蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER 作:kocolokoro
星空に向かって吠えるリオレイア。
目の前で決死の抵抗を試みる少年はすでに眼中にない。何かを警戒するリオレイアを見て、少年は本来の目的である卵に手を伸ばす。
新たな咆哮が洞窟に木霊する。
少年は卵から手を引き戻して天井を見上げると、大団長が飛び降りてきた崖上の横穴から赤い影が飛び出した。
「オドガロン、戻ってきたのか……」
リオレイアに飛ばされた大団長がポツリと呟く。
先程肥やし玉で追い払ったオドガロン、喧騒を聞きつけて舞い戻ったその個体は颯爽とティガレックスの背中に飛び乗り、その首筋に牙を突き立てる。
喚き散らすティガレックス。
背中にしがみつくオドガロンを振り払おうと、ティガレックスが地面を転げ回る。オドガロンはその爪を喰い込ませてティガレックスにしがみつき、執拗に首を狙う。
ロードローラーを優に超える巨体によるデスロール。巻き込まれたら、たちまち挽肉にされるであろう二頭の乱闘がアキュラに転がり迫る。アキュラはコートの男を掴んで空へ飛び上がると、その下を二頭のドッグファイトが通り過ぎる。
「ガンヴォルト!」
空を飛んだアキュラが、瓦礫にもたれかかる少年を呼ぶ。
少年の前に佇むリオレイア、二頭の争いを避けようと翼を広げたところでピタリと動きを止める。
リオレイアが背後を振り向く。
少年の隣にある自分の卵を見つめ、リオレイアは二頭に向かって突進する。
一歩、二歩、三歩──
リオレイアが宙を舞う。
しなる尾が弧を描くサマーソルト──リオレイアの一撃がオドガロンの背にぶつかり、二頭をまとめて吹き飛ばす。空を舞ったリオレイアの毒棘とオドガロンの砕けた鱗が月明かりで粉雪のように光り輝く。
ティガレックスの背中から振り落とされたオドガロンは、口元から毒素の混じった紫色の唾液を垂らし、たたらを踏みながらも何とか立ち上がる。
そこに戦意はない。
ティガレックスに吠えられ、負け惜しみのような遠吠えを上げ、オドガロンは横穴に姿を消した。
──邪魔者はいなくなった。
そう言わんばかりに、ティガレックスは舌をなめずり回す。負けじと威嚇するリオレイアにティガレックスが突撃する。
その身体が宙を飛ぶ──宙に持ち上げられる。
赤い竜がティガレックスの背中を鷲掴みにしていた。
「リオレウス!」
宙で虚しく足掻くティガレックスを、リオレウスがその全体重を乗せて地面に叩きつける。
コンクリートの床が粉々に砕け、その破片がティガレックスの瞳を裂く。目から垂れる血に顔を抑えて動揺の奇声を上げるティガレックスを持ち上げ、リオレウスは再び地に叩きつける。
リオレウスはティガレックスの背中から飛び降りると、番と揃って咆哮する。唸りながら起き上がるティガレックスが二頭に相対する。
翼を広げてにじり寄る一対の火竜に到底敵わないと悟ったのか、ティガレックスは忌々しげに吠え、空高く跳び上がった。
ティガレックスが逃げた天井の裂け目に吠えた一対の火竜は揃って卵の方を振り向く。
争いの間に卵を手にしていた少年に、二頭が歩み寄る。
口から炎を漏らしながらにじり寄る二頭に、少年は指先まで金縛りに遭ったかのように固まってしまう。
リオレウスが少年の目の前で立ち止まる。
喉を鳴らしながら、リオレウスは少年の匂いを嗅ぐ。口の端から漏れる炎の揺らめきが生暖かい鼻息に乗って少年を包む。
鼻息に交じった肉の焼ける臭いに少年は思わず咳き込む。睨まれても動く少年を見て、リオレウスは鼻息を荒げ、喉元を焦がす火炎を強める。
