蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER 作:kocolokoro
オリジナルのキャラクターが出てきます。
世間は赤い竜の話題で持ちきりだった。
だが、少年がいる職場には無縁の話だ。
「坊主のおかげでいつも助かってるよ」
廃材を担ぐ男に褒められ、少年は「ありがとうございます」と気の良い返事を返す。今にも崩れそうな廃屋の周りをクレーンの重機車が行き交う解体現場で、トラックの荷台に鉄筋を詰める職人の列に紛れて、少年は廃材をせっせと運ぶ。
もっとも、格闘技を嗜む少年が自身の電力をコッソリと使って鉄筋を浮かせれば、運搬作業などお手の物だ。
少年はフリーの傭兵を生業としているが、四六時中戦闘をしなければならない戦闘狂ではない。時折、スラム街に出ては能力者による喧嘩の仲裁や、喧嘩の余波で被害の出た家屋を撤去して、日銭を稼いでいる。
少年はこの日も、廃屋の撤去作業に従事していた。
この廃屋は酒場だったらしい。酔っ払った異能者が暴れて屋根ごと吹き飛ばし、犯人は逃走した。
店主は首を吊った。
店主の無念を晴らそうとする者もいないし、皇神の私兵もスラムの貧民をわざわざ相手にしない。この世に遺した店を片付けるだけでも、店主の魂は報われたと思うしかない。
一般人にとって、異能者は恐れの対象だ。
後天的に異能の力を与えられた少年は、同じ異能者が起こした犯罪の後始末に、全身全霊を注いでいた。
「おい、昼休憩にするぞ!」
現場親方が手を打ち鳴らす。
待ってましたと言わんばかりに歓喜の声が現場に広がる。各々が日陰に逃げ込み、持ち出した弁当を開けていく。少年も現場の作業員と一緒に、昼食を楽しむ。オウカが作った弁当は作業員たちにも好評で、「リア充爆発すればいいのに」と談笑が飛び交う。
「なあ、坊主……」
暗い影が落ち、少年はふいと顔を見上げた。
親方が苦虫を噛み潰したかのような顔で見下ろしていた。周りの作業員が急に黙り込み、目線を合わせないように顔を反らす。
「ボクが相手します」
少年は気丈に立ち上がった。
オウカの弁当を残して鞄にしまい込み、そのまま歩き出す。黙々と歩く少年に、誰もが手を一瞬伸ばしては引っ込め、そして、俯いてだんまりを決め込む。
「俺が言うのも何だけどよ……」
親方が頭を掻きながら少年を呼び止めた。
「嫌なら追い返してやろうか?危険な現場に部外者がうろつくんだ。ルールを盾にすりゃあ……」
親方は頬を掻きながら、少年の小さな背中に呼びかけた。絞り出すような言葉を紡いでできた気遣いの台詞に、少年は振り返りって笑顔で答える。
「大丈夫ですよ」
微笑みを崩さず再び振り返り、足早に現場を横切る。休憩する者の中には、身を乗り出し噂話に興じる新参者もいたが、大半は少年を憐れみ、巻き込まれたくない一心から口を紡いで、日陰の奥へ身を隠した。
「こんにちは、ガンヴォルト君」
しわがれた声だ。
現場を離れた先に待っていたのは黒いコートを着た男だ。男の顔には無数の縫い目が走り、色の異なる肌がパッチワークのようにあてがわれている。そして、左目の周りから赤く焼けただれた素肌が露見していた。
「迷惑だ。付け回すの止めてくれませんか?」
少年が砂利を踏み鳴らす。
警告の合図だ。
コートの男は一月前から少年の行く先々で姿を現していた。コートの下がどうなっているかは分からないが、武闘派の体格ではない。簡単にねじ伏せられる手合いだ。
だが、今この瞬間、少年は警戒心を露わにし、コートの男は無警戒にそれを静観している。
「ツレナイなぁ」
コートの男は両手を広げ、少年に歩み寄る。
「形は違えど、同じ
「あなたは皇神の人間だけど、ボクは皇神から追われる身だ。粛清する気なら容赦はしない」
少年がホルスターに手をかける。
それは最終通牒──ホルスターから現れた
「止めてくれ。異能の力はもう懲り懲りだ」
コートの男は足を止め、左目の火傷痕を指でなぞる。そして、
