蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER   作:kocolokoro

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蒼き雷霆ガンヴォルトとモンスターハンターの二次創作です。


第六話 翠電の裁き

 翠色(すいしょく)の稲妻を纏う竜。

 槍状の尾、きらびやかな翼膜、頭の先の大きな鶏冠(とさか)にある発電器官から玉虫色に輝く電撃が飛び散る。

 大きな翼爪がイャンガルルガの嘴にめり込み、かつての光沢はすでに失われている。鋭い歯で汚れた翼爪を噛む様は、獲物の生き血を(すす)る鬼のようにも見える。

 ひとしきり爪を研ぎ終えたライゼクスが、三人に視線を合わせる。口から生乾きの血を垂らし、三人の元へにじり寄る。

「こいつは……」

「ライゼクス」

 青年が指差すと、ライゼクスが頭をしきりに揺らす。頭の鶏冠から緑の稲妻が迸り、近くの変電施設から火花が上がる。明らかな殺気を感じたきりんが、「今度は竜殺し?」と思わず愚痴をこぼした。

 ライゼクスが吠えた。

 すかさず、少年と青年が銃撃を放つ。

「なっ……」

 三人が言葉を失う。

 飛び立った矢も受雷針(ダート)も、ライゼクスの手前で火花を上げながら墜落していた。二人の銃撃はライゼクスの身体に触れることなく叩き落されている。歩み寄るライゼクスから距離を離そうと三人が後退りする。

「放電でもしてるの……」

 きりんが、未だ攻勢に転じないライゼクスを睨む。

 二人の遠距離射撃が完全に封殺されている。

 斬り込むべきは自分だ。

 だが、眼前の竜の正体が未だ掴めない。分かっていることは、ライゼクスと言う名と、少年と同じ雷を操る竜だと言うこと、そして、少年と同じくプラズマ放電で電子機器をショートさせ、形ある物体を弾くと言うことだ。

 電子機器が発達した世界で最強と謳われる電気を操る少年(カイブツ)と同じ力を、人間より強大な(バケモノ)が持ち合わせている。先のイャンガルルガも、事前の作戦会議と、三人の力を合わせなければ決して勝利を掴めなかった。

 さながら絶望が竜の形をして迫り来る悪夢を見ているようだ。

 ライゼクスが翼を大きく振り上げる。

「ビターレ!」

 青年が声を張り上げると同時に、翼爪が振り下ろされる。翡翠色の稲妻が辺りに弾け、コンクリートが陥没する。

「どうすれば……」

 きりんが少年を見やると、少年のあごから汗が垂れていた。少年にそれを拭う余裕はない。必死に受雷針を撃ち込み、宙で虚しく弾かれる様を歯噛みしながら見つめている。青年はポーチから取り出した赤い薬瓶に矢を浸しては、矢を放つを繰り返すが、すべて徒労に終わっている。

 もう自分しか残っていない。

 きりんが地を蹴り、巨大な竜の懐に正面から飛び込む。

 キィン──

 張り詰めた高音に、刀を握る手が一瞬強張り、きりんは竜を見上げる。竜が上体をもたげ、その凶悪な瞳できりんを見下ろしている。

 その遥か頭上、高電流を溜め込んだ鶏冠(とさか)から出鱈目に放出されるスパークが雷の剣となり、天に伸びる。弾けるスパークが空気を伝わり、露出した肌を震わせる。

「きりん!」

 震える全身がすでに死を悟る。

 ライゼクスの必殺技、ライトニングブレード。

 影すら残さないと恐れられる剣は無情にも振り下ろされ、甲高い悲鳴が響いた。

 

 

 

「イャンガルルガ!」

 地に伏していたイャンガルルガが、ライゼクスを蹴り飛ばした。

 雷の剣がきりんの背後で爆ぜ、砂埃の突風と共にコンクリートを焼き尽くす。雷が落ちたような惨状に、きりんは生唾を飲み込み、眼前のイャンガルルガと対峙する。 

 鋭かった嘴は無惨に折れ曲がり、口からしきりに血を吹きこぼす。イャンガルルガはきりんの目の前で何度も威嚇しているが、それはすでに弱々しい。

「きりん!後ろだ!」

 少年の呼び声にきりんが振り返る。イャンガルルガに突き飛ばされたライゼクスが、地面に何度も翼爪を引っかき、唸り声を上げていた。

 突然、ライゼクスがきりんに向かって飛び出した。滑空しながら、巨躯をねじって翼爪を振り上げる。

 きりんは咄嗟に地面へ飛び込んだ。

「きゃ!」

 その後ろで翼爪が叩きつけられる。コンクリートを容易く砕く衝撃が、きりんの身体を吹き飛ばす。何度も地面を転げ回り、変電施設の金網に背中を打ち付けられ、きりんは呻き声を上げる。

