蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER   作:kocolokoro

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蒼き雷霆ガンヴォルトとモンスターハンターの二次創作です


第三十二話 終焉のアーベントロート(後編)

 コートの男の横顔を大団長が見上げる。

 何かを企む笑みの中に焦燥が見え隠れする。それは誰に向けての笑みなのか分からないまま、無線を引き寄せる所作を大団長は見送った。

 コートの男が皇神(スメラギ)の取締役会に忠言する。

「露国艦隊が海峡を越えて列島の東海岸を南下しています。中国艦隊も南シナ海から排他的経済水域(EEZ)を北上しています」

「皇神を見下した挙句……領海侵犯だとぉ……!」

 二つの大国の不法侵入の報せを聞き、歯ぎしり音を響かせる。役員の一人が衛星写真を取り寄せ、二つの艦隊が写る写真を取締役会と経営戦略室に共有する。

「一体、狙いは何だ?」

「長寿の龍の遺伝子(ゲノム)です」

 コートの男の分析に、役員から疑念の声が上がる。

「相手は悠久(ゆうきゅう)の時を生きる龍です……そうだな」

 コートの男は側に座る大団長に目配せする。超常の存在たる古龍を知る大団長は、「ああ、そうだ」と深く頷く。

「長生きの秘訣が遺伝子にある、ひいては、身体活性化の秘訣があると言えます」

 未だ謎に包まれた存在──古龍。

 古龍の血や大宝玉などの共通点はあるものの、その全容は未だ明らかになっていない。

 ただ判明しているのは永く生きる存在だと言うことだ。

 わずか百年しか生きることができない人間にとって、不老不死と言える羨望の存在だ。

遺伝子(ゲノム)解析により身体能力を飛躍的に向上させる薬が開発されたら、異能力者すら上回る身体能力を一般兵が得たら、世界の均衡はどうなりますかな?」

 長寿の遺伝子を兵士の身体増強に転用する。

 従業員数万人規模のグループ会社が保有する戦力と、数十億人の民が暮らす国が保有する戦力──ただでさえ数的不利な状況に、身体強化のバフが上乗せされる。

「しかし……無能力者如きが異能力者に勝るはずが……」

神園(カミゾノ)アキュラをご存知ですな」

 皇神が抱く淡い希望をピシャリと否定する。

 第七波動(セブンスフォニム)の力は強力だ──鉄を操り、水を操り、虫を操りと人の枠を外れた超常の能力を持つ。

 だが、無能力者が異能力者に勝てない訳では無い──その最たる例こそが、異能力者狩りと畏れられる無能力者、神園アキュラだ。

「無能力者でありながら、異能力者を打破する者。そのような兵士を二つの大国が何万も保有したら、第七波動の価値は……」

 その先の言葉は皇神の自尊心、逆鱗と琴線が入り乱れる危険な禁域に足を踏み入れることになる。

 コートの男はつばを飲み込み、喉を鳴らす。

「皇神の存在意義はなくなります」

 コートの男は皇神を否定する。

 だが、異能力者を打ち破る身体能力を持つ兵力が二つの国で生み出されようとしている事実は看過できない。

「討伐するしか……道はありません」

 待ち受ける皇神の没落を見過ごした取締役会が明日を迎えることはない。

「しかし……米国を無視するわけには……」

 眼前に死が迫っていても尚、利潤を欲する経営者は動かない。

「米国の要望を守り、恩を売る策があります」

 コートの男の言葉が自らの命と利益に揺らぐ役員の心を甘い蜜のように絡め取る。取締役会の荒い鼻息が無線越しに響く。

「奴を米国に向かわせるのです」

 ゾラ・マグダラオス撃退作戦を推し進める進言だ。

「奴の進行方向を東に曲げ、西へ向かう米国の海軍と正面から鉢合わせる。南北から来る艦隊には巡洋艦で警告して足止めすれば良い」

 熔山龍の長寿の遺伝子を米国が独占できるように仕向ける。都の無事を確保し、米国にバイオテクノロジーの発展をもたらすだけではない。戦力増強と言う脅威を二国から一国に減らし、皇神の権威の失墜を止めることにもつながる。

