィンドウブレーカーを身に纏う六つの影が黄土に伸びていた。影は赤い崖を垂直に登り、その根元で少年たちがゴツゴツした岩肌を歩いていた。
「バビネ?」
「だ、大丈夫です」
心配そうに見つめる青年の手を振りほどき、
「やはり、来ない方が良かったのでは?」
「黙りなさい。貴方の監視も兼ねているのですよ」
薄ら笑いを浮かべるコートの男に、十七架が恨み節をぶつける。
大団長が向かったと言う赤い竜が身を潜める山へ、アルバート
ジープで竜が潜む砂漠を突き進むか、自分の足で灼熱の岩肌を踏破するか。突きつけられた二択を前に、少年たちは迷うことなく後者を選んだ。
「てか、アンタも暑くないの?」
きりんがコートの男を横目で見る。
ウィンドウブレーカーの下にコートを羽織り、熱砂の大地を歩いても尚、顔色一つ変えていない。
「顔に受けた炎に比べれば、涼しい方だ」
「見てるこっちが暑いんだけど」
コートの男は水筒に口をつけ、淡々と歩く。
だが、それ以上に黙々と歩くのは少年の方だ。
きりんがチラリと少年の背中を見やる。
顔は見えないが、警戒心が背中越しに伝わってくる。ただでさえ精神を削られる灼熱の砂漠で、背後を歩く皇神の人間に気を回している。
きりんはため息をつき、少年の元へ歩み寄って肩を叩いた
「GV。身体が保たないよ」
「あ、ああ……」
「アタシもそれとなく見張っとくから」
きりんは耳打ちして少年の顔を覗き込む。いつものように言葉を濁す少年の目が空を泳いでいた。「どした?」ときりんが首を傾げる。
少年は視線を空に移し、眉間にシワを寄せて考え込む。数歩歩いた先で、ようやく少年はきりんに尋ねた。
「きりんは、発電所で声を聞いていない?」
「声?」
顔をすくめるきりんに、「そうか……」と少年が残念そうに呟く。何でも一人で抱え込む少年の悪癖を知るきりんは、少年に声をかけようとする。
次の瞬間、大地が激しく揺れた。
動揺が広がる。
何かが迫りくるかのように揺れは大きくなる。周りの岩もその場から逃げ出すように、次々と崖下に滑り落ちる。
「危ない!」
その視線の先から巨岩が転がり、十七架に迫り来る。
十七架は振動に足をとられ、眼前に現れた危機を前に固まる。非戦闘員であるが故の動揺が、脳の処理を遅らせる。
少年はホルスターから
だが、間に合わない。
十七架の目と鼻の先まで岩石が迫る。
その間に青年が飛び込んだ。
十七架を突き飛ばし、転がる岩を右肩で受け止めた。青年の靴から悲鳴のような擦れる音が響き、一瞬、岩の勢いが弱まる。だが、青年の身体は耐えきれず、岩の勢いそのままに弾き飛ばされた。
「大丈夫か!」
少年が青年に駆け寄る。
少年たちの杞憂を余所に、青年はムクリと起き上がり、笑顔を見せる。だが、サムズアップした右腕が赤く腫れていた。
「まったく……無茶しないでよ」
きりんが指先で赤く腫れた腕を突くと、青年がその場で悶えた。きりんはウィンドウブレーカーの端をちぎり、青年の右腕に巻きつける。青年は笑顔を絶やさず、緑色の液体を飲み干してガッツポーズしてみせるも、その腕は左腕より上がっていない。
「みなさん、ここに避難しましょう」
篇算者が見つけたのは岩肌が飛び出たくぼ地だ。
屋根のように覆い被さる堅固な岩肌が、西日をふさぎ、坂の上からの落石も避けられる。そう判断した一行はくぼ地に駆け込んだ。
「しかし、何だ、この揺れは?」
肩で息をしながらコートの男が声を荒げて辺りを見渡す。
「アレです」
篇算者が崖下を指差す。
崖下に広がる砂原にボツンと小さな砂丘があった。コートの男は目を凝らし、何でもない光景に眉をひそめる。
皮肉を言おうとした瞬間、砂丘が動き出した。
目の前の異様な光景に頭の整理が追いつかない中、砂丘から二本角の竜が飛び出す。
「砂の中を潜ってきたの?」
十七架が声を落として呟く。篇算者が指を鼻先に当てながら、「地盤を掘り起こした振動のようです」と解説する。
くぼ地の奥に身を隠し、少年たちは崖下を覗き込む。
ディアブロスと呼ぶ大きな巨体が、まさに真下の崖を歩いている。崖の目の前で止まり、鼻をヒクヒクと打ち鳴らす。その音はくぼ地の中でも反響していた。
「気づかれたか?」
「いえ、まだ気づかれていないと思います」
