蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER   作:kocolokoro

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蒼き雷霆ガンヴォルトとモンスターハンターの二次創作です


第二十四話 冰雪の貴人と偽りの姫君

 青銀色(あおみづがね)に包まれた冷気の古龍、イヴェルカーナを前にして、「やはりな」と大団長が不遜の笑みを浮かべる。

「もしかして、すごく怒ってる?」

 イヴェルカーナが喉を鳴らす。

 全身に冰りの鎧を纏い、頭から伸びる冠角(うかく)から放たれる冷気が寒波を呼び寄せているかのようだ。しなやかに伸びる四肢にこびりついた煤の上から冰露を纏わせ、皇神(スメラギ)の兵士が必死の覚悟で付けた汚れを呆気なく覆い隠す。

「おい、こいつは?」

 アキュラが篇算者(へんざんしゃ)に説明を求める。

 寒さだけでは説明のつかない震えが全身を捕えていた。今までの竜とは異質な上位存在を前に屈服してしまわないよう戦意を保つだけで手一杯だ。

「古龍種、冰龍、イヴェルカーナ」

 篇算者が単語だけを繋げて必死に返答する。

 異界の住人ですら畏怖する怪物に、アキュラは正気を保たんと唇を噛む。目の前で翼を振るい、冷気を振り撒く蒼白の龍の隙を伺うが、凛然と佇む姿に慢心の気はない。

「大団長、撤退しましょう」

 篇算者が静かに大団長の背中に回り込み、耳打ちする。頷いた大団長は、辺りを見渡すイヴェルカーナに視線を戻す。

 雪塊の割れる音が無人の森にこだまする。

 冰塊が何の予兆もなく大地から伸びる。刃物のように鋭く伸びた冰塊が大きく囲み、少年たちの退路を塞ぐ。

「イヴェルカーナ」

 大団長がポツリと呟く。

「お前は一体、どこを見ている?」

 イヴェルカーナが攻撃を仕掛ける気配はない。

 むしろ、遠方ばかりに視線を送っている。

 皇神の兵士を凍らせた龍に、「人間は敵」と言う認識は固まっているはずだが、今にも襲ってきそうな少年たちに目配せすらしない。

「なぁ、ボウズ」

 大団長が少年に声をかけ、イヴェルカーナの視線を追う。

「あの先には何がある?」

 後ろに下がりながら大団長の隣に立った少年が、大団長が指差す背後、イヴェルカーナの視線の終着点を見つめる。

 崖下に建造された鉄の扉──皇神の物と思しき建造物だ。

「俺たちの世界には関係のないモノか?」

「分からない」

 戸惑いながら答える少年に、「うむ」と応え顎髭をさする。

 皇神と言う施設にあるモノ、それは決して異界の住人が関わるべき話ではない。異界の住人の目的はゲートを探し出し、この世界にはびこる怪物を帰すことだけで、こちらの世界への干渉は控えるべきだ。

 思案を終えた大団長は前方のイヴェルカーナと隣の少年を交互に見やる。大団長は少年の頭を撫で、少年の前へ歩み出る。

「イヴェルカーナは俺たちが引き受ける」

 大団長が下した決断に、「駄目だ!」と少年が叫ぶ。

 側に近寄る人間に気づいたイヴェルカーナがついに視線を落とす。肩を回して素手で挑まんとする人間を前に、イヴェルカーナはその尾先を凍らせ、氷槍を研ぎ澄ます。

「戦った経験は多少ある。足止めくらいならしてやるさ」

 青年が大団長の側に駆け寄り、貧相な矢を取り出す。異界で揃えた矢はすでに底を尽き、砂漠で集めた石を磨いただけの矢を古龍に向ける。

「オッケー」

 青年が手で輪を作り、唯一覚えた言葉を少年に贈る。

 石弓が古龍の鱗を砕くことは叶わない。自明の理に逆らう青年の肩をきりんが引張り、「無茶よ」と首を横に振る。

 青年が後ろを振り返る。

 口を真一文字に絞り肩を握る力を強めるきりんに、青年はとびきりの笑顔を向ける。

「トーダヴィア、イテント、モンスターハンター」

 

 ──それでも、挑むのがモンスターハンター。

 

 青年はきりんの手を振り解き、古龍に相対する。

 強大なモンスターが跋扈する世界で、理不尽を体現したモンスターの脅威に怯えながら人は暮らしていた。そこに指す一筋の光こそがココットの英雄譚に始まるモンスターハンターだ。

