蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER   作:kocolokoro

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 蒼き雷霆ガンヴォルトとモンスターハンターの二次創作になります。


第三話 世にはばかるは傍若無人

 少女が泣き止むまでに、建物の影から浮浪者が絶えず覗く危険な夜になっていた。治安の良い近未来都市と言えど、ここはスラム街のど真ん中。薬物や人身売買、強姦(ごうかん)と言った数々の犯罪がひしめき合っている。そこに衆目引く若い男女が二人きりでいるのだ。どのような理由であれ、つけ狙うのは当然だ。だが、二人の隙のない立ち姿を見て、品定めする視線は次々と消えていた。

「アタシの名前はきりん。戦巫女(いくさみこ)……古くから伝わる退魔士のようなものと思って」

 少女が自己紹介する中、少年は少女の腰につけた太刀をじっと見つめていた。

 名刀と思しき業物だ。スラム街の真中でも全く物怖じしないどころか、警戒を怠る様子はない。佇まいに秘められた一連の所作を見て、少女が名のある手練れだと少年は認識する。

「き、きりんさんは」

「呼び捨てで良い。なんかダサいから」

 少女こと、きりんが即座に否定する。呼びにくい名前に内心困り果てていた少年は咳を払って、「どうしてボクの名を知っているの?」と問いかける。

「やっぱりそうかも……」

 きりんはブツブツと呟き、一呼吸入れる。辺りの空気がピリッと張り詰める。冷たい氷のような視線が少年に向けられる。深刻な話が始まる予感がして、少年は背筋を伸ばした。

「アタシ、未来から来たの」

 少年が脱兎の如く駆け出す。

 その刹那、「ま、待ってよ!」と声を上げ、きりんが少年の肩を鷲掴みにする。

 電気を流し反射神経を強化した少年をあっさりと捕まえた、未来人と称する不思議ちゃん系少女の俊敏さに少年は驚愕する。振り解こうともがく少年の下あごを掴み、きりんは少年を頭上へ向けさせる。

 二人の頭上には、一人分の大きさはある黒い渦が浮かんでいた。渦から飛び出す黄金の粒子のようなものが渦の周りを舞い、渦の漆黒を闇夜に色濃く映し出していた。

 少年は思わず目を凝らす。

 黒い渦が萎んで消えた。

 目の前の超常現象に、少年は口を開けたまま固まっていた。

「アタシの世界で、あの黒いゲートがあちこちに現れたの。それで、調査してたら急に吸い込まれて……」

「ボクは幻を見ているのか?」

 ポツリと呟く少年。どこか上の空だ。

「GVは相変わらず疑り深いね」

 きりんは優しく微笑んで、少年の頬をつねった。

 顔を歪める少年を前にして、「どう?現実だった?」ときりんは意地悪な笑みを浮かべ、言葉を続ける。

「ここから未来の世界で、少しの間だけGVに仕事を手伝ってもらっていたの。久しぶりに会ったから、感極まっちゃって……ごめん」

 しおらしく涙腺を緩めるきりんを見つめながら、少年は改めて状況を整理した。

 

 きりんの言葉の端々に嘘はない。

 黒い渦は謎だけれど、ただ事ならない代物であることは、この目で確かめた。そして、今も続く頬の痛みは紛うことのない現実だ。

 

「にわかには信じられないけど、取り敢えず事情は分かったよ」

 少年はきりんの話を一度受け入れた。

 荒唐無稽な話をしている自覚はあるからか、きりんは少年の言葉を聞いて、目尻に寄せた緊張のしわを緩めた。

 少年はおもむろに辺りの暗闇を見渡し、きりんに提案する。

「詳しい話は家でしない?立ち話をするには物騒すぎる」

 スラム街の夜は危険に満ち溢れている。二人の身体を狙う獰猛な瞳はまだ影の中で輝き続けている。少なくとも、井戸端会議に相応しい場所ではない。

「やっぱり、GVなんだね」

 満面の笑みを浮かべるきりん。「どういうこと?」と尋ねる少年に、きりんは無邪気なしたり顔を浮かべた。

「普通、初対面の女の子を家に誘う?」

「そんなつもりはないよ!」

 赤面しながら慌てふためく少年をからかい、きりんがスラム街を走り出す。

 後を追う少年の足取りはすっかり軽くなっていた。

 


