蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER   作:kocolokoro

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蒼き雷霆ガンヴォルトとモンスターハンターの二次創作です


第二十三話 異常震域に咲く六花

 飛行機を乗り継ぐこと丸一日、少年は日本に未練を残し、春を迎えた北国に向かった。タラップ車の階段を下りると猛吹雪が少年たちを出迎えた。

「ムリムリムリ!」

 きりんが思わずシャトルバスの奥へ我先に乗り込む。だが、ハバロフスクの寒波はバスの奥まで吹き付ける。乗り合わせた乗客もひたすら身体を震わせ、やっとの思いで空港に逃げ込んだが、冷気は何処までも追いかけてくる。

「雪は終わったんじゃないの」

 入国審査の列には石油ストーブが並び、薄手のコートを着た旅行客が暖を取る。受付近くにしか設置されておらず、行列はいつもより間隔が狭くなる。

「じゃあ、皆。手筈通りに」

 少年が異界の住人にパスポートを手渡す。

 ノワが手配した六人分の偽造パスポート、入手経路は不明だが、アキュラ曰く「安全」らしい。フィールドワーク用の望遠鏡の中に銃器を隠し、出国前の手荷物検査とゲートは難なく突破できたが、入国審査は一筋縄ではいかない。

 機械ではなく、人が判断するからだ。

 少しでも怪しまれたら、事務所に連れられて偽造パスポートも見抜かれてしまう。

 特に、こちらの言語を未だに話せない青年の指導は難航を極めた。狩りの腕は一流でも他は駄目らしく、三人で考えた問答集をフライト中に詰め込む羽目になった。

 列に並んだ少年が青年を見やる。

 隣の列に流れたきりんと目が合う。アキュラも篇算者(へんざんしゃ)も、大団長すらも青年の様子を心配そうに見ている。

 青年は緊張した面持ちで身体を揺らし、明らかに悪目立ちしていた。幸いなことは、審査官にはまだ気づかれていないことと、背後にアキュラが付いていることだ。青年のフォローを押し付けられたアキュラの恨みの視線から目を逸らし、少年は入国審査に臨む。

「アンタ、学者さん?」

 職員の男がパスポートと少年を交互に見やる。

 学者と偽るには年季が足りないかと危惧し、「この寒さは?」と少年は話題を逸らす。職員はパスポートを手渡し、「残念だったね」とロシア語で返答する。

「今、アムール川が凍るほどの季節外れの大寒波が到来してね。明日、当局(モスクワ)から公式に発表されるはずさ」

 穏やかな口調に変わり、少年は胸を撫で下ろすも、職員の言葉に首を傾げる。永久凍土が広がるツンドラ地帯から遥か南の地は、すでに春を迎えているはずだ。

「それで?どこに立ち寄る予定で?」

「ゼヤ湖に行こうと……」

 目的地に偽りはない。

 唯一の手がかりである座標は、ちょうどこの辺りを示している。空港から車か鉄道で半日移動した場所にあり、きりんは「シベリア鉄道に乗りたい」と所望している。

 少年が目的地を告げると、職員は徐ろに辺りを見渡す。余計なことを口走ったかと少年は身構えたが、程なくして職員は声を落として少年に「止めとけ」と警告する。

「噂じゃあ、生き物が一匹もいなくなったって話だ」

 

 ──生き物が忽然と姿を消した。

 

「そ、そうですか。考えておきます」

 怪奇現象じみた話に、少年はゴシップ好きな人だと高を括る。少年の軽々しい口ぶりから忠告を聞いていないと悟り、「神のご加護があらんことを」と職員は早々に別れの挨拶を切り出した。

 ゲートを抜けると、免税店にコートの売り場が特設されていた。季節外れの大寒波を前に旅行客が毛皮を求め、少年たちも群がりに飛び込む。日本で換金したわずかな路銀は一瞬にして暖房着に成り果てる。上着を着終えた頃、青年とアキュラがようやく追いついた。青年の後処理をしたアキュラから恨めしげに睨まれ、少年はだんまりを決め込む。

 空港からはシベリア鉄道の旅路となった。

 列車のコンパートメント二部屋分は金がかかり、財布はすでにカツカツだ。

「鉄道ってのはどう動くんだ?」

 大団長が車窓の雪景色を眺めながら少年に尋ねる。

 異界の住人たちは機関車に興味を示し、しつこくその仕組みを尋ねてきた。機関車はすでに旧時代の産物で、観光用にわずか数台しか動いていない骨董品だ。わずかに残されたネットの検索結果を伝えると、「移動式兵器(バリスタ)の大きいやつですね」と篇算者がスケッチブックに書き記す。

