蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER   作:kocolokoro

26 / 41
蒼き雷霆ガンヴォルトとモンスターハンターの二次創作です


第二十六話 愛する故郷にモルゲンロートは昇る

 倉庫の中、イヴェルカーナが静かに少年の方を振り向く。銀の鱗が花の如く咲き乱れる冰露に覆われ、蒼白の龍へと姿を戻す。

 前足を一歩突き出した古龍を前に、三人が身構える。イヴェルカーナが軽く足踏みすると、少年達は畏怖のあまりに後退する。眼前の古龍が攻撃する気配はなく、翼を広げて威嚇を繰り返すばかりだ。

「おーい、大丈夫か!」

 古龍を畏れ身動きすらままならない三人の背後から声がする。警戒しながら振り向くと、大団長と篇算者(へんざんしゃ)、青年が雪まみれになりながら、こちらに駆け寄って来る。

「無事だったのね」

 笑顔で駆けつける異界の住人たちの姿を見て、きりんは安堵のため息をつく。横一線で駆けつける中、青年だけが急に足を速めて倉庫の端の方へ我先にと駆け出す。少年たちにも目をくれず、青年は床を漁って「ドゥーヤ!」と歓喜の声を上げる。天高く掲げた青年の手に、冰龍から剥がれ落ちた氷晶の厚龍鱗が輝きを放つ。

 脇目も振らず落とし物に駆け寄る青年に、少年ときりんが顔を引きつらせる。二人の背後から鉄が砕ける音が響く。振り返った先では、イヴェルカーナが冰壁を目の前に作り出していた。その冰壁は、さながらイヴェルカーナと少年たちの間を仕切る堅牢な境界のようだ。

