蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER   作:kocolokoro

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蒼き雷霆ガンヴォルトとモンスターハンターの二次創作です


第三十話 海原に舞う紅のブロッケン

 0と1が織りなすデジタル空間を一つのデータ群が翔ける。

「久しぶりの自由、最高」

 セーレスは生配信動画やSNSメッセージを載せたデータ群の中を泳ぐ。怪物が迫る中、逃げることすらせず海岸でバズりを狙う者の活動の証が奔流の如くネット空間を跋扈(ばっこ)する。

 このネットが消えない限り、謡精は永劫に生き続ける。

「これが自己承認要求。勉強になります」

 傍を流れる動画データを掴んで中身を閲覧し、それを手の平に収めてクシャリと握り潰す。

「ああ、これは良い唄ね」

 耳元を流れた名もなきミュージシャンの動画を捕まえてスキミングし、そのままあらぬ方へと投げ捨てる。

 解き放たれた電子生命体はネットを流れるデータを破壊しながら、電子の海を謳歌する。

 

 


 

 

 少年たちが居を構える神園(カミゾノ)家の別荘から遥か南、都心の中枢に皇神(スメラギ)本社がそびえ立っている。

 そこから徒歩五分にある大手系列の喫茶店に、皇神の兵士が慌ただしく出入りする。二人組で段ボールを忙しなく運び入れ、店内のテーブルの至る所に通信機器が並べられる。

「よし、声は聞こえてるか?」

 中央テーブルに無線機を持って居座るのは大団長だ。

 その隣で篇算者(へんざんしゃ)と青年が作戦の行く末を見守り、皇神の兵士が彼らの監視を続けている。

「あ、あのぉ……」

 キッチンの奥から店長らしき男が顔を出す。

「お客さんが来なくて、代わりに皇神の軍人様に貸し切っていただけるのはありがたい話ですが……」

 銃を持って押しかけてきた皇神の兵士に、店長はヘコヘコと頭を下げながら近寄る。

「アッシも避難した方が良いですかね?」

 店内のテレビに映る超巨大生物の報道番組に、店長は頻りに目を向けている。政府から厳戒令が敷かれ、その生物の居場所に関するリアルタイムの報道は途絶えたままだ。店番を任された男は業務命令と逃げ出したい欲求の板挟みに遭い、身動きが取れずにいた。

「お願いします。必要でしたら、売上金を輸送する警備を何人か付けましょうか?」

「いえいえ、ここの方がお金も安心だ」

「極秘作戦ですので、この事は内密にお願いします」

 頭を下げる皇神の兵士に、「ヘヘッ」と作り笑いで驚きを取り繕い、店長が店を後にする。

 皇神本社の作戦本部は上層部から監視され、その機能はすでに停止している。ヘング中佐は本社をダミーとし、真の作戦本部を皇神とは無関係の喫茶店に移すことにした。自らは上の気を引くために本社に残り、司令官の全権を大団長に託した。

「聞こえていたら返事!」

 指揮を託された大団長が声を荒げる。

 大団長の意気込みが強まると、兵士の間に緊張が走る。

「大団長……」

 大団長に篇算者が駆け寄り、無線を取り上げる。

「電源が入ってないです」

 篇算者がスイッチを入れると、無線の音声が流れ出す。ヘング中佐からの操作説明を忘れていた事実をごまかす気すらない様子で、「ああ、すまんな」と快活な笑顔で笑い飛ばす。

 その無線が繋がる先は、都心から遥か南の海洋を北上する一隻の巡洋艦の艦橋(かんきょう)だ。

「こちら、オオヤマツミ!本部、応答願う、どうぞ」

 艦長が無線に返答する。

 程なくして「ああ、聞こえている」と作戦本部から大団長の通信が入り、艦長は司令室後方の窓に歩み寄る。

 漆黒の山──ゾラ・マグダラオスの背ビレが迫る。数十メートルは下らない第一艦橋から更に見上げねばならないほどの高度を誇る背ビレがこの巡洋艦、オオヤマツミの背後にそびえ立つ。

 艦長は標的の巨体に思わずため息をつき、顎髭を蓄えた口元に無線を近づける。

「これより、対熔山龍バリアー作戦を遂行する、どうぞ」

「了解」

 本部からの許可を確認し、艦長は無線のチャンネルを切り替えて艦内に指示を飛ばす。

「船尾!ソナーブイを放流せよ!」

 巡洋艦の船尾に重ねられた黄色のブイがクレーンで持ち上げられ、海洋に放たれる。ワイヤーで繋がったブイが次々と投入され、潮の流れに乗ってゾラ・マグダラオスの頭部へ流れ着く。

