蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER   作:kocolokoro

41 / 41
蒼き雷霆アームドブルーとモンスターハンターの二次創作です


第四十一話 奈落の謡精

 明滅する電灯の下に赤い斑点が浮かぶ。

 まばらに残るそれは道標となり、居所を知らせる愚行と知りながらも、玉前(たまさき)の瞳が揺らぐことはない。

 脇腹から流れる血を押さえ、肩を借りながらも歩く玉前の瞳をオウカは覗き込む。荒い息を上げ、消えてしまいそうになる意識に抗い、歯を食いしばって足を引きずる彼女に、「戻るつもりはないですよね」と発破をかける。

「あれは……危険です」

 玉前が顎をしゃくって行き先を示す。暗がりが広がる階段を下り、更なる地下へ足を踏み入れる。

蒼き雷霆(アームドブルー)異能者狩り(セブンススレイヤー)が手を組めば、負けはしないでしょう」

 階段の踊り場でたたらを踏む玉前をオウカが引き上げる。咄嗟に手すりにしがみついた玉前は再び階段を下り始める。

「だけど、彼女はいつでも逃げられる……ネットがある限り、彼女が滅びることは永遠にない」

 撤退すべき重傷を負ってでも成すべき目的──それはセーレスの逃げ道を断つことだ。

 ネットが実在する限り、悠久の時を生き永らえる。

 それはあらゆる生命体には成し得ない夢にして牢獄。彼女は任務達成のために生き続ける──たとえロボット三原則に反しても、たとえ実行不能(エラー)と結論づけても、プログラムされたコードに叛逆する意思を抱くことはない。

「だからこそ、地下のサーバーだけは潰しておく」

「でも、衛星から逃げられません?」

 オウカの指摘に玉前は顔を歪める。

 逃げ道は地下のサーバーだけでなく、遥か宇宙を漂う衛星にもある。その一つを叩いたところで何一つ意味はない。

「それでも……送れるデータは限られる……はず」

 階段を下る足取りが重くなる。図星を突かれた玉前は奥歯を軋ませたまま黙り込んでしまう。

「行きましょう!」

 オウカが沈みゆく玉前を引き上げた。

 階段を下り終えると、目を細めてようやく先が見える暗がりが辺りに広がる。端末画面に映る見取り図とにらめっこしながら、左を指差した玉前に指示されるがままにオウカは暗闇を進んでゆく。無機質な通路の壁に電子ロックの扉が時折混ざり、その扉はいずれも開いたままだ。

 

 ピー、ピー……

 

「不気味なところですね」

 電子ロックの扉から警告の電子音が小さく鳴り続ける。

 不安そうに辺りを見渡すオウカに、「実験施設ですから」と玉前が淡々と答える。

 

 ヒタリ、ヒタリ……

 

 オウカが咄嗟に足を止めた。

「どうしました?」

 首を傾げる玉前の口を塞いだオウカはそのまま息を殺して後退りする。

 

 ピー、ピー……

 

 電子ロックの警告音に混じる聞き覚えのある足音にオウカは自分の胸を叩き、ひどく荒れる鼓動を抑え込む。

 前方に広がる一筋の通路の壁から白塗の横顔が現れる。

 黒いよだれを垂らしながら、能面のような顔を左右に振る。奇怪竜フルフル──その白無垢な顔が二人を捉えた。

 オウカは玉前の口を再び塞いで、鼻の前で人差し指を立てる。足音を立てずに後退し、呆然と立ち尽くすフルフルから距離を開ける。

 

 音さえ立てなければ──

 

