蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER   作:kocolokoro

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蒼き雷霆ガンヴォルトとモンスターハンターの二次創作です。


第二十七話 氷河を震わすハーゲンクラング

 頭を上げたヘング中佐が立ち上がり、張り詰めた空気が再び緩み始める。アキュラがホルスターに銃を収めてテーブルから降り、きりんが鞘から手を離す。皇神(スメラギ)の兵士が銃を下ろし、争いの気配が消えた後に、青年と篇算者(へんざんしゃ)がテーブルの下から這い出る。

 ヘング中佐は咳を払い、大団長に向き直る。

「異界の住人の皆方、貴方達の知恵をお借りしたい」

「良いぞ」

 二つ返事で依頼を承諾した大団長に、「ちょっと!」ときりんが咎める。

「まぁ、知恵を貸すだけだ」

 大団長はココアを飲み干し、きりんを宥めすかせる。カップをテーブルに置いて立ち上がると、篇算者と青年に声をかける。聞いたことのない言語でコミュニケーションを図る三人の姿を見て、少年たちは異界の存在を改めて思い知らされていた。

「待たせたな」

 話し合いを終えた大団長が振り向くと、ヘング中佐は蹴り飛ばされたホログラムの装置を立ち上げている。ホログラムが再起動すると、ゾラ・マグダラオスの全容が会議室を覆い尽くす。

「この怪物を倒したことは?」

 つまみを調整してホログラムの映像を縮小する。

 手の平サイズまで縮んだ龍は可愛らしいサイズだが、本物は山と形容すべき巨体だ。その攻撃手段は不明、全身を覆う分厚い岩殻がミサイルの着弾を阻む。圧倒的な岩壁の鎧をまとう未曾有の巨大生物を前に、ヘング中佐が思わず唸る。

「兵器を使って撃退したことはアリマス。ですが、あの時は老齢の個体でした」

 篇算者から撃退事例を聞き、「一体、どのような兵器を……」とヘング中佐の声色が明るくなる。色めき立つヘング中佐に、「待ってください」と篇算者が歯止めをかける。

「ゾラ・マグダラオスの体内には、強力な発熱器官がありマス。絶命した際にそのエネルギーが熱波とナッテ溢れ出ます。スグに倒すのは危険です」

 マグマを内包する巨竜のエネルギーは膨大で、大陸一つを焦土と化す危険性を孕んでいる。かつての熔山龍討伐作戦で議論になった懸念点を伝えると、ヘング中佐は「おい、そこの君」と部屋の端に避難していた科学者に呼びかける。

「は、はい……」

 気後れしたような返事を聞いて、「怪物の熱エネルギーが一気に放出されたら、どうなる?」とヘング中佐が尋ねる。科学者はメモの束を一通りめくって、首を横に振りながら答える。 

「シミュレーションデータはありませんが、火山のエネルギーが一気に漏れるとなると……今は海の上なので、上昇気流の発生に伴い海面が急激に下がり、沖合に大津波が押し寄せるかもしれません」

「今すぐシミュレーションデータを集めろ。沖合に影響が出ない距離と時間の猶予を算出するんだ」

 慌てふためく科学者に、「急げ!」と一喝する。

 科学者は情けない声を上げて会議室を飛び出し、扉が激しい音を立てて閉まる。その背中を見届けたヘング中佐がホログラムに手をかざして横へスライドさせる。その動きに合わせてホログラムの映像が切り替わり、海洋地図が浮かび上がる。

 地図上を赤い点が動いている、ゾラ・マグダラオスだ。

 赤い点はすでに排他的経済水域(EEZ)に侵入し、上陸まで二日と迫る。だが、死の間際に放つ熱波による被害を加味すると、猶予はほとんど残されていない。

「二十四時間、一日か……」

 タイムリミットを呟く。同時に、会議室にノック音が響く。

 電話を携えた皇神の職員が、「中佐、当局(モスクワ)から入電です」と顔を覗かせる。 

「何の用だ?」

「六名の不法入国者へ出頭命令です」

 ヘング中佐がその六人を見渡す。

 少年が会議室の窓に駆け寄り、カーテンを微かに開ける。商社を監視する五つの影が無線で連絡を取り合い、包囲網を敷いている姿が見えた。少年は親指を噛み、忌々しげにカーテンを乱暴に閉める。

