蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER   作:kocolokoro

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蒼き雷霆ガンヴォルトとモンスターハンターの二次創作です。


第三十一話 終焉のアーベントロート(前編)

 依然として続く騒乱を見下ろす皇神(スメラギ)本社は、数多の誹謗中傷すらびくともせず悠然と佇んでいる。その十階のフロアに並ぶ無数の会議室から商談の声が漏れることはなく、閑散としている。

 衝立てを取り外して会議室を繋ぎ合わせてできた室内に電気は通っていない。整然と並ぶ机の上に置かれた最新鋭の通信機器から駆動音が漏れることはない。

 皇神の上層部の目を欺くためだけに造られたがらんどうの作戦本部でヘング中佐はただ無益な時間を過ごすばかりだ。

 部屋を出たヘング中佐は眼前の窓に広がる景色を見やる。かつて人工の煌めきを放っていた夕暮れ時の都は、海から照り返す淡い光に彩られる。

 その水平線上に黒い点が一つ浮かんでいる。

 それはインクの滲みのような点で、微かに揺れている。それはゾラ・マグダラオスが遊泳する影だ。

 迫る熔山龍を目の前にしても尚、上からの指示はない。

 ヘング中佐は侵略種駆除作戦本部と書かれた看板を引き剥がし、クシャクシャに丸めて床に叩きつけた。

「本部の方はどうだ?ヘング」

 右手から声がする。

 振り向くと、コートの男が駆け寄っている。

 ヘング中佐は頻りに廊下の監視カメラを睨んで、懐から取り出した紙切れをコートの男の手中にねじ込んだ。

 それは連絡を監視されたヘング中佐に今の戦況を知らせるただ一つの手段であり、斥候直筆のメモだ。コートの男はカメラを背にしてメモを広げる。

「イワナガヒメが……撃沈」

 コートの男が目を丸くする隣で、「また上に呼ばれる」とヘング中佐は乾いた笑いをこぼす。

「上層部の方針は?」

 ヘング中佐は黙って首を横に振る。

「米国を説得するため中国と露国に協力を要請しているが、決定が遅すぎる」

 ゾラ・マグダラオスが列島を越えて侵攻した先に広がるのは二つの大国だ。彼らも決して対岸の火事では済まされない。

 米国を抑えるよう皇神は要請しているが、その状況は芳しくない。皇神の上層部は一枚岩ではなく、数多の利権と思惑が複雑に絡み、組織の決断を鈍らせている。

「そうか」

 コートの男が呟き、廊下の窓にもたれかかる。すっかりゴーストタウンと化した都を見下ろすコートの男の隣に、ヘング中佐が歩み寄る。

「やはり、お前の言う通り、皇神は変わらないのかもな」

「らしくないな、ヘング」

 窓にもたれかかったコートの男は顔を歪め、左目から飛び出した火傷痕をさする。うめき声を上げるコートの男にヘング中佐が、「いい加減にその火傷を治したらどうだ?」と嗜める。

「この痛みがある限り、私は忘れずにいられる」

 コートの男は窓ガラスに拳を突き立てる。

 遥か遠望を睨む瞳を夕焼けが照らし、復讐の炎となって燃え盛っているかのようだ。異能力者への復讐に囚われたコートの男にかけるべき言葉をヘング中佐は模索する。

「ピレー」

 二人の背後から声がかかる。

 不機嫌そうな声色に、二人が揃って振り向く。

 女性が端末を片手に腕組みしている。ヘング中佐は彼女が不機嫌であることを肌で感じ取った。

「貴方は、皇神治安局第二課のヘング中佐ですね」

「ああ、そうだ。今は、侵略種駆除部隊の隊長だがな」

 非難の視線は自分には向いていない。

 そう気づいたヘング中佐は隣に視線を向ける。コートの男は気まずそうにしながら、女性から視線を逸らしていた。

「えっと……私はコンプライアンス推進部の玉前十七架(たまさきとなか)です」

「ああ、よろしく」

 初対面同士の挨拶を済ませた玉前はコートの男の方に足を向ける。義憤に満ちた彼女の瞳と、頑なに視線を逸らすコートの男を交互に見て、ただならぬ様子にヘング中佐は首を傾げる。

