蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER 作:kocolokoro
満月の下、黒狼鳥イャンガルルガが咆哮を上げる。
甲高い咆哮が大気を揺らし、回避不能の超音波となって人に襲いかかる。つんざくような音の暴力に、少年ときりんは耳をふさぎ、側に倒れている
イャンガルルガが大地を蹴り、飛びかかる。
「危ない!」
少年は皇神の兵士を蹴り飛ばし、きりんの腰を抱えて跳んだ。抱き合いながら地面を転がる少年の背後で、黒狼鳥が嘴を地面に振り下ろす。コンクリートの地面が容易く砕け、
「この、バケモノめ!」
皇神の兵士が
兵士の投げた手榴弾がきれいな弧を描く。
兵士の声に黒狼鳥が振り向き、手榴弾がその嘴に迫る。
手榴弾が爆ぜ、爆風がきりんをかばう少年ごと吹き飛ばす。
戦車すら破壊する爆発が、生き物の頭を捉えた。
立ち昇る黒煙の中で、生き物は息絶えている──それが自然の理だ。
倒れ込んだ兵士が唇の端を歪める。そして、黒煙の中に揺らめく炎を見て、恐怖に顔を歪める。
炎の塊が飛び、男の身体が弾け飛ぶ。ピンボールのように転がる男の死体が火種となって、暗闇に包まれた発電所を炎で照らしていく。
「ちょっと、GV!」
きりんの声に、呆気にとられていた少年が我に返る。
「いつまで抱きついてんのよ」
きりんは少年を押し退け、ゆっくりと立ち上がる。肩で一息ついて鞘から刀を抜く。少年もホルスターから銃を抜き出し、目の前の黒狼鳥に照準を合わせる。
「きりん、一つ聞いて良いかな?」
「何よ?」
きりんが聞き返すと同時に、黒狼鳥が振り向く。ひしゃげた嘴の先から炎が漏れている。揺らめく炎の向こう側、殺意をむき出しにした黒狼鳥の瞳に、少年は照準を合わせる。
「
「初めてよ」
イャンガルルガは刺々しい翼を広げ、臨戦態勢に入る。
「恥ずかしいところ、見られずに済みそうだ」
少年の呟きを皮切りに、黒狼鳥が跳びかかった。
少年は体内に電流を張り巡らせ、反射神経を研ぎ澄まし、横に飛ぶ。受け身をとって立ち上がり、
「なっ……」
少年が顔を歪める。下唇を噛み、銃身を黒狼鳥に向ける。
電導性の髪をコーティングした受雷針は黒狼鳥の甲殻に弾かれていた。戦闘狂の如く戦いに明け暮れる黒狼鳥を守ってきた甲殻に情け容赦はない。
イャンガルルガが少年に向き直る。
その背後から、きりんが奇襲を仕掛けた。
変電施設から空へ飛び上がり、太刀を構える。天に向かって揺れる無防備な尾に向かって、体重を乗せた一振りを浴びせる。鉄が弾ける音がして、砕けた甲殻がきりんの頬を掠める。
黒狼鳥が怯む。手応えあり。
だが、余韻に浸る暇はない。
イャンガルルガが尾を振り回す。尾の先の棘から飛び出した紫の液が軌跡を描く。咄嗟にしゃがみ、地面を転がって距離を離そうとするきりんの頭上を棘が生えた尾が何度も通り過ぎる。その単調な動きに、少年は攻め込む好機を見出した。少年が電気をまといながら黒狼鳥の元へ飛び込む。電気をまとった純粋な体当たりは、音速を超える速さの質量兵器だ。
イャンガルルガが目を細めた。
ほくそ笑む瞳、その場で尾を振り回すだけの単調な動きが攻め込む好機だと錯覚させた、狡猾な黒狼鳥の冷笑だ。
イャンガルルガは地を蹴り上げて背後に飛ぶと同時に、咆哮を放つ。少年の体当たりは空を切り、回避不能の爆音が少年を襲う。
「GV!」
耳を塞ぐ少年に、きりんの叫びは届かない。
そして、その好機を逃す黒狼鳥ではない。残る耳鳴りに足を取られながら、無策を自覚した少年は黒狼鳥を目で追う。
黒狼鳥が大地を蹴り、距離を詰めて来る。一歩、二歩と踏みしめる動き、今までの飛びかかりとは違う動きだ。三歩目を踏み込んだと同時に後退りする。
きりんが少年を突き飛ばした。
飛び込んだきりんの脚が宙に浮かび、そのつま先を黒狼鳥の尾がかすめる。
イャンガルルガの必殺技、サマーソルト。
尾から噴き出す液が、黄色い満月のキャンバスに紫毒の弧を描く。
「助かったよ」
少年は我に返り、きりんに立ち上がるよう肩を叩いて促す。
だが、きりんは動かない。酷く疲れ切った呼吸音だ。この短時間でバテたとすれば、少年と戦った経験があるとは思えない体力の無さだ。
黒狼鳥の着地する音がする。
「早く!」
イャンガルルガが固まった二人を睨む。
きりんを立ち上がらせようとかがみ込み、肩を担ぎ上げた瞬間、青く腫れたきりんの顔が少年の目に飛び込んだ。
「き、きりん!」
少年の驚愕の声、それが一刻の判断を遅らせる。すでに黒狼鳥が眼前に迫っていた。黒狼鳥が勝利の雄叫びを上げ、歪んでも尚鋭利な嘴を振り下ろす。
目の前が真っ白になった。
「ねぇ、GV」
真っ白な世界に声が響く。
「アナタなら、最期マデ足掻き続けるのカシラ?」
聞き覚えのある話し方、懐かしさを覚える話し方だ。
