蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER 作:kocolokoro
倉庫に拳を握りしめる音が響く。
「ふざけるな」
目の前のホログラムに映し出された電子の謡精、この世から消えたはずの存在を少年はじっと睨みつける。怒りと憤りの混じる瞳に、ホログラムの謡精は「落ち着いて、GV」と抑揚のない機械音声で諭す。
「フェノメナ計画のおかげでね。私は蘇ったの」
「……フェノメナ計画」
聞き覚えのある言葉を少年が
金色の髪と蒼い翅は砂漠で遭遇した時より色鮮やかで、ホログラムを横切るノイズも少ない。優しげな瞳はさながら再会を祝うかのように喜びに満ちていた。
ホログラムを映し出すドローンの真横を銃撃が掠める。
真っ直ぐに銃を向けるアキュラが、「ガンヴォルト」と警戒心に満ちた視線を少年に一瞬だけ送り、そのまま一基のドローンに向ける。
「妄言に耳を貸す必要はない」
敵とみなした鋭い視線にホログラムの謡精が、「パパと違ってカミゾノは野蛮だこと」と愚痴をこぼし指を鳴らす。
黄金の粒子を纏う黒い渦がドローンの周りに三つ展開される。その渦の先から錆びた穂先が顔を覗かせる。もう一度指を鳴らすと、異空のゲートから巨大な槍がアキュラに向かって飛び出す。
異界の槍──撃龍槍。
強大な龍を討ち滅ぼすため人間が作り出した兵器が向けられる。アキュラが飛び退いた跡に異空の槍がぶつかり、クレーターを作って瓦解する。
「アンタが怪物をこの世界に送り出しているの?」
きりんが鞘から刀を抜き、ドローンに剣先を向ける。
「ええ、そうよ」
悪びれる様子もなく自供するホログラムの謡精に、「何が目的?」ときりんが尋ね返す。ホログラムは口元の黒いマスクに手をかけて外す。
「声帯が欲しい」
謡精の口元にはノイズが入り乱れていた。白黒のモザイクが
口なき謡精──声を持たぬ謡精。
その代わりに機械音声が声を発する。
「電子の謡精と言う
「それと怪物に何の関係があるのよ!」
苛立つきりんが大地を蹴り上げ、ドローンに肉迫する。
ホログラムの謡精が指を鳴らすと、頭上に現れたゲートから濁流が流れ落ちる。
「皇神への報復よ」
きりんから離れるように移動したドローンに、「報復?」と少年が眉をひそめて尋ね返す。
「声帯を持つ身体を皇神に製造してもらうはずだった」
ホログラムの謡精は未完成の口元を指差し、抑揚のない機会音声を流す。
「N55E128……言われた場所へ来てみれば、こんなボロっちいドローンが私の身体だって……挙句に、私を捕らえようとした」
モザイクが歪む。
怒りに目を細め、歯噛みしているかのようだ。
ホログラムの謡精は慌てた様子でマスクを付け直し、にこりと目だけで微笑む。
「だから、私を護ってくれる
「
アキュラは足を踏み鳴らし、ドローンに銃を向ける。ホログラムの謡精は気にする様子もなく、
「だけど、電磁パルスがある限りここから出られない。だから、貴方に助けを求めるために手を打った」
恍惚の笑みを浮かべ、ホログラムの謡精は、「流石は私の愛しい
「目的は果たされた。だけど……」
あてもなく飛行するドローンがアキュラの方を振り向く。
「カミゾノアキュラ」
突然の大音量で呼ばれたアキュラは思わず眉をひそめる。戦いの気配を感じ取ったRoRoがアキュラの側に駆け寄る。
「私を
「止めろ!」
アキュラを執拗に狙うドローンに
「邪魔しないで、GV」
ただ一つ残されたホログラムに映る電子の謡精が悲しげな目で少年を見つめる。
それはかつて良く目にした瞳で、残酷にも薄らいだ記憶に消えつつある瞳だった。二度と拝むことすら叶わないと諦めていた瞳が手の届くところにある。
「GV!ボサッとしない!」
追撃を止めた少年の背中をきりんが力任せに叩く。少年は我に返ったかのように、「あ、ああ……」と覚束ない返事と共に銃を構え直す。魂が抜けたかのようなだらしない所作を見て、きりんが少年の肩を叩く。
「アイツはモルフォの偽物。本物じゃない」
「それは違うわ」
濃霧に浮かぶホログラムがきりんの忠告を否定する。
「私は貴方との思い出を忘れない。貴方のために、ペンダントを編んだことだって
それはカノジョと自分しか知らないはずの記憶だ。ホログラムの謡精は両腕を広げ、虚空に撃龍槍を侍らせながら音量を上げて高らかに謳う。
「私はセーレス。
ホログラムがその姿を消すと、宙に浮かぶ撃龍槍がアキュラに飛びかかる。アキュラが壁際に向かって走り、撃龍槍が壁や扉に次々とぶつかり瓦解する。
崩落音が消え去り、倉庫に静寂が訪れる。
「ロロ、もう一度水晶を」
「りょーかい」
徐々に濃くなる霧に消えた