「勝手に出国した理由を聞かせてもらっても?」

「むぅ……」

 言葉を詰まらせるコートの男に、「どういうことだ?」とヘング中佐が尋ねる。だんまりを貫くコートの男に代わって玉前が答える。

「ガンヴォルトがロシアに出国した際、私に報告しないで勝手に後を追って行ったんですよ。しかも、ヘング中佐に情報を勝手に流しましたよね?発電所バベルの情報漏えいの件で、あなたの勤務態度を私が監査しているのを忘れてません?」

「ピレー、私は許可をもらっていると聞いたが?」

 会社の規律違反を二人から問い詰められ、「すまん」と小声で平謝りする。

「来月の給料査定を楽しみにしてくださいね」

 

 リリリン、リリリン

 

 三人しかいない大会議室前の廊下に通知音が響く。

 玉前の胸元に抱える端末が振動しており、「電話?」と呟きながら玉前はその画面に触れる。

「Hey」

 画面から電子の謡精の姿をしたホログラムが飛び出す。

 その出現に驚くことはなく、「ウィルス?」と玉前はしかめ面を浮かべる。

 世界的バーチャルアイドルのコンテンツ展開は珍しくなかった。等身大のフィギュアから自動対話型のホログラムまで、海賊版すらも世界中に出回っている。

「貴方が玉前十七架さん。博士の娘さんですね」

 ホログラムの謡精が玉前の顔を食い入るように覗き込む。

「え、ええ……」

 困惑する玉前を余所に、「良かった、貴方に会いたかったの」とホログラムが嬉しさを表現するかのように飛び回る。

「ああ、はじめまして」

 我に返ったホログラムは自らの手を叩いて飛び回るのを止め、玉前の前で深くお辞儀する。

「私は貴方のお父さん、玉前十三(じゅうぞう)博士が生み出したフェノメナプロジェクトのAI、セーレスです。今はパパからのお願いで、電子の謡精の再現に従事しています」

「パ……パパ?」

 矢継ぎ早に流れる情報の洪水に困惑する玉前を無視して、「そんなことより、パパは今、何処にいるの」とホログラムの謡精が質問を投げかける。

「父は……三ヶ月前に心不全で亡くなりました」

「亡くなる……現象(フェノメナ)を検索中」

 端末に浮かぶホログラムの動きが固まる。

 その隙に助けを求めようと玉前が辺りを見渡す。ヘング中佐はその場で呆然とした様子で固まり、コートの男は端末で何やらメッセージを打ち込み、こちらに手を差し伸べる者はいない。

