蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER   作:kocolokoro

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蒼き雷霆ガンヴォルトとモンスターハンターの二次創作です


第二十二話 桜と蒼がもたらす悲哀

 パソコンから鳴り続ける八ビットの曲がループを始め、ひときわノイズが激しくなる。存在を主張するかのように騒ぐパソコンに目を向ける者はもういない。

「心当たりって何よ?」

 座ったままのきりんが席から離れ、腰を叩き目を揉み解す。

「ガンヴォルト、テセオは覚えているか?」

 アキュラの問いに少年が頷く。

 多国籍能力者連合エデン、皇神(スメラギ)より遥かに先鋭された非能力者排斥主義を謳い、世界の社会構造そのものを変革しようとした国際テロリスト組織。そのメンバーの一人こそが、境界線上の電脳王(シリアルエクスペリメント)、テセオ。

 少年も顔を合わせており、鼻につくネットスラングを多用する男と記憶している。彼の本拠地で少年は顔を合わせなかったが、代わりにアキュラと対峙していたことを少年は初めて知る。

「今際の際に、奴は二つのデータをロロに送った」

「レディのアクセスコードを勝手に覗き見るなんて、ホント失礼なヤツだよ!」

 空を漂うRoRoが機体のラインを赤く発光させ、怒りを表現する。そのままリビングの暖炉に降り立ち、視界ゴーグルから青色の光を放つと、テーブルの真上にホログラム映像が投影される。宙を浮かぶ映像の数々に、青年が一人興奮し、テーブルから身を乗り出してはホログラムに手を伸ばす。指をすり抜けるホログラムに、青年と篇算者(へんざんしゃ)が揃って感嘆の声を上げる。

「一つ目がデデ砂漠の名だ」

 ホログラムに映し出された膨大な数字の羅列、RSA暗号が一気に解読され、デデ砂漠の名が表示される。

「詳細は書かれていなかったが、結果は知っての通りだ」

 アキュラは大団長をチラリと見やり、少年を見つめる。

「それで、あの砂漠にいた訳だ。二つ目は?」

 少年が早口でまくし立てる。

 テセオの遺した暗号は皇神の施設を示していた。残る一つも皇神に関係するもの、ましてや、平穏を脅かす物ならば速やかに破壊せねばならないと意気込む。

 

 【悲報】皇神さん、懲りもせずザ〜コザ〜コ♡新兵器作ってんですケドwww【N55E128】

 

 急に口調を変えて喋るRoRoに、「どうしたのよ……」ときりんが冷めた視線を送る。「音声データが送られたんだよ!原文ママだよ!」と雌ガキボイスまでしっかり読み上げたRoRoが慌てて正当化する。

「エヌ55イー128って……」

 最初に声を上げたのは篇算者だ。

 篇算者はテーブルのパソコンに近寄り、ブルーバックに記された英数字を指差すと、アキュラがゆっくりと頷く。

「北緯55度、東経128度。場所はシベリア、アムール州」

 人一倍薄着なきりんが「寒そう……」とボヤき、「降雪のシーズンは明けましたので。安心してください」とノワが微笑んできりんの肩を叩く。きりんの向かい側にいた大団長が、「つまりだ……」と頭を掻きながら立ち上がる。

「そこに手がかりがあるんだろ?善は急げ、すぐに出発しよう」

「皇神が造った兵器がある。ネットに情報が出回っている」

 アキュラが大団長のやる気を削ぐようにピシャリと言い放つ。閉塞感を抜け出せたと思った矢先に出鼻をくじかれ、大団長は眉間に深いシワを寄せて頬を掻く。

「どんな兵器ですか?」

 オウカが尋ねると、「分からないか?」と尋ね返される。純真に首を振るオウカに、アキュラが言葉を続ける。

「ネットに皇神の機密情報が転がっていたんだぞ?」

「明らかに罠だ」

 アキュラの後に少年が続く。

「恐らく、反乱分子を誘い出すための罠だ。もしも事実なら、反乱分子にとって危険因子になる。寄越した人を捕らえて反乱分子の情報を聞き出すつもりだろう……けど……」

 少年は言葉を詰まらせる。

 世界有数の大企業、皇神グループの兵器の情報が誰でも検索できるネットの海に転がっているはずはない。そして、たとえそれが嘘と分かっていても、フェザーを初めとする反乱軍は真偽の確認に奔走しなくてはならない。

