蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER   作:kocolokoro

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蒼き雷霆ガンヴォルトとモンスターハンターの二次創作です


第三十六話 常世に廻りて 出で立たん

 少年の耳元でしばらくコールが鳴った後、「ああ、もしもし。息子はいませんよ」と開口一番にふてぶてしい声が返ってくる。唐突な電話にありがちな警戒心に、少年は言葉を選んで語りかけた。

「お久しぶりです、アルバートさん。皇神の人と一緒にいたガンヴォルトです。覚えてますか?」

 少年が電話をかけた先は、コートの男が砂漠の道案内を頼んだ老人だ。

「おお、覚えとるとも」

 気の良い返事が返ってくる。少年は安堵のため息と共に端末のスピーカーを点け、そのままテーブルに投げた。

「ネギ何とかの棘をくれた男に伝えとくれ。面白い物をくれて爺は感謝しとると」

 電話越しから脈打つような振動音が響く。

 荒々しくも勇ましい唸り声のような音にリビングにいた誰もが乾いた唾を飲み込む。

「最近、この棘が震えるようになったんじゃよ」

 能天気な声に混じって鼻息が漏れる。

 興奮した様子で大団長から貰ったネルギガンテの棘を一しきり語り終え、「ところで、何の用じゃね?」と尋ねる。

「ホワイトハッカーをされていたそうですね」

「よく覚えておるの」

 老人の声が途端に険しくなる。

皇神(スメラギ)のサーバーにハッキングして欲しい」 

「無理じゃな」

 即断即決の返事に少年はテーブルに手をついて(こうべ)を垂れる。アキュラからの徒労のため息に気づくはずもなく、老人は飄々と言葉を続ける。

「皇神を敵に回すには、老い先がちくと長過ぎるわい」

 少年が思いつく限りの中でハッキングを得意とする人物から断られ、リビングに諦観(ていかん)の風が吹き抜ける。

 次に頼るべき相手を模索する。

 かつての所属先、フェザーなら、通信兵としても優秀な人物に心当たりがある。

 

 少年は頑なに首を振る。

 

 ──フェザーの指導者(リーダー)をこの手にかけた。

 

 それを知るのは少年だけ──だが、指導者なき後の組織が壊滅寸前まで追い込まれる契機(トリガー)を作ったのは事実だ。

 これ以上、古巣(ふるさと)に迷惑をかけることはできない。

「代わりに友人を紹介しよう。棘をもらった礼もあるしのぉ」

 少年が一人思い悩む中、老人の話が勝手に進んでいた。少年は慌てて、「友人……?」と聞き返す。

「ブラストマスターのオフ会で連絡先を交換しての……ちょっと待っとれ」

 そう告げると、電話口からキーボードを叩く軽快な音が漏れる。「ブラストマスターって何よ……」ときりんから小突かれ、少年は聞き覚えのある単語を記憶の底から掘り起こす。

「ブラストマスターってオンラインゲームだよね」

 シアンが通っていた学校の男子の間で流行っているゲームの名前で聞いたことがある。自信なさげに頬を掻く少年の隣で、「ちょっと、ゲームのフレンドって」ときりんが端末に向かって怒鳴る。

「腕は確かなはずじゃよ。皇神のハッキングに挑戦したと自慢しとったし」

 ゲームの曲らしきメロディーを口ずさみ、エンターキーを強くタップする音が響く。軽快なコール音が鳴り、「コマンダーSP。元気にしとるか?」と老人が声をかける。

「その声は、ミスターX!」

 老人が電話をかけた相手、コマンダーSPなる人物の上ずった声が響く。向こうの仲間内のハンドルネームに聞き覚えはないが、その声色の懐かしさに首を傾げる。

「お主に頼みたい依頼がある。今、チャットを繋げるぞ」

「もしもし、コマンダーSPさん……ですか?」

 電話とチャットを繋げた合図はなく、少年は恐る恐る顔も名前も知らない相手に話しかける。相手も聞き覚えがあるらしく、「うん?何処かで聞いたことあるな」と慎重に言葉を選んでいる。

 少年は小さく舌打ちを漏らした。

 迂闊に名前を明かす訳にもいかず、電話一本にもたつく時間もない。

「焦れったいのぉ」

 先に音を上げたのは老人だ。

「コマンダーSPも何を緊張しとるんじゃ?こちらはガンヴォルト、お前さんと同い年くらいじゃよ」

 危うく容姿まで暴露されかけて顔を引きつらせる少年の耳奥で、「えぇ!GVかよ!」とコマンダーSPの油断しきった声が反響する。

 仲間しか知らないコードネームと素の声色に、少年は確信を抱く。

「その声は、ジーノ?」

 不意の再会にカラカラに渇いた喉に唾を送り、相手の名前を指摘する。それは少年のことを弟のように気にかけ、(sheep)のコードネームで活動するフェザーの人物の名だ。