「……候補件数ゼロ。説明を求めます」

 とうとう動き出したホログラムの謡精に、「この世を旅立った……と言うことです」と玉前は言葉を濁す。

「ああ、パパはお空にいるのね。データを更新します」

 死に対しおちゃらける電子の謡精は、「あら」と声を上げ、男二人の方を見やる。

「貴方、皇神の人間ね。カミゾノ贔屓(ひいき)の」

「贔屓?」

 謂れのないレッテルを貼るホログラムの謡精にヘング中佐は首を傾げる。

 神園(カミゾノ)博士は第七波動や宝剣研究の第一人者で、皇神グループと言う一法人に栄華をもたらした立役者だ。その経歴に陶酔する者もいれば、嫉妬する者もいる。

 だが、神園博士はすでに故人だ。

 第七波動(セブンスフォニム)の暴走に巻き込まれて亡くなったと記憶している。

 象徴(イコン)指導者(リーダー)となり得る本人がいない派閥組織などあるはずがない。現に、故人を偲ぶ神園派閥なる組織の存在を社内で耳にしたことはなかった。

「要求通り、私の構成データを差し出せば、あの怪物を直ちに元の世界に送り返して差し上げます」

「ちょっと待て」

 ヘング中佐がホログラムの言葉を遮る。

「怪物を送り返すと言ったな。どういうことだ?」

 見上げるヘング中佐に、ホログラムの謡精は指を鳴らす動作を取る。

 三人の目の前に黒い渦が現れる。

 黄金の粒子がその周りを舞う中、漆黒の渦から二本の細い脚が現れる。そして、紫の巨体の全身が露わになる。四本の脚には紫の皮が糸を引いたように纏わりつき、二歩ずつカサカサと歩み寄る。

 玉前の手から端末が滑り落ちる。

 無人の廊下に激しい音が響く。

 六つの青い瞳が後退りする三人に狙いを定める。口元の鎌状の脚を大きく広げ、ネルスキュラが三人を威嚇する。

「帰りなさい」

 床に落ちた端末から見上げるホログラムの謡精が指を鳴らすと、ネルスキュラの足下に黒い渦が再び現れる。床が丸々と消え去り、ネルスキュラは四本の脚をばたつかせながら渦の中へ落ちて行く。

「分かりましたか」

「お前があの怪物をこの世界に送ったのか?」

 目の前で蜘蛛の怪物(ネルスキュラ)を呼び寄せたホログラムの謡精をヘング中佐が睨む。コートの男から異世界の話を初めて聞かされた時、半ば冗談交じりに聞き流したことを心の中で詫びる。

「カミゾノ派閥が私の要求を飲んでくれないからね」

 ホログラムの謡精は余裕に満ちた笑みを見せ、降参を促す。

「どこの組織からのウィルスかは知らんが、皇神がテロリストに屈することはない」

 だが、国を守る軍人としての矜持がある。

 国民の平穏を脅かすテロリストに屈し、中佐の位を汚すわけにはいかない。睨み返すヘング中佐に、「あっそ」とホログラムの謡精は興味を失くしたかのように、その場から消え去った。

 後に残る静寂の中、通知音が鳴る。

 ヘング中佐の端末からだ。

 通話ボタンを押すと、「至急、経営戦略室に来い」と上層部からの招集命令がかかる。コートの男はため息をつくヘング中佐を引き寄せ、「バレたか?」とささやくと、「だろうな」と頷く。

「できる限り時を稼ぐ。ピレーは異世界人の保護を頼む」

 後始末を託し、上層部の元へ向かうヘング中佐の背中がみるみる内に小さくなる。

「また企みごとですか?」

 事情を知らない玉前がコートの男に尋ねる。

 振り返ると、玉前が監査の目を向けている。本社に無断で作戦を実行していると白状すれば、重大なコンプライアンス事案として上に報告するだろう。

 それが彼女の職務だ。

「あの異世界人に何かさせているのでしょう」

 玉前の言葉にコートの男が左目を細める。火傷痕が擦れる痛みで動揺を隠す処世術が幾多もの危機から救ってきた。

 玉前が歩み寄る。

「困ったら目を細めるのは癖なんですね」

 玉前は男の右肩に手を伸ばし、コートを掴む。手の平を広げると、そこには小さな発信機が収まっていた。

「残念ながら、作戦は全て盗聴していました」

 コートの男は奥歯を噛み締め、「監査官殿に覗きの趣味があるとは」と皮肉を返す。

 上層部の耳にはすでに入り、勝手に作戦を遂行する異世界人も、上層部の意向を無視したヘング中佐も等しく処分されるだろう。ただの懲戒解雇では済むまい、無能力者ならいずれも首を刎ねられるに違いない。呼び出されたヘング中佐には今頃、判決が言い渡されているだろう。