「そんな見え透いた罠に人を派遣する?精々、金で雇った地元住民を見に行かせるくらいじゃない?」

 少年が感じた違和感をきりんが代弁する。

 あまりにも露骨な罠を前に、大っぴらに動く反乱軍はない。精々、足がつかないように一般人を遣うだけだ。怪し過ぎる情報を流して反乱軍が釣れるはずがない──皇神もそれは理解しているはずだ。

「だからこそ、オレも避けていた」

 皇神らしくない杜撰(ずさん)な手口だとアキュラが評する。

 少年は口元を押さえ、更に思考を巡らせる。

 二つの情報を与えられたにも関わらず、アキュラが明らかにそれだけを避けている。データの形態も疑わしく、片方は解読に時間を要する暗号で、もう片方は本人の肉声だ。テセオの性格からして、罠に引っかかるマヌケ面を拝みたいと言う魂胆が見え透いている。

「行こうぜ!」

 少年の思考を大団長が遮る。

「身体がなまっちまってな」

 肩を回して少年に歩み寄り、謀略の笑みを浮かべる。

「俺たちなら地元住民で通る……だろ?」

「いや、他所から来た蛮族の民でしょ」

 きりんから冷徹に指摘され、大団長が笑い飛ばす。

 筋骨隆々の大団長、未知の言葉を話す野生児のような青年と探索に特化した装備を纏う篇算者は地元住民と言うより、遠方から来たフィールドワーカーと言った趣だ。

「フィールドワーカーか……悪くないかな」

 少年が一人呟く。

 降雪シーズンが終わり、タイガの生態調査をする研究者の一団が来訪した──少年の中で違和感のない筋書きが固まりつつあった。

「雪はないみたいだし、アタシはオッケーよ」

 悩む少年にきりんが声をかける。

 待って得られる情報、ましてや、皇神から与えられた情報に価値を見出す者は、この場にはいなかった。

 

 ──ただ一人を除いて。

 

「私は反対です」

 オウカが怒りと心配を帯びた声を上げる。

「二人とも怪我されているんですよ!しかも、今までにない酷い怪我で。なのに、また危ない所に飛び込むのですか!」

 テーブルを叩くオウカを、少年は「落ち着いて」と(なだ)め、そのままリビングから連れ出す。

「ボクは大丈夫だよ」

 リビングを出て開口一番、少年はいつもの返事を返す。

「いつも……いつもいつも……そう言って!大丈夫だった試しがないじゃない!」

 膨れ上がった心配を一気に吐き出すオウカに、「オウカ、本当に大丈夫だよ」と少年がオウム返しする。慌てて背中越しに扉を閉める少年の隙を見て、オウカは少年の右肩を握り締める。

 迸る激痛に少年は顔を歪ませた。

「大丈夫じゃない」

 オウカの翡翠色の瞳が少年の蒼い瞳を捕える。逃げようにも逃げられず、少年は視線を左上に逸らす。

「ほら、今度は戦わないから……」

「皇神とエデンの罠に飛び込むのに?」

 少年の言い訳に、「嘘つかないで」とオウカが釘を刺す。

「たまには自分のことを労ってあげて」

 オウカが休むように促す。

 それは少年に染み付いた自己犠牲の嫌いを想ってのことだ。傭兵時代の教育の賜物であり、その自己犠牲が悪用されることもあった。

 だが、少年を利用してきた今までの狡猾な敵とは違う。

 暴力を振るう怪物(モンスター)に命乞いは通じない。

「ごめん、オウカ……」

 肩に乗せたオウカの手を振り払い、「確かめたいことがあるんだ」と呟く。

「確かめたいことって?」

 オウカが一歩詰め寄り、少年をリビングの扉に追い詰める。

 真直ぐ見つめる瞳に、少年は逃げることもままならず、言葉を詰まらせる。

「また、言えないの?」

 オウカの口振りに確信がにじみ出ていた。

 砂漠で電子の謡精に関係する何かが少年の身に起きた。少年が言葉を濁す時は決まってカノジョが関係している。目にクマができた時もそうだし、突然発電所に行くと言い出した時もそうだったに違いない。

「何かあったなら、言って。私にも手伝えるかもしれない」

 少年の口から、本音を伝えてほしいとオウカは願う。

 だが、弱音を吐かないだろうとオウカは心の何処かで諦めていた。少年なりの気遣いの返事が来ると諦めている。

 だが、独りで苦しみを抱え込んだ先に待つのは破滅の道だ。

 

 ──破滅に向かう少年を見殺しにはしたくない。

 