「私もあきらめない。失くしたカラダは、必ず取り戻す」
だけど、その声色は記憶のどこにも残っていなかった。
「バビーナ!」
何処かからか声が聞こえる。意識はある、痛みはない。
少年は恐る恐る目を開ける。
目の前には黒狼鳥。あらぬ方向に飛びかかっている。
「ラニエ、ラニエ!」
声が少年を現実に引き戻す。少年が抱えるのはきりん。彼女の頬は青く腫れ、ぐったりとしている。
少年は辺りを見渡し、声の主を見つける。
黒髪の青年だ。左頬に残る傷跡が、青年の濃い生き様を物語っている。後ろで一つ結っただけの乱雑な髪、日に焼けた小麦色の肌、首からぶら下げた骨飾り、動物からそのまま剥ぎ取ったような毛皮を羽織る姿は、野生に生きる原住民と言う表現が相応しい。弓を背中に担いだその青年がひたすらに手招きしていた。
少年はきりんを抱え、青年の元へ駆け寄る。青年は少年の首を掴んで変電設備の裏に押し込み、小さな球を投げると、白い煙が辺り一面を覆った。
「バビネ?」
青年が少年に声をかける。
聞き慣れない言語だ。心配そうに声をかける様子から、「大丈夫か?」と身を案じていることは分かる。
答えに窮する少年を見て、青年はサムズアップしてみせた。
少年は首を横に振り、きりんの顔を指差す。青年はヤブから棒にきりんの腫れた顔を触って頷くと、懐から瓶を取り出した。
木を彫ってできた無骨な瓶だ。ガラスやプラスチックのような近代的な代物ではない。瓶の口から食欲を無くしそうな青色の液体が見える。
青年はそれを少年に差し出した。
「飲ませろ」とは理解できるが、怪しげな液体を無闇に飲ませるわけにはいかない。躊躇する少年を見て、青年は瓶の液体を一口飲んでみせる。毒がないことを示した青年を見て、少年はようやく瓶を受け取った。
少年がきりんの口へ青い液体を流し込む。
「う……ん」
顔の腫れはみるみる内に引き、きりんは目を覚ました。解毒薬にしては劇薬のように早すぎる治癒効果だ。毒に近しいものを渡した疑惑と、快方に向かう薬を渡してくれた感謝の念が、少年の心中で渦巻いていた。
「大丈夫か?きりん」
「ん、ありがと、GV」
「ジーブイ?キリン?」
二人の会話を聞いていた青年はカタコトな口調で二人を指差す。きりんを見て、頭から角が生えている
漆黒の暗闇に咆哮が轟く。
三人は息を潜め、変電設備の物陰から様子を窺った。
煙玉の白煙がすでに晴れ、黒狼鳥が辺りをうろついている。嘴から怒りの獄炎を漏らし、発電所の設備に嘴を叩きつけてはその物陰を一つずつ覗き込んでいる。
青年は左腕につけた篭手に石ころを詰めた。訝しげな目で原始的な防具を見ていた二人の前で、篭手から小さいボウガンが展開される。
スリンガーだ。
青年はあらぬ方向へスリンガーを向けると、スリンガーから石ころが勢い良く射出された。
静かな夜に響く石ころの音を追いかけて、黒狼鳥は発電所の奥へ姿を消した。
「この人が助けてくれたんだ」
鮮やかな化け物の誘導に、「ありがとう」と二人は揃って頭を下げた。青年は、「アイヤ」とサムズアップする。「どういたしまして」とでも言いたげだ。
「知らない言葉ね」
耳元でささやくきりんに少年が頷く。
「それで、あの鳥はどうする?」
きりんが二人の顔を交互に見合わせる。
すでに黒狼鳥は発電所の何処かに行ってしまった。このまま帰って、皇神の戦闘部隊に任せることもできる。
「イャンガルルガ」
「イャンガルルガ?あいつの名前か?」
青年の言葉に、少年は「イャンガルルガ」と呟き、思考を巡らす。
名前は大きなアドバンテージだ。
正体不明の怪物を
そして、少年は静かに頷いた。
「戦おう」
少年の決意に、「理由は?」ときりんが返す。
「発電所だから、皇神も兵器は使えない。白兵戦になっても、手榴弾すら堪えてくる怪物だ。皇神の兵士にも大きな被害が出るだろう」
「相変わらず、GVはお人好しだね」
きりんが優しく微笑む。そして、弾けんばかりの笑顔を振りまき、刀を振り回した。
「よーし!倒せば良いんでしょ。何かアイデアはない?」
青年を指差したきりんは、「イャンガルルガ、ボコボコ。オッケー?」とシャドーボクシングをしながら尋ねる。
「イース、ストラテジア」
青年は頷きながら、親指と人差指をくっつけて片手をくるくると回した。羽ペンが欲しいと気づくまで時間がかかったことは言うまでもない。
小話
第三話のタイトルは全て黒狼鳥の初登場ムービーとクエスト名から拝借。しっかりネタバレになってたかもしれません。
今回は、蒼き雷霆アームドブルー側の小話。
主人公は味方からGV、敵からガンヴォルトと呼ばれており、中立の語り部は少年と呼ぶことにしています。ゲーム本編は厨二病全開の用語が出てきますが、それを説明すると文字数が足りないので、省略しています。きりんの仕込み刀付きの錫杖を刀と呼称していたりとかが良い例ですね。