蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER 作:kocolokoro
二頭の挟撃を寸前のところで
「GV、大丈夫!」
互いに次の機会を伺う二頭の隙を突き、きりんが地上に降り立ち、卵を抱える少年のもとに駆け寄る。
「きりん、これは一体……」
側面から吹き荒れる熱気。
二人が飛び退いたタイル床を業火が焼き焦がす。喉元から黒煙を上げながら、リオレイアが少年たちに吠える。
巣を荒らす轟竜と卵を盗む蒼き
リオレイアが狙うは、蒼き雷霆。
「ガンヴォルト!早く卵を割れ!」
青年とアキュラの声に、少年はようやく両脇に抱えた卵を見やる。誰の卵か、その危険性すらも少年はすぐに悟る。顔を上げると、卵の産み親が眼前まで迫り来る。
少年が横っ飛びにリオレイアの突進を回避する。
蒼いスパークを放つ少年の畏怖の瞳とリオレイアの執念の瞳が交錯する。通り過ぎたリオレイアが大地を蹴り上げ、少年に再び牙を向ける。陸の女王たる強靭な脚力が、大型トラックが速度を落とすことなく急旋回すると言う異常現象を実現する。
片足を地に付けたばかりの少年に、リオレイアが迫る。
その頭上を黒い巨影が覆う。
ティガレックスが少年の頭上を跳躍し、少年の眼前まで迫っていたリオレイアを押し戻す。着地と共に巻き上がる砂埃が少年を吹き飛ばす。そのまま瓦礫に叩きつけられた少年の手から卵がこぼれ落ちる。
卵が地を跳ねて転がり回る。
争いを繰り広げるリオレイアの尾の真下を転がり、傷一つない卵が瓦礫の山にぶつかってようやく動きを止める。
「大丈夫か!」
上体を起こした少年の頭上から、大団長が飛び降りる。
およそ十メートルはあろう崖の上から、その身一つで飛び降りた大男に、「貴方は?」と少年が目を白黒させる。
「GV、この人が探し人の大団長」
そこに、きりんが駆けつける。きりんに身体を引き上げられ、「ガンヴォルトです」と紹介した少年に、「おう」と大団長は手を上げて挨拶を済ませる。
「さてと……」
大団長が頭上を見やる。
横穴はすっかり天高く遠ざかり、
リオレイアがティガレックスの死角に飛び回ろうとするも、ティガレックスは天井が低くなった横穴に下がる。空を飛んでいては背後を取ることはできない、地上戦に持ち込もうとするティガレックスにリオレイアが威嚇する。
出口は、ティガレックスが陣取る横穴だけだ。
大団長は獅子のような髭を揺らし、視線を右へ移す。
二頭が争う、ちょうどリオレイアの尾の先、毒液を分泌する鋭棘が今にも掠めそうな場所に卵が二つ鎮座している。
「次はどうする?」
状況を見終えた大団長にアキュラが声を掛ける。
ようやく崖から降りた篇算者も駆けつけ、「卵は?」と次の指示に備えている。
大団長は自信に満ちた笑みを浮かべ、指を一本突き立て作戦を発表する。
「卵を割って、逃げ道を確保する」
大団長のシンプルな作戦に、肩をすくめるアキュラ。
大団長の目が大きく見開くのを見て、アキュラはその視線の先に顔を動かす。
ティガレックスだ。
「散開!」
ティガレックスは左爪を叩きつけて崖の直前で踏み止まり、右手に逃げた人間の群れに狙いを定める。
「サタール!」
その群れにいた青年が叫ぶ。きりんは前方に飛び込んだ篇算者を横目に見やり、後ろを振り返る。
タイル張りの地面に陥没した左爪を軸に
隣を走る十七架だけが気づいていない。
きりんが十七架を突き飛ばす。
その直後、ティガレックスが右爪を振り下ろす。
砕け散る岩盤に吹き飛ばされたきりんは、崖に叩きつけられ、うめき声を上げる間もなく地に伏す。
「きりん!」
きりんと反対側に逃げていた少年が叫ぶ。
右に逃げたメンバーは轟竜による一撃で壊滅寸前。
青年が弓矢で応戦するのを遠目で見つめ、コートの男は「危なかった」と安堵の息をつく。
ティガレックスの懐に潜り込み、弓矢を放つ青年。ティガレックスはその矮小な身体を見失い、辺りを右往左往と見回している。片方の竜を青年が引き付けているのを横目に、残された少年たちは卵の破壊に向かう。
「
皇神の人間に声をかけられ、「何だ、お前は?」とアキュラが苛立ちを露見させる。
「私はピレー、皇神の
「くだらない話は後にしろ」
社交辞令を遮ったアキュラにコートの男は、「皇神は君のポストを用意している」と早口で用件を伝え、鼻を鳴らす。事務的な口調で勧誘するコートの男を無視して、アキュラは先頭を走る少年に近づく。
「止まれ!」
後方を走る大団長が叫ぶと同時に、アキュラの目の前を緑の影が横切る。
滑空して来たリオレイアの脚が少年を捕らえる。
蹴り飛ばされた少年はタイルの床を転げ回り、身体を瓦礫に打ち付けられる。
「ぐっ……」
右肩から鮮血が噴き出す。
リオレイアの足の爪が少年の皮膚を切り裂き、全身を駆け巡る激痛に意識が何度も飛びそうになる。敵襲を受けた少年は兵士としての本能で状況把握に務める。
地面に伸ばした右肘から先はまだ動かせる。
使い物にならなくなったのは右肩だけ、継戦可能。
右肩の傷口を抑えると、視線の先に二つの卵が映る。
ほんの少し手を伸ばせば、卵を掴める。卵から新たな個体が孵化すれば、全世界に被害が及ぶ。これまでの異能力者とは比べ物にならない、理不尽な暴力を前に、また大切な人を失うわけにはいかない。
カノジョとオウカの笑みが脳裏をよぎる。
ジーノにモニカ、フェザーの仲間に、解体現場の作業員の姿が薄らいでいく意識を駆け巡る。
衰弱した少年に歩み寄るはリオレイア。
少年は陸の女王と再び視線を交わす。
その瞳が煌めく。害意や慢心のような澱みは一切なく、子孫繁栄と言う生物としての命題を携えた懸命と言う名の煌めきだ。
リオレイアは翼を広げ、三歩ほど後退する。全身の体重をその脚に落とし込み大地を蹴り上げんとする。アキュラが銃撃を浴びせるも、リオレイアが意に介することはない。
「うおらあああ!」
雄叫びとともに大団長がロープを投げる。
リオレイアの尾に巻き付いたロープを、大団長が渾身の力で引張る。わずかに体勢を崩したリオレイアは羽虫を追い払うように、尾を振り回して大団長を空に放り出す。
微かな隙ができる。
少年はホルスターから
──キャットを噛み殺すラットたれ。
ならば、今の自分は窮鼠だと少年は覚悟を決める。
再び少年の方を振り向いた瞬間、その瞳に受雷針を撃ち込む。目に電流を流し込めば、その巨躯もただでは済まないはず。
少年は銃を構えて、その機を待つ。
だが、リオレイアは振り向かない。
今回は長くなったので、前後編同時投稿です。
小話
ガンヴォルトは体内に電気を流して反射神経を高めている。
ありがちな設定ですが、事実でしょうか?
何事にも情報ソースが求められる昨今、あいにく生物を履修していませんが、素人なりに考証する必要はあると思います。
結論としては、脳が送る電気信号よりも速く筋肉に電気を流していると言うのが正確かなと。
何気なく読み飛ばす内容も精査しないとなと言う小話でした。