「随分と熱心なことね」

 きりんが篇算者のスケッチブックを覗き込む。

 今までの出来事やデデ砂漠の風景、最新の家具まで描かれており、びっしりとメモが書き記されている。

「ドンドルマのギルドに見てモラオウかなと」

「鉄道に土地開発は必要だぞ。自然との共存はどうした?」

 アキュラが意気込む篇算者の出鼻を挫く。

「やっぱりソウ思いますよね。便利ですけどねぇ……」

 アキュラの指摘に篇算者は頭を掻き、描いた機関車の画を尽く真っ黒に塗りつぶす。

 皇神(スメラギ)の罠に飛び込むとは思えないほど平穏な旅路だった。

 互いの世界の話を語り合いながら、夜が更け、いつしか朝が訪れる。大雪で丸一日遅れて最寄り駅に辿り着き、ここからは車しか道がない。

「他を当たってくれよ」

 タクシーを尋ねて回るも、生物が姿を消したと噂の異常震域に送迎してくれる好奇者はいなかった。半ば強引に捕まえたトラックに半日相乗りし、少年たちはようやく目的地に辿り着いた。

 実に三日に渡る長旅だった。

「悪いことは言わねぇ、早く離れろよ」

 トラック運転手の憂慮の声が遠ざかる。

 少年たちが手を振って別れを済ませ背後を振り返ると、一面に樹氷が広がっている。足首まで迫る豪雪が降り注ぐが、前方の視界はかろうじて保たれていた。

「偵察だけだから、早く済ませましょう」

 雪の上に荷物のスーツケースを広げると、中からRoRoが飛び出す。

「スーツケースって……こんな乱暴に扱われるんだね」

「すまないな、ロロ」

 スーツケースに身を隠していたRoRoが愚痴をこぼす側で、各々が武器を取り出す。ダミーの望遠鏡が解体され、ゴミとなってスーツケースに押し込まれる。

「じゃあ、ちょっと行ってきまーす」

「気をつけろ」

 アキュラの言葉を受けてRoRoが偵察機となって森の中を飛び回る。道中で噂されていた通り、森に生き物の姿はない。雪の中を駆け回る鹿、故郷に舞い戻った渡り鳥の影すら見当たらない。

 静かな森に地元住民でさえも不気味がって近寄らない。

「おかしいなぁ……」

 RoRoは赤外線スコープに視点を切り替える。

 赤く光る熱源に生き物がいるはずだが、青と緑の低温の視界だけが広がる。何処にも生物がいないと驚きながら、RoRoは自身の機体から電磁波センサーを展開する。

「あれ?電波が遮断されてる?」

 通信機に用いられる電波がシャットアウトされている。季節外れの寒波はともかく、衛星からの電波すら届かないのは自然現象の類ではない。

「アキュラ君に連絡しなきゃ」

 異常を伝えようと内蔵された無線の周波数を上げていく。広域周波数は軒並みノイズが入り、使い物にならない。徐々に高周波数領域に寄せれば、電波がアキュラの所まで届かない。

 

 ・・・ --- ・・・

 

「うわ、何!」

 連絡手段に悩んでいる所に、突然モールス信号が送られる。

 

 ・・・ --- ・・・

 

 雪しか見えない景色からSOSのモールス信号が送られる。

「意識のある人が発信機で助けを求めているってこと……」

 RoRoは再び赤外線カメラに切り替える。人の気配もないし、信号を発信する機械も見当たらない。悩んだ末にRoRoはアキュラの所へ引き返すことにした。

「アキュラくーん!」

 戻って来たRoRoが異変をアキュラに伝えると、「引き返すか?」とアキュラが少年に尋ねる。

 普段なら、警察を呼んで救助に向かう場面だ。

 だが、これは皇神の罠。

 モールス信号を受けて森に入った者を手ぐすねを引いて待ち構えている何者かの姿が容易に想像できる。

「高周波数領域だけにモールス信号を送るかな……」

 不自然な点に少年は口を抑えて考え込む。

 人を誘き寄せるなら狼煙を上げれば良いし、信号を誰もが受信できる広域周波数で流した方が効率的だ。

「皇神が自分で電磁パルス発生装置を仕掛けて、広域周波数を使えなくして、高周波数帯の電波で発信するって……あり得ないでしょ」

 皇神の自作自演だとしても回りくどいときりんが指摘する

「ジャア、本当に誰かが助けを求めているとか……」

 篇算者の顔が一気に青ざめる。

 ありえない話ではないと少年は思考を巡らす。うつ伏せで雪に埋もれて声も出せず、かじかむ指先で小型通信機のボタンを押すしかできない。そんな窮地に晒されているかもしれない。