 オウカの思惑を余所に、フルフルは頻りに鼻を鳴らす。

「サーバーの破壊を任せても良いかしら?」

 隣で呟いた玉前は脇腹を擦りながら不敵な笑みを浮かべていた。生乾きの血が染み込んだ包帯代わりの布切れを頻りにさする彼女を見て、オウカは全てを悟った。

「絶対に見捨てません!」

 オウカが叫ぶと同時に、フルフルが咆哮する。

 甲高い雄叫びを暗闇に響かせ、扉を弾き飛ばして二人の背中を追う。巨竜の体躯を前にして、手負いを抱えた人間の走力など塵芥に同じ──たちまち距離を詰められる。

「ちょっと我慢してください!」

 その空いた手を玉前の脇腹に向かって伸ばす。巻き付いた布切れを引きちぎり、呻く玉前に目を向けることなく真上に投げ捨てる。

 鮮血に染まった布切れが宙を舞った。

 視界に映っても気にする者はいない無駄な抵抗だが、目を持たない奇怪竜なら話は別だ。

 生乾きの血の臭いが不意に横を通り過ぎ、瞬く間に足を止めたフルフルは首を伸ばして臭いの元に噛みつく。自身の口で飲み込める大きさと断じて咀嚼(そしゃく)を始めるが、それはただの布切れ。どこまで噛んでも噛み応えも呑み応えもない。ふと我に返り、もっと大振りな獲物の臭いを思い出して辺りを見渡す。

 足音もない──臭いも消えた。

 騙されたと気づいたフルフルが怒りの声を上げる。

 首を傾げて大きく鼻息を吸い込む。

 床から香る鮮血に気づき、臭いの後を追う。赤い斑点の血痕を一歩ずつ踏み潰していく内に、その臭いが二手に分かれた。

 片方は開けた空間の奥へと繋がり、もう片方に首を伸ばすと頭が壁にぶつかる。フルフルは再び首を傾げ、二つの血痕を嗅ぎ分ける。

 フルフルが壁の方をじっと見つめる。

 片方の通路の奥へと続く血の臭いに鮮度が欠けていた。片や、壁へ続く血溜まりには(ほの)かな湿り気がある。

 

 ──壁の中にいる

 

 フルフルが扉に向かって頭を叩きつける。

「きゃ!」

 中から扉を押さえていたオウカが悲鳴を上げる。電子ロックが外れた扉が激しく揺れる。華奢な腕で扉を押さえるも、ほんの数回揺らされるだけであっさりと扉から弾き飛ばされる。

「いたぁ……」

 床を転げ回ったオウカはそのまま立ち上がる。

 両脇に倒れ伏す二枚の扉、一つの出入り口に佇む奇怪竜。鼻を頻りに鳴らし、部屋の奥でしゃがみ込む玉前に顔を向ける。

 

 ズドン!

 

 突然の銃声に続く尾への衝撃にフルフルが仰け反る。

「かかってこい!バケモノ!」

「その声は、ヘング中佐……」

 フルフルが塞ぐ廊下から男の声が響いたかと思うと、続けて何発もの銃声が鳴り響く。扉から外に突き出した尾に向かってライフル銃を撃ち込まれる。激しい音と声を荒げて挑発するヘング中佐に、フルフルは部屋を出て外敵を追いかける。

「早く行け!」

 遠ざかるヘング中佐の声に玉前を引き寄せると、オウカはそのまま部屋を飛び出した。

 

 


 

 

 天を貫く──

 その言葉とはほど遠い半端な高さを誇るソコネノクニも、あの世と呼ぶ場所からは近しい距離だ。

 あの世──成層圏を飛び出した人類が未だ発見できていない新大陸であり、雲の上にあると古来から語り継がれる未開の地──パパが旅立った新天地。

 唄を届けるだけなら、何処でも良かった。

 アメノウキハシの方がずっと都合が良い。幾度となく計算(シミュレート)しても、ライブ会場としてここは相応しくない。

 何度も弾き出した計算結果になぜ逆らったのか──

 ワタシの唄声を届けたいと想った人はもういない──

 

 


 

 