「大丈夫か!」

 少年と青年が同時に駆け出した頃、ライゼクスの目の前にいたイャンガルルガが跳躍し、ライゼクスの背中に飛び乗る。背中を脚で引っ掻き、曲がった嘴で突く。

 だが、効かない。

 自身より体格の大きい飛竜種と言う種族の壁に、悲鳴を上げつつある身体での果敢な攻撃は、あまりにも無力だ。

 ライゼクスが鬱陶しそうにイャンガルルガを見上げる。

「みんな、一旦逃げよう」

 始まった二頭の争いに、少年は撤退と言う冷静な判断を下す。緑色の液体を渡そうとする青年も、痛む背中を抑えながらそれを不気味がるきりんも、互いに頷き合い、発電所の正門に走り出す。

 その背後で、イャンガルルガが宙を回った。

 必殺のサマーソルト。ライゼクスが鬱陶しそうに振り向く、格下と油断したその顔にぶつける一発逆転の一撃。

 だが、虚しく空を切る。

 切られた尾が頭に届いていない。

 最大の好機を逃しても、イャンガルルガに動揺はない。戦いに明け暮れ、強さを示すことで生き残ってきたイャンガルルガと言う種としての本能に、逃走の二文字はない。

 イャンガルルガは再び跳び上がる。

 鶏冠を揺らすライゼクスの頭を脚で抑える。怯んで動きを止めたところにもう一度サマーソルトをぶつけんと、顔から飛び降り、数歩下がって助走をつける。

 イャンガルルガが宙を舞った。

 その首に、ライゼクスの尾が突き刺さる。

 ライゼクスが叫ぶと同時に、緑に光る槍尾(そうび)から電流が放たれる。イャンガルルガは口から血の泡を吹き出し、そのまま地面に叩きつけられた。

 ライゼクスが勝鬨(かちどき)の咆哮を上げる。

 そして、一点をじっと見つめる。少年たちが逃げた正門の方だ。

 無人となった発電所に響くバイクのエンジン音を聞き、ライゼクスは空へと飛び立った。

 

 


 

 

 爆音を上げて走るバイクの前に穏やかな朝日が浮かぶ。夜風に代わって吹きつける爽やかな潮風に、少年の額から脂汗がにじみ出ている。

「オーラ?」

 サイドカーに掴まる青年は心配そうに声をかけるが、その声には興奮がにじみ出ている。バイクと言う、猟犬(ガルク)より速い未知の乗り物に興奮しているようだ。

 だが、少年の眉間からシワは消えない。

 そこには、敗走に対する価値観の違いがあった。生きていれば勝ちの狩人(ハンター)上がりの青年と、生きてても勝たないといけない傭兵(ソルジャー)上がりの少年との違いだ。青年の素性を知らない少年からすれば能天気と羨ましがるところだが、今の少年に軽口を叩く余裕はなかった。

「ごめん、GV」

 少年の背中に掴まるきりんがポツリと呟く。

「大丈夫だよ」

 何回も聞いてきた少年の「大丈夫」と言う口癖に、きりんは少年の横腹をつねった。

「大丈夫、禁止!」

「分かったよ」と強がる少年にきりんが言葉を被せる。

「バケモノを島に置いてきたこと、気にしてんでしょ」

 バイクが吊り橋に差しかかる。吊り橋に上がるカーブを曲がる間、少年はずっと押し黙っていた。

 その顔はきりんにも、青年にも見えなかった。

 無茶をする少年のことを良く知るきりんは不安に駆られ、自身を落ち着かせるように語りかける。

「あのバケモノがこの橋を渡ってきたら、一番近いスラム街に被害が出るのを気にしてるんだよね?」

 バイクが吊り橋のストレートに入り、朝焼けの空に向かって走る。少年はハンドルを回すだけで精一杯なフリをして、きりんの言葉を黙って聞いていた。

「バケモノは倒せなくても、アタシたちなら逃がすことくらいできるよ」

 残酷な励ましの言葉だ。

 守りたいものが無くなり傭兵稼業から離れた少年は、スラム街で仕事を続ける内にいつの間にか守りたいものができてしまった。

 守りたいと願った者を何一つ守れなかったトラウマが少年の心を締め付ける。身体を強張らせる感覚が直に伝わり、きりんは思わず天を仰いだ。そして、きりんは犬をあやすように優しく背中をさすり続ける。

「ヴェナ、ディーロ!」

 後ろを見て叫ぶ青年に、少年はサイドミラーを覗き込む。

 そこに映るは、緑電を纏う竜、ライゼクス。

「嘘だろ」

「GV、飛ばして!速く!」

 青いスパークと共にエンジンが悲鳴を上げる。電気とガソリンのハイブリッドバイクが青い光を纏い、吊り橋の直線を猛進する。サイドカーに乗る青年が椅子にしがみつき、後方を見やる。

 ライゼクスは橋のスレスレを飛来する。翼を器用に動かし、横から吹きつける潮風すらモノともせず、ただこちらを一点に見つめ、追いかけて来る。

「その凶暴性から空の悪漢と狩人から恐れられ、過剰な自己防衛と執拗な攻撃性から空の王者からも恐れられ、一度目をつけた獲物を逃がす竜ではない」

 仲間の受付嬢がモンスターマニアの同期から聞いた話を興奮した様子で語り、「一度は見てみたいですね、狩って来てくださいよ」と息巻いていたが、勘弁願わなければなと、青年は思い直した。

