蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER 作:kocolokoro
今回はバトル展開なので、二話分投稿です。
見知らぬ場所だった。
怪鳥共と
知らない匂いだった。
ニンゲンが放つ撃鉄のような臭いの中に混じる磯の香りが、黒狼鳥にとって唯一の安らぎだった。
たくさんのニンゲンが襲ってきた。
縄張りに戻らないといけないと気づいた瞬間のことだった。構える奇妙な棒状のものがニンゲンの武器であるとすぐに分かったし、張り上げた声から明確な殺意が伝わった。
だから、戦った。
そして、勝った。
そして、帰る方向を探していた時だった。
二匹のニンゲンが現れたのは。
そして、今も二匹のニンゲンが立ちはだかる。
東の空が仄かに明るくなる。
その明かりがイャンガルルガの瞳を照らし、さながら憤怒の炎のようだ。少なくとも、少年だけはイャンガルルガの瞳に怒りを見たような気がしていた。
ニンゲンとモンスター。
決して交わることのない生命がぶつかる。
少年の銃と青年の弓矢の雨がイャンガルルガを襲う。イャンガルルガは横っ飛びに避けて、青年に飛びかかる。
青年は前転して滑り込み、
竜の一矢がイャンガルルガの脚に突き刺さる。
青年の鮮やかな立ち回りに、少年は感嘆の溜息を漏らした。
脚に矢が刺されば、大抵の生き物は動けなくなる。だが、堅固な鱗が骨肉を守り、暴れ回る脚に矢は力なく飛ばされる。
「狙うべきは鱗が少ない頭と翼膜」
作戦会議で、最初に少年はそう発言した。
そして、それを実行せんと少年がイャンガルルガの正面に立ち、ありったけの
少年は電流の出力を上げる。少年の周りに発生したプラズマが受雷針に吸い寄せられ、蒼い電気の奔流がイャンガルルガを襲う。
だが、イャンガルルガは動じない。蒼の光の眩しさに少し目を細めるだけだ。電流がイャンガルルガの身体を
イャンガルルガが翼を広げ、首を大きくもたげる。口から溢れ出る炎が、薄明に浮かぶ月の明かりを一気に呑み込む。
「フィアマ!」
青年の掛け声と共に獄炎が放たれる。
咄嗟に躱した少年の三つ編みの先が焼き焦げる。背後で爆発音が響き、鉄塊の崩れる音が薄明の空に木霊する。
正面に立つのは愚策だと思い知らされる。
芽生えた小さな弱気が攻め手を緩める。首を振るって銃を構え直す少年を見て、イャンガルルガは足を踏み鳴らして牽制する。
イャンガルルガと言う種は狡猾な生き物だ。
争い相手の感情の機微を読み解き、相手の攻勢と守勢を本能で汲み取る。イャンガルルガは少年の弱気を感じ取り、威嚇していた。
その隙を青年が
ユラユラと揺れる尻尾に矢がぶつかり、甲殻が弾け飛ぶ。毒液を分泌する針から紫の液が溢れる。
イャンガルルガが青年の方を振り向く。にたりと笑う青年に、翼を広げて威嚇しながらにじり寄る。その間も、青年は絶え間なく弓を放つ。攻撃の手を緩める気配はない。
ならば、必殺の火炎ブレスの好機だ。
再び首をもたげ、体内の炎熱袋で可燃性の吐瀉物を燃やす。
炎を浴びせれば、恐れて攻撃を緩めるに違いない。
……とでも思っているのだろう。
狡猾さ故の慢心と嗜虐性が、イャンガルルガに隙を生む。
「ウオォォォォ!」
青年が叫ぶ。
分電盤からもう一つの影、きりんが飛び出した。
きりんは蒼きスパークを纏いながら、イャンガルルガに向かって飛び出す。少年から放たれる電撃が、少女の握る刀に流れ
「はああああ!」
きりんと少年が、揃って咆哮を上げる。
イャンガルルガが気づいた時には、刀身はすでに尾を捉えていた。胴体から伸びる尾と、その先に付いた毒袋の塊とも言える尾先の付け根に向かって刀が振り下ろされる。
きりんの身体を張った一撃目、少年の演技で作った隙をついて放った青年の竜の一矢による二撃目。二撃で尾の甲殻が剥がれ落ち、むき出しになった肉に、少年の電気の力で加速した刃が喰い込む。
肉を切り、骨を断つ。
