蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER 作:kocolokoro
アグナコトル亜種が殲滅すべき敵を認めたと同時に、車が発進する。
住処の真上で騒ぎ立て、挙句の果てに逃走を図る不届き者を追わんと、凍戈竜が氷河に潜り込む。荒れ狂う水流をものともせず、道を開ける魚群を無視して耳を澄ませる。水流の音に紛れた振動音を泳いで追いかけ、身体を捻る。捻った身体を回転させたまま碇口を氷盤に突き立て、氷盤を粉々に掘り進む。
視界の先に氷上の光が差し込み、敵の影を捕える。
敵の影に向かってその大口を開ける。
雪上車の真後ろをアグナコトル亜種の碇口が掠めた。車の後部が跳ね上がり、着地の衝撃に皆が座席を握り締める。
「おい!何か弱点はないのか!」
コートの男が窓から顔を出し、後方を覗き込む。
背ビレを氷上に出し、怪物が氷河を削って泳いでいる。
「えっと……炎と……後は高音にも弱かったはずです」
「火炎放射器とLRADだと?そんなものはない!」
自信なさげに答える
アグナコトル亜種が氷河から飛び出す。
回転しながら迫り来る巨躯をハンドルを右に切って避ける。車体の左前方にアグナコトル亜種が飛び込み、氷を砕きながら再び潜り始める。
「おい」
アキュラがRoRoを席に残し、少年の隣へ駆け寄る。
「ガンヴォルト、狙撃銃の腕前は?」
「フェザーで扱い方は一通り教わってはいるけど……」
「奴の目を狙って、怯ませろ」
席の下に落ちていた
フェザーに身を置いていた頃、
それを分かっていながら、氷に覆われた怪物の小さな瞳を撃ち抜くよう指示するアキュラに、少年が頷き返すことはない。
だが、他に方法はない──無理を押し通す時だ。
少年はアキュラから狙撃銃を奪い取ると、リアウィンドウから身を乗り出し、スコープを覗き込む。
氷上に背ビレだけを見せ、顔を氷盤の下に埋めながらアグナコトル亜種が猛追する。
「進路を変えずに真っ直ぐ進め」
少年の背後でアキュラが運転手に指示を飛ばす。
あらゆる生物の弱点となる目を狙える機会は、襲いかかる一瞬しかない。左右に避け続けては狙撃することは叶わないし、いずれは追いつかれてしまう。
「
背後でコートの男の金切り声がする。
砕いた氷塊を巻き上げながら蛇行する竜に照準を合わせる。視界が上下左右に激しく揺れ、かすみ始める。
──この車に攻撃を避ける気はない。
一発外せば車は大破し、そのまま氷河の藻屑だ。
額から流れた汗がまつ毛にかかりスコープの視界が滲み出す。少年は目をこすって覗き込むも、視界が震え始める。何度も深呼吸を繰り返すも、揺れは一層激しくなる。
「くそっ!」
震えが止まらなくなった自分の胸に拳を突き立て、再び狙撃銃を構え直す。
「ボウズ、背ビレをよく見ろ」
肩に固く温かな手が触れる。大団長が少年の隣に座り込み、耳元で優しげな声でエールを送る。
「飛び出す瞬間、奴は蛇行を止めるはずだ」
少年は縦に揺れる背ビレに照準を合わせる。
背ビレの蛇行の幅が小さくなる。
鼓舞するかのように少年の背中を叩き、大団長は助言を投げかける。
「飛び出す瞬間、奴は大きく身体を沈めるはずだ」
一、二と背ビレが縦に揺れ、三の掛け声に合わせて尾ヒレが氷盤に沈み込む。弧を描くように氷を泳ぐ軌道の先に照準を動かすと、碇口が氷河から顔を出す。
「撃て!」
少年が引き金を引いた。
アグナコトル亜種が大口を開けて車に飛びかかる。
十ミリ口径の弾丸が凍戈竜の碇口を横切り、獲物を見据える目に着弾する。
アグナコトル亜種が悲鳴を上げる。
勢いを失くしたアグナコトル亜種はそのまま氷盤に乗り上げ、二十メートルを超える体躯が氷の上で横滑りを起こす。
