蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER 作:kocolokoro
月が高く昇る砂原の夜空に、またしても咆哮が響いた。
「また、吠えとるわい」
ドクロ柄のパジャマを羽織った老人は目をこすってベランダのカーテンを開ける。ディアブロスの咆哮で付いた窓の傷を忌々しげに見つめ、遠望の山を見やる。
「あやつら、大丈夫じゃろうな」
少年たちに赤い竜の居場所を告げた老人、アルバート翁は頭を掻きながら、ベランダに仕掛けたカメラをいじる。
「良い画は撮れとるかの」
惜しいことをしたと老人は悔いていた。
今日の夕暮れ時だ。
鳴り響く咆哮に
だが、咆哮がいつもと違った。
二つの咆哮が混ざっていた。
老人は窓を開けて確かめると、二本角の怪物ともう一頭が派手に争っていた。これはバズリの予感とベランダから望遠カメラを回すと、もう一頭の縞模様の怪物の咆哮でレンズがやられてしまった。
仕方がなく目を凝らして二頭の争いを観戦していると、近くに二つの人影が見えた。
その内の一つは蒼く輝いている。
昼間に来た少年達かとぼんやりと眺めていたら、突然、蒼い剣が現れ、怪物の角が吹き飛んだ。
「むぅ、何にも撮れておらんのぉ」
せっかくインフルエンサーになれる画を逃してしまった。自分の成果を自慢できないホワイトハッカーとして人生を送ってきた老人は、生まれて初めて悔しいと感じていた。
「この鳴き声は誰のものじゃ?」
次こそ大バズリしてみせると意気込んで、ネット通販で取り寄せたカメラには何も映っていない。
再び響く咆哮。
だが、その主は何処にもいない。
「あやつらに付いて行けば、イヤ、命には代えられんわい」
何度も繰り返される姿なき咆哮に、アルバート翁は思わず首を傾げた。
だが、咆哮の主は確かに存在していた。
老人が覗く望遠カメラの遙か先、山の麓にある裂け目の淵に浮かぶ一基のビット。老人からは決して見ることのできない小さな機体から、その声は発せられていた。
「ぎ、ギャオーン……」
RoRoからリオレウスの咆哮が再生される。
初めてカメラの前に姿を現した時のリオレウスの咆哮、皇神の火消し活動も虚しくネットに無断転載された音声だ。
裂け目の底から二つの瞳が輝く。
月明かりがその緑の鱗を照らし、リオレイアの姿が露わになる。
頭上から聞こえる同種の声に、リオレイアは囁くような鳴き声を上げる。
──愛を育んだ個体が助けを求めている?
──身体を狙う別個体が巣から誘き出そうとしている?
声が木霊する夜空と産み落とした卵を交互に見やる。
「お願い、早く飛んでよ」
外来種の繁殖を阻止しようとするきりんたちは、洞窟に続く巣の横穴からリオレイアを覗き込んでいた。
発案した青年もリオレイアの一挙一足を注視する。
テレビに流れたリオレウスの声でおびき寄せ、その隙に卵を奪う。テレビと言う文明機器にかじりついていた青年がいち早く提案すると、あっという間に作戦は決まった。陽動役は小さくて空も飛べるRoRo、卵を奪う役はアキュラと青年の二人だ。プランAは持って帰ってリオレイアの卵料理を堪能する、プランBはその場で卵を破壊する、以上だ。
「アキュラ君、ま、まだかな?」
「もう少し吠え続けてくれ、ロロ」
陽動役に選ばれたRoRoを無線越しに励ましていると、リオレイアが半歩踏み込んだ。
「リオレイアが飛んだ!気をつけろ、ロロ!」
「は~い……」
リオレイアがその翼を振るい、地上から飛び上がる。
洞窟の横穴から飛び出し、アキュラと青年が様子を窺う。まだ地上から数十メートル、卵には近づけない。