 エレベーターが激しい摩擦音を上げて屋上へ到着する。

 少年の視界にヘリポートが広がり、夜の(とばり)で漆黒に染まった海と空の境目に一点の黒い渦が浮かび上がる。

 渦から飛び出した異界の大槍──撃龍槍。

 少年たちは慌ててエレベーターを飛び出した。背後でエレベーターが崩れる音を聞き届け、淵で海を呆然と眺める等身大人形(ラブドール)(ダートリーダー)を構える。

「観念しなさいよ!」

 刀を構えたきりんが声を上げる。

 だが、反応はない。

 脇腹が抉り取られたボロボロの人形は侵入者に目をくれることなく、ひたすらに海を眺めている。得体のしれない隙を晒す人形に(ボーダー)を向けながらアキュラが歩み寄る。

「カミゾノか……」

 夜空に響く足音に、人形が振り返る。

「パ……パパを(たぶら)かしたには飽き足らず、ワ……ワタ……ワタシの想いまで踏みにじるつもりなの?」

 表情を変えることのない等身大人形の中に宿るセーレスが尋ねる。その声色は抑揚のない機械音声で、悲痛を訴えるためにただ手を伸ばしてくる。

「悲劇のヒロインのつもりか?くだらん」

 救いを求める手をアキュラが否定する。その隣から歩み出た少年が電子の謡精の紛い物に尋ねる。

「キミは何のために唄うの?」

 声を取り戻したと豪語したあの日、オウカが聞くことはなかった問いをもう一度尋ねる。

「それは……パパの……ため?現象(フェノメナ)再現……のため?」

「やっぱりね」

 少年だけに語った答えを繰り返す紛い物に、少年は首を横に振って否定する。カノジョを創造した玉前博士はカノジョの唄を望んではいなかった、現象再現も叶わなかった──あらゆる理由が否定されても尚、唄い続けようとする妄執への答えは一つしかない。

「自分のためだ」

 与えられた仕事(タスク)を達成できない日々に独り苦悶する中、周りから失望の目を向けられ、無能と揶揄され、爪弾きにされ、窓際に追いやられ、膨らむ学習コストに対する利潤を回収できないと更に卑下されるを繰り返す悪循環。

 それを打破するために、カノジョは成果を渇望した。

 現象の一つ一つを余すことなく解析する研究者然とした論理(ロジック)を放棄し、誇大広告を是とする阿漕(アコギ)な商人然とした気質(エモーション)に勝算を見出した。

「お前に歌は歌えない」

 撃鉄(げきてつ)を起こして更に歩み寄る少年に、セーレスは乾いた笑いを漏らす。

「GV……アナタもワタシを拒むんだ」

「当たり前だ」

 拒絶を示す撃鉄の音を打ち鳴らす。

 肩に突き刺さった雷撃鱗を見やり呪詛の言葉を呟くと、セーレスは海を背にして飛び降りた。

 視界から消えたセーレスを追ってヘリポートの淵から地上を覗き込む。小さな点となった人形が円形広場(ロータリー)の前に倒れ伏していた。あらぬ方向に関節が折れ曲がった人形を、青い縞模様の皮を持つランポスが品定めしている。

 円形広場の中央に佇むモニュメント、司法の天秤を模した像が二つに割れた。地鳴りを上げながら円形広場が徐々に二つに割れてゆく。その上をたむろしていたランポスたちがギャアギャアと騒ぎ立てる。

 円形広場に現れた大穴から蒼い光が迸る。

 蒼い筋が走るケーブルが幾重にも螺旋を描いて束なり、巨木の如く肥大化した一本のケーブルとなり、さながら暗闇から伸ばした手が穴の淵を掴んでいるかのようだ。もう一つのケーブルの束が大穴から伸び、吠え立てるランポスに振り下ろされる。無慈悲に振り下ろされたケーブルを避けたランポスが果敢に跳びかかるも、弾け跳ぶ雷撃を受けて地へ転がり飛ばされる。渦巻く電流により生み出される磁場が、大穴に潜む巨体を支えて引き上げる。

 大穴から無機質な白い蕾が顔を覗かせる。盾のように膨らんだ鋼鉄の肩を覗かせ、蕾の先端が天を見上げる。

 蕾に蒼い電流が迸る。

 蕾が六つに割れ、クチナシの花弁の如く一気に展開される。

「ジィィィィィィブイィィィィィィ!」

 花の中心から咆哮が轟く。

 雄しべの如く巻き付いたケーブルの中心に咲く一本の雌しべに半身となった電子の謡精の紛い物が鎮座する。

 

 

 

 かつて施しを与えんとした蚕は四肢を裂かれ常世の底に追いやられ──異空を巡りて声すら取り戻した蚕はやがて冥府の底から出で立ち、いざ天へと舞い戻らん

 哀を唄う蛾、憐歌蟲──オオツキノヒメ




小話
 大穴から這い出る巨大モンスターなんて聞いたことないなぁ(すっとぼけ)
 フルフルさんはどういう経路で戻ってきたのか全く分かりませんが、作者もあまり分かっていません。不気味な神出鬼没なイメージだけでいつの間にか先回りしてましたね、全く不思議な話です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。