 ──皇神にとって、最善の中庸案だ。

「ヘング中佐」

 経営戦略室に重苦しい声が響く。

「貴様の処遇は追って連絡する」

 経営戦略室の中央に佇むヘング中佐は無言のまま、上層部の決定を待つ。

「直ちにあの怪物の進路を東に向けさせろ。これは皇神からの勅命だ」

 経営戦略室に浮かぶホログラムが一斉に消え、本社からの通信が途切れる。

「よし、作戦は続行だ」

 コートの男が上層部の指示を伝えると、作戦本部に歓喜の声が巻き起こる。沈黙を続けていた作戦本部がにわかに活気づき、行き交う兵士の足取りが次第に軽くなる。

 

 

「待たせてしまって済まない」

 程なくしてヘング中佐が作戦本部の喫茶店に駆け込む。

「後は任せるぞ」

 大団長がのヘング中佐に無線機を差し出す。ヘング中佐は頷いて無線機を受け取り、巡洋艦の艦隊に指示を飛ばす。

「三八度ラインの部隊は熔山龍の左腕へ移動。先行部隊は南方と東海岸沿いの艦隊の牽制に向かえ」

 大将直々の指示に、巡洋艦の部隊が慌ただしく動き出す。

 八丈島近海で待機していた五隻の艦隊がゾラ・マグダラオスの左腕を並走し、ソナーベイを放流する。先行で誘導していた四隻は二手に別れて他国の艦隊の牽制に向う。

「目標、東方向に八度、進路を変更!」

 直ちに入ってきた無線に作戦本部に歓声が湧き上がる。

 

「人とは何と愚かな……」

 

 ただ一つ、それを許さない存在が電子の海で嘆いていた。

「龍血の民でも生むつもり?造竜に手を出すつもり?」

 ホログラムの謡精が無線を盗聴しながら忌々しげに呟く。

 他国の干渉──人の傲慢、強欲。

 想定外の乱数(パラメータ)を目の当たりに、「勉強になります」と呟く。

「そこまで欲しいなら、()()()()プレゼントしなくちゃ」

 マスクを外して現れたeroor404の文字列で縁取られた唇の端を歪めながら、彼女は指を鳴らした。

 

 


 

 

「目標、進路を北東に五度変更!」

 海上では更なるソナーブイを流し続け、その度に作戦本部に吉報がもたらされる。安全マージンを入れた目標角度の半分をすでに超え、遊泳速度から逆算しても余裕がある。指揮権が中佐に戻り、大団長たちも外から作戦の成功を見守るだけとなった。

「ヘング中佐……!ほ、報告します!」

 無線からの切羽詰まった声色に、「どうした」とヘング中佐が声を落とす。

 

「北緯四三度、東経一四〇度にゾラ・マグダラオス出現!」

「北緯二一度、東経一三〇度にゾラ・マグダラオス出現!」

「北緯五五度、東経一五〇度にゾラ・マグダラオス出現!」

「北緯三五度、東経一六〇度にゾラ・マグダラオス出現!」

 

 ──新たなゾラ・マグダラオス四頭の出現。

 

 それに呼応するかのようにホログラムに投影された海洋地図に赤い点が四つ、日本を取り囲むように浮かび上がる。

「今すぐ……衛星写真で確認を……」

 言葉を失ったヘング中佐がようやく声を上げる。

 熔山龍を呼び寄せたと豪語するセーレスと名乗る電子の謡精が、ヘング中佐の脳裏によぎる。こめかみを抑えて次なる策を練るヘング中佐の元に衛星写真とライブ映像が転送される。

 