「それに、私は皇神の
「皇神は信用ならない」
一刀両断。
あまつさえ人体実験を施し、何年も自分を追い回す相手を信じられないという少年の主張は、誰の目から見ても正しい。
「むぅ、随分と嫌われたな」
警戒心を強める少年を見て、コートの男はその場で膝をつく。
「皇神が異能者の戦闘集団を失ってから数年、異能の力で相手をねじ伏せられると思い上がった異能者が
コートの男は手を丸めて、砂利の上に拳を立てる。
「手遅れになる前に、どうか、君に異能者たちの陣頭指揮をとってもらいたい。この通りだ」
コートの男は頭を砂利に埋めた。全身が震えているのが遠目でもはっきりと分かる。コートの男が頭を下げる様を少年は濁ったガラス玉のような瞳で見下していた。
しばらくの沈黙の後、少年はようやく返事を口にする。
「何を言われようとも、皇神に戻るつもりはない。だけど、皇神が平穏を脅かさない限り、ボクから仇なすことはしない。上にそう伝えてくれ」
何度土下座されようとも、少年に行った非道の数々が消えるわけではない。崩れ去った少年の人生が戻るわけでも、好転するわけでもない。
少年はいたって冷静だ。
その土下座が男の本心でないことを看破する程に。
「ふむ、土下座ではダメか」
コートの男は何事もなかったかのように立ち上がると、コートに付いた砂埃を払う。寸前まで土下座して懇願した男の姿はそこにはなかった。絶対的な権力に
「悪いが、君をスカウトするのが私の仕事でね。またお邪魔させてもらうよ」
余裕を見せるコートの男に、少年は奥歯を噛み締めて衝動を押さえ込む。
平穏な生活を望む少年の周りを
無能力者であることを活かした無血を貫く交渉術、皇神と言う権力を振りかざすことによる少年の孤立化。反皇神組織から援助を受け、明確な害意を持って襲う敵であれば、遠慮なく力でねじ伏せてきた。だが、今までとは勝手が違う。たった一人で、害意を見せない相手と戦わなければならない。
少年は慣れない舌戦を強いられていた。
そのことを知ってか知らずか、コートの男は口端を歪め、少年に隙だらけな背中を見せる。少年は男を視界に捉えながら、ゆっくりと後退りする。
「ああ、そう言えば」
コートの男が立ち止まり、少年もまた立ち止まる。少年は微かに腰を落とし、ホルスターに手を伸ばす。コートの男が振り向き、ゆっくりと少年を指差す。
「電子の
「デタラメを……」
「
コートの男の身体が廃屋のコンクリート製の壁に飛んだ。男の後頭部を中心に壁に亀裂が走る。顔を歪める男のこめかみに銃口が突きつけられている。男の首に深く食い込んだ細い腕は少年のものだ。
少年と目が合う──それは修羅鬼神の瞳。
少年の怒髪は天を衝き、背中から蒼い稲妻が迸る。
男のこめかみに突きつけた銃口の圧が強くなる。すでに少年の指は引き金に掛かっている。
後は引き金を引くのみ。少年の目に一切の迷いはない。
そこまで気づいていながら尚、男は少年に笑ってみせる。
「そのバケモノの力で私を始末するつもりかね?仇なすことはしないのではなかったのかな?」
銃身が下がる。
少年はよろめきながら後退り、男から距離を空ける。コートの男は、「君は無関係のようだな」と肩を鳴らし、身体の汚れを払い除ける。
「観測地点は皇神が保有する発電所バベル。送電管理システムのサーバーに電子の謡精に酷似したプログラムが侵入した形跡が見つかった」
「それをボクに伝えて何のメリットがある?」
「ただの情報共有だ。あわよくば、君の信頼を勝ち取りたい打算もあった」
コートの男は襟を正し、「ああ、最後にもう一つ」と人差し指を突き立てる。
「皇神は今、赤い竜のことで生物学者をかき集めていて忙しい。残念ながら、君のようなカマッテちゃんに付き合う暇はない」
少年は言葉を失う。
少年の腕が力なく地に落ちる。銃をホルスターにしまうことも忘れ、ただ呆然と佇んでいる。
いじめっ子がいじめられっ子の夢を見るか。
少年は人体実験を施された時の悪夢を見ては、今も幻視痛に苦しんでいる。