 

 寝静まった閑静な高級住宅街の一角に明かりが一つだけ灯っている。周りに防犯カメラはなく、小さな菜園に不格好な案山子が立っているだけの不用心な屋敷だが、つけ狙う泥棒はいない。屋敷の中も給仕(メイド)は一人もおらず、ただ一人、屋敷の主であるオウカがうろついているだけだ。

 少年の帰りがあまりにも遅すぎる。

 すっかり冷めたオムライスを横目に、オウカは広いリビングをずっと歩き回っていた。

 すっかり忘れていた争いの気配がした。

 少年が戦いに明け暮れていた頃、「すぐ帰る」と任務に出ては、明け方まで帰らないことはあったし、突然夜中に屋敷を飛び出すこともよくあった。オウカは少年の強さを信頼していたが、その実、五体満足で帰ってくることを祈り、怪我だらけで帰る少年の姿を見ては胸が締め付けられる日々を送っていた。

 かつての抗争の日々、心を痛める夜が続く前触れではないかとオウカは気が気でなかった。

 チャイムが鳴る。

「ああ、GV!おかえりなさい……」

 オウカは頬を緩め、玄関に駆け寄り、扉を開け放つ。

「ただいま、オウカ。紹介するよ。この人はきりん」

 少年の背後に見知らぬ女性がいた。「よろしく」と笑顔で手を振る女性に、オウカはゆっくりと手を上げる。

「GVが……」

 ボソボソと呟き、オウカは固まった。少年が首を傾げて呼びかけるも眉一つ動かない。しばらく声をかけ続ける内に、少年はオウカの肩が震えていることに気づいた。少年は思わず肩を触ろうとした瞬間、オウカが遂に声を上げる。

「知らない女の子、連れてきた!」

「ちょ……オウカ!」

「女の子の家に居候してるGVが他の、お、お、女の子を連れ込んで……それで………!」

 オウカは混乱している。

 弟のようにかわいがっていた少年が、いきなり見ず知らずの女性を家に連れてきたら、誰もが動揺する。ましてや、オウカと少年は血の繋がりのない赤の他人だ。初対面で家に連れ帰ったきりんに遠慮できても、家で待たせたオウカのことまで気を回せなかった少年に落ち度がある。

「落ち着いて!オウカ!」

 なだめる少年の背後で、きりんは愉悦に浸っていた。

 


 

「見苦しいところをお見せして、申し訳ありません」

 少年に諭され、ようやく落ち着きを取り戻したオウカが顔を赤らめ、きりんに非礼を詫びる。

「いいの、いいの。GVって女タラシなところあるから」

 きりんは笑い飛ばしながら、あり合わせの料理を口にする。耳が痛くなる話に聞こえないふりをして、少年はオムライスにかぶりつく。

「それで、さっきの話の続きだけど」

 どこか気恥ずかしくなった少年が話題を切り替える。鶏肉を食べていたきりんが、「そうそう」と箸をクルリと回す。

「さっきの黒い渦はもう閉じちゃったし、元の世界に帰る方法が知りたいのよ」

 少年はオウカと顔を見合わせ、首を横に振る。きりんは「だろうね」と呟き、空になったプレートに箸を置いて、「ごちそうさま」と手を合わせる。

「じゃあさ、最近、変わったことはない?」

 二人はまた互いに顔を見合わせ、「赤い竜とかかな」と答える。少年がタブレットを取り出し、ネットに流れている今朝の赤い竜の映像をきりんに見せた。

「うわ、すご……」

「もしかして、赤い竜も未来の世界から来たとか?」

 赤い竜を見て言葉を失うきりんに、少年が尋ねる。

「ただ、この世界にもいない竜が突然現れたのよね。無関係とは言い切れないかも……」

 きりんは小さく首を横に振り、口元を押さえながら何やら色々な推論を呟いていた。その間に少年はオムライスを食べ終え、テーブルの上のプレート皿を流し台へ運び始める。後からやってきたオウカに、「ボクが洗うよ」と遠慮したところで明かりが消えた。