もっと引きつけるべくRoRoが音声を再生する。
羽ばたく音が大きくなる。それに負けじと咆哮をまた再生する。翼爪が天井の裂け目から飛び出し、その風圧が塵芥を弾き飛ばす。
「今だよ!アキュラ君!」
RoRoの合図と共にリオレイアが顔を出す。RoRoはスリープモードに入り、路傍の石に成りすます。空高く飛び上がったリオレイアが転がるRoRoの側を覗き込み、果てしなく広がる砂漠を見渡す。かかる鼻息に、「早くしてよ」とRoRoが祈るように呟く。
主が不在となった巣に、青年とアキュラが近づく。外に飛び出したとは言え、下を見返せばすぐに見つかってしまう。頭上に響く羽ばたき音に、二人は岩陰に隠れながら隙を伺う。
「もう少しですよ」
固唾をのんで二人を見守る
リオレイアの尾が洞窟の天井から消えた。
大団長が二人にゴーとハンドサインで指示を出す。
青年が岩陰から飛び出し、巣に足を踏み入れる。
干草を岩で押さえただけの簡素な巣だ。近くの牧羊場から盗まれた干草が青年の足音をかき消す。その中央に鎮座する二つの卵に青年が手を伸ばす。
リリリリン
リリリリン
洞窟に着信音がこだまする。
「撤収!」
大団長が叫ぶ。
青年が卵から手を引いた瞬間、空からリオレイアが舞い降りる。着地と共に巻き上がる風圧に煽られ、青年はリオレイアの鼻先に飛ばされる。リオレイアの唸り声が青年の耳奥にこだまする。一しきり威嚇を終えたリオレイアは、岩に隠れようとしたアキュラに向かって吠える。
リリリリン
リリリリン
今も尚、着信音が鳴り響く。
「マナーモードにしときなさいよ……」
きりんは愚痴をこぼし、刀を抜いてリオレイアに歩み寄る。
だが、誰も電話に出る気配はない。
異世界から来た三人が端末を持っていないのは当然として、持っているのはこの中ではアキュラだけだ。だが、当のアキュラは岩陰から銃をリオレイアの頭に構えている。
そして、気づく。
──鳴っているのは自分の端末だ。
きりんの顔が真っ青になり、額から汗が滝のように流れ落ちる。慌てて端末を取り出すと、着信履歴にGVの名が映り、マナーモードがいつの間にか外れていた。
「GVのバカ!」
心当たりのないミスを人のせいにしてしまうが、すぐに眼前の怪物に意識を戻す。
リオレイアは翼を広げ、足下の卵を守るように威嚇する。
口の端から漏れた炎が瞳を赤く燃え、天井から射す青白い月の光すらも赤く燃やす。
いや、黒くなった影を赤く染めたと言った方が正しい。
リオレイアが突然空を見上げ、喉を鳴らす。
「アキュラ君!」
RoRoから無線が入る。
アキュラは銃を構えながら、「どうした、ロロ」とインカムを耳に当て直す。
「何か来るよ……うわ!」
「おい!ロロ!」
裂け目から漏れた月明かりが再び消え、黒い影が落ちる。いち早く空を見あげていたリオレイアがその場から飛び退き、巣の中心に黒い影が着地する。
「何だ、こいつは!」
月明かりが照らす縞模様の身体、巨大な爪を携えた原始的な竜が、声を出したアキュラの方を振り向く。
「ティガレックス!」
篇算者が叫ぶと同時に、リオレイアが口内に溜めていた炎を吐き出す。真横に飛び込んだ青年の肩を掠め、火炎がティガレックスの爪に爆散する。
怯んだティガレックス、その爪に黒い焦げ跡が残る。その隙を逃すまいとリオレイアが果敢に突撃する。
「今よ!」
きりんの掛け声と共に、アキュラが岩陰から離れる。ブーツに仕込んだジェット噴射で飛び出すアキュラを見て、青年が遅れて巣の横穴へ走り出す。