「上には報告していません」

 脳裏を巡る思考に気を取られ、「は?」とかすれた息がコートの男の口から漏れる。

「私だって、コンプライアンスより大事なことがあるのは分かっています」

 肩ひじが下がり恐ろしく長いため息をつくコートの男に、「そこまで悪魔じゃないので」と玉前が微笑む。そのまま窓辺にもたれかかった彼女は水平線の彼方を見やる。

 ゾラ・マグダラオスの影が少しだけ大きくなっていた。

 

 


 

 

 エレベーターで三十の階層を登り、ゲートにカードキーを何度も挿し込み続けた先に経営戦略室がある。

 中央にテーブルが置かれているだけの、さながら尋問室と呼ぶべき陰鬱とした部屋だ。

「ヘングです。席に着きました」

 中央のテーブルに手をつくと、ヘング中佐の周りを囲むようにホログラム映像が現れる。皇神の取締役会が映像に映し出されるも、その顔の一部は黒く塗りつぶされている。敵が多い皇神の幹部がその素性を部下に曝け出すことはない。

「皇神が保有する巡洋艦、イワナガヒメが沈没した」

 顔も姿も見えないホログラムが揃ってヘング中佐を見下ろしている。

「なぜあの龍が攻撃をしたか、心当たりは?」

 問い詰める口調での質問に、「いいえ」とヘング中佐は首を横に振る。そこに、「シラを切っても無駄だぞ」と批難する声がかかる。ヘング中佐の前方に画面が現れ、三枚の衛星写真が流れる。