「標的位置、四時方向。五ノットで十二時方向に進行中」

 観測手から標的の情報がもたらされる。

「海面水温、五十度。波高、最大三メートル。海流、最大六ノットで大きく変動。標的近辺の海流方向は測定不能」

 測量士が衛星データの解析結果を報告する。

 超音波発生装置を備えたブイ、ソナーブイは海洋に浮かんでいるだけだ。取り付けられたモーターによる最低限の遠隔操縦は可能だが、ゾラ・マグダラオスの遊泳が引き起こす荒波を跳ね除けることは叶わない。ソナーブイと繋がった巡洋艦ごとゾラ・マグダラオスの進行に伴う大潮に巻き込まれてしまう。

「船尾、ソナーブイを切り離せ!」

 艦長の指揮と共にクレーンに繋がったワイヤーが分離し、ブイだけがゾラ・マグダラオスの方へ流れて行く。

「超音波発生装置、起動!」

 双眼鏡で海洋に浮かぶブイを見届けた艦長が次なる指示を飛ばすと、技術士が計器類のダイヤルをひねり、レバーを引く。ゾラ・マグダラオスへ近づくソナーブイから音波が発生する。数珠のように連なるソナーブイから発せられた音波は水圧を押しのけ、ゾラ・マグダラオスの頭部に迫る。

「周波数一二〇〇ヘルツ、音圧一二〇デシベル」

 技術士がダイヤルの数値を上げる。上空を通過するジェット機の騒音と同じ超音波が、すでにゾラ・マグダラオスを襲っている。

「標的、依然として進行方向に変化なし!」

 だが、熔山龍は動じない。

 観測手からの報告に、技術士はダイヤルをひたすらに回し続ける。あの化物にも聴覚が存在し、忌避音がどこかに存在すると信じる他に道はない。

 その音波は遂に波音で打ち消すことができず、海鳥がこぞって逃げ出し、外の爆音が艦内にも響き始める。艦長は祈るように腕を組み、ゾラ・マグダラオスの行く末をただ見守る。

「報告!標的の進行方向が五度!一時方向に五度変化!」

 観測手がゾラ・マグダラオスの進路変更の一報を告げる。

「よっしゃあ!」

 北東方向に巨大生物を動かした──この事実に艦内だけでなく、無線越しで一部始終を聞いていた大団長達も揃って歓喜の声を上げる。

 喫茶店がにわかに活気づく中、無線越しの海上では作戦が続行している。

「第二部隊に交代!船員はブイの取り付けを怠るな!」

 初陣を飾ったオオヤマツミが舵を大きく北西方向に切る。その後方から二隻目となる巡洋艦が速度を上げて迫り、ゾラ・マグダラオスの左斜め前方に割り込む。

「こちら、イワナガヒメ。目標位置に着いた。これより、ソナーベイを放流する」

 二隻目の巡洋艦、イワナガヒメの艦長から報告を受けたオオヤマツミの艦長が、「許可する」と告げる。イワナガヒメの船尾からソナーブイが再び放出され、ゾラ・マグダラオスの左側面から迫る。

 順調に作業が進んでいる様子を無線越しから確認し、大団長が一息つく。テーブルに広がる海洋地図のホログラムに映し出される熔山龍の軌跡を眺め、大団長が側にいた篇算者に尋ねる。

「後はどれくらい角度をずらせば良い?」

「後、北東方向に十五度ずらせればいけると思います」

 篇算者はテーブルに浮かぶ赤い点に指を合わせ、その目的進路を指さす。篇算者の指先が突き出た半島の南東部に触れる。

 

 余裕を見れば、二十度は欲しい。

 

 大団長は側にいた兵士に、「船はあと何隻ある?」と呼びかける。兵士が手を伸ばしてホログラムを拡大させると、赤い点の西側に五つ、北側に五つの白い点が浮かび上がる。

「現在、五隻が怪物の左腕を並走しています。残る五隻も北緯三十八度の防衛ラインに配備されています」

「五隻……五か……」

 (しき)りに呟く数字に「何か問題でも?」と兵士が尋ねる。大団長は首を振って忌むべき数字を胸の内にしまい込み、無線を飛ばす。

「引き続き作戦続行だ」

 無線の先で連絡を受けた十人の艦長が各々頷く。

「だが、気をつけろ」

 作戦の続行に向けて動き出そうとしていた艦長の足が止まる。大団長はゆっくりと息を吐き、無線機を近づける。

 

「相手は火を吐く生き物だ。油断はするなよ」

 

 ──了解!