身構えるコートの男に、篇算者が冷静に答える。
しきりに首を崖に擦り付けるディアブロスを横目に、「なぜだ?」とコートの男が尋ねる。
「身体を岩肌に擦り付け、縄張りを主張するんです」
「マーキングか……」
コートの男がこめかみを抑えて唸り声を上げる。
少年はマーキングを続けるディアブロスを見つめる。
どれほど恐ろしくても、生き物だ。
その事実をまざまざと見せつけてくる竜。
見知らぬ世界に飛ばされ、知らない内に人類の敵にされた竜。
少年は憐れみと畏怖の混じった目で竜を見つめていた。
不意にディアブロスの白い瞳と目が合った。
「む?こちらを見ているぞ。今度こそ気づかれたか?」
慌てて顔を引っ込める。
少し顔を出すと、ディアブロスが崖上を見上げていた。翼を広げて、槌のような尾甲を何度も砂原に打ちつける。
まるで威嚇しているようだ。
「いえ、そんなはずは」
篇算者は声をさらに落としながら、首を傾げた。
崖上にあるくぼ地、更に突き出た岩肌の影に隠れている。崖下からして目視で見つけられるはずはないし、鼻が良いと言った話は聞いたことがない。地中から耳で地上の様子を判断する地獄耳で気づかれてしまったか。
「イタ」
考え込んでいた篇算者の頭上に小石が落ちた。
小石が粉雪のようにハラハラと落ちる。誰もが気にも留めない風化と言う自然の摂理。
それがやがて滝のように流れ落ちた。
「な、何ですか?い、一体」
頭上から軋む音が響く。
異変と気づいた時にはすでに手遅れだ。
「上に何かがいる」
少年が呟いた瞬間、その何かの顔が現れた。
「ひっ……」
十七架の口を塞ぎ、少年はくぼ地の奥へ引き込む。
くぼ地を覗き込む顔は逆さまになり滑稽ながらも、恐ろしい獣の顔だ。鋸歯をちらつかせながら舌を垂らし、獰猛な瞳が少年たちを捉える。その顔の両脇に伸びる黒く大きな爪は、今にも岩肌を持ち上げてしまいそうだ。
爪の先から伸びる虎のような青い縞模様の甲殻を持つ怪物に、青年が呟く。
「ティガレックス」
ドンと下から轟音が響く。
ティガレックスが顔を上げ、くぼ地の出口が開かれる。
「逃げましょう!」
「う、上にバケモノがいるんだぞ!正気か!」
ドン。
天井から音が響く。
右腕を踏み鳴らすような音だ。
「ゴー!」
最初に危機を知らせたのは青年だ。狩人のカンがいち早く危険を察知する。
青年の鬼気迫る表情を見て、次々とくぼ地から脱出する。
天井から、また、音が響く。
今度は、左腕を踏み鳴らすような音だ。
一足先に出たきりんが振り返る。
ティガレックスはその翼膜を広げ、身体を天にもたげている。大きく息を吸い込むティガレックスの真下で、最後尾になった少年が十七架を引き連れて、くぼ地を飛び出した。
ティガレックスが吼えた。
その轟音が岩肌を吹き飛ばす。先ほどまで留まっていたくぼ地は一瞬にしてがれきの下敷きになる。
そして、その衝撃が少年の身体を吹き飛ばす。
「GV!」
悲鳴を上げる間もなく空に放り出された少年。辛うじて気を保った少年は自分の頬を叩き、意識をはっきりと取り戻す。
空に投げ出されたのは、十七架とコートの男。
近くにいた二人を両脇に抱きかかえて、少年は空中で放電する。微かな電磁力が落下速度を和らげ、砂の大地に激突する最悪の事態を回避する。
背筋にあぶくが立つ。
窮地を知らせる本能からの警報に、少年は静かに背後を振り返る。
突き出た二本の角。
その根元に付いた二つの瞳が少年の落下する様をじっと見つめる。両手が塞がった少年に抵抗する術はなく、ただ縄張りに入った外敵に狙いを定めるディアブロスの
死の大地に轟く二つの咆哮。
それは絶望を告げる協奏曲。
退くも闘うも叶わぬ挟撃に、いざ、蛮勇を示せ。
砂漠の暴君、角竜、ディアブロス。
絶対強者、轟竜、ティガレックス。
小話
二頭同時狩猟のクエストでした。
ディアブロスは四十メートルを超える通常飛竜種の中で最大の大きさを誇り、砂の中に身を潜めるとのこと。
現実の砂漠の下にその巨体を隠す空洞はないと思うので、無理矢理岩盤を掘り進めたと言う設定にしております。どう考えてもあの爪で固い岩盤を掘れるとは思えないですが……(闘技場?なんだそれは?)
ちょくちょくご都合主義を隠さざるを得ないのは、ある意味、宿命かもしれないですね。