蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER   作:kocolokoro

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蒼い雷霆ガンヴォルトとモンスターハンターの二次創作です。


第十六話 生命の輪廻

 洞窟に広がる血の池。

 いくら血を流した人間がたくさん倒れていると言っても、これほど赤く染まることはあるまい。

 ポツリと浮かんだ疑問と髪に付いた血を洗い流したい一心で歩き続けること数分、きりんは窪地の壁から湧き出た地下水を見つけ出した。

 きりんは水をすくって髪を揉んでいく。

 髪をかきあげ、うなじに水で濡れた手を滑らせる。

 ぼんやりと水浴びを眺めていた男たちに気づき、「こら!男ども!」ときりんが追い立てる。興味がなさそうに鼻息を荒げるアキュラ、残念がってため息をつく青年、頭を掻いてごまかす大団長が三者三様に離れるのを見届け、きりんは血のついたウィンドブレーカーを水で濡らしてゆく。

「落ち着いたか」

 追い出された大団長が、一回り小柄なアキュラの頭をポンポンと優しく叩く。きりんと一触即発の雰囲気になった原因を大団長は知る由もないが、年長者として大団長なりに気を回しているようだ。もっとも、頭に乗せられたゴツゴツした固い手をアキュラは煩わしそうに払い除けてしまったが、それでも大団長は太陽のような笑みを浮かべる。

「そうそう……」

 程なくしてきりんと篇算者(へんざんしゃ)が戻ってきた。汚れたウィンドブレーカーを雑巾のように絞って肩にかけ、ほのかに水で濡れて透けた身体をさらけ出す。

 大団長がわざとらしく咳き込む。

 その意図に気づいた篇算者は慌てて自身のウィンドブレーカーをきりんに羽覆わせた。

「アンタ、ゲートについて知ってるのよね?」

「ん、まぁな……」

 大団長はきりんから目を逸らし、言葉を濁す。

 続けて尋ねようとするきりんに、「ゲート?何の話だ?」とアキュラが言葉を被せる。

「あー、そっか。アンタにはちゃんと説明しないとね」

 きりんはこれまでの騒動をアキュラに語り聞かせた。皇神(スメラギ)と行動していると話した時は荒ぶる殺気を放っていたが、全てを聞き終えた時には、「あの竜は異世界から来たのか……」と頭を抱えていた。

「莫迦莫迦しい」

 それは、アキュラがたどり着いた結論だ。

 信じられないが、現実として存在しているのだから受け入れざるを得ない。そんな投げやりな言葉に、未来から来たきりんも同調して何度も頷く。

「でも、アキュラ君。ドラゴンを見てちょっと興奮したでしょ?」

「うるさいぞ、ロロ」

 アキュラは周りを飛ぶ球体の機械を睨む。

 それは自立AIを搭載したビット兵器制御システム「バトルボット」、愛称RoRo。コミュニケーションの学習過程の影響で声に幼さが残り、長年アキュラをサポートしてきた自負もあってか、RoRoはアキュラの恐喝じみた視線すら楽しんでいるように見える。

「あー、そのドラゴン……リオレウスだがな」

 はしゃぐRoRoの言葉を遮り、大団長が洞窟の奥に見える暗い(ほら)を指差す。その先から微かに吹き付ける冷気に、「出口があるの?」ときりんが尋ねる。

「巣がある」

 大団長は不敵に微笑むと、その洞へ向かう。

 篇算者と青年がその後に続き、壁に背中を寄せて覗き込む。遅れて駆けつけたきりんとアキュラが洞の奥を覗き込んだ。

 ひときわ大きな広場に蒼白の月明かりが射し込む。その月明かりが、まるでスポットライトのように、せり上がった岩肌の上に鎮座する一頭の竜を照らしていた。

「緑色の竜?映像の竜と違うな」

 深緑よりも深い緑の鱗をまとった竜が翼を下ろして座り込んでいる。幾重にも棘が生えた尾をユラユラと揺らし、辺りをしきりに見渡しては大きく欠伸する。温厚な振舞いとは裏腹に、その口内には凶悪な肉食獣の歯が並ぶ。

 悠然と佇むその姿は玉座を守護する女王のようだ。

「緑火竜、リオレイア。赤い竜、リオレウスの雌個体デス」

 篇算者の言葉を聞いて、アキュラは顔を引っ込めてため息を何度も吐き続ける。

「あれは……」

 その背後で覗き続けていたきりんが声を上げる。

 青年が慌てて口を塞いで洞の影に引き込む。自分の迂闊さに「ごめん」と謝り、きりんは巣の方、リオレイアの足元にある物を指差し、アキュラに覗くよう促す。

 アキュラが巣を再び覗き込む。

 月明かりに照らされたリオレイアは翼爪を噛んで念入りに手入れをしている。きりんの声には気づいていないらしく、堂々と隙を晒している。

 上半身を起こしたリオレイアの足下に、月光が射し込む。

 そこには、ラグビーボール大の白い球体が二つあった。

「卵か」

 顔を引っ込めて、アキュラはポツリと呟く。

「さっさと破壊しよう」

 アキュラが銃を抜き出すと同時に、RoRoも動き出す。白い球体に縁取られた赤い線が発光し、戦闘モードに替わる。

「どうするの……」

 こめかみを押さえる編纂者に、きりんが声をかける。

「何をためらう?いつ孵化するか分からないんだぞ」

「分かってマス」

 歯切れの悪い篇算者に、アキュラが苛立ちを露見させる。

「可哀想か?」

 威嚇するように銃を掌で回してからホルスターにしまい、アキュラが篇算者に詰め寄る。

「同情しているのか?産卵時期に無理矢理、異世界に飛ばされて、人間のエゴで子孫が絶たれることに」

「そこまでだ」

 詰め寄るアキュラの腕を掴んで、大団長が制する。睨み返すアキュラに大団長は首を振って答える。

「俺たちの世界では、狩猟したモンスターや採取した草木を全て残らず報告している。人に害をなす凶暴な個体を優先して討伐する。自然と調和を図る、それがモンスターハンターだ」