「よっしゃあ!」
大団長が歓喜の雄叫びを上げる。
腰を抜かした少年に、「ナイス!GV!」ときりんが駆け寄る。震える手を必死に隠しながら、「だ、大丈夫だよ」と震え声でハイタッチを済ませて、少年は後方を見やる。
アグナコトル亜種がすでに起き上がっている。
こちらを睨むも、その姿は小さくなりつつある。追跡を諦めたのか、その場から動かずに、空に向かって碇口を打ち鳴らしている。
安堵のため息が車内に広がる。
碇口から冷気が激しい
「舵を切れ!」
真先に大団長が叫ぶ。
碇口から青白いブレスが天へと伸びる。
冷水を圧縮したブレスが振り下ろされ、青白いレーザーが車に迫り来る。少年はきりんと青年の腕を掴んで車の前方へ飛び込んだ直後、車体が大きく右に傾く。
高圧の水ブレスが車の後部を二つに切り裂く。
後輪を失くした車は後部座席を氷河にこすりつけ、火花を散らしながら横滑りする。荷物が遠心力で飛ばされる中、全員が座席を握り締める。雪上車が傾いたかと思うと、少年たちを衝撃が襲う。雪上車が横倒しになり、その動きをようやく止めた。
「急げ!脱出しろ!」
ガソリンの臭いが立ち込める中、ヘング中佐が声を荒げて助手席の窓を割る。少年が先に雪上車から脱出し、搭乗者を次々と引き上げていく。
「嘘でしょ!」
降り立ったきりんの叫び声に、少年は篇算者を引き上げながら後方を見渡す。
遥か遠方からアグナコトル亜種が迫り来る。砕けた氷河を撒き散らし、怒りに身を任せて猛追している。
少年は車から飛び降り、「走るか……」と対岸を見やる。
アムール川の半分を過ぎた辺りだ。反対の川岸の姿は依然として視認できない、人の足で走っても追いつかれる。川底に潜む竜を迎撃できる楽観論はここにはない。
覚悟を決めて一歩を踏み出す。
その頭上を黒い影が覆い、全員が空を見上げる。
上空に輸送ヘリが滞空していた。ワイヤーロープを伝って軍人が次々と降下している。
「ヘング中佐!」
「お前たち……対岸で待機していたはずでは?」
敬礼する
「対岸はすでに包囲されています。恐らく作戦を両政府に密告した者がいます」
兵士の報告を受け、「何と……」とヘング中佐が絶句する。
「さぁ、急いでヘリに乗ってください!」
兵士がハーネスでヘング中佐の身体を固定して、上空のヘリに合図を送る。兵士のベルトに付けたワイヤーロープが一気に巻き取られ、上空へ引き上げられる。異界の住人もきりんも次々と氷河から空へと避難を始める。
「さぁ、捕まって!」
皇神の兵士が少年に手を伸ばす。
昔ならその手を振り払ったが、今はその場合ではない。
空へ上ったコートの男を見上げ、「丸くなったな」と独り言を呟き、少年は兵士に歩み寄る。
「ロロ!」
背後からアキュラの叫び声が聞こえる。
「おい!どこへ行く!戻れ!」
眼前の兵士が叫び、少年が背後を振り向く。呼び止める声を無視して、アキュラが煙を上げる雪上車の方へ走り出す。
向かう先に転がるのは一基のビット、RoRoだ。
車から投げ出されたRoRoをアキュラが抱きかかえ、駆け出した背後から凍戈竜の背ビレが迫り来る。
「駄目だ!間に合わん!」
助けに向かう少年を兵士の叫び声が引き留める。少年は肩を掴んだ兵士を見やり、再びアキュラの方を見やる。氷河を蹴り上げながら突き進むアキュラの真下までヒビが迫り来る。
不意にアキュラと目が合う。
アキュラは空を見上げ、少年に頷き返す。
「このままヘリを上げろ」
少年が兵士に指示を出す。
「おい、良いのか……」
戸惑う兵士に「ボクたちも巻き込まれる」と少年が頷き返す。兵士は無線越しに指示を飛ばし、受け取ったヘング中佐が高度を上げるよう怒号を飛ばす。