「て、停電?」

 非常用電灯の小さな明かりがリビングを照らす。「ブレーカー、見てきます」とオウカの声と足音がする。

「いや、ここら一帯が停電みたいね」

 きりんがタブレット画面の明かりを強くした。足音が止み、二人はタブレットの明かりに近寄って画面を覗き込む。

 一部地域で停電が発生したと言う旨の緊急速報と、停電地域の地図が合わせて表示されている。

「確か、管轄の発電所はバベルだったかしら?」

 オウカの何気ない一言に、少年は驚きの声を上げる。「どした?GV?」と気の抜けた返事を返すが、少年は黙り込んだままだ。少年のことを知る二人が互いに顔を見合わせて頷く。

「オウカ、きりん。ボク、ちょっと行ってくる」

「こんな夜遅くにですか?」

 オウカの声が暗闇に響く。

 少年は頷き、身体の周りから青いスパークを放ってリビングを眩しく照らし、クローゼットへ駆け寄る。そこから取り出したのは、青色のコート、蒼き雷霆(らいてい)と呼ばれる所以の戦闘服だ。

 戦いに赴こうとする少年の前に、オウカは立ちはだかる。戦闘服に袖を通す少年はその意図に気づいていない。

 心が癒えていない、少年は戦いから離れるべきだ。

 少年を最も身近で診てきたオウカの診断であった。

 ようやくオウカに気づいた少年が、寂しげな笑みを向ける。以前のような、根拠のない自信に満ちた底抜けて明るい笑顔はそこにない。

 二度の戦いで、少年の心は確実に傷ついている。

 そう確信したオウカは少年にまた一歩と歩み寄る。

 だが、行かせたくないと願う気持ちに反して、オウカの心には諦めがあった。自分は一般人で、相手は異能の力を持つ能力者だ。オウカに少年を止める術はなかった。

「待って、アタシも行く」

 声を上げたのはきりんだ。

 きりんはオウカの横に立ち、オウカにウィンクを送る。「でも……」と困惑する少年に、きりんはあっけカランと笑った。

「良いから、良いから。アタシも戦い慣れしてるし。GVと一緒に仕事したことがあるってとこ、見せないとね」

 腰にぶら下げた刀を、わざとらしく見せびらかす。

「分かったよ。だけど、危ないと感じたらすぐ逃げてね」

 きりんの実力を思い出した少年は、あっさりと同行を認めた。「りょーかい、GV」とサムズアップするきりんの隣で、「ありがとう」と呟くオウカの言葉が少年に届くことはなかった。

 


 

 夜空に浮かぶ満月に、夜空を彩る星の光。

 それだけでは物足りないと文句が聞こえてきそうな闇夜の都心のハイウェイを一筋の蒼の光が駆ける。その光はパトランプの光をすり抜け、黒い海に向かっている。

 黒い海には、一本の影が水面の満月を半分に割っている。海峡をまたぐ大きな吊橋だ。都心の電気を(まかな)う発電所バベルが鎮座する人工島への唯一の道に、蒼い光が差しかかった。

 青い光の中に、サイドカーに乗る二人の少年少女の姿があった。メタリックな輝きを放つサファイア色のレーサーバイクに少年がまたがり、サイドカーできりんが刀身を(あらた)めている。

「橋一本かけた先に発電所とか、皇神(スメラギ)も金かけてるよね」

 所在無げに呟くきりんに、「あ、ああ……」と少年は短く答える。

 未来から来たきりんの口から「皇神」の言葉がさり気なく出てきたが、これは未来でも皇神は存続していると言うことだろうか。

 憎まれっ子世にはばかるとはよく言うが、皇神が世にはばかる未来は、少年にとって想像に耐え難いものであった。

「逃げ道がこの橋一本だけだから、警備も楽だろうしね」

 少年は首を振り、ハンドルを回す。

 エンジンが唸りを上げ、少年がばら撒くプラズマが光となって海上の満月を裂く。

 吊橋を渡り終え、二人は発電所の前にたどり着いた。正門近くの倉庫の裏にサイドカーを隠し、二人は発電所の周りをおもむろに歩き出す。

 