 人はハンターに希望を見出した。

 雪山の最奥で封印から解き放たれた白き神、地鳴りを起こす荒れる海の神、山岳を漆黒に染め上げる光と闇の化神──怪物を討伐した英雄譚が語り継がれる度に、人は祝杯を上げ、大自然への賛美歌を歌う。

 青年もまた、英雄譚に憧れるハンターの一人だ。

 この世界は第七波動(セブンズスフォニム)と言う力に抗うことを諦めた世界、あちらの世界はモンスターと言う力に挑む世界だ。常識の違いに困惑するきりんの前に立った青年は、古龍に相対できる奇跡に感謝し、弓を引き絞る。

 戦意を察したイヴェルカーナが上体を起こして吠える。

 虚空から白百合を思わせる冰塊が現れ、辺り一面に降り注ぐ。冰塊を走って避け、青年がイヴェルカーナの側面に回り込む。

「行こう!」

 戦いの火蓋が切って落とされた。

 少年が森の奥へ進むよう促すも、「でも……」ときりんが足を止める。篇算者がスリンガーで雪玉を投げて応戦し、真正面から突撃した大団長が冰壁に阻まれ弾き飛ばされる。

 戦況は芳しくない、むしろ、助太刀に入るべきだ。

「アイツらが決意したことだ」

 アキュラがきりんの思考を否定する。

「それにだ……」

 立ち上がる大団長をイヴェルカーナはじっと見つめる。横腹から飛んでくる石弓を翼を振るってあしらい、大団長が体勢を立て直すのを待っている。

「恐らく、あの龍には戦う意志がない」

 格好の的を逃すほど自然は優しくない。

 倒れる大団長に追撃する時間を無碍にするイヴェルカーナの所作は優雅と呼ぶより緩慢と形容すべきだ。

「じゃあ、どうして……」

 アキュラは首を横に振る。 

「あの扉の先に何かがある」

 導かれるように辿り着いた先に何もないはずがない。

 確信のない自信に満ちた瞳で少年は皇神の鉄扉を見つめる。少年とアキュラが駆け出し、「早く行こうよ」とRoRoが立ち止まるきりんに発破をかける。

 きりんは雪に埋まった足を上げて一歩を踏み出すも、次の一歩が出ない。憶測で動いて仲間を見捨てるわけにはいかない。

 きりんは足を止めて背後を振り向いた。

 イヴェルカーナの蒼白の瞳と目が合う。

 走り出した少年たちの背中をイヴェルカーナはじっと見つめていた。足下で抵抗する青年達の対処を片手間に少年たちの動きを視認しながらも、離れる少年たちに追撃する気がイヴェルカーナから感じ取れない。

「ちょっと!戻るつもり?」

 呼び止めるRoRoを無視して、きりんは鞘に手をかける。イヴェルカーナに立ち向かおうと一歩足を踏み込んだ刹那、きりんの眼前に冰壁が現れる。

 まさに一瞬の出来事で、動くことすらままならない。

 鞘に手をかけたままで固まるきりんから、イヴェルカーナはすでに視線を外している。

「分かったわよ……行けば良いんでしょ」

 足元から冰塊を生やし吹き飛ばすこともできたはずだ。

 外したのはイヴェルカーナの手心だ。古龍との歴然とした力の差を悟り、きりんは鞘を握りしめた拳を震わせる。

 きりんは雪を蹴り上げ、少年たちを追う。

 少年達は鉄の扉の開け方を模索していた。二人の力技では破壊できず、鉄扉の傍に隠されたタッチキーを見つけていた。

「ロロ」

「はい!お待たせ!」

 アキュラの呼び声に機体からコードを伸ばしたRoRoはタッチキーにコードを挿し込み、数秒で重い鉄の扉を開ける。

 扉の先は嫌に暗い。

 暗がりに電灯を見つけた少年が、「明かりを点けられないか?」とRoRoに尋ねると、RoRoはタッチキーから内部システムへのアクセスを試みる。程なくして、「ダメだ」とRoRoが悔しげな声を上げる。