「お前たちの世界の信条など知ったことか」

 アキュラがきっぱりと否定する。

 異世界に入りてはその世界に従うべき、異界の竜が跋扈(ばっこ)する今の状況自体があってはならないことで、直ちに修正すべきことだ。

「俺だって理解はしてる。ただ、時間をくれないか?」

 大団長はアキュラの考えを否定しない。

 行く末を見定める時間だけを要求する。

 生態系は全てが密に絡んでいる。一つの種の生態が消えれば、全てが瓦解する可能性を異界の住人は良く理解している。

 それは生態系を維持しようと努めてきたギルドの信条であり、自然と共にあろうとするモンスターハンターの矜持(きょうじ)だ。

「じゃあ、お前たちは俺たちの世界が怪物に支配されて、滅茶苦茶にされて、その時にも責任が取れるのか?」

 だが、時間はない。

 毒蛇のハブを捕食すると信じていたマングースが他の野生動物を食い荒らしたように、外来種のリオスが生態系に及ぼす被害は計り知れない。

 ──リオスと言う生態を生かすか、殺すか。

 それを決められるのは、ただ一人しかいない。

「卵を破壊しましょう」

 篇算者がアキュラに歩み寄り、言葉を続ける。

「受付嬢の資格を持つワタシが、ハンターズギルドの代表として許可します」

「根拠は?」

 大団長がアキュラと篇算者の間に踏んで割り込み、腕組みしながら、獅子のような目つきで見下ろす。

 受付嬢がハンターズギルドを代表することはない。

 篇算者の言葉は誤りだ。

 大団長はそれを咎めている。

 時に未知の生物に相対し、狩猟するかどうかの判断を迫られるが、最終決定はギルドにある。受付嬢が下した現場判断を後でギルドに報告し、ギルドから戒告通知を受けた受付嬢はゴマンといる。

 篇算者は大きく息を吐き、指を三本立てる。

「一つ、リオス種の近親相姦により生態が危ぶまれるコト。一つ、大型動物の個体数が少なく、食料を求めて世界を飛び回り、この世界の生態に被害が及ぶコト。一つ、リオス種を滅ぼすために使用するこの世界の人間の兵器により、生態に甚大な被害が出るコト」

 この世界でのリオス種の存続の可能性、リオス種が及ぼす生態への影響、生態系の頂点に君臨する人類との対立。

 三点を挙げた篇算者に、「まぁ、だろうな」と大団長が道を開ける。再び相対するアキュラと篇算者。篇算者の覚悟に満ちた目にアキュラの目尻に寄せたシワが和らぐ。

「あの竜自体はどうするつもりだ?」

 卵を破壊しただけでは、根本的な解決にならない。巨大な竜がはびこる限り、生態系やこの星が危険に晒されるままだ。

「この場で討伐するノモ一度考えましたが、死骸が及ぼす影響が分かりません」

「死骸?」

 アキュラは思わず面食らう。

 死骸は、野生で野晒しにされ腐敗し、スカベンジャーが食い荒らし、最後は微生物に分解される。誰からも見向きされないものだ。

「龍属性と言うエネルギーが死骸に残ってシマイます。その影響は、ワタシにも分かりまセン」

 篇算者が深く頭を下げる。

 新大陸と呼ばれる場所では、地脈を巡って生態が変わったことがある。空気中に漂う竜気を使って大気圏を飛ぶ天彗龍(バルファルク)、あらゆる竜を喰らい龍属性のブレスを吐く恐暴竜(イビルジョー)もいる。

 いずれも竜が持つ龍属性、未知のエネルギーが関与している。

 そのエネルギーを内包する死骸を、この世界のスカベンジャーが捕食したらどうなるか──龍属性の炎を吐くハイエナが誕生するか、龍属性エネルギーを人間の体内に感染させる蚊が世界規模のパンデミックを起こす可能性すらある。

「卵はどうする?」

 この世界の人間には知る由もない話だが、何も知らない素人が手出しできる代物ではない。篇算者が頭を下げる姿を見て、アキュラはそう判断したらしく、結論を先延ばしにする。

「陽動とか?」

 きりんが提案した作戦に全員が妥協する。

 誰かがリオレイアをおびき寄せ、他の誰かが卵を盗む。シンプルで危険な作戦だが、他に方法はない。

「お前は出るなよ、臭いでバレる」

 きりんを横目で見て鼻を摘むアキュラに、「失礼ね」ときりんが顔を膨らませる。

「アキュラ君、レディに臭いはデリカシーがないよ」

 たしなめるRoRoに、「血の臭いだ」とアキュラが呆れながら答える。

「アルディーラ」

 青年が手を挙げて前に歩み寄る。

「考えがアルのですか?」

 尋ねる篇算者に、「テレービ」とにたりと笑い、青年は空に四角形を描いた。

 




小話
 害獣駆除はどうしても人間のエゴが入ってしまう。
 生態系の維持とのバランスを、長年研究を続けてきた専門家が日夜議論をしていることでしょう。
 それは仕方がないものとしても、モンスターハンターのモンスターを現実世界で駆除するとなった場合、忘れてしまうのが謎のエネルギー、通称、龍属性エネルギー。
 設定資料集や生態からおぼろげに推測できそうですが、未解明な所も多いそうな……虫の装備は龍属性に強いので、蚊は生き残るかもしれません。
 篇算者が一度モンスターの処分を断った理由はこういう背景がありました、と言うお話。
 
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