「作戦本部がある日本に来ていただけますか?」

 ヘング中佐が不法入国者の脱国幇助を提案する。

 それは国際法の冒涜で、国家への対立宣言だ。

 たとえ世界有数の大企業である皇神グループと言えど、大国と敵対する力はない。国際犯罪者を、ましてや、無能力者を擁護する義理が皇神にはない。中佐の独断として切り捨てる姿が容易に思い浮かぶ。

「おい、ヘング……」

 コートの男が中佐の肩を掴み、その愚行を制止する。

 その手をヘング中佐は優しく振り解いた。 

「大使館に駆け込んでは間に合わん!車とヘリを用意しろ!」

 会議室に響く大音声と共に、兵士が慌ただしく散会する。

「一時間だ!一時間で国を出るぞ!」

 怒鳴り声を上げてヘング中佐が飛び出すと、会議室に静寂が訪れた。

 

 

 その三十分後、商社の地下から三台のワゴン車が発つ。

 黒塗りのワゴン車の窓を覆う分厚いカーテンが、車内の影すらも覆い隠す。その後ろから何の変哲もない乗用車がまばらに発進する。運転席には男が二人ずつ乗り合わせ、耳に当てたインカムから流れる指示を聞いている。

 集団だと悟らせないように、ロシア当局の車が三台のワゴン車を追っている。

 狙いは乗車している六人の不法入国者だ。

 前方を走る車が三手に別れ、その三台全てを追うように後続車が次々と流れていく。

 

 熾烈なカーチェイスが幕を開ける。

 

 その舞台袖──商事会社の裏口に一台の車がアムール川の氷盤に乗り入れる。オフロードタイヤにチェーンを巻き付けた荒々しい出で立ちの雪上車だ。

「向こう岸までしばしの辛抱を」

 ヘング中佐がアクセルを踏み込むと、車内が激しく縦に揺れる。青年と篇算者が座席を握りしめ、きりんが「吐くかも……」と一人だけ悶え苦しむ。

「勝手に越境しても良いのか?」

 アムール川は十キロに渡るロシアと中国の国境だ。たとえ両岸に同系列の会社があっても、無断での越境は許されない。RoRoを抱きかかえるアキュラの疑念に、コートの男が代わりに答える。

「両国の地方役人は快く承諾している」

 地方の役人には金を握らせているらしい。中国で売れないものをロシアに卸し、ロシアで売れないものを中国に卸すことを生業とした商社の必要経費だ。逞しい商魂を垣間見て、「アコギな商売だな」とアキュラが皮肉を口にする。

「秘密裏に決めた作戦です。直ぐには追ってこれません」

 入口から出たダミーに当局の監視の目を引き付けている間に、裏口の川から脱出する。中国に逃げ込めばロシアから手は出せない。シンプルながら欺くには十分だと、ヘング中佐は自身の作戦を褒め称える。

「もう追いかけて来てるみたいだけど?」

 少年の呟きによって、自画自賛は脆くも崩れ去る。

 少年が窓から後方を覗き込むと、遠方に輪郭を残す商社の足元辺りに、氷上を走る三台の車の影が見えた。

「ちょっと早すぎない?」

 きりんが一息ついて、反対の窓から後方を覗き込む。

 桃色の髪がはためき、きりんは思わず髪を押さえる。後方から追う車の助手席で黒く光るモノが、きりんの目に飛び込む。「よっと」と顔を車内に引っ込めると、きりんの髪先を銃弾が掠める。

 その直後、エンジンが唸りを上げる。

 慣れない銃撃戦が始まり、篇算者と青年が喚きながら座席の下に避難する。戦いに慣れた少年たちが冷静に背後の車の動向を注視し、大団長がため息をついて静かに座する。

「内通者がいるのか?」

 アキュラが冷徹に指摘する。

 三十分前に決めたばかりの作戦が筒抜けになっているどころか、追いかける車が氷河を渡ることを想定した装備になっている。作戦を決めたあの場で当局に情報が流出したことになる。