「出て行けってか……」

 イヴェルカーナの目の前にいたアキュラがRoRoを抱えて後ろに下がる。床を走る氷は徐々に冷気を強め、倉庫の奥から寒波が吹き荒れる。

「ロロ、大丈夫か?」

 アキュラは手元で火花を上げるRoRoを見下ろしながらゆっくりと後退する。逃げるアキュラを追う気配はイヴェルカーナから感じられない。

「うん……ちょっとメンテしてくれたら嬉しいな」

 辛うじて声を上げるRoRoに、「分かった」とアキュラが柔らかな笑みを浮かべる。

 その微笑みを横目に眺めていた大団長が、「よし、帰るぞ」と手を叩く。異界の住人たちも古龍を前にすでに警戒を解いており、穏やかな足取りで倉庫の外へ向かっている。

「行こう、GV」

 アキュラが少年の脇を通り抜け、きりんが踵を返す。「あ、ああ……」とぼんやりと頷きながら、少年はもう一度イヴェルカーナを見上げる。

 蒼白の瞳が少年を見下ろしていた。

 そこには、敵意も怒りもない──少年たちに興味すら抱いていないような気さえ覚える。

 大寒波を引き起こす程、怒り狂っていた龍の姿はない。

 ただそこにあるのは、自然の体現者──古龍の姿だ。

 敬意を表するべきと、少年は数秒に渡って頭を下げる。少年が頭を上げると、古龍は少年からすでに視線を外していた。

 無言のまま少年は倉庫の外へ走り出す。ひしゃげた鉄扉をまたぎ、倉庫の出口で少年を待つ仲間に、「ごめん、遅れた」と詫びを入れる。

 外の雪はすっかり吹き止み、はっきりと視えるようになった森に鳥のさえずりが響き渡る。

「あの倉庫の中で何がアッタんです?」

 鹿の足跡が残る雪を踏みしめながら、篇算者が尋ねる。三人は倉庫で起きた出来事を話すと、異界の住人たちは「電子の謡精?セーレス?」と三者三様に頭を悩ませていた。

「やっぱりアタシたちの世界の話?」

 暗に皇神(スメラギ)を疑うきりんの隣を歩く大団長が、「フードの野郎は見なかったか?」と三人に尋ね返す。

 異界のゲートを作っているのはフード姿の人物と言う大団長の言葉を思い出し、先の戦闘を思い起こすも、そのような人物は見ていないと首を振る。

「やっぱりお前の思い違いじゃないのか?」

 疑いの目を向けるアキュラに、大団長は頭を掻く。

 倉庫にいた電子の謡精を騙る偽物は、自分が怪物を送り込んでいると豪語していた。そして、その偽物は怒れる古龍に裁かれ、跡形もなく吹き飛んだ。

 世界を脅かす元凶がいなくなった今、はびこる怪物をどうやって元の世界に戻すかと言う後処理の局面に入っている。特に、逃がしたリオス種の行方は依然分からないままだ。すでに地球と言う惑星規模の問題に膨れ上がり、大団長はますます頭を抱える。

「ガンヴォルト」

 アキュラが歩を止める。

 鬼気迫るアキュラの形相に、少年ときりんが揃って武器に手を伸ばす。戦闘態勢に入る三人に、「アルワハ?」と青年が首を傾げる。

 突然、木の影から白色の戦闘服を身に包んだ兵士が飛び出す。四方から飛び出した兵士に少年たちは得物を向ける。そこに、頭上の木の枝から兵士が飛び降り、少年たちを一斉に包囲する。

「皇神だな」

 雪に紛れる迷彩柄の兵士と互いに銃を突き合わせる。

 数にして十人と少数だが、一瞬で取り囲む連携は手練そのものだ。少年は異界の住人達を横目に見る。銃を突然突きつけられ、青年と篇算者は成す術なく慌てふためいている。大団長だけが今にも飛びかからんと鼻息を荒げるが、多勢に無勢、拳が拳銃に勝る道理はない。

 少年は眼前の兵士に視線を戻す。

 その佇まいには僅かな隙が見え隠れしている。手練と言えど、軽くあしらえる程度の実力に過ぎないと確信する。

 だが、異界の住人が巻き込まれてしまう。

「君が蒼き雷霆(アームドブルー)だな?」

 取り囲む皇神の兵士の奥から一人の男が歩いてくる。

 如何にも堅物な武人然とした大男で、その茶けた肌が白銀世界に激しいコントラストを織り成す。

「ヘング中佐と申す。皇神グループの侵略種駆除部隊の総指揮を任されている」

 皇神の兵士の包囲網を押しのけ、ヘング中佐が少年に歩み寄る。腰のホルスターに付けた銃を抜くことなく、手ブラで歩み寄る姿は警戒を解いて欲しいと言う意志の表れだろうが、少年たちに武器を下ろすつもりはない。

「ダメじゃないか、ガンヴォルト君。勝手に見張りを撒いたり、ましてや、不法入国なんかしたら」

 木の影からコートの男がふらりと現れる。

 日本にいるはずのコートの男の姿に、「お前……」と少年が睨み返す。コートの男はチッチッと舌を鳴らし、突き立てた人差し指を揺らす。

「素人同然の彼らに君達の監視が務まると思ったかね?当然、デコイに決まっている」

 少年は奥歯を噛みしめ、自分の不甲斐なさを呪う。

 皇神が嘘をつかない保証は始めからなかった。監視をするのが人員整理(リストラ)候補の社員に限るとは誰も言及していない。

「オウカ……」

 裏口から別荘を抜け出したオウカにもすでに皇神の包囲網が及んでいるだろう。油断していた自分の迂闊さを憎むしかなかった。

「できれば、殺気を収めてくれると助かるのだが?」

 無害を主張するヘング中佐に、少年は黙って銃を向ける。

「ならば、これを見てくれ」

 ヘング中佐はポケットから端末を取り出し、「速報!巨大生物現る!」と煽り文句が入ったタイトルのニュース動画を少年たちに見せつける。

 

 

「こちら、小笠原諸島より東の海上から中継です!」

 端末に映る女性アナウンサー、砂漠の皇神施設で取材をしていた彼女がヘルメットを被り、狭いヘリコプターの中で熱弁を奮う。

「ご覧ください!」

 カメラがぐるりと回り、海を映し出す。

 青黒い海面に黒いヒレが縦に伸びている。その大きさはカメラの画角に収まりきらない程だ。ヒレの所々が赤く染まり、煌々とした光がヒレから空へ打ち上がっている。

 その赤い光にカメラがズームで寄る。ヒレの表面は冷え固まったマグマのように荒れており、赤い光はまさしくマグマそのものだ。

 