 四頭のゾラ・マグダラオスが映し出されていた。

 

 眼前に突然現れた熔山龍に海上で狼狽する艦隊の様子がリアルタイムの映像として流れる。

「ヘング中佐!」

 状況の整理がままならない中、焦燥に満ちた無線の声が更なる混沌を招く。

「目標が進路を変更!北西に一五度……都にぶつかります!」

 北を泳ぐゾラ・マグダラオスの突然の方向転換、北東に広がる太平洋に向けて泳いでいた熔山龍がその進路を北へ戻す。

 巡洋艦による決死の作戦も、一隻の巡洋艦の撃沈も全てが水泡に帰す。テーブルを叩き、「なぜだ!」と吠えるヘング中佐の側に、「恐らくですが……」と篇算者が駆け寄る。

 篇算者はホログラムに映る東海岸に南北に広がる三つの点を指差す。

「東に現れた三体との接触を避けるために、西に進路を変えたのではないでしょうか」

 伸ばした人差し指を拳に戻し、篇算者は奥歯を噛み締めながら拳を震わせる。

 三頭のゾラ・マグダラオスの気配を感じた龍は争いを避けるため西へ進路を逸らした。東にできたゾラ・マグダラオスの壁が本種を西に押し返す。

「報告します!」

 騒然とする本部に巡洋艦から報告が入る。

「目標の遊泳速度が八ノットに増加!八丈島通過まで残り三十分です!」

 本土を目前にして、ゾラ・マグダラオスが速度を上げる。

 西からは絶えず不快な忌避音が鳴り響いている。東も西も逃げ場はない──ならば、北へ泳ぐ他ない。

 安寧の地を求めて脱兎の如く北を目指す。

 その大いなる意思でもって真直に突き進み、ミサイルによる攻撃が許されなくなる最終防衛ラインに熔山龍が迫り来る。

 

 討伐も撃退もできない──待ち受けるは任務(クエスト)失敗。

 

「ヘング!」

 役員からの責任を問う野次が本部の無線に割り込む。

 

 どうするつもりだ──首都以外なら上陸されても構わん──潔く西に曲げましょう──フォッサマグナなら良き塩梅──

 

 無責任な指示が次々と無線を埋め尽くし、ヘング中佐の思考に雑音となって割り込む。

 

 目標──最終防衛ラインを通過──指示を──

 

 現場からの悲痛な叫びが作戦本部にこだまする。耳元で何度も反響し、世界が揺れる。

 

 ──ゲームオーバー

 

 機械音声だ。無線に紛れている。

 その囁きがサブリミナルとなって反響する。

 

 ──データを渡せば助かるわよ

 

 甘い誘惑の言葉、だが、打てる手はない。

 いや、熔山龍を討伐するか──死の間際に放つ火山の熱風が首都を瞬く間に焼き尽くすだろう。逃げることすら許されない人々が熱波の中でその身を焼かれる。

 

 本部、応答願う──

 

 ヘング中佐は静かに目を開ける。

「目標、及び、残る四体が全て消えました」

 無線から聞こえる声は唖然としている。周りの兵士は口を開けたままホログラムを見上げて固まっている。

 ホログラムの海洋地図から五つの赤い点が消えた。

「黒い渦のような物が……閉じていきます。どうしますか……」

 無線から流れる報告に誰もが首を傾げる中、「助かったんだよな」と何処からか声が上がる。

 

 首都は侵攻されることなく、撃退は成功に終わった。

 任務成功──クエストクリア。

 

 皆が実感の湧かない勝利に戸惑う中、ヘング中佐は一人敗北を確信していた。




小話
 これにて熔山龍編は終了。
 次は最後の章になります。

 兵器を使わない海戦、ご都合主義の海戦を描いてみた訳ですが、座標設定から難しかったですね。領海ってこんなに広いんだと思うと同時に、地図と実際の距離が全然違うなと感じました。
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