「このルートを役人が密告したのだろう……そうに違いない」

 コートの男が内通者の可能性を否定し、そして、舌打ちする。

 役人はロシアだけではない、対岸の中国にもいる。対岸に渡り終えた先で、中国政府が包囲網を敷いている可能性がよぎり、コートの男は口を閉ざす。

 鉄板を撃つ音が車内に響く。

 その刹那、頭上をガラス片が舞った。

 リアウィンドウが吹き抜けになり、ラトニク弾の嵐が車内を駆ける。フロントガラスに亀裂が走り、冷や汗をかくヘング中佐を映すバックミラーが砕け散る。

「アターグ!アターグ!」

 青年が座席の下で狼狽える。その頭上をまたぎ、後部座席まで移動した少年が電磁結界(カゲロウ)を張り巡らせる。後方車の窓から乗り出した自動小銃(アサルトライフル)が一斉に少年に向けられる。

 ラトニク弾の掃射が電磁結界の前に押し戻される。

 勢いを失くした弾丸は力なく氷上に落ち、カラカラと氷を打ち鳴らす音が川底に絶え間なく響く。

「何か武器はない?」

 形ある金属製の物質を弾く少年の力を目の当たりにして、アサルトライフルの嵐が鳴り止む。攻撃を緩めた隙に少年はヘング中佐に反撃する兵器を要求する。

「後部座席のシートの下に狙撃銃(スナイパーライフル)がある」

 少年はシートに格納されたチュカビナ狙撃銃を取り出し、後方車両に向ける。スコープを覗き込むと、助手席の男が小型のレーザー銃を取り出している。

「もう少し飛ばせないのか?」

「これが限界だ!」

 少年の電磁結界では形のない光線を弾くことはできない。

 少年は電磁結界を解除して、揺れるスコープの視界で狙撃銃の照準を合わせる。揺れが収まる気配はなく、ますます激しくなる。照準が定まらず、「くそっ」と少年が焦りを露見させる。

 速度を上げていないにも関わらず、強くなる氷河の揺れ──初めに異変を感じた青年が運転席に飛びかかる。

 ヘング中佐を押し倒し、雪上車の後部が大きく右に振れる。

「おい、何をする!」

 ヘング中佐の野太い怒鳴り声をブレーキ音がかき消し、ブレーキの甲高い音を氷の崩壊音が上書きする。崩壊音の後にブレーキ音が響き、水に飛び込む音が響く。

 座席の下に投げ飛ばされた少年が顔をのぞかせる。アムール川の氷盤があちこちで割れ、裂け目に現れた川面に三台の車が浮かぶ。

 その中心に竜の半身が姿を現す。

 蛇のように伸びる巨躯の背ビレは氷に覆われ、冷え固まった碇口を天に向かってカチカチと打ち鳴らす。その巨躯を見た少年の手から狙撃銃が滑り落ちる。

「アグナコトル亜種!」

 座席の下から顔を出した篇算者が凍戈竜の名を叫ぶ。

「早く車を出して!」

 銃弾に平然としていたきりんが怪物の出現にようやく慌て始める。ヘング中佐は、「やってる!」とサイドブレーキを引いてアクセルを踏み込む。

 タイヤのスリップ音が寒空に響く。

 凍戈竜がゆっくりと振り向き、カチカチと碇口を打ち鳴らして威嚇する。それでも、スリップ音はまるで挑発するかのように甲高い音で威嚇する。

 凍戈竜が吠えた。




小話
 出番を奪われたブラントドスさん……
 最近のシリーズは設定がマイルド?になり、氷を潜る芸当ができないモンスターも多くなりましたね。
 元々雪国の話でモンスターをもう一体出そうとなり、氷河を渡ると言う粗筋になり、深雪を潜るブラントドスはお役御免となりました。
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