蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER   作:kocolokoro

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蒼き雷霆ガンヴォルトとモンスターハンターのクロスオーバーです。


第七話 災いの萌芽

「ただいま、オウカ」

「おかえりなさい」

 発電所バベルから少年たちが帰ってきた時にはすでに太陽が空高く昇っている頃だった。発電所に通じる橋の崩落事件を受けて、街のあちこちで検問が敷かれ、原住民然として目立つ青年を連れ帰ったせいもあって、真直ぐ家に帰れなかったのだ。

 申し訳無さそうに頭を掻く少年に反して、腹の音は正直で、青年と二人合わせて腹の音が協奏曲を奏でた。

 それでも愚痴の一つも言わずに、オウカはカセットコンロを使ってご馳走を三人に振る舞った。電気は復旧の目処が立たず、缶詰のサバを盛り合わせた簡素な食事だが、男二人は掻き込むようにさらい上げる。その貪食ぶりを見た女性陣は呆れ顔をして、乾物のワカメを梳かしたスープを口につけていた。

 遅めの朝食と皿洗いを済ませた頃、ブレーカーをいじっていた少年が、「きりん、怪我はない?」ときりんに声をかけた。平穏に食事をしていて忘れそうになるが、きりんは先の戦いで負傷している。怪我と聞いたオウカが救急箱を持って来て、「怪我見ますから、脱いでください!」と血相を変えてきりんに迫る。

「覗いちゃダメよ、男ども」

 きりん本人はすこぶる元気だったが、青ざめるオウカに気圧され、男の前で脱ぐわけにもいかずと折り合いをつけた結果、きりんはオウカを連れてリビングを出た。

 リビングに残されたのは少年と青年。

 言葉が通じない青年を、少年はまじまじと見つめる。

 青年はテレビを叩きながら、画面内のアナウンサーを見つめている。本当に現代文明を知らない無垢な反応だ。一方で、部屋の隅に置かれた小型のボウガンに、巨大な竜に引けを取らない戦闘技術には目を(みは)るものがあった。

 むしろ、竜と対峙することに慣れ過ぎている。

 作戦会議の時にも密かに感じていたことだ。

「紫の怪鳥が火を吐き、尾に毒を持ち、咆哮で相手を怯ませる」

 端末に内蔵された絵描きアプリで描いた拙い絵でそう説明したのも、武器の一つである尾を切ろうと提案したのも、他ならぬ青年だ。

 あまりにも出来過ぎている。

 竜と青年が共謀者である可能性が頭をよぎり、少年は再び青年に視線を送った。青年はテレビの裏に回り、コードを握っては首を傾げている。テレビに釘付けになる侵略者がまるで赤子のようで、少年は可笑しくなって自身に失笑した。

「あの……」

 少年が青年に声をかける。

「さっきは、ありがとう、キミ、いなかったらアブなかった」

「ティーリャー!」

 精一杯のジェスチャーが伝わったらしい。青年の満面の笑みが、疑り深い少年の猜疑心を吹き飛ばした。

 

 

 少年が青年と二人きりで話し込んでいる頃、きりんはオウカの部屋に通されていた。年頃の娘の部屋にしては質素な部屋だ。温かみのあるはずの木製の家具や寝具に、あらかじめ支給されたかのような冷たさが垣間見える。ただ、枕元にある、えころと言うキャラクター人形が、辛うじて部屋の華やかさを保っていた。

「あまり無茶はしないでくたさいね、きりんさん」

 上着をめくり上げ、さらけ出された白百合色の背中に残る古傷が過酷な闘争の日々を物語っていた。生々しい古傷の合間に点在する擦り傷を触診するオウカに、「呼び捨てで良いよ」と言いながら、きりんは顔をしかめた。痛み止めの軟膏を地肌の上から塗られる感覚を噛み締めながら、きりんはぼんやりと天井を見上げる。