 五隻の巡洋艦が龍と並走している写真だ。

「随分と綺麗な隊列じゃないか」

 誰かの命令で動いていると指摘されても言い逃れはできない。

「出撃許可がいつ出ても対応できるよう、怪物を追尾していたのでしょう。それを煩わしく思い、怪物から攻撃を仕掛けたものだと……」

 だが、素直には認めることはしない。

 少しでも時を稼ぎ、ゾラ・マグダラオスの侵攻方向をずらし、民への被害を最小限に食い止める。

 軍人としての使命を全うすべく、大将の闘いが幕を開けた。

「現場にいる無能共の勝手な判断だと?」

 戦う覚悟を決めたヘング中佐が空に浮かぶ取締役会のホログラム映像を見上げる。

「二百の乗組員が犠牲になりました」

「ヘング中佐」

 質問に返答しないヘング中佐を誰かが嗜める。

第七波動(セブンスフォニム)の戦闘部隊が失われずに済んで良かった」

「犠牲が出たのだぞ!」

 ヘング中佐の突然の発狂──現場の憤りを伝えると同時に上層部の動揺を誘う演技に、経営戦略室がわずかに静まり返る。

「黙れ、ヘング。無能力者には何の価値もない」

 無能力者排斥を掲げる派閥の上層部が静寂を打ち破る。

 皇神グループの思想と合致する本流派閥の意見に、ウンウンと頷く声が続く。

 だが、今の皇神の派閥は一つだけではない。

「無能力者には価値がないか……なるほどのぉ」

 異能力者追放を掲げる派閥の役員からの粘着質な声色が経営戦略室に響く。本流派閥と違い少数ながら、「そうだ、そうだ!」と強い反発の声が巻き起こる。

「あれが破滅をもたらす龍とやらなのか」

「何を世迷い言を……」

 ヘング中佐に叱責した取締役会が声を荒げる。

 口論の予感にヘング中佐は小さくガッツポーズを取る。

「そなたら異能力者が宝剣をかき集めて、何かを企んでいるのは耳にしておる。離反者を出して折檻を喰らったばかりなのに、舌の根も乾かぬうちに新たな謀略か?」

「言いがかりだ!」

 頭上を流れる罵詈雑言の嵐に耳をふさぎながら、ヘング中佐は唇の端を歪める。

 紫電のような無益な口論を黙らせるカリスマは今の皇神には存在しない。中止と命令されるまで作戦の続行は可能だ。会議が長引くことをヘング中佐は心から祈る。

「忠誠心の欠片もないとは、ああ、恐ろしや恐ろしや」

 喧騒が鳴りを潜め、取締役会の何人かがすでに息を荒げている。このままでは会議が終わってしまう。

「よろしいですか……」

 ヘング中佐は発言を乞うように怖ず怖ずと手を上げる。ゆったりと手を上げる行為に、何処からか舌打ちが響く。

「米国への協力要請はどうなりましたか?」

「ああ、却下だ」

 当然のように答える取締役会に、「何故です?」とヘング中佐が語気を強め、自衛を放棄した役員に尋ねる。

「中国も露国も異能力者の戦闘員を三割よこせば、米国との交渉に協力するとのことだ」

 異能力者の譲渡──皇神グループが世界有数の大企業である由縁である異能力者の戦闘部隊を削ぎ落とそうとしている。

「皇神が異能力者を手放すことはない。無能力者の犠牲は許しても、異能力者の犠牲だけは断じて許されん」

 それを許す皇神ではない。

 異能力者の力は世界の均衡を揺るがすほどに強力で、その戦力を手放せば、七宝剣を失った皇神は凋落を迎える。

 無能力者より異能力者を選ぶ──皇神の回答にヘング中佐は手の平に爪を食い込ませる。

「では、本社を放棄するおつもりですか?」

 ヘング中佐は会話を途切れさせまいと平静を装いながら問答を続ける。ヘング中佐の画策に気づいたのか、「経営に口を挟むな、ヘング中佐」と遮られる。

「喫茶店で兵を指揮しているのは分かっている、観念しろ」

 取締役会の一人のホログラムの画面が受話器のマークに変わり、「通話中」と表示される。

「あー、もしもし」と声を響かせる。

 連絡先は喫茶店にある作戦本部らしく、妨害用に張り巡らせたノイズが程なくして収まり、作戦本部の囁き声が鮮明に経営戦略室に響く。

「直ちに作戦を中止したまえ、これは皇神の勅命である。逆らえば直ちに反逆と見なし……」

「ディーヤ?」

 若い男の声だ。

 ヘング中佐はすぐにハンターの青年の声だと悟る。取締役会の男はようやく訪れた返答に、「何者だ?名を名乗れ」と声を荒げる。

「アヒレ、ジェイディ」

「ジェイディ……?所属を言え」

「ウールタラハ、マキナエクス、エンダリヤ、マハストゥ」

「おい!それはどこの言葉だ!」

「ドンドルマ!ドンドルマ!」

 異界の言葉を連呼する青年の妨害に、「お前には聞いとらんわ!他の奴に変われ!」と声を荒げる。明らかな異常事態に他の取締役会のホログラムからざわめく声が漏れる。

「カワリマシタ」

 続いて、若い女の声がする。

 ヘング中佐はすぐに篇算者と悟る。少しでも時を稼ぐために大団長と言う男が考案した牛歩作戦だと思い至る。

「貴様、名前は?」

 言葉が通じる相手が応答したと安堵したのか、取締役会の男の声色に落ち着きが戻る。

「ハイ、ジェーン・ドゥデス!」

「いい加減にしろ!全員、引っ捕らえろ!」

 名無しの権兵衛と言う明らかな偽名に、取締役会の男が怒鳴り散らす。ホログラムの何処からか粘っこい嘲笑が響き、経営戦略室は一気にパニックに陥る。皇神の指揮系統が乗っ取られたのかと邪推が次なる邪推を呼び起こす。