 

 十人の艦長の声が揃い、五隻の巡洋艦の艦隊が速度を上げたゾラ・マグダラオスの左腕を並走する。二隻目のイワナガヒメの船尾からブイが次々と流れ込み、騒音を発しながら熔山龍の頭部左側に漂流する。

 騒音を嫌がるかのように熔山龍の頭部が左右に揺れる。ワイヤーで繋がった巡洋艦がその荒波に巻き込まれ、船体が激しく左右に揺れる。

「こちら、イワナガヒメ!本部、応答願う!」

「何があった?」

 突然の無線の相手は二隻目のイワナガヒメの艦長からだ。その切羽詰まった声色に、大団長が無線を取ると同時に全員が職務を放棄して耳を傾ける。

「海面水温、六十……七十……上昇しています!」

 無線機から測量技師の声が漏れる。

 異常な海水温度の上昇が激しい気流を生み出し、艦隊がゾラ・マグダラオスの身体に引き寄せられる。それに負けじと各巡洋艦は船尾のスクリューを回して速度を上げる。

 だが、チェーンで繋げたソナーブイを流しているイワナガヒメはより強くゾラ・マグダラオスに引き寄せられ、その正面へ引きずり込まれる。

「ブイを切り離せ!」

 イワナガヒメの艦長が怒号を上げ、背後につくゾラ・マグダラオスの背ビレを双眼鏡で覗き込む。

 レンズの視界が海水で埋まる。

 船底から司令室に突き上げるような衝撃が走り、船尾が浮かび上がる。咄嗟に操作盤にしがみついた直後、海面へ叩きつける衝撃が一隻の巡洋艦を襲う。

 巡洋艦が大きく縦に揺れ、船尾でブイを取り付けていた船員が荒ぶる海へ投げ出される。

「くそ!」

 床に胸を打ちつけたイワナガヒメの艦長は立ち上がり、後方を双眼鏡で覗き込む。

 レンズの視界は漆黒の岩壁で埋め尽くされていた。

 その所々が赤く染まり、マグマの塊が飛び出している。

 艦長は窓の側に駆け寄り、空を見上げる。

 視界を覆い尽くす岩壁は全て生物の胸だ。垂れ下がる黒い髭のようなものが一隻の巡洋艦に暗い影を落とす。

「あれが……ゾラ・マグダラオス」

 遥か北西に離れた第一巡洋艦の艦長がかすれた声で呟く。

 顎から垂れ下がる黒い髭、その上の口から火花が漏れる。黒い岩殻に覆われた中に小さな瞳が橙色の光を放つ。

 ホログラムの自動モデリング生成でしか拝んだことのない熔山龍の尊顔に誰もが呆気にとられ、生き物である事実を改めて見せつけられる。

「本部、応答願う!標的が立ち上がった!」

 他の巡洋艦から流れた無線に我に返った直後、ゾラ・マグダラオスが吠える。天から降り注ぐ咆哮がイワナガヒメの艦橋のガラス窓を砕き、海水の混じった突風が司令室に吹き荒れる。

「おい、状況を報告しろ!」

 割れたノイズとなって届いた咆哮に、大団長は声を荒げる。

 応答する者はいない。

 今まで背ビレだけを海面に覗かせ泳ぎ続けてきた怪物が、突然、足を止めて立ち上がった。

 

 ──止まる理由は?

 

 想定外の事実に誰もが呆気に取られる。

「海面水温が八十度を突破!異常です!」

 測量士の叫び声に、第一巡洋艦の艦長が双眼鏡を覗き込む。

 ゾラ・マグダラオスの口元からは、溢れんばかりの火花が弾ける。赤く輝き始める瞳は真下を見下ろしている。

 その瞳の前を黄色の影が横切った。

 艦長は首を傾げ、もう一度双眼鏡を覗き込む。

 

 ──黄色のソナーベイだ。

 

 ゾラ・マグダラオスの耳にワイヤーが引っかかり、激しい騒音が耳元で鳴らされる。

 熔山龍はその瞳を細め、不快の感情を露わにする。

 自身の角の肥大化で怒り荒ぶった大海龍(ナバルデウス)の如く、この苛立ちをもたらす()()()()を排斥せんとばかりに、獄炎が口から溢れ出す。

 

 熔山龍の()()を突き進むは巡洋艦、イワナガヒメ。

 その艦橋に紅色の後光が射す。

 

「直ちにソナーを止めろ!」

 叫んだ瞬間、熔山龍の口からブレスが放たれる。

 熱波が海を揺らし、重力すら打ち破る縦揺れに四隻の巡洋艦が悲鳴を上げる。

 轟音は一瞬で過ぎ去り、つんざくような耳鳴りが襲う。

 聴覚を奪われた世界で前後も覚束ない中、頼りになる視覚で第一巡洋艦の艦長がゾラ・マグダラオスを捉える。

「イワナガヒメ……!」

 かの龍の麓で黒煙が立ち昇る。

 第二巡洋艦のイワナガヒメの艦橋が炎に包まれていた。

 火球と形容すべき巨大な火の粉が甲板に降り注ぐ。搭載された兵器の数々に紅蓮の炎が飛び交い、甲板のあちこちで爆発が巻き起こる。燃え盛る艦橋の上部が焼き切れ、炎の塊となって甲板へ落ちる。追い打ちをかける爆発で制御を失った戦艦は、限界と言わんばかりに左右に揺れる。