「GVのこと、好きなの?」

「な、な、な、何を言ってるんですか!」

 背後で動揺するオウカの声色に、「分かりやすっ」ときりんが失笑する。身体を揺らし、乾いた笑いでオウカをからかう。

「気をつけなよ。首輪でも付けないと、アイツ、すぐに何処か行っちゃうから」

「未来でも変わりませんね、GVは」

 クスッと微笑むオウカの姿が思い浮かぶ。

「オウカは……良いの?GVと離れ離れになっても?」

 きりんがポツリと呟く。無意識の内に出た言葉に、「ふ、深い意味はないわよ!」と途端に慌てふためく。

「ええ、大丈夫ですよ」

 優しくて切ないオウカの声に、「どうして?」と返す。

「私では彼女の代わりには成れませんから」

「電子の謡精……」とこぼすきりんの背中をさすりながら、オウカは言葉を続ける。

「彼女の想いと魂は永遠にGVの中に生き続けているんです」

 背中越しに伝わる手の温もりが、仄かに冷える。

「それがGVの(ギブス)であり、GVが生きる糧にもなっている。彼の鎖を外して、彼の肩を担いで前を向いて歩けるよう頑張りましたが、それでも、カノジョの代わりには成れませんでした」

「オウカ……ホントにそれで良いの?」

 オウカは黙して答えない。

 沈黙は諦観に満ちていた。

 能力者に襲われているところを少年に助けてもらった、それが少年との初めての出会いだった。暴力を振るう異能力者しか知らなかったオウカを異能の力で助けてくれた少年は、その時からすでに危うげだった。優しげに微笑む少年の瞳の奥に浮かぶ恐怖、それが裏切りへの恐れだと知ったのは後のことだったが、その恐怖の色は闘いが終わっても変わらないどころか、より濃くなっていた。

 恐怖を和らげることを何一つできなかった。

 ずっと少年の隣にいながら、信用しても良い人が隣にいることを教えてあげることができなかった。

 結局、オウカと言う少女がたった一人の少年の心の傷を埋めることはできなかった。

「ありがとうございます、きりん。こんな悩み、他に打ち明けられる人がいなくて……」

「よく気張ってきたね」

 オウカが黙り込む。背中をさすり続ける手に温もりが戻るのを感じながら、きりんは再び天井を見上げていた。 

 

 

 きりんとオウカが揃ってリビングに戻ると、端末のアラームが鳴り出した。けたたましいアラーム音に青年が忙しなく辺りを見渡す中、少年は端末を動かした。

 再び踊る緊急ニュースの文字。

 赤い竜の殺処分作戦の決行時間が決まったらしい。

 現地である中東のデデ砂漠は夕方五時、少年たちが住む日本では夜十時となり、全世界にその勇姿を生放送するとのことだ。

「全世界生放送なんて、珍しいですね」

「よほど自信があるんだろうね、最新航空機とやらに」

 皇神(スメラギ)が開発した無人航空機、パンジャング•D、名パイロットであるキャプテン•コムバットの思考を模倣したAIなるものが搭載された目玉商品のお披露目会だ。夕暮れ時で赤い竜の視界が悪くなるだろうと言う前線(現場)の見通しと、ニューヨークの為替市場が開く一時間前に宣伝して株価を上げようと言う経営戦略(会議室)が折り合いをつけた結果だろう。

「見栄張りね、皇神は」

 少年の考察を聞いたきりんがため息をつく。三人があれこれと喋る背後で、興味津々と言った様子で青年が一人覗き込んでいた。

「そうだ、コイツに赤い竜を見せてみれば?」

 きりんの提案で、少年たちは青年に赤い竜の動画を見せる。

 テレビより小さな板に映る動画を鼻息を荒げながら見ていた青年だったが、羽ばたく赤い竜を見るなり青年は叫ぶ。

「リオレウス!」

「リオレウス?それが赤い竜の名前?」

 青年がしきりに頷くのを見て、少年はその名前を検索にかける。だが、検索結果はゼロ件。ジュラ紀を支配していた未発見の恐竜としか考えられないが、火を吐いたり、放電したりする竜が実在していたとは考えにくい。

「現代まで生き延びた恐竜?UMA……なら、少しくらい目撃情報はあるだろうし……」

 思考が堂々巡りを始めたところで、玄関のチャイムが鳴った。端末をオウカに預け、少年は玄関へ向かう。

「はい、どうぞ」

 扉を開けると、赤い髪を下ろした女が少年を見下ろしていた。緑のスカーフを首に巻き、黒と白を基調としたメイド服姿をした女の瞳はワインより赤く、蛇のような鋭い瞳孔で少年を捉えていた。

「お久しぶりですね、ガンヴォルト」

「あなたは確か、アキュラの所の給仕(メイド)の……」

「ノワです」

 ノワと名乗る給仕と、少年には面識があった。

 異能力者に家族を奪われ、誰よりも異能力者を憎み、異能力者撲滅を掲げ、皇神からも恐れられるアキュラと言う少年がいた。今も異能力者狩りに明け暮れる彼の帰りを、ノワは待っている。電子の謡精を巡ってアキュラと競り合いをしていた時、アキュラと敵対していた少年に接触し、彼の想いを少年に伝えたのは、他ならぬ、ノワであった。