ハーネスを身体にくくりつけ、少年の身体が宙を浮き始める。空から響く怒号が、下から轟く氷河を砕く音にかき消される。
「捕まれ!」
空に吊るされた少年が手を伸ばす。
アキュラが氷河から飛び上がり、ジェット噴射で空を翔ぶ。
少年の手がアキュラの腕を捉えた。
「置いていくつもりか?」
「まさか」
二人が軽口を叩くその下、氷河からアグナコトル亜種が空に向かって飛び出す。大口を開けて獲物を捕らえんと、氷河から全身を伸ばして追跡する。
背後からワイヤーを巻き上げる鋭い音が響き、身体が一気に上空へ引っ張られる。
碇口を閉じる音がアキュラの足下で弾ける。
空へ飛び出したその巨体は氷河に落ち、水飛沫が空高く打ち上がる。川底から再び顔を出したアグナコトル亜種は東へ飛び去るヘリに向かって虚しく咆哮を繰り返した。
皇神の輸送ヘリが日本に向かって南下する。
「巡洋艦十隻、湾岸の配置に着きました!」
「日本海溝ラインの配備はどうなっている?」
ゾラ・マグダラオスの迎撃網を敷く声が響く。
「……丸聞こえなんですけど」
皇神の戦力が嫌でも耳に入り、きりんが苦笑いを浮かべる。
「なりふり構っていられないからだろうな」
RoRoの機体を拭きながら、アキュラが現状を評する。
少年とアキュラは皇神からテロリストと認定されている。彼らに皇神の保有戦力を聞かれる訳にはいかない。だが、ヘリでの移動中もゾラ・マグダラオスは容赦なく日本へ侵攻を続け、猶予はますます削られている。
ヘリから作戦本部に指揮すると決めたヘング中佐はあり合わせの荷物で仕切りを作り、少年たちをその区画に押し込んだ。別室に隔離していたと後で言い訳するための方便だ。
「この岩殻をどう破壊するか……」
ホログラムに映るゾラ・マグダラオスを見上げ、ヘング中佐が顎をさする。
ゾラ・マグダラオスの表皮には悠久の時を経て堆積した岩肌がまとわりついている。幼体時から積み重ねた堅牢な岩殻は、たとえ古龍がその剛腕を振るっても砕けることはない。
「撃龍槍があれば苦労はしないのだがな」
大団長が呟く隣で、ヘング中佐はしきりに頭を抱える。
撃龍槍──その回転で岩殻を掘り進み、かの龍の皮膚を貫いた異界人の叡智の結晶だ。討伐作戦と同じ種族である以上、間違いなく撃龍槍は討伐の決め手となるだろう。
難題はただ一つ──撃龍槍がこの世界に存在しないことだ。
回転するドリルを固定する台座を半日で海洋に建造するのも、巨大なドリルを一日で生産するのも無理な話だ。
ならばと、ヘング中佐は宇宙を見上げた。
皇神が保有するアメノウキハシを始めとした衛星の中に、高出力レーザー兵器を備えた衛星兵器がある。宇宙から大地に向けて放たれる高エネルギー密度の光線なら、怪物の皮膚を穿つかもしれない。
だが、その威力はあまりに強大過ぎた。
発射軌道に入るまでにゾラ・マグダラオスが沿岸に近寄り、爆風と大津波で本土が跡形もなく吹き飛ばされると言う試算がすでに弾き出されていた。
結局、辿り着いた結論は力押しだ。
ミサイルの物量に物を言わせて少しずつ外殻を削る。そのために、駆逐艦も巡洋艦も総動員で海洋に待機させている。
ヘング中佐はチャンネルを切り替えて無線を飛ばす。
「ありったけの兵器をかき集めてくれ。渋るようなら札束か鉛玉で黙らせろ」
無線越しから流れる困惑声を切り、ヘング中佐が一息つく。
「君達には感謝せねばな。ありがとう」
助言を出していた篇算者と大団長に頭を下げる。
「危うくミサイルが足りないまま挑むところだった」
「礼には及ばんさ」
大団長がヘング中佐の肩を叩いたところで、ヘング中佐の腰に下げた無線機からノイズが走る。
「ヘング中佐、
「
無線機から流れた言葉にヘング中佐が首を傾げながら通信機につなげ直すと、「ハロー、ハロー」と片言の日本語が輸送ヘリ内に響く。