 自分が乗っている不思議な乗り物は、確実に速度を上げている。だが、あの空の王者と空中で渡り合えるライゼクスがそれを猛追している。

 このままでは追いつかれる。

 ピリピリとひりつく肌は青年の慈愛に満ちた放電によるものではない、殺意に満ちたライゼクスの放電によるものだ。

 弓を構えて矢を取り出す。

 

 ──残るは三本。

 

 ライゼクスに向かって弓を引く。

 飛び立った矢はライゼクスの頭部に当たる手前で弾け、空に弧を描いた。

 

 ──残り二本。

 

 備えなかった自分を恨んでも、いや、遠征で矢が底を尽きたのだから仕方がない。

 空に舞う矢を見て、青年は目を大きく見開いた。

 そして、少年の方を振り向く。

「ジーブイ、キリン!」

 二人が青年の方に視線を送る。

「デモラーダ、ボウデ?」

「もう!アンタの言葉なんか分かんないわよ!何でも良いからやっちゃって!」

 自棄になったきりんと少年が同時に頷く。

 青年はポーチから瓶を取り出し、中の液体に矢じりを浸す。赤黒く染まった二本の矢じりを見て、矢筈(やはず)を地面に擦り付ける。たちまち立ち昇った火柱が矢筈に灯り、青年は、矢を二発、前方に向けて撃ち込んだ。

 少年の視界を、二本の矢が横切る。

 二本の矢の加速装置に火柱が移り、空を駆ける。一直線に伸びた赤い光が、朝日に負けじと輝いていた。

 狙った先は少年たちのバイクが進む先、吊り橋を支える主塔だ。主塔から垂れ下がるように伸びるワイヤーケーブルの根本に、二本の矢が立つ。

 

 矢が海へ落ちる。

 

 鉄筋コンクリートに原始的な矢が突き刺さることはない。だが、ワイヤーケーブルの周りに赤黒い液体がこびり付く。赤黒い液体、さながら粘菌とでも呼ぶべき液体が、紅蓮に染まる。

 爆発が起きた。

 異界で砕竜と呼ぶ怪物(ブラキディオス)が使う、爆発性を有する粘菌を、摩訶不思議なマカ壺に入れてできた爆破弓だ。冷え固まったマグマの鎧(アグナコトル)すら砕く爆撃は、鉄筋コンクリートすら容易く粉砕する。

 突然の爆発に、少年ときりんが口を開けたまま固まる。

 少年の頭上で影が揺らめく。

 少年はありったけの電気を流して、ハンドルを全開にした。高鳴るエンジン音が潮流の音をかき消し、それに呼応するように、ライゼクスが吠える。ライゼクスが翼を振るい、少年のレーサーバイクの真後ろを陣取る。

 ライゼクスがゆっくりと口を開く。

 歯を打ち鳴らして起きた静電気が巨大な雷球を作り、雷のブレスを少年のバイクに向けんと狙いを定める。バイクのテールランプが赤く点滅する。挑発するような明滅にライゼクスが鼻息を荒げる。

 

 ──有頂天に登った激昂。

 

 我を失った竜は、目の前に迫る危機すら気づかない。

 

 橋を支えるワイヤーケーブルが、道路に向かってに倒れ込む。見上げた空には、ケーブルに垂直に走る幾多ものハンガーワイヤーが広がる。小さな人間にとってはただの障害物に過ぎないが、巨躯の怪物にとっては投網となって覆いかぶさる。飛行する生物が真垂直に飛び立つことはできない、いや、今から上空に飛んでも避けられない。

 神鳴りの化身が人工物(バベル)によって裁かれる番だ。

 種としての執着心が、ライゼクス自身を窮地に捕らえる。少年たちのバイクがハンガーワイヤーの隙間を駆ける姿を見て、ライゼクスは怨嗟(えんさ)の咆哮を上げた。

 そして、ライゼクスがハンガーワイヤーの網に捕らわれる。失速したライゼクスは勢いそのままに地面へ激突し、支えを失くした橋がその衝撃で崩落を始める。ハンガーワイヤーが身体に絡まった雷の化身ことライゼクスは、崩れ行く人工物の瓦礫と共に海へ沈んだ。

 背後の轟音を聞いて、青年が一人、勝利の歓声を上げる。

「能天気なやつ」

 少年ときりんは心労がたたり、グッタリとしている。彼らが後ろを振り向くことはない。翡翠の稲妻が海から飛び立ったのは、少年たちが吊り橋を渡り終えた後のことであった。




小話

 第五話のタイトルはMHFのベルキュロスのクエスト名「青天の霹靂」が元ネタです。分かった人は立派なフロンティア民。

 本作では、主人公GVが新たな能力に目覚めることはありません。突然、時を止める能力が出たり、どこからか矢が飛んでくることもないでしょう。
 その上で避けて通れないのは最強理論、いわゆる、対主人公ガンメタキャラ。クロスオーバー作において出てくる主人公の上位互換は、主人公が新たな能力を身に着けないと勝てないため、早めに出したかった。
 ライゼクスの倒し方から全て逆算された展開でした。いわゆる、ご都合主義です。
 この他に勝つ方法があれば教えてください……
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