 

「ゾラ・マグダラオス!」

 海を泳ぐ火山と形容すべき生き物の名を篇算者が叫ぶ。

「お嬢さん、この怪物を知っているのか?」

 ヘング中佐が端末を片手に篇算者に近寄る。その切羽詰まる形相に、「え、ええ……」と篇算者が困惑の色を浮かべる。

「どうすれば、これの息の根を止められる?」

 ヘング中佐は鼻息を荒げ、わずかな希望にすがるように篇算者との距離を更に詰める。

「そいつは難しい相談だな」

 大団長が二人の間に割って入る。

 銃を向けられても尚、気ままに動く大団長に皇神の兵士が銃を構え直す。それ以上の行為は攻撃になる。最悪の事態に備え、少年は密かに体内に電流を巡らせる。

 一触即発の気配にようやく気づいた大団長は頬をかきながら、ヘング中佐に尋ねる。

「暖かい場所はないか?すっかり冷えちまってな」

 大団長が少年の方を向いて頷く。

 相手は怪物を倒す知恵を求めている。

 熔山龍を誰よりも知る異界の住人を無碍にする、ましてや、手にかけることはできない。主導権は銃を突きつけられている自分達が握っている。

「案内しよう。大使館より狭いが、よろしいかな?」

 ヘング中佐が合図を送ると、兵士たちは戸惑いを見せながらも銃を降ろし、少年たちから距離を開ける。

「温かいものも飲みたいな。アルテミスから聞いた……チョコレートとやらを溶かした飲み物ってやつ」

 軽口を叩く大団長にヘング中佐は、「用意させよう」とお辞儀をして森の外に停めた軍用車に乗るよう促した。

 

 


 

 

 三時間ほど南下し、凍りついたアムール川の畔に居を構える皇神グループの子会社の地下駐車場に軍用車が乗り込んだ。ロシアと中国をターゲットにする商事会社との名目だが、軍用車が平然と乗り入れする商事会社には胡散臭さしか感じられない。

 内装はオフィスビルらしい造りで、少年達はその奥の会議室に通される。程なくして温かいココアが運ばれ、テーブルの中央にホログラムが投影される。

「一週間前、深海平原に熱源体が観測された」

 一週間前と聞いて、少年はデデ砂漠にいた頃だと逡巡する。次々にデータが映し出される。衛星や超音波ソナーのデータに首を傾げてばかりの青年も、ただ一つ、怪物の全容が映し出された時ばかりは興奮していた。

