蒼き雷霆ガンヴォルト X MONSTER HUNTER 作:kocolokoro
陰鬱とした空気が場を支配する。
再び迎えた夜の月明かりだけで、リビングが晴れやかになる気配はない。
青年の仲間、少年のライバルに仕える
「お、お茶を出しますね」
立ち上がるオウカの震える肩を見て、少年が手招きする。少年はオウカを自分の席に座らせると、その隣に立つ。落ち着きなく辺りを見渡すオウカの目に、少年の腰に光る銃身が止まった。
「まずは、お二人から事情を」
ノワが口火を切る。
冥府を仕切るのは悪魔と聞くが、この一触即発の地獄を仕切るのは彼女のようだ。
「は、はい」
「私タチは新大陸カラ来ました」
「新大陸?アメリカのことかね?」
篇算者のカタコトな口調を、コートの男は鼻で嘲笑う。
「この二人が言う新大陸は、コロンブスとは無関係です」
ノワが飛ばす嗜めるような鋭い眼光から目を逸らし、「では、夢見たインドかね?」とコートの男が戯けて見せる。
「ココとは違う、異世界」
「莫迦莫迦しい」とコートの男が吐き捨てる。
「黒い渦を通ってきマシタ」
「アタシと同じだ」ときりんが声を上げる。
その様子を一歩遠のいた視点で俯瞰しようと少年は努めていた。皇神の人間を前に絶えず放電で威嚇し、決して平等とは言い難いが、篇算者の声色に嘘偽りはないと少年は直感していた。
だが、演技の可能性は捨てきれない。確かに目の前の篇算者は人当たりのいい顔をしている。その裏に企みや欺瞞は見当たらない。それでも、皇神の人間と共に来たと言う一点だけで、少年は篇算者に疑いの目を向けていた。
「他の世界から来たにしては、言葉が流暢だね」
相手のボロを誘う、理外の質問をぶつける。
「ナタリー•アルテミスさんに教えてもらいマシタ」
「アルテミス?」
篇算者が淀みなく答える。聞いたことのない名前だ。
咄嗟にきりんに目配せするが、目が合ったきりんは首を横に振る。続けて、少年はチラリと皇神の女の方を見やる。玉前十七架がコートの男に何やら耳打ちし、首を傾げているところだった。
「アメリカと言う国の特殊部隊のカタだと聞いてマスが」
篇算者が肩から下げたバックから手帳を取り出した。黒い革表紙に擦り切れた痕が残る分厚い手帳だ。
「大団長から預かりマシタ。異世界でキット役に立つと」
テーブルの上に置かれた手帳のページを捲る。羽根ペンで描かれた絵と、それを説明する英単語が思いつく限りに羅列している。ハンドサインに関する単語が多く、書き手の職業病を物語っていた。
更にページを捲る。
大きな双角を持つ黒い竜の絵だ。
ディアブロスの文字が乱暴に殴り書きされている。執拗なまでに憎しみが込められた文字はパソコンでは到底再現できない。
少年は頷きながら、更にページを捲る。曲竜類のような甲羅を持つ
「アルテミス、ありました!」
皇神の
「百年前、突如として任務地の砂漠から姿を消したアメリカの特殊部隊の隊員のようですね」
「百年前だと?くだらん」
アメリカ国防省が保有する死者行方不明者のリストを端末に映す十七架の傍らで、コートの男が一人声を荒げる。
「莫迦莫迦しい」
肩で息をするコートの男を余所に、十七架はナタリー•アルテミスの契約書を見せた。