「どうした!何があった!」

 

 ──ああ、忘れていた。

 

 第一巡洋艦の艦長は本部からの無線に応える。

「イワナガヒメの艦橋が大破……標的からの攻撃です」

 本部の無線から悔しがる声が聞こえる。九隻の巡洋艦の無線から仲間の怨嗟の嗚咽が漏れている。

 仲間が攻撃を受けた。

 今も爆発を続ける甲板、二つに割れた艦橋──そこにはもう誰もいない。波に揺られて航行しているだけでも奇跡に等しい。

「皆に告ぐ……」

 仲間が焼き尽くされた。

「一切の攻撃を……禁ずる」

 艦隊を率いる責任者としてオオヤマツミの艦長は命令する。

 今ここで攻撃すれば、皇神の上層部に気付かれてしまう。

 ──作戦は台無しだ。

 皇神の上層部が決定するよりも先に、熔山龍が都内を侵攻するだろう。いや、上層部には初めから攻撃の意思はない──国民より利益を選ぶかもしれない。

 弱者に犠牲を強いる──皇神のやり方だ。

「誰か……答えて……るか!こちら、イワナガ……ヒメ」

 激しいノイズ音を上げる無線機に、艦長は「誰かいるのか!」と早口で叫ぶ。

「俺はイワナガヒメの操舵手、……」

 無線にノイズが走り、名前は聞き取れない。

「今すぐ、そこから逃げるんだ!」

 操舵手(そうだしゅ)と言う断片的な言葉に、燃え盛るイワナガヒメを見やる。巡洋艦の揺れは依然として激しい。だが、最期の力を振り絞らんと海上を真直ぐ走っている。

「鼓膜が潰れ……て……勝手に喋らせ……もらうぜ」

 無線からイワナガヒメの操舵手の独白が流れる。

 焼き切れた艦橋の真下の操舵室を襲った衝撃と轟音は想像を絶するものだ。鼓膜が破れただけと豪語し、生きているだけでも信じられないことだ。

「ヘング中佐!」

 無線からこの場にはいない司令官の名が響く。

 決して返事することはない相手を呼ぶ操舵手に本部の誰もが困惑する中、大団長は静かに頷き、「どうした」と代わりに答える。

「勲章も……昇級……要らねぇ。要望はただ一つだ!」

 燃え盛る巡洋艦からサイレンが鳴り、船首が北東を向く。

「皇神のお偉いさ……伝えてくれ」

 眼前で赤く燃える敵がサイレンと言う威嚇の声を張り上げる。敵意をむき出しにした船を前にして、ゾラ・マグダラオスの口元から再び炎が漏れる。

「異能力者のカス共……地獄に落ちろ!」

 熔山龍の前方を横切る巡洋艦は今にも右舷(うげん)が海面に浸るまで傾いている。北東へ向かう巡洋艦に、熔山龍は身体をひねって口に溜めたブレスの狙いを定める。

「第三……メラ……言うクソガキ……俺の弟は……に沈められた」

 無線からの声が徐々に弱くなる。

 ゾラ・マグダラオスの口元で揺れる火花が激しくなる。

「……海の底に地獄があるなら、弟も……かも……」

 チャージブレスが放たれる。

「地獄で会おうぜ!メラクのクソッタレ!」

 激しいノイズと共に無線が途絶える。

 大団長はこめかみを抑え、押し殺してきた唸り声を一気に解放する。テーブルを何度も叩く大団長、その周りの兵士から拳を握り締める音が店内に響く。

「標的が……進路を北東に……二度、二度変更しました」

 二百の乗組員の犠牲を払った結果を観測手が伝える。沈みゆく巡洋艦の脇を熔山龍は何事もなかったかの如く横切り、その侵攻が留まることはない。




小話
 艦これの提督の皆さんならご存知の通り、日本の巡洋艦には山の名前が付けられています。
 話の中で沈めると決めた都合上、名前をそのまま拝借するわけにもいかず、山の神様で名前を統一しました。そんな長い名前だと呼びにくいだろとツッコミが入りますが、ご容赦下さい。
 後は作中に出てくるソナーブイと言う単語ですが、ソノブイが正解です。そもそも今は航空機から海に落とす筒状の物なので、運用方法から違います。
 話の流れの都合上と言うことで、ご容赦頂ければなと……思います。
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