だが、皇神が電気少年の夢を見ることはない。
首筋から嫌な汗が吹き出ていた。気づけばコートの男が少年の眼前まで迫っている。
接近を許してしまったが、身体はピクリとも動かない。
コートの男は少年の横を通り、少年の右肩を叩く。
そして、何も言わずにそのまま通り過ぎる。
勝ち誇った
すっかり日も暮れた。
遥か彼方に見える皇神グループ本社の光は、スラム街から光を奪っているかのように強くなる。あの光の一つ一つに家族を養うために連勤に明け暮れる
ごく普通の自由市場主義の姿だ。
だが、強い光の届かぬ足下で、非道な人体実験が繰り返されている。光に群がる
坊主が憎けりゃ袈裟まで憎いとはよく言うが、皇神が悪だからと言って、社員全員が悪と言うわけではない。組織に属する者のほとんどが組織の素性を知らない。
スラム街を一人歩く少年もそのことは理解していた。
だからこそ、コートの男を見過ごすしかなかった。少年の逆鱗に何度触れようとも、コートの男が悪だと断言できる証拠はない。
だが、少年の足取りは鉛のように重い。
少年の帰りをオウカが待っている。確か今晩はオムライスのはずだ。それでも、少年の足取りは依然として、重いままだ。
ポケットから小型端末のアラームが鳴る。いわゆる、スマートフォンだ。市販品と違うのは、皇神が密かに仕掛けた個人情報を抜き取るプログラムを外してある海賊品と言う点だ。
少年は端末の画面に視線を落とす。
速報の文字が走る。
皇神のバッチを胸につけた報道官が記者団の前で熱弁を振るうライブ映像が流れる。
害獣類保護法に基づき、赤い竜の殺処分が決定した。
皇神グループが主導となり、今朝、披露できなかった最新の航空機が導入されるとのことだ。反政府組織の武装飛行船を三十基連続で撃ち落とし、空の悪魔と恐れられた伝説の空軍大佐、キャプテン・コムバット氏の思考回路を再現したAIによる、完全自律式の武装航空機らしい。
航空機の名はパンジャング・D。Dは大空に勇猛果敢に轟くドラムの音を冠する。
「我ら皇神のキャプコムが操るパンジャング・D!空の悪魔が現代に蘇る瞬間を、竜殺しとしてミームに語り継がれる偉大なパイロットの復刻を、とくとご覧に入れましょう」
どこか酔いしれた報道官の
画面を凝視する少年の頭上、何もない空間にヒビが入る。
そこに仄暗い渦が現れ、渦の奥から少女が飛び出した。
「うわっ!」
真上に突如現れた少女が、そのまま少年に向かって落下する。真下を歩いていた少年は避けきれず、空から降ってきた少女に押し潰される。
「いたた……」
頭を擦って辺りを見渡す少女を少年は下から眺めていた。
二本の角のような髪留めから伸びる桃色のショートヘアが揺れ、エメラルドの瞳が白黒と目まぐるしく反転する。困惑させしながら辺りを見渡すその顔は凛々しい。引き締まった身体を包む黄色の軽装とホットパンツの境にできたくびれに、一本の太刀を引っさげている。
さながら女子高生サムライと言った風貌の少女の下敷きになっていた少年が、「き、君は一体?」と声を上げる。
ようやく気づいた少女は少年を見下ろす。
そして、動きが止まる。
「GV……」
少年に馬乗りになっている少女は、とうとう固まってしまった。次に少年が声をかけようとした瞬間、少女の瞳から真珠のような丸く大粒の涙が溢れた。
「ご、ごめんなさい!涙が……ぐすっ……止まらなくて」
少女の指の隙間からボロボロと零れ落ちる涙を、少年は静かに受け止めるしかなかった。
小話
一話目のタイトルは、主人公のカラーにちなんだ青と赤のクエスト名をモチーフにしようと思いましたが、MH4のクエスト「赤き王と蒼き王」しかありませんでした。GVの青と色が違うと言う理由で断念。MHで青と言えばMH3Gのクエスト「青と白の挽歌」しかなく、ドスバギィとリオレウス……とインパクトがないので、これも断念しました。
追記…蒼きでしたね……コレは確認不足でした……まあ、王はネタバレだから仕方ないね