 三人は互いに顔を見合わせ頷き、暗闇へ足を踏み入れる。

 イヴェルカーナから発せられる粉雪が扉の奥へ吹き荒れる中、スパークを放つ少年を先頭に暗がりを歩む。影からの奇襲に警戒し一歩ずつ足を踏み入れると、背後で扉が閉まる。

 外からの冷気が消えて訪れた暗闇に三人が身構えると、柔らかな暖色の光が辺りを照らす。

「誰もいない……?」

 少年が思わず言葉を漏らす。

 砂漠にあった皇神の施設とは違い、そこはタイル張りの空洞だ。人や物の痕跡は一つもなく、捨てられた廃虚を思わせる静寂が三人の前に広がる。

「油断するな」

 何もない場所で自動で灯りが点くはずがないと忠告し、アキュラが銃を構えて辺りを警戒する。

 周囲のクリアリングを終えた直後、夜霧が立ち込める。

「皆、気をつけろ……」

 それは砂漠の洞窟で出くわした夜霧と同じだ。閉ざされた空間で霧が発生するはずもなく、きりんが鞘から刀を抜く。

「恐らく、幻覚を見せる霧だ」

 幻覚を見せ足下に崖がある認識を阻害する霧だと指摘すると、きりんとアキュラが息を潜める。

 少年は電磁結界(カゲロウ)を張り巡らせ、すんすんと鼻を鳴らす。

 霧の中に僅かに甘ったるい臭いが混じっている。シンナーのような溶剤の臭いだ。ミスト状に噴射する装置があるはずと探すも、張り巡らせた電磁結界が弱くなり感知できない。恐らく高濃度の電解質水を揮発させ、電磁結界を遮断しているのだろう。

 少年の能力を知らないとできない策だ。

 少年はアキュラときりんに目配せし、首を横に振る。報告を受けたアキュラが口元を抑え、「ロロ」と彼女を見上げる。

「オッケー」

 アキュラの戦闘スーツから八基のビットが飛び出し、紫色に光る八基のPビットがアキュラの周りを漂う。それらを一人指揮するバトルポッド、RoRoの機体が紫に染まると、八基のPビットが円を描き始める。

 円から飛び出した巨大な水晶──プリズムブレイク。

 地面に着弾し砕け散ったプリズムが宙を舞う。橙色のぼやけた光がプリズムの微粒子で乱反射を起こし、夜霧で歪められた光を更に屈折される。

「粉……?」

 夜霧の中から黄金の粉が露わになる。

 光の屈折は空間でますます連鎖し、歪んだ影が現れる。

「二時の方向!」

 夜霧に紛れた怪しげな影に、少年とアキュラがありったけの銃撃を叩き込む。

「待って、GV」

 無人の空洞に機械音声が響く。

 声のする方向にすかさず銃を向ける。反撃の糸口を掴んだ少年の耳に小さなプロペラ音が響く。

「ドローン兵器か!」

 微かな音がした方に雷撃鱗(ダート)を撃ち込むと、「今、出るから」と慌てふためくような台詞が返ってくる。

 その声を皮切りにして、夜霧が一気に引いていく。霧の流れを追った先には、鈍い黄金の光を放つ黒い渦、そしてその前に一基のドローンが飛んでいた。

「異界のゲートよ!」

 きりんが指差し叫ぶ。

 この世界に迷い込んだ原因でもある異界へのゲートが目の前にある。実物を初めて拝んだアキュラが、「まさか、これが皇神の兵器なのか?」と呆れた様子で首を振る。

「ふん、カミゾノの癖に生意気ね」

「誰だ!」

 自分の苗字を呼ばれてアキュラが辺りを見渡す。思わず上空のRoRoに視線を送るも、ただ一点を見つめるばかりだ。

 アキュラは思い直す。

 人も機械の気配もない──ドローンだけしかない。

「この粉を扱うには解析不足の模様」

 眼前のドローンが展開し、ホログラムを投影する。

 そこに映されるは電子の謡精、頭に着けた梔子(クチナシ)の花と口元の黒いマスク以外は姿形が同そのままだ。

「会いたかったわ、GV」

「お前は一体誰だ?」

 少年が悲願とも言うべきカノジョに銃を向ける。

 鬼気迫る表情を浮かべる少年に隣のきりんがたじろぐ。

「モルフォの名前を忘れちゃった?」

 ホログラムに映し出された電子の謡精が口を開くのに合わせて、電子音声が流れる。モルフォと名乗る幻影はどこか悲しげに見える微笑みを少年に向けた。




小話
 古龍に勝てるわけがないなら、戦いを避ければ良いじゃない。
 ……と言う話の展開でしたね。
 冰の漢字をどこまで使えば良いのか、冰冠の読み方は何が正しいのか、色々と考えさせられる古龍でした。
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