出来上がりつつある水晶に雷が落ちる。
「アキュラ君!」
地面を転げ回るアキュラに駆け寄ろうとする。濃霧の奥から小さな赤色のカプセルのようなビットが飛来し、RoRoを囲い込む。足止めされたRoRoを見て、地に伏すアキュラへ少年が駆け出す。
そして、目の前に迫る壁に足を止める。
背後を振り向くと、確かにアキュラの姿はある。
そこに向かって走り出すも、また柱が現れる。
「方向感覚を狂わせる……」
迎えども迎えども目的の場所に辿り着けない事態に、少年は思わず首を振る。
幻覚剤の類かと思考を逡巡させる。たとえ幻覚剤を気化させても高濃度にはできないし、幻覚効果がすぐに現れるとは思えない。
「なんで行けないのよ!」
苛立つきりんの側で、「恐らく……」と少年が呟く。
「黄金の粉が原因だと思う。風さえ吹けば……」
撃龍槍をぶつけてびくともしない鉄扉を少年は忌々しげに見つめる。扉を閉めたのもホログラムの謡精が作り出した罠と思い直すも、すでに手遅れだ。
「ロロ……」
起き上がったアキュラと視線が合う。
方向感覚を狂わす霧の中、諦めず闘志を燃やすアキュラに少年ときりんが頷き返す。
視覚が頼りにならない今、頼れるのは聴覚だけだ。
ドローンのプロペラ音を探り当てようと、危険を承知で三人は棒立ちになり、耳を澄ます。
「燃ゆるいぶきのさしもしらじな」
抑揚なき唄の一節が倉庫に響く。
唄が聞こえる方へ銃撃を叩き込むと、金属音が響く。
手応えはあるが、機会音声の唄が止む気配はない。銃撃を飛ばした方向の霧の中に赤い粉塵が牡丹の花ように漂っている。
「これは……」
霧の奥から赤いビットが無数に飛びかかる。
RoRoの周りを囲うビットと同じ敵機に身構えるも、何をすることもなく少年の頭上を漂っている。
少年が見上げると、ビットがカプセルのように弾ける。
中から飛び出た赤い粉塵がゆっくりと舞い落ちる。カプセルがガチャガチャと音を立てて頻りに開閉する。
開閉による摩擦熱が可燃性の粉塵に火を灯し、三人の頭上で爆発が起きる。
「ロロ!」
「アキュラ……くん」
火花を上げるRoRoへ駆け寄るアキュラ。
そこに撃龍槍が飛来する。
方向感覚を鈍らせる
「アキュラ!」
少年が叫ぶも、アキュラに避ける術はない。
RoRoの身を案じて駆け寄ることを見越した、殺意に満ちた罠にアキュラは奥歯を噛み締め、濃霧に消えた敵を睨む。相棒のRoRoを胸元に抱き込み、アキュラは身を丸める。
そこに一陣の突風が吹き荒れる。
アキュラの周りに冰壁が現れ、撃龍槍が砕け散る。
吹雪が背後から吹き荒ぶ。
「イヴェルカーナ……」
振り返ったきりんが、その主の名を叫ぶ。
鉄の扉を打ち破ったイヴェルカーナから発する龍風圧が霧を吹き飛ばし、一基のドローンの姿が露わになる。
イヴェルカーナは少年ときりんを一瞥し、その横を悠々と通り過ぎる。歩いた後に冰りを張り巡らし、イヴェルカーナは倉庫の奥へ歩を進める。
アキュラの周りを囲う冰壁が崩れ落ちる。
RoRoを抱えて呆然と見上げるアキュラにも目をくれず、イヴェルカーナは一基のドローンに向かって吠える。
「たかが動物の癖に生意気な」
軽口を叩くも、ドローンにホログラムを投影する余裕はない。
室内に吹雪が巻き起こる。豪雪に混じる憤怒は身勝手に呼び出した痴れ者に向けられる。
「砕けてヒトを想う頃かな」
唄の一節と共に異空のゲートを呼び出し、撃龍槍が姿を現す。その穂先に火が灯り、炎の槍となって宙に漂う。
「冷気如きが人災に敵うと思わないことね」
かつて地球を襲った氷河期を乗り越えた人類の発明品──寒さを凌ぐ炎と獣を切り裂く刃を合わせた、
だが、人類は一度たりとて自然に勝利したことはない。
炎の撃龍槍がイヴェルカーナの冰壁を貫くこともない。
撃龍槍をあしらい、イヴェルカーナが上体を起こす。
刹那に絶対零度の嵐がドローンを包む。
極低温の息吹が電子回路をショートさせ、空から降り注ぐ冰塊と大地から突き上げる冰塊の全てが脆弱なドローンに向けられる。蒼い冷気に覆われたドローンの姿見えなくなり、冷気の爆風が辺り一面を冰塊ごと吹き飛ばす。
アブソリュート・ゼロ──全てを凍てつかせるイヴェルカーナの一撃がドローンを容赦なく吹き飛ばす。
冰りの鎧が剥がれ落ち、銀色の鱗に包まれたイヴェルカーナの咆哮が再び静寂が訪れた倉庫に響き渡った。
小話
オリジナルキャラですが、撃龍槍を飛ばす虫が元ネタです。
後、ミュウミュウ鳴く人形も少しだけ入れてます。
本稿の最期を考える上で、既存のキャラを敵役に据え置くわけにもいかず、自分を電子の謡精と思い込んでいる一般AIさんならちょうど良い塩梅かなと言う経緯があり、数分で練られた残念な悪党です。