「ミチルさんはお元気ですか?」

 初対面の時よりも何故か不機嫌そうなノワに、少年は適当な話題を見繕う。

 ミチルはアキュラのたった一人の妹だ。

 妹が異能力者に二度と脅かされることのないように、兄は今も異能力者と闘い続けている。ノアは呆気なく「お元気ですよ」とだけ告げ、後ろを振り向く。

「それより、今日は別件でこちらに伺いました」

 ノワの背後で、アップヘアの女性がしきりにこちらを見ていた。ゴーグルを頭にかけた女性は、少年と目を合わせると、鼻のソバカスを掻く。肩から下げた大きなポーチにからはみ出た古ぼけた本、派手な黄色の羽織からはみ出る白色の動物の毛皮と言った背格好に、青年と同じ雰囲気がにじみ出ていた。

「は、ハジメマシテ。こちらにハンターさんはいらっしゃいませんか?」

 少年の第一印象とは裏腹に、女性の言葉はカタコトながらもはっきりと通じる。

「ハンドラー?」

 背後の声に少年が振り返ると、そこに青年が肩を震わせながら立っていた。

「アルシクロゥ!」

 青年と女性が久しぶりの再会と言わんばかりに抱きつく。互いに顔を見合わせては、聞いたことのない言葉で語り合う二人を、少年は呆然と眺めていた。

「上がらせてもらっても宜しいでしょうか?」

 ノワの声に、少年は呆気にとられたまま首を縦に振る。ノワが入るように手振りで示し、青年たちが我先にと屋敷に入る。その後を追おうと歩き出した少年が、ゆっくりと振り向く。

「私たちも入れてもらえないかね?」

 ノワの背後に佇む二人の男女。ヘアバンドで後ろに黒髪を束ねたキャリアウーマン然とした女性と、厚いコートを羽織った継ぎ接ぎの皮膚がパッチワークのように顔の火傷痕に充てがわれた男だ。

 昨日、スラム街で顔を合わせたコートの男、皇神の人間だ。

 災いの始まりには、いつも皇神の存在があった。少年が歩む道の先に災いの種を撒き、萌芽した災いが少年に牙を向く。

 皇神の災いは少年の大切な人を巻き込み、奪ってきた。

「ガンヴォルトですね?」

 キャリアウーマン然とした女が前に出る。眼鏡の奥に潜む深海の如き青い瞳が少年をまっすぐに捉える。

「お初にお目にかかります。皇神グループのコンプライアンス推進部監察課、玉前十七架(たまさきとなか)と申します」

「私は前にも紹介したね。人事部第七波動(セブンズスフォニム)採用課のピレーだよ」

「GV?まだお客さんがいるの?」

 屋敷の中から響くオウカの声に、少年が振り向くと、オウカがちょうどリビングから顔を出しているところだった。

「来るな!オウカ!」

 少年は叫ぶ。

 そして、扉を閉める。

 そこにノワのブーツが伸び、扉が止まる。

 扉を押さえながら、少年を睨むノワの背後で、「まったく……あなたのせいですよ」と女がため息をつく。

 女はコートの男の頭をつかんで、地面に叩き伏せた。玄関に響く鈍い音に、少年とノワが同時に視線を送る。

「ご覧の通り、誠心誠意、頭を下げておりますので、この莫迦の非礼を許していただけないでしょうか?」

 女に頭を地に擦り付けられながら、コートの男がもがく。

「二人も入れなさい、ガンヴォルト」

 ノワの腹の底に響く命令とともに、扉が悲鳴をあげながらゆっくりと開かれた。




小話
 蒼き雷霆と言うゲームは、曰く、ライトノベルアクションと言うことで、惜しみなく小恥ずかしいセリフが散見されます。
 ストーリー自体はアツい展開もあり、ゲーム性も死にゲーながら慣れるとクードス稼ぎに一喜一憂できる中毒性があって面白いと思います。
 原作がそんなノリなので、筆者も頑張って小恥ずかしいモンスターの口上を捻り出しています。エルガドの女騎士が歌ってくれてやりやすいですが、私の厨二病レベルではアレが限界です。描く度に原作者はどうやって厨二病レベルを高めているのかと驚愕してしまいます。
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