「その熱源体は……ゾラ・マグダラオスと言ったな……我が国の首都へ五ノットの速さで真っ直ぐ進行している」

 進路予測データでは首都に向けて真っ直ぐに進むらしい。同席する白衣姿の科学者が分厚いメモをめくり、データを読み上げる。

「体長はおよそ250メートル。サーモグラフィーの熱量調査によると、内温は最高で摂氏1500度」

 現実離れした数字の羅列に、コートの男が鼻を鳴らす。

「その放熱量は600メガワットで、ヒレに見られる複数の噴火口から放熱されています」

「ボクたちにどうしろと言うんだ?」

 少年が数字を説明するだけの科学者を黙らせる。

 皇神の施設にいることは少年にとって忌避すべき事態だ。アキュラは目を瞑り静かに座しているが、時折目を開けては尋常ならざる不快感を露わにする。

「ガンヴォルト」

 対面に座るヘング中佐が立ち上がり、頭を下げる。

「此度の討伐作戦に参加してもらいたい」

「断る」

 少年は直ちに拒絶する。

 顔を上げたヘング中佐が、「理由を聞かせても?」と尋ね返すと、少年は指を三本突き立てる。

「一つ、ボク個人で太刀打ちできない。一つ、お前たちが保有する能力者軍の仕事であること……」

 理由を説明する度に指を一本ずつ折っていく。

 そして、最後の一本となる。

「一つ、ボクは皇神を信用しない」

 ゆっくりと折られた指先に過剰な力を込めている。少年の声に宿る憤怒に、ヘング中佐は思わずよろめき、椅子が派手な音を鳴らして倒れる。

「そうよ。アンタたちには異能力者の軍隊があるでしょ」

 きりんが皇神の怠慢を批難する。

 倒れた椅子を戻して座り直したヘング中佐が眉間にしわを寄せて、苦々しく答える。

「異能力者のみ、本社直々の招集要請を拒否している」

 周りに佇む無能力者の兵士も、能力者の横暴にため息をつく。

「自分たちが勝てそうな相手だけを選り好みする。何の努力もせず、与えられた才能だけでマウントを取る……実に、卑怯で、臆病な異能力者らしい」

 コートの男が吐く皮肉に、「紫電様もきっと嘆かれるだろう」とヘング中佐が憂いの言葉をかぶせる。

「そこで、蒼き雷霆(アームドブルー)、君の参加だ」

 唐突に話題を振られ、「何の関係がある?」と返す。感情を必死に押さえ込むも、少年から憎悪が漏れている。

「テロリストである君が民を想って参加し、皇神傘下の異能力者部隊が己の保身に走って参加しない」

 ヘング中佐が立ち上がり、テーブルに沿って歩き始める。

「連合軍と言う過激派組織、そのリーダーが民を守るべき皇神傘下の異能力者から出た裏切り者だった」

 ヘング中佐が言葉を続け、少年の前で歩みを止める。

「世論は、いや、皇神は異能力者をどう思うだろうか?」

 紫電が統治していた異能力者組織、七宝剣が崩壊し、皇神の権威は失墜した。多国籍連合軍エデンと言う過激派組織を台頭させるほどに抑止力を失った。ましてや、抑止力となるべき組織から出た裏切り者の存在は、皇神内で異能力者不要論が台頭するには十分だ。