 嫌に静かだ。

 

 皇神のアナウンスによると、無人の潮力発電所らしい。いくつもの人工島で海の流れを捻じ曲げ、国際会議の場で掲げた二酸化炭素削減目標を達成し、国際環境賞を授与した大型発電所だ。そして、無人にすることで社員の車による移動を減らし、排気ガス削減にも貢献したとも紹介されている。

 

 多少なりの機械音の一つすら聞こえないし、点検に訪れる人影すらない。少年は静けさの中に不気味さを感じながら、辺りを散策していた。

「GV!これ、見て!」

 きりんが声を上げた。少年が駆け寄る。

 円盤のような物が落ちていた。円盤に付いた四つのプロペラは黒ずみ、円盤のカメラのレンズは粉々に割れ、円盤から伸びる銃身は先でひしゃげている。

「警備用のドローンだ」

 少年は大破したドローンに手を伸ばし、黒ずんだプロペラに触れる。指先に熱が伝わり、少年は思わず手を引っ込める。揺れたプロペラの羽根から(すす)が舞い落ちた。

「焦げ痕?」

 焼け焦げた痕跡に少年は押し黙って考え込む。ドローンの電池が延焼したとは考えにくい熱量だった。少年はきりんに意見を求めようと背後を振り向いた。そこには、発電所の外壁をよじ登るきりんの姿があった。 

「危ないよ、きりん!」

「大丈夫だって。ちょっと中を覗くだけだよ。それに、ホラ、センサーも壊れてるみたいだし」

 すでに登り終えたきりんが、外壁に取り付けられたセンサーを刀の柄で小突く。侵入者を検知するレーザーを出すセンサーは、きりんの侵入に反応しない。予備電源も動いているはずだが、ドローンと同じ焦げ跡は見当たらず、さながらショートしたかのようだ。

「GV!誰か倒れてる!」

 きりんが叫んだ。

 壁の内側へ飛び降りたきりんの後を少年が追う。「ちょっと!大丈夫!」ときりんが倒れている男の身体を揺さぶっていた。少年が駆けつけ、頬を叩いて声をかける。

 倒れている男は皇神の戦闘員だ。過去の戦いで何度も見た重装備をしている。手榴弾(グレネード)は装着されたままで、耳につけたインカムからは火花が散っている。

 少年は指先を男の口に当て、男の防弾チョッキを剥いだ。呼吸が浅い。気絶していて、危険な状態だ。男の身体はすでに歪んでいて、肺を守る肋骨(ろっこつ)が何本も折れているようだ。人工呼吸すらままならない、予断を許さない状態だ。

「アンタは……」

 男が目を覚ました。

 痛みに悶える男を、少年が抑えつける。手ぶりでゆっくり深呼吸するよう促す。男の呼吸がはっきりと聞こえるようになった頃合いを見て、少年が尋ねる。

「一体何があったんだ?」

「バケモノだ……」

 背後から大地を踏みしめる足音が聞こえた。

 少年ときりんが揃って振り向く。

 月光が届かない闇の中で、黒い影が動いている。足音が大きくなったと思うと、槍のような鋭利な(くちばし)が月明かりの下に晒される。怒りに満ちた瞳に走る大きな傷跡が、鬼の角の如く天に伸びる耳すらも切り裂く。

 

 それは終わりない闘争を求める黒の凶兆。

 紫毒の尾を揺らし、接敵するは黒の怪鳥。

 戦いを告げる銅鑼の音の如き咆哮を上げる一匹狼の名は、黒狼鳥、イャンガルルガ。

 




小話
 2話目のタイトルはMH4の「狩人は天晴の夢を見る」が元ネタ。筆者はネルスキュラの毒操虫棍、風圧大無効、高級耳栓とガチガチに対策してソロで挑みましたが、龍風圧に竜巻ブレスでワンパンされ、そのままDSを閉じました。ソロクリアできるのか?あれは……
 後、オリキャラも出していますが、基本的には「悪い奴なんだー」くらいのスタンスで見ていただければと思います。
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