少年たちも荷物の影から顔を出し、司令部の様子を窺う。
「長官のフォートレスだ。司令官はいるかね?」
「私です。皇神グループ侵略種駆除部隊のヘング中佐です」
ヘング中佐がマイクに向かって答える。輸送ヘリ内に走る緊張を感じ取り、異界の住人も思わず黙り込む。
「怪物への攻撃を直ちに中止し給え」
侵攻する怪物への迎撃停止要請に居合わせた誰もが言葉を失う。「大統領直々の勅令である」と早々に連絡を切ろうとするも、我に返ったヘング中佐が「お待ちください!」と引き留める。
「一国の自己防衛権にどうして米国が口を挟むのですか?」
通話口から人を小馬鹿にしたようなため息が漏れる。
「あの怪物は火山のエネルギーを内包しているそうだね」
要領を得ず、「一体、何を……」とヘング中佐が生返事する。
「ラニーニャ現象だよ」
通話機からの声が淡々とシミュレーション結果を流す。
「火山のエネルギーが放たれ、日本近海の海水温度が上昇し、我が国の西海岸で異常なまでの乾燥、ひいては、干ばつを引き起こす」
「え?そんなことあり得るの?」
筒抜けとなっている通信内容にきりんが疑問を呈する。少年はしばらく唸り、「分からない」と結論づける。
「本来、ラニーニャ現象は長期間に渡って続くものだ。あの龍の熱エネルギーで数年間も乾燥が続くなんて……」
少年はその先の言葉を飲み込む。
相手は異界の生命体だ。
現代科学では説明のつかない理が付与されているのは、あの巨体が地球に存在する事実から見ても明らかだ。
それ故に、シミュレーション結果は多岐に渡る。
「もしかしたら、あり得ないと自覚はしているだろうね」
提示された計算結果から、起こり得ない最悪の事態を選ばざるを得ない。国防を務める長として妥当な判断だ。
「まぁ、万が一の責任は取りたくないわね……」
きりんと少年が通信を傍観している間にも、通信機の向こう側の声色に圧が帯び始める。
「特にカリフォルニアは大統領にとって大事な票田でね。君たちが勝手に討伐して、有権者の家が山火事に巻き込まれたとなったら、政府批判は避けられない」
「では……我々の国民を見殺しにしろと?」
ヘング中佐はマイクに顔を近づけ、声を落として威圧する。
だが、通信機からは嘲笑ばかりで、明確な返答はない。
「口を慎み給え、ヘング中佐」
ヘリ内に甲高いノイズが駆け巡り、通信に横槍が入る。
ヘング中佐が目配せする。
その先にいた兵士が、「皇神の……上層部からです」と震えた声で返答する。上層部と言う言葉を聞いて少年たちは勢い良く立ち上がり、司令部の方へ歩み寄る。
上層部の人間が、ただ一言、命令を告げる。
「米国との関係を悪化させるわけにはいかない」
「民に被害が及ぶのですぞ!」
テーブルを叩いて声を荒げるヘング中佐に、「無能力者ごときが口答えをするな」と先とは別の声が叱責する。
「それを今から我々が検討する。決定が下るまであの怪物への攻撃を禁ずる」
「これは命令だ、ヘング中佐」
攻撃の停止を求める声が少なくとも四つ、ヘリに響き渡る。
ゾラ・マグダラオスが侵攻する先には多くの罪なき民が、大切な仲間が、家族が住んでいる。
少年がヘング中佐を睨む。アキュラもヘング中佐の動向を見守る──兵士たちも同じだ。
「ヘング中佐」
通信機から国防長官の声が響く。
「君がするのは現場の指揮ではない。
その声を契機に、
「諸君……」
ヘング中佐がマイクのスイッチに手を伸ばす。マイクに近づけた唇を震わせて指令を飛ばす。
「命令が下るまで……待機だ」
マイクを切り、ヘング中佐はその場にへたり込む。
項垂れるヘング中佐に批難が飛び交う。
──娘がいるんですよ!
──お袋を見殺しにするつもりか!