紫の尾が明けの天を舞った。
紫の毒液と血飛沫が天で混ざり、明けの空に黒い花火が打ち上がる。降り注ぐ毒液は誰にも当たらない。同じ
尾を失くしたイャンガルルガは、バランスを崩す。
少年と青年が同時に駆け出す。少年は銃に弾丸を込めながら黒狼鳥の背後へ、青年は矢を一本取り出しながら黒狼鳥の正面へ、互いに交錯するような配置に着く。
少年が受雷針を飛ばす。甲殻を失い、肉がむき出しになった尾の断面に受雷針が突き刺さる。
青年が竜の一矢を飛ばす。頭に付いた傷の奥に突き刺さった鉄の矢じりには、受雷針の元となる少年の髪の毛を巻き付けてある。
少年がありったけの電気を飛ばす。
尾に付いた受雷針から、頭に付いた受雷針まで、イャンガルルガの身体に電流が走る。プラスの端子からマイナスの端子に向かって流れる電気回路のように、その回路の途中にある心臓と脳に高電圧の電流が流れる。
悲鳴とも程遠い悲痛な咆哮が発電所に響き渡る。咆哮が地面のコンクリートにヒビを入れる。
「GV!」
避けられない音がニンゲンに迫る。きりんと青年が飛び退く中、少年は電力を上げ続ける。短期決戦に持ち込まんと放電に集中する少年に、音の爆弾が襲う。
少年は歯を食いしばり、電気を送り込み続ける。
少年の意地のおかげか、ニンゲンの叡智と言える応急耳栓のおかげか、少年は真正面から咆哮に抗う。
少年の耳の中で、耳栓が激しく揺れる。
全身の筋肉が麻痺しても尚、イャンガルルガは叫び続ける。個体としての意地か、種としての生存本能か、イャンガルルガは咆哮一つで少年に抗う。
やがて決着がついた。
応急耳栓が割れ、電気の力を使いすぎたことによるオーバーヒートで先に少年が倒れた。
そして、後を追うようにイャンガルルガが地に伏した。
イャンガルルガはピクリとも動かない。
──ニンゲンの勝利だ。
「GV!やった!」
尻もちをつく少年にきりんと青年が駆けつける。
「ディーヤー!ディーヤー!」
青年も興奮した様子で、少年の肩を叩く。オーバーヒートを起こして動けなくなった少年を、青年がひょいと持ち上げる。
「何とかできたね、
「もう二度とやりたくないけどね」
あどけなく笑うきりんに、青年の肩に担がれ力なく笑う少年、そして豪快に笑う青年。三者三様に勝利の余韻に浸る彼らを、明けの陽ざしが祝福するかのように柔らかく包み込む。
三人はすっかり戦場から抜け出し、日常へ戻ろうとしていた。最後まで油断は禁物と言わんばかりの雷鳴が轟く。
その雷鳴に、か細い声が混じる。
「う、嘘。まだ立ち上がるの?」
目を大きく見開くきりんの視線の先には、心臓を焼き切られても立ち上がろうとするイャンガルルガの姿があった。
力なくよろけるイャンガルルガを前に、三人は再び武器を構える。そして、黒狼鳥の頭上から雷の化身が飛来した。
その雷鳴は命が足らぬと叫ぶ悪漢の嘆き。
降り注ぐは死に至らしめんとする連撃の嵐。
凶性は止まることを知らず、ただただ苛烈さを増す。
雷の反逆者、電竜、ライゼクス。
小話
イャンガルルガはゲーム以外の媒体には出ていないらしい。
書いた感想として、音使いが文字で描写しにくいのが原因かなと思いました。
音使いには三パターンあると思います。
一つは精神を操るタイプ。原作の電子の謡精や、ONE PIECEのブルックなど、心情変化を得意とする小説とは相性抜群です。
二つは衝撃波をもたらすタイプ。ボルトキープこと零崎曲識や、詠唱に音楽を使うギルティギアシリーズのイノなど、被害が目に視えるので、情景描写を得意とする小説とは相性抜群です。
三つは音そのもので攻撃するタイプ。ジャイアンボイスや星のカービィのマイクなど、棘が付いた音符を飛ばす……、はい、無理です。
手塚治虫氏が「漫画はあり得ない非現実を描く」と仰った通り、イャンガルルガの咆哮も小説向きではないでしょう。漫画でも、イャンガルルガが音符を飛ばしてきたら違和感しかないですし、他媒体の登場は難しいなと思いました。