蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER 作:kocolokoro
茜の光が千刃を黄金にきらめかせる。
狂気を孕んだ黒い瞳が紅く目立つ車を捉え、口から黒蝕の唾液をまき散らしながら相対する敵へと飛びかかる。車の天板から重くのしかかる鈍い音が響く。
「上に乗られた!」
RoRoが慌てふためく中、天井を睨む三人の額から脂汗が滴り落ちる。狭い車内から飛び出して対峙してもまともに敵う手合いではないし、迎え撃つ時間も残されていない。戦況を見渡し戦術を組む暇すら与えられない。
天板から二本の黒鉄色の爪が飛び出した。
屈んで回避したきりんが爪に刀を突き立て、少年がその柄を掴んで電流を流す。頭上から悲鳴に似た叫び声が上がり、一度爪が引込むも、再び四本の爪が天板から突き出す。
天板がギリギリと悲鳴を上げる。
「離れなさいってば!」
きりんが刃を振るい、少年が電流を流し、アキュラが至近距離で銃弾を炸裂させる。爪から迸る痛みに叫ぶばかりで、深く突き刺さった後脚の爪が天板から抜けることはない。
天板がバリバリと割れる。
広がった茜の空を金色の影が覆い尽くす。
脚を振り払って鉄板を道端に投げ捨てたセルレギオスが車内で抵抗し続けた不届き者に向かって吼える。
黒い息を荒げ、後脚を車内へ伸ばす。
リアウィンドウの縁を掴む片脚にアキュラが銃撃を浴びせるも、怯むことなく残った片脚で後部座席の二人を引っ掻き回す。
「おい、化け物!こっちを向け!」
車の側面に回ったヘング中佐がエンジンを吹かせ、千刃竜の巨躯に実弾を撃ち込む。弾切れを起こしたハンドガンを投げ捨て光弾銃を撃ち続けるも、執拗なまでに車内を強襲する。
「くそ……」
内側に湾曲した四本の爪が二人を襲う。
銃と刀の柄で弾き返すことは叶わず、身を寄せて避けた後の座席から綿が飛び出す。後部座席の中央を占拠していた爪が徐々に端で身体を丸めるきりんににじり寄る。照準に爪ときりんと重なり、電流を直に流さんと座席に突き刺さった爪へ手を伸ばす。
爪が視界から消えた──その刹那、身体が宙を浮かぶ。
「GV!」
離れてゆく後部座席できりんが叫ぶ。
セルレギオスが鷹の如き鋭い爪で少年を捕らえ、空へ飛び上がった。身体を拘束する四本の爪に向けてありったけの電流を流した。
セルレギオスが怯みの悲鳴を上げて脚を振り回す。
空高く上がった蒼色の花火が海へと放り出された。
仲間が、車が、吊り橋が一気に遠のいていく──友の叫び声が潮風にかき消される──吊り橋が遥か空へ離れ行く。
背中に硬い衝撃が走った。
吊り橋が遥か下へ離れ行く──紅い車の上で威嚇する金色の竜との間に割り込んだ赤い翼が、少年の視界を遮る。
茜色に燃える空に、空を統べる王者の咆哮が轟く。
「……リオレウス」
少年が呟いたと同時に唸り声を上げたリオレウスが飛翔する。思わず背中の甲殻にしがみついた少年の身体に鈍い震動が走る。ハンガーワイヤーをなぎ倒し道路に脚をめり込ませ、振り向いた空から飛来する刃鱗を垂直に飛び立って躱す。
火竜の体温が少年に流れ、眼前を赤い閃光が覆う。
火球ブレスが空を羽ばたくセルレギオスに飛来する。飛び回るセルレギオスへ火球を放つ度に、少年の視界が赤と茜に染まる。
世界が再び揺れ動いた。
火球から逃げ惑うセルレギオスの背後に回り込み、遥か空からリオレウスが強襲する。
リオレウスの毒爪がセルレギオスの刃鱗を捉え、その奥に埋もれた皮膚を捕らえる。勢い良く蹴られたセルレギオスの身体が主塔にぶつかり、主塔が軋んでその先端が折れ曲がる。
セルレギオスが主塔と共に海へ沈んだ。
「金ピカ竜はいなくなったけど、GVはどうするのよ!」
主塔の麓からきりんの嘆きの声が聞こえ、合図を送ろうとするも、背中で下手に動けば火竜に襲われかねないと躊躇する。
赤い竜は唸りながら、波紋が広がる水面を眺めている。
咆哮がとどろき、水面の波紋がにわかに泡立つ。
高く打ち上がった水飛沫──その中から現れたセルレギオスが空の王を見上げながらゆっくりと飛び立つ。
刃のように鋭い
恨めしげに空を見上げる千刃竜の真下で
水面から蒼い竜が飛び出した。
セルレギオスの眼前に