皇神に属する彼らは守るべき者のために戦ってきた。決して皇神の営業利益のためではなく、自らの意思だ。
「すまない」
だが、ヘング中佐にも守るべき者がいた。
そして、皇神はそれを簡単に奪う力と残忍さを持ち合わせている。皇神の軍部、かつての七宝剣に携わっていた彼は皇神の残酷さを熟知していた。
家族を人質に捕られた中佐に、叛逆の牙はない。
床でへたり込むヘング中佐に大団長が歩み寄る。その前に佇んで腰を落とし、大団長はヘング中佐の肩を叩いた。
「骨のある奴だと思ってたがな……」
立ち上がった大団長がヘング中佐を見下ろし、「残念だ」と一言口にする。すっかり小さくなった中佐の姿をどこか寂しげに見やり、ホログラムに浮かぶ熔山龍の姿を見上げる。
大団長がため息をつくと同時に、皆が黙り込む。
上層部の意思決定がなされるまで攻撃はできない──ヘング中佐に野次を飛ばしても事態は好転しないと兵士たちは気づき始めていた。
「皆さん」
ヘリのローター音が響く中、篇算者が声を張り上げる。
兵士たちが依然として諦観した瞳で篇算者を見やる中、「まだ何とかなりますよ」と編纂者が一人、自信に満ちた含み笑いを浮かべる。
「何を呑気なことを……」
「ハンターだったら、こんなコトで諦めないですよ」
声を荒げるコートの男に、篇算者が言い返す。痛いところを突かれ黙り込むコートの男を押しのけ、きりんが篇算者に尋ねる。
「だけど、攻撃をしないでどうするつもり?」
「撃退を目指します」
その言葉に皆が首を傾げる中、「地図を出してクダサイ」と篇算者が近くにいた兵士に依頼する。ゾラ・マグダラオスを映していたホログラムが海洋地図に切り替わる。
「進行方向を変えてしまうんです」
日本の南沖に光る赤い点、ゾラ・マグダラオスの現在位置を指差すと、その指先がそのまま日本の東海岸へ反れるように動き、太平洋を横断して米国の西海岸にぶつかる。
「この距離なら意思決定までの時間は稼げます」
「ふざけたことを抜かすな」
コートの男が篇算者に詰め寄る。
被害を出したくないと表明する米国に熔山龍を仕向ける行為は許されざる背徳だ。生き物の制御は不可能と言い訳を並べて外交問題を解決しても、根本的な問題が残っている。
「進行方向を変えるのに攻撃が必要だろう」
それをアキュラが指摘する。
かの巨体をワイヤーで引張るにしても、熔山龍の反撃を止めるには攻撃が欠かせない。
「ゴーグ!」
青年が何かを思いついたかのように言葉を叫ぶ。篇算者が指を鳴らし、「そう、音です」と得意げに語る。
「大きな音で進行方向を曲げレバ良い」
嫌がる音を鳴らして進行を切り替えさせる。簡単そうに告げる篇算者に、「あの巨体に通用するの?」ときりんが首を傾げる。
「砂上船の大銅鑼でモーラン種を怯ませてイマス。試す価値はあると思います」
異界のロックラックやバルバレ近郊の砂海に棲息するモーラン種を例えに上げる。敵対した砂上船へ突撃するモーラン種を大銅鑼の音で怯ませ、船の損傷を防ぐ戦法が取られている。その音を聞いたモーラン種は突進を止めて船から離れていく。
種族は違えど、同じ生き物なら通じるかもしれない。
篇算者がそう力説するも、その存在を知らない者たちから一様に疑いの目を向けられる。
「そうか……アクティブソナーだ!」
ただ一人、コートの男が先に口にする。
潜水艇を探知するために使われる高周波発生装置を備えた巡洋艦は何隻も海洋に留まっている。
「だけど、それって結局、攻撃になるんじゃないの?」
きりんの指摘に、「バレなきゃダイジョーブデスって!」と篇算者が目を逸らす。
超音波攻撃と言えば聞こえは悪いが、ミサイルのように目に見える爆風は起こらない。現場に下りることのない人間を欺くならば十分だ。
「そこは無計画なのか……」
コートの男が深い溜息をつき、床に座るヘング中佐の腕を持ち上げる。力なく立ち上がったヘング中佐を椅子に座らせ、「どうする?ヘング。諦めるか?」と詰め寄る。
「まもなく日本の領空に入ります」
輸送ヘリ内に響くアナウンスと共に、ヘング中佐は「ああ、やろう」と作戦決行の意を告げた。
小話
登山用語にも限りがあるので、そろそろ話を切り上げたいが、まだまだ続くかもねという感じ。
ガンヴォルト世界は一応日本と言う舞台らしいのですが、他国との関係はあまり明示されていません。皇神だけが異能力者を独占できるとは思えないですが、各国に戦力を貸し出す傭兵業もしているのですかね?