 

 ──オウカなら止めるだろうか。

 

 突如よぎった思考に少年は首を横に振る。

「俺たちだけで行こう」

 悩む少年を前に大団長が申し出ると、「収穫無しってのも寂しいだろ」と付け加える。 

 森の前に留まっても事態は何一つ変わらないし、三日の長旅を手ぶらで終わらせるのは惜しい。大団長の指摘に青年も「ディヤ」と頷き、少年の心を揺り動かす。

「電波が通じないんだ。連絡はどうするつもりだ?」

 アキュラが懸念を口にする。

 見通しの悪い雪の森、しかも怪奇現象が起きている森に飛び込むのはあまりにも危険だ。篇算者はポーチを漁ると、桃色のボールと小さな筒を取り出す。

「コチラはペイントボール、これは救難信号筒です」

 篇算者は桃色のペイントボールを近くの木に投げつける。

 ネンチャク草で編んだ粘土状のボールが破裂し、桃色の汁が飛び散り、強烈な臭気が辺りに広がる。

「何かあれば救難信号を空に打ち上げますノデ、臭いを追ってください」

 嗅ぎ慣れない異臭に少年たちが咳込む中、異界の住人たちは平然としていた。少年たちはようやく呼吸を整え、「分かった」と頷く。

「だけど、何かあったらまずは逃げてほしい」

「おう、分かった!」

「アディヤ!」

 少年の気遣いに大団長と青年が元気良く答え、篇算者と共に森に踏み入る。

 森の奥へ進む三人の背中がやがて雪に紛れる。三人を見送ったアキュラが「どう思う?」と疑問をこぼす。

「皇神だけじゃない気がする」

 少年の言葉に、「どういうこと?」ときりんが首を傾げる。

「生き物がいない、電波が通じない。両方とも皇神の仕業じゃなくて、皇神と別の誰かが仕掛けた物じゃないかな?」

 両方の現象が皇神一つの仕業ではなく、別々に元凶が潜んでいると主張する少年に、「ガンヴォルト」とアキュラが苦言を呈する。

「生き物を追い払うことへの対抗手段が、電波障害になるか?」

 アキュラの核心を突く指摘に少年が声を詰まらせる。異常に紛れたチグハグ感が少年の思考を鈍らせていた。

 首を傾げていると、突然、空が明るくなる。

「信号灯よ!」

 空に上がった赤い光をきりんが指差す。三人は各々の武器を検めると、粉雪が舞い始めた森に足を踏み入れた。

 ペイントボールの異臭が仄かに漂う森の中は人の気配はない。少年が辺りに電磁結界(カゲロウ)を張り巡らせ、機械の有無を調べる。微かな電場の変化を目を瞑って探してみるも、機械は何処にもない。

「もしかしたら、電磁パルス発生装置は森の外にあるかも」

 少年がそう結論づけると、森の中が吹雪き始める。少しずつ視界が悪くなる中、「急いだ方が良い」とアキュラが早足で雪を蹴り上げる。

「ヒィディーヤ!」

 青年の声が森に木霊する。

 位置を知らせる愚行に、「あの莫迦!」とアキュラが愚痴り三人はペイントボールの臭いを追う。合流を急ぐ内に真っ白な視界にコートを振り回す人影が三人の前に現れる。

 青年がコートを振り回し、場所を知らせていた。

 狙ってくださいと言わんばかりの警戒心のなさに、「ちょっと」と少年が声を荒げる。

「ここは危険だから!」

 コートを振る青年の手を掴み止めさせる。眉をひそめじっと睨む少年を見て、青年が大団長に視線を送る。

「まぁまぁ、()()()の心配は要らなくなったはずだ」

 歩み寄った大団長が少年の頭を撫でる。

「そっち?」

 大団長は森の奥を指差し、「あれが見えるか?」と三人に改まって向き直る。

 白銀の森の奥に薄っすらと土色の壁が見える。近くの山の崖だろうと目を凝らすと、その土色に銀色が混じっている。

 それは人工的な鉄の扉だ。

 デデ砂漠と同じ、自然の中に隠すように建造された人工物──皇神の物と決めつけるのに時間はかからなかった。

「問題はこいつだ」

 大団長が背後に広がる雪原を指差す。

 大きな針葉樹に混じって小さな樹氷がいくつも立っている。側で観察する篇算者と同じ背丈くらいで、若木が密集している。

「見解を聞きたい」

「見解って……ただの樹でしょ」

 きりんが歩み寄り、篇算者の側にある樹氷を調べる。

 