「異能力者が参加せざるを得ない状況を作り出す」

 七宝剣の後任組織に、かつてのカリスマはない。

 与えられた力でイキり散らかしているだけの三下組織に、そして無能力者を侮蔑してきた異能力者に、灸を据える絶好の機会とも言える。

「つまり、社内政治のためにボクを勧誘すると?」

「身勝手なことだとは分かっている」

 ヘング中佐が誰よりも先に自身を糾弾する。

「だが、此度の相手は未知数だ。今は少しでも戦力が欲しい。異能力者もテロリストも関係はない」

 ヘング中佐は膝をつき頭を地面につける。流れるような所作に、その場にいた誰もが息を呑み、少年の返事を待つ。

「あるものは全て使いたい」

 ゾラ・マグダラオス──生きる火山を体現した巨大生物と人類は歴史上対面したことがない。戦略も勝算すらもない戦の舵取りを任命された男に手段を選り好みする余裕はない。

「断る」

 それは少年の答えだ。

 泥臭く頭を下げる男にかける言葉だ。

 断られても尚、ヘング中佐は頭を地面に(うず)めている。

「たとえどうなろうと、ボクは皇神に協力できない」

「君の大切な人が犠牲になってもか?」

 ヘング中佐がポツリと呟く。石に滴る水滴のような囁きだ。

 水滴がいずれ岩を穿つように、囁きが少年の逆鱗を砕く。

「それは脅しか?」

 少年は瞳孔を細め、頭を下げるヘング中佐を見下す。隠す気すらない殺気と奥歯をかみしめる音に、仲間ですらも恐れ慄く。

「分かった」

 ヘング中佐は頬を緩め、小さく息を漏らす。室内に広がる安堵と言う雰囲気が交渉の終わりを告げる。

「ヘング……」

 声を掛けるコートの男に、「良いのだ、ピレー」とヘング中佐が制止する。ヘング中佐は怒れる少年の顔を見上げ、再び頭を下げる。

「申し訳なかった、ガンヴォルト」

 ヘング中佐が再び少年の顔を見上げ、未だ憤怒の気をばら撒く少年の顔を正面から見据える。そのままホルスターから拳銃を抜き取ると、少年にグリップを向ける。

「君の信念を踏みにじってしまった。その銃で私を撃て」

 死でもって罪を償おうとするヘング中佐に、「何を……」と少年は奥歯を噛み締めながら拳銃を手に取る。

 そして、男の頭に拳銃を向ける。

 周りにいた兵士がどよめく中、「動くな!」とヘング中佐の恫喝が響く。銃を握る少年の手も微かに揺れたが、依然として銃口は頭に向けられる。

「カレラ様の命で、君とカレラ様の最期の闘いを私は影から見届けていた」

 突然の独白に、引き金にかけた人差し指が滑りそうになる。

「あの闘いで、君から途方もない哀しみを感じた」

 カノジョが一度消えたあの日、鬼神の如く力を振るい、カレラを路傍の石の如く滅した。

 あの日、色々な出来事があったと振り返ることはできる。

 だが、少年の心に最後に残ったものは失意と哀しみに満ちた虚無感だけだ。

 あの日、どこで選択肢を間違えたか──過去を振り返らないと誓ったものの、それでも、過去を振り返ってしまう。カノジョを二度失ってからは後悔の念はひどくなるばかりだ。

「今もその哀しみが消えていないのは、すぐに分かった」

 顔を上げたヘング中佐の額に銃口を押し当てる。

 それは他人が指摘して良い哀しみではない。

 荒くなる息をひたすら隠しながら、引き金に込める力を強める。その力はぶれ、銃口が微かに揺れる。

 我慢ならないと皇神の兵士たちが銃を抜き出す。

 アキュラがテーブルに飛び乗り銃を構え、きりんが椅子から飛び上がり鞘に手をかける。青年と篇算者が慌ててテーブルの下に隠れる中、大団長だけが黙してココアをすする。

「君の哀しみを交渉に利用しようとした。抵抗する資格はない」

 ヘング中佐が兵士に目配せし、攻撃を制止する。動揺するも銃を下ろす者はおらず、依然として硬直状態が続く。

 ここで皇神を殲滅(せんめつ)できれば楽になれる──悪魔(デーモン)の囁きが少年の脳裏を駆ける。だが、それは異能力者が無能力者を卑下するような皇神や過激派組織と同じ穴の狢になる。

 手にかけてしまえば、忌避する連中の仲間入り。見逃してしまえば、苦難に満ちた逃亡生活が永遠に続く。

 無能力者の一人を手にかけた所で誰も咎めはしない──悪魔(デーモン)が声高に叫ぶ。

 

「彼女ならどうするだろう?──」

 

 少年は誰にも聞こえない声で彼女の名を呟く。

 少年は引き金に再び手をかける。

 

 そして、そのまま銃をテーブルに投げ捨てた。

 

「ボクは皇神を許しはしない」

 少年は椅子から下り、ヘング中佐の前でかがむ。視線をそらすことなく少年を見続けるヘング中佐に、少年は初めて向き合う。

「だけど、今だけは、駄々をこねている場合じゃない」

 少年と同じく実験体にされた敵に同情したこともある。

「それでも、ボクは協力できない」

 自分の都合ばかりを振りかざした眼前の男に、同情の余地もなければ見過ごす理由もない。異能力者としての矜持が少年の凶行を止めるには至らなかった。

 

 ──少年の心に残る誰かが堕ち行く少年を引き止めた。

 

 少年は胸に手を当て、力なくその場にへたり込む。「恩に着る」と叫ぶ男の声が少年の耳に届くことはなかった。

 




小話
 氷の舞台はもう少し続きますが、ゾラ・マグダラオス編です。
 登山用語とクエスト名でタイトルを統一するのが、一番時間がかかっている気がします。
 ゾラ・マグダラオスの設定はフェルミ推定で算出していますが、結局、あまりにも分厚すぎる岩殻が一番厄介だと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。