 相手の返事が途絶え、「なんじゃ?お主ら知り合いか?」と通話の奥から老人のひょうきんな声がこだましてからやっと、相手が口を開く。

「元気にしてるか?」

 ジーノから無機質を装った労いの言葉がかけられる。

 動揺の中に混じる微かな拒絶を感じ取り、「そんなつもりじゃなかった」と少年は咄嗟に否定する。

「何じゃ?辛気臭いのぉ」

 二人の間で呆ける老人に、「ミスターX、ちょっと黙っててくれ」とジーノが静かに一喝して黙らせる。

「GV……いや、キョーダイ、戻るつもりはないか?」

「ジーノ、その……」

 ジーノからの提案に少年は言葉を詰まらせる。

 皇神に虐げられてきた弱者(シープ)に、指導者は救いの光明をもたらした。その蒼光が偽りであることは少年しか知らず、今も尚、正義の象徴(イコン)となってフェザーを照らしている。

「あの男の遺志がはびこる組織に戻ることはできない」

 そう答えそうになるところをグッと堪える。

 その理由を、真実を語ることはできない──自分が何か失言することで、盲信する彼らの逆鱗にいつしか触れてしまうのではないかと本能が萎縮してしまう。

 少年は口をつぐんだ。

 電話の向こうで何かを掻く音が響く。

 モニカから問い詰められた時のように頭を掻いて思案しているのだろうか、再び沈黙の時が訪れる。やがて、「止めだ!止めだ!」とヤケクソじみた声がした。

「アシモフが亡くなって時間が経った」

 ジーノがポツリと呟く。

「キョーダイがいなくなってから色々あってな。再建に向けて奔走してたら、すっかり昔の話になっちまった」

 時間と共に前を向いて歩むにつれ、離別の哀しみを忘れてしまった自身への憤りが声色ににじみ出ていた。故郷(ホーム)の仲間が抱える苦しみを聞いて、はらわたが凍りついたかのように身体が固まる。

「アシモフがいたらとか、GVがいてくれたらとか嘆くばかりで……むしろ……虚しくなるばかりだ」

 電話口の遠くから響くキーボードを打ち鳴らす音が、ジーノの先細りする声をかき消していく。聞こえなくなるにつれて、少年は奥歯を激しく噛み締め、謝罪の弁を心の中で何度も唱える。

「戻るつもりはないんだろ」

 少年に代わり、ジーノが答える。

 その次に来る「なぜ?」と言う疑問、真実を語るべき瞬間に備え、なけなしの覚悟を振り絞らんと少年は静かに胸を叩いた。

「だけど、可愛い弟分の悩みだ。いつでも聞いてやるさ」

「……ありがとう、ジーノ」

 テーブル上の端末の両脇に拳をつけて頭を下げる。

「どういたしまして、キョーダイ」

 にべも無く答える仲間に、瞳から涙が零れ落ちる。頬を伝って口の端に触れた涙は、後ろめたい罪悪感の味がした。

 

 

 

 ライブ開催までのカウントダウンが六時間を切る。

 もしも推測が外れていたら──タラレバを軽率に語る者はいない。残された時間で少年たちにできることは限られ、ふりだしに戻る猶予はない。

「解析終わったぜ。今、データを送る」

 そうした折に、端末からジーノの返事が返ってくる。

「湾内に浮かぶ海上牢獄ソコネノクニ。地下三階から地上三十階の天を貫くタワー施設。表向きは、凶悪犯や政治犯やらを収容する皇神の監獄」

 場所は都の南東、ゲートを越えた先の一本の吊り橋の先にある小島にそびえ立つ巨大なタワー監獄。背後を振り返ると、アキュラとRoRoがその詳細を調べ始めている。少年はテーブルの端末に視線を戻し、「実体は?」と聞き返す。