青年の前方を駆けるリオレイア、それにティガレックスが真正面から飛びかかる。岩盤すら打ち砕く絶対強者の爪を見て、サイドステップで避けたリオレイアの身体が、青年の行く手を阻む。
「まずい……!」
一人取り残された青年を見て、きりんがティガレックスの後方から走り出す。
ティガレックスはリオレイアの翼爪が刺さることを恐れない。ティガレックスの剛爪がリオレイアの翼を捕らえ、翼膜を容易く引き裂く。
激痛に悲鳴を上げるリオレイア。
「早く!」
その足下できりんが青年の腕を掴み、横穴へ引張って行く。
その頭上で炎が弾ける。
花火と言うには生ぬるい、カウンターの爆炎ブレスがティガレックスの顔面で爆ぜる。黒煙が高く昇り、岩石すら削り飛ばす突風に二人は思わずよろめく。
その黒煙をティガレックスの鼻息が吹き飛ばす。業火を浴びても火傷痕一つすら付いていない。その顔に血管が浮かび上がり、返り血を浴びた鬼のような形相でリオレイアを睨む。
ティガレックスが吠えた。
洞窟が崩壊を始める。
叫ぶ暇もない。
咆哮に耳を塞ぎ、地面が割れる様を見届けるだけだ。
「きゃあ!」
地面が割れてきりんと青年は成す術なく崩落に巻き込まれる。アキュラは舌打ちして、落ちる二人に向かって飛んだ。
アキュラがきりんの腕を掴む。「ありがとう」と礼をするきりんの横を、ティガレックスが悲鳴を上げながら落ちてゆく。
「リオレイア!」
きりんの腕に掴まったいる青年が悲鳴を上げる。
アキュラが後ろを振り返る。
飛翔するリオレイアが縦に並ぶ三人を仇敵の如く睨みつけていた。その尾の棘から紫の毒液が滴り落ちる。
「こいつも毒……」
見覚えのある紫の液体に、きりんが顔を引きつらせる。二人を抱えたアキュラのジェットブーツのエンジン音が弱くなり、アキュラは「くそっ」と舌打ちして、リオレイアを睨み返す。
リオレイアが不意に視線を逸らす。
眼前の敵を無視して見つめた先、空を落ちる二つの卵の下に蒼色のスパークが灯っている。
「ガ、ガンヴォルト!」
「アキュラ……」
かつての好敵手が再び相見える。
少年が探索を続けていた洞窟を掘ってできた施設、頭上に空洞があったことすら知らずに、地盤調査もなしに非合法で建造された施設。その天井が一頭の咆哮で瓦解し、少年は二人の一般人を守るために、落石を
久方ぶりの再会と、落ちて来る巨大な竜に戸惑う少年の頭上に二つの球体が落ちて来る。
それらを少年が咄嗟に受け止める。
腰に響く重みに身体がよろめくも、体内に流した電流で活性化した腕力で容易く抱える。
「GV!卵を割って!」
空から響くきりんの声に、少年が我に返る。
胸元に抱えるのは二つの卵、眼前からは緑の竜。
少年が飛び退いた後に、緑の弧が描かれる。
「た、
真横を掠めたリオレイアのサマーソルトに腰を抜かした
リオレイアは二人を見向きもせず、卵を奪う下手人に吠える。当の下手人である少年は後退りしながらリオレイアと対峙する。
少年の髪がはためいた。
生ぬるい湿った風が少年の首筋を伝う。
恐る恐ると振り返った先には鼻息を荒げるティガレックス。
陸の女王と絶対強者に挟まれた少年を押しつぶすかのように、二頭が再びぶつかり合った。
小話
ついに有名なクエスト名を拝借することになりました。
突進が得意なモンスターばかりで、字面が地味になってしまいそうです。ドンパチできる魔法チックな技や必殺技は描きやすいですね。
時速五十kmで大型トラックがぶつかる、と言うのがティガレックスの恐ろしさ、人間なんかひとたまりもないです。
だけど、異世界転生トラックかなと楽観的になるのは、感性が麻痺してるからですかね。