 ──二つの枝が生え、胴体から根が二つに別れている。

 

 樹ではない。

「これってまさか……人間」

 きりんが思わず飛び退く。

「全部、身体の中から氷漬けにされているな」

 アキュラが見渡した雪原に佇む樹氷のようなものは身体の芯から凍らされた人間だ。全身氷漬けにされた人間に少年が近づき、付着した霜を振り払う。

「皇神の兵士だ」

 現れたロゴに少年が驚声を上げる。

「何処かで見たことがあると思っていたが、やはりな」

 大団長が頻りに頷き、雪原で凍りついた皇神の兵士を見て回る三人に声をかける。

「こっちの世界に、こういう現象はあるか?」

 人間の身体の内部から凍結する現象を尋ねられ、三人が互いに顔を見合わせる。

 ──絶冷剣(フローズンソード)テンジアン。

 エデンのリーダー格の男の名を、少年とアキュラの二人が同時に思い至ったらしく、揃って首を横に振る。原子を絶対零度以下まで凍らせる超常の力を持つ者はすでにこの世にはいない。死闘の果てに少年の雷撃が身体を貫き、無能力者排斥に向けた情熱の(ほむら)は消えたはずだ。

「よし、今すぐ撤退だ」

 大団長の掛け声で、篇算者と青年が慌ただしく駆け寄る。

「撤退って……どういうこと?」

 突如動き始めた三人に戸惑うきりんの頭上から、「アキュラ君!」とRoRoが悲鳴を上げる。

「生体反応あり!こっちに来るよ!」

 その刹那、雪原を黒い影が覆う。

 巨体が降り立ち、巻き上がった雪が兵士の氷像を吹き飛ばす。

 縞模様の鱗に、寒空に伸びる二つの翼爪を持つ竜がこちらを睨む。粉雪に塗れた青と茶色の鱗を持つ竜は何かに気づいたかのように少年達に敵意を向ける。

 目に傷を負った轟竜、ティガレックス。

「あの時のティガレックス!」

 リオレウスの巣に乱入したティガレックスは、あの日の惜敗を決して忘れてはいない。その時にいた小さな乱入者を前に、鼻息を鳴らし、皮膚に赤色の血管を浮かび上がらせる。

「追いかけてくるなんてしつこ過ぎない?」

 砂漠から凍土まで広い生息域を誇る絶対強者が首をもたげ威嚇する。少年たちも負けじと武器を握りしめ、戦闘に身構える。

 

 風もない、雪もない──決闘の前のような静けさだ。

 

 違和感に気づいたティガレックスが背後を振り返る。

「雪が止んだ?」

 少年が違和感を口にした瞬間、再び豪雪が吹き荒れる。

 ティガレックスが向いた先から吹雪が流れ、乱気流で舞い上がった冰雪(ひょうせつ)の奥に影が揺らめく。

 ティガレックスが影に向かって駆ける。

 影はゆっくりと大きくなる。

 ティガレックスの攻撃すら意に返さず、優雅な立ち振舞いを見せる影から冷気の奔流が放たれる。その冷気はたちまちティガレックスの身体を包み、悲鳴すら許さぬままその巨体を内側から冰りつかせる。

 ティガレックスの身体が氷像に成り果てる。

 吹雪を放つ冰雪が吹き飛び、ティガレックスの氷像が針葉樹をなぎ倒しながら転がっていく。

 冰雪が舞い散り、銀盤の貴人が顕現する。

 

 開かれし六花の御簾

 尊顔を拝まんとする痴れ者に

 壮麗に怒れるは、凍て地の君

 冰龍、イヴェルカーナ




小話
 コンパクトにしたいが、一話がだんだん長くなってきました。
 ホットドリンクも忘れる雪原編ですが、割とリアル寄りな土地を出してみました。
 本編ではシベリア航空のルートで行ってますが、アムール川に行くだけなら中国から北上した方が近いかもしれないですね。
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