「囚人を使った人体実験場だ」

 送られたメールに書かれた内容はいずれも人体実験の計画書で、言い逃れも擁護もできないクロそのものだ。

「いろいろ見つかったぜ。最強の洗脳兵士を生み出すΧプロジェクトやら、頭のイカれた話ばかりだ」

「ここまで詳細が良く分かったね」 

 純粋な賞賛に、ジーノは声を詰まらせる。

 答えに窮する兄貴分に「どうしたの?」と尋ねると、「少し前にサイバー攻撃を受けてな」と苦々し気な返事が返ってくる。

「ここのサーバーから衛星カムヤライ、皇神のサーバーにデータが送られたんだ。お目当てのIPアドレスはすぐに見つけられたがなぁ……まんまとしてやられた」

「そのデータはセーレスだね」

「今思えばな……くそぉ……」

 電話口から歯噛みする音が漏れる。

 電子の謡精の紛い物はフェザーのサーバーを経由して皇神に侵入した。複雑なセキュリティコードを突破するため、フェザーが所有する高度なCPU(頭脳)を利用し、テロリストによるサイバー攻撃と言う体裁を取ることで皇神の目を欺いた。

「ありがとう。助かったよ、ジーノ」

 相手にアクセスしたと言うことは、相手からもアクセスし返されると言うこと──逆探知の危険を顧みず調査してくれたジーノに礼を述べる。

「皇神の衛星にアクセスできた上に、悪巧みを無償(タダ)で潰してくれるんだ。お釣りには十分過ぎる」

 呆気カランと笑ったジーノはフッとため息をつく。

「じゃあな、生きて帰って来いよ」

 簡素な激励が腹底に響き、少年は深く頷いた。

 通話が途切れ、少年とアキュラ、きりんの三人は互いに顔を合わせて頷き合う。

「では、早速出かけましょうか」

 端から見ていたノワが手を叩き、三人の戦士を鼓舞した。

 

 


 

 

 神園(カミゾノ)家の別荘の周りには相も変わらず、皇神の兵士が取り囲んでいた。本部から撤退の指示はなく、今世紀最凶と名高い二人のテロリストを監視する緊張の糸がほつれつつある。

「ヘング中佐の指示はまだなのか?」

「見張りを続けろだとさ……ふわぁ……」

 雑談があくびに変わり、抗えない眠気が襲う。

 少年が北国へ出国してから丸三日見張りに駆り出され、窮屈な車内で仮眠するにつれて、兵士の士気は削がれてゆく。

「そこの二人!気合入れろ!」

 背後から上官の怒号が飛び交い、背筋を伸ばすも程なくして睡魔が舞い戻る。上官を指示するのは本人ではなくフェイク映像だが、それに異を唱える勇者はいない。心によぎる疑念と不満を押し込め、それが従順な彼らの中で眠気となって現れる。

「おい!」

 遥か彼方からぼんやりと流れる声に兵士は目をこすって、別荘を凝視する。別荘のシャッターがゆっくりと開き、真っ赤なイチゴのようなコンパクトカーが現れる。

 外見に似合わない乱暴なエンジン音が吹き荒れる。小さなタイヤから砂塵と共に甲高いスピン音が轟く。

 

 コンパクトカーが動き出した。

 

 ──蒼い光を放つ。

 それが蒼き雷霆(アームドブルー)による過剰な電力供給のせいだと気づくには、現場の経験は浅過ぎた。ハイブリッドカーは出力限界を超え、質量爆弾となって皇神の包囲網を弾き飛ばす。

「逃げたぞ!」

「追え!」

 横倒しのトラックを踏み越え、残った兵士が軍用車に乗り込む。

「しつこいわね」

 コンパクトカーの後部座席に押し込まれたきりんが、揺れる頭を抑えながらボヤく。代搔(しろか)き前の水田にコンパクトカーが乗り上げ、背後から皇神の軍用車が巻き上げる黒土が波になって襲いかかる。

「シートベルトをお締めください」

 小柄な乗用車と大型の装甲車では馬力も数も、差は歴然──今にも追いつかれる危機の中、ノワは鼻歌を歌いながらクラッチを上げる。背後のトランクから鉄板が弾ける音が聞こえ、巨大な噴出孔がバックミラーの視界を覆った。

 

「ボン•ボヤージュ、一秒間の空旅を(Have a fast flight)

 

 ジェットエンジンから青い炎を吹く。

 赤色の車体は黒曜に染まりながら、水田と畦道をつなぐ傾斜を踏み切る。

 

 ──赤い車が空を飛ぶ。

 

 用水路を超え、屋根を超え、谷川を超えて行く。

 直後に訪れた衝撃に皆が目を瞑る中、運転手のノワは平然と鼻歌を鳴らしたままだ。後部座席の少年が恐る恐ると背後を振り返ると、用水路で横転する軍用車の影が少しずつ遠のいていった。




小話
 ミスターXと名乗るアルバート翁と呼ばれる謎の老人。
 元々サブもサブのキャラなので名前とかなかったのですが、折角ならネタを仕込もうとした二人目の人物。
 あちこちにネタを仕込みつつ、お話を円滑に進めようとするバランスが難しいところでした。
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