 オウカは唇を閉ざして、少年の返事を待つ。

「何もないよ、オウカ」

 少年は固辞する。

 予想通りだ。

 覚悟がにじみ出た、達観したかのような物言いだ。

「いつもそう言って……」

 オウカが少年の胸を叩く。

 決して響くことはないと分かっている。それでも、(すが)るように何度も少年の胸を叩き続ける。

 

「私がモルフォだったら、打ち明けましたか?」

 

 胸の内に押さえ込もうとしてきた嫉妬が無意識にこぼれ、オウカは咄嗟に口を押さえる。

「オウカ。そんなことは……」

 声を詰まらせる少年の瞳をオウカは覗き込む。

 哀しみに満ちた瞳の奥に願いと言う異物が混じっていた。オウカは喪失から立ち直っていない少年の瞳の奥に、少年の心の傷を癒やせない自身の実像がはっきりと映し出される。

 

 ──おこがましい。

 

 ノワの愚痴が脳裏をよぎる。

 誰かの代わりになれることはないのに、心にドス黒い(もや)が広がるような感覚に陥っている。

 それが嫉妬であることはすでに知っている。

 そして、それは決して少年にだけは決して打ち明けてはならない、パンドラの箱の如く固く閉ざしておくべき呪物であるとも知っている。

「……すみません。ちょっと風に当たってきます」

 オウカは玄関に向かい外に飛び出す。

 未だに冷たい外の空気を吸い込むも、心を荒らすさざ波が収まる気配はない。

 三人が揃っていた懐かしい日々、色褪せることなく輝き続けるべき思い出が嫉妬に代わって良いはずがない。

 オウカは何度も自身を戒め、咎める。

 心の中で唱えた自戒の言葉がせき止められた水のように止め処なく口から漏れ出し、やがて嗚咽となって寒空に流れた。

 


 

 リビングの扉が開かれる。

 一人帰ってきた少年に何かを察したのか、「良いんですか……」と篇算者が尋ねる。

「大丈夫だよ」

 少年は笑顔で悲しみを覆い隠す。

「それで、ここをどう出る?」

 静まり返ったリビングを活気づけようとして少年の声が微かに上ずる。不穏な気配を察した篇算者がオロオロと辺りを見渡すと、ノワと視線が合う。ノワは堪らず舌打ちし、暖炉の隣に近づいた。

 ノワが暖炉の淵を三三七拍子でノックする。

 暖炉を叩き続けるノワに、「ドゥヤ?」と青年が首を傾げると、暖炉が音もなく横に移動する。暖炉の裏から抜け穴が現れ、青年が口笛を鳴らす。

「ここから三キロ離れた納屋に続いています」

 秘密の裏口に、「見張りは巻けそうね」ときりんが頷く。

「あの……オウカのことは……」

 おずおずと尋ねる少年に、「面倒は見ますよ」とノワが冷めた視線を向けながら渋々と承諾する。

「ノワ。次の合流地点だが……」

 アキュラに呼ばれたノワが少年から離れ、異世界の三人が我先にと抜け道の奥へ進む。一人残された少年に、「GV」ときりんが声をかける。

「本当に良かったわけ?」

 少年は天井のシャンデリアを見上げ、ぎこちなく頷く。

「オウカは僕とは住む世界が違う。そろそろ離れようと思ってた頃だった」

「GV。独りで勝手に決めるのは卑怯じゃない?」

 孤独を生きてきた少年は他者を理解した気になっている、いや、理解を放棄している。少年の悪癖を指摘するきりんに、「良いんだよ」と投げやりな返事を続ける。

「お互い前に進まないと行けないんだ」

「別れたら、オウカは前に進めるわけ?」

 少年が言葉を詰まらせる。

 きりんが問い正しているのは少年の網膜に映るオウカの気持ちではなく、実在する本人の偽りない気持ちだ。

「ちゃんと話した方が良い」

「もう話したよ」

 キリンの言葉を遮り、少年は仄暗い抜け穴に突き進む。

 カノジョの喪失感は何時までも少年にまとわり続ける。それは一度ついたシミのように剥がれることなく、少年の視界を絶えず曇らせる。

 (かすみ)の中に浮かぶカノジョの顔はすでに朧気だ。

 少年はカノジョを求めて、無意識に抜け穴を歩き続けた。

 




小話
 タイトルもネタ切れすることなく続けているが、今回の元ネタである金銀夫妻は私の腕では倒せる気配がしません。
 MH4でさらなる強化を受けて、この二頭は特に年々強くなりすぎではと実感してしまいますね。
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