怯んだセルレギオスの尾に噛みつき、そのまま重力に沿って海底へ引きずり込む。海面でもがくセルレギオスにラギアクルスがその巨躯を巻き付けて一気に締め上げる。海の王のデスロールにのたうち回って抵抗するセルレギオス──振り回したラギアクルスの尾が支柱にぶつかり橋を揺らす。
「急げ!」
アキュラが叫ぶ。
支えを失くした橋が衝撃でたわみ、道がうねりを起こす。崩落の合図にノワはアクセルを踏み込み、紅い車が進軍を始める。その上空をリオレウスが優雅に飛び、背後からたわんだ橋が迫りくる。
馬力で敵うはずもなく、たわんだ道に乗り上げる。
「まずい……」
少年が呟く間にも車とバイクが空高く昇り、遂には宙に投げ出された。大きな車の影に混ざる四人の影、その一つからブースターの炎が噴き出し二人の影を掴む。
残る一人の影が海原へ落ちていく。
少年が飛び込んだ──火竜が巻き起こす風圧に背中を押され、湿った上昇気流を全身で受け止めながら、落ち行く影に近寄る。
「捕まれ!」
差し出した手に、「すまない!」とヘング中佐が掴み返す。
五人の足が人工島に着地した。
安堵のため息をついた直後、腹の底を揺るがす音が響く。橋の崩落音に混ざる着地の音──振り返った先の護岸の淵にリオレウスが着地する。
「まだ戦える?」
肩で息をしながら、きりんが再び刀を抜く。
翼を広げながら一歩踏み出すリオレウスに、全員が足並みを揃えて一歩下がる。
唸り声が海から響いた。
リオレウスが振り向いた先で、ラギアクルスが海岸へ乗り上げる。天に伸びる角から雷撃を散らす海の王が、口から陽炎を漏らす空の王に威嚇する。
「今のうちに行きましょう」
ノワの提案に全員が頷き、振り返った先に見える一筋のタワー、トコネノクニへ走り出した。
背後から二つの咆哮が轟く。
畏怖の念を抱かせる二頭の王の叫びに振り返ると、まさに二頭が真正面からぶつかり合う。青い雷撃と赤い火球がぶつかり弾け、背後へ回り込むリオレウスをラギアクルスが目線で追う。リオレウスが蹴りを仕掛けるも、放電で身を守るラギアクルスを前に攻めあぐね、空から吼える。
荒々しく魅入られる王の駆け引き──少年は思わず我に返る。
やがて
天秤を模した悪趣味なモニュメントの向こうにタワーの入り口が見える。広場へ足を踏み入れた矢先、モニュメントの影から小さな恐竜が飛び出す。
人と同じ背丈の青い縞模様の恐竜の群れに混じって、一回り大きな恐竜がモニュメントにあしらわれた人間を踏みにじり、赤い鶏冠を揺らしながら空へと吠える。
周りの小さな恐竜が鉤爪と不揃いな牙を少年たちに見せつけ、続けて群れの頭と思しき鳥竜、ドスランポスが黒い鼻息を荒げながら雄叫びを上げる。
「ガンヴォルト、先に行け」
ヘング中佐が光線銃を片手に群れに向かって歩みだす。
「この先に元凶がいるんだろう。このトカゲは私が相手する」
「頼んでも良いのか……」
能力もない、強力な宝具もない。
安い支給品の銃一丁で佇むヘング中佐が、「
ゆっくりと頷き、少年たちは群れに突撃した。
ドスランポスの掛け声と共にランポスが飛びかかる。跳躍するランポスを撃ち落とし、ヘング中佐が口笛を吹きながら親玉の鶏冠に銃撃を撃ち込む。横を通り過ぎた少年の背を追うことも忘れた親玉は、鼻息を荒げて猛進する。
左右に跳躍しながら迫り来るドスランポスに照準を合わせる。
鋭い鉤爪と牙の前に軍服は何一つ役に立たない。必殺と化した一撃を避けんと狙いを定めると、足下から鳴き声が響く。
身を低くした子分が足下で威嚇する。
引き金を引くも、見透かしたかのように跳び退く。
黒い影に覆われる──眼前にドスランポスが迫る。
そこにメイドのスカートが伸びた。
しなやかに伸ばした脚がドスランポスを蹴り飛ばす。
よろめく隙に距離を取って顔を上げると、群れの中心に一人のメイドが徒手空拳の構えを見せる。
「油断しすぎデスよ?」
ノワがヘング中佐を睨む。
ヘング中佐は銃を構え直して、足音を立てずに背後へ回り込むランポスに狙いを定める。
「傾国の魔女が付いてくれるとは心強い」
「傾国の魔女?誰デスか、それは?」
後ずさりした二人の背中がピタリと付く。それを合図にランポスの群れと二人が同時に駆け出した。
小話
元々やりたかったシーンが描けて満足です。
ラギアクルスさんの出番はもう少し増やしたかったですが、尺の都合で断念した感じではある。
そんな事を言うと、何体ものモンスターが出したいけど止めておこうとなってはいるんですけどね……