「ジーブイさん!卵をリオレウスに渡してクダサイ!」
遠くで篇算者が叫ぶ。
リオレウスの背後に佇むリオレイアが篇算者に威嚇する。アキュラも大団長も青年も、リオレイアに睨まれて動くことができない。
リオレウスと少年の間に邪魔する者はいない。
卵を破壊すれば世界の人間に平和が訪れる、卵を渡せば世界はリオスの王国になる。
世界の命運は少年が握っている。
篇算者の叫びが甘い蜜のように耳元にこびりつく。
世界の人間よりも自分の命が惜しい、だけれども、脳裏をよぎる思い出が火竜の炎に焼かれ、消え行くのを指をくわえて見届けたいとは願わない。
それでも──
未来を生きてと託したカノジョとの約束を──
ここで絶やすわけにはいかない──
少年は持っている卵を床に置くと、そのままリオレウスの顔の前に差し出した。そのまま手を離し、少年は後ろに下がる。
転がった卵をリオレウスは顎から生えた棘で受け止め、卵の臭いを嗅ぐ。ひとしきり嗅ぎ終えたところで顔を上げ、少年を睨む。
ワオーーーン
咆哮が洞窟に反響する。
新しい敵襲かとその場にいた全員が身構える。それは火竜の番とて例外ではない。
再び咆哮が木霊する。
一対の火竜は互いに顔を見合わせて深く頷き合うと、リオレイアが少年の方に歩み寄る。
リオレウスが卵を咥え、続いてリオレイアが卵を咥える。二頭は目を細めて少年を見やると、砂漠の夜空に向かって飛び去った。
「助かったみたいだな」
大団長が膝の汚れを払い落としながら、少年に歩み寄る。それを皮切りに動ける者が次々と集まり始める。
「きりんは……」
大団長に担がれた少年は血が噴き出る右肩を抑えながら、倒れ伏すきりんに駆け寄る。
「しっかりしろ!」
身体を揺さぶり、頬を叩くも返事はない。頭から流れた血でしなやかな前髪が固まり、小さなおでこから目元にかけて赤黒い血が広がっている。
「きりん!」
叫んでもその瞳は閉じたままだ。
唇に指を近づけると、その息はまだ浅い。眉一つピクリとも動かないきりんに、少年は何度も声をかけ続ける。
「……さない」
きりんの唇が微かに動く。
「許さない」
気だるげに目を開き、「あんなタイミングで電話かけてこないでよ」と少年を嗜めるかのように睨む。
そして、再び目を閉じる。
再び黙り込んだきりんに、少年が身を乗り出して身体を揺さぶる。
その直後、洞窟に安らかな寝息が響く。度重なる心労で眠ってしまったらしい。少年は、「よかった」と呟き、力が抜けたかのようにその場に座り込む。
「アキュラくーん」
空から呑気な声がした。全員が思わず見上げると、小さなビット機体RoRoが上空からアキュラの元へ降りてきた。
「ロロ!無事だったか」
「どう?少しは役に立ったでしょ?」
得意げに自慢するRoRoに、「何の話だ?」とアキュラが首を傾げる。
ワオーーーン
RoRoの機体からオドガロンの咆哮が鳴る。
「さっきの赤い獣の声を録音してたんだ」
リオスの二頭が聞いた音声そのものだ。
ティガレックスをおびき寄せたクリアな音質が、リオス種に巣を移そうと決めさせた。仲間の窮地を救ったRoRoに、「助かった」とアキュラが礼をする。
「近くの街に皇神の医療チームを派遣するよう要請した」
コートの男が端末を掲げて報告する。彼の行動に文句を言うものは誰もいない、それほどまでに疲弊しきっていた。
「よし!帰るとするか!」
小話
今回の二頭、肉弾戦が多く緩慢だったかなと思います。
筆者の力量不足で、いわゆる、「ダレた」気がしますが、気長に読んでいただければ幸いです。
十メートルの巨体が体当たりすると言うのはシンプルに強いですが、シンプル過ぎても駄目だと言う好例でした。