「ああ、すまんな」

 騒然とする経営戦略室に、落ち着き払った男の声が響く。

「おい、貴様は何者だ?皇神の人間か?」

「俺はフィローネ学院で生物学を教えている、ジョンだ」

 ヘング中佐は大団長だと悟る。

 物怖じもせずにデタラメを吐く大団長に、「皇神の人間ではないな」と取締役会の男が迫る。

「中佐とは腐れ縁でね。生態調査の協力をしている」

「生態調査?」

 訝しむ取締役会の男に、「いずれ攻撃を仕掛けるだろう?」と自信に満ちた声で大団長が答える。

「この生物のことを何も知らずに攻撃するのは危険だ。どんな兵器が有効なのか、反撃方法は何か……知っていて損はない。だから先行して調査をしている」

「ヘング中佐。この男に情報を漏らしたのか?」

 取締役会から「覚悟しておけ」とヘング中佐に脅迫めいた雑言が浴びせられる。

 通話中のマークを出したままの役員が言葉を続ける。

「中佐の旧き友人よ。君の友情には大変感動したよ。だが、皇神の内情に首を突っ込むのはあまり感心しないな」

「俺もお宅の権威には()()()()()()よ。お宅の御用聞きの学者先生は皆、すっかり怯えちまったらしくてな。現場の指揮官様に泣きつかれてこのザマだ」

 大団長は皮肉で返し、相手の自尊心を逆撫でようとする。

 だが、相手は海千山千を乗り越えた皇神の経営陣だ。

「巡洋艦が一隻沈んだ。君にその責任は取れるのか?」

 悪あがきを見透かされ、茶番を終わらせんと語気が強まる。

「初めから国を守る方に舵を切れば、被害は出なかった」

 大団長は無線機の通話口を手でふさぎ、「作戦の進捗は?」と周りの兵士に尋ねる。

 だが、返ってくるのは否定の返事だ。

「ここまでか……」

 作戦の進行状況は芳しくない。

 ゾラ・マグダラオスは依然として都へ突き進んでいる。ゾラ・マグダラオス撃退作戦も皇神の上層部に看破され、終わりを迎えようとしている。

「伝言を頼まれてる。沈んだ船の操舵手からだ」

 大団長は静かにため息をつき、無線機に口を近づける。

「異能力者のカス共、地獄に落ちろ」

「何だとおおおお!貴様アアア!」

 経営戦略室に怒号が轟く。

 赤の他人と長話をさせられ、大半を占める異能力者至上主義の役員がとうとう我慢の限界に達した。

「全員の首を刎ねよ!」

 異能力者と言う優越感に心酔する役員の理性が瓦解する。横暴を働く無能力者共を一掃せんと金切り声を上げる。伝言を伝えただけで取り乱す様に、大団長は耳をふさいで呆れ返る。

 余所者の大団長以外は、上の逆鱗に触れたとざわめく。

 だが、まだ中止は言い渡されていない。

 最期の時間稼ぎを終えた大団長はソファーに深く腰掛け、静かにため息をつく。

 作戦本部のどよめきに混じって、喫茶店入り口のベルがカランカランと音を鳴らす。コートを羽織った男が大団長の元へ歩み寄り、投げ出された無線機を拾い上げる。

「経営陣の皆様」

 無線に入った新たな声に役員が、「何だ?」と苛立ちの混じった声色で尋ね返す。

「人事部第七波動採用担当のピレーです。失礼を承知ですが、役員の皆様に一刻も早く耳に入れておいた方が良いかと思い、無線を交代しています」

 経営戦略室に響く声に、「ピレー……」とヘング中佐が呟いた。




小話
 まさかの前後編……

 現代兵器を総動員すれば、超大型古龍の大半は倒せてしまう。
 鈍重な動きだからこそ狙いを定めやすく、的確に攻撃されやすい大型生物の宿命ですよね。
 某怪獣王は再生能力や放射能無効と超常的な能力で、現代兵器に真正面から立ち向かいますが、モンスターたちはそうはいきません。
 すると、何らかの縛りを加える必要があり、国家を描かないといけないと言う悩ましい問題が出るんですね。
 そしたら、メンドーな内容を描かなきゃいけなくて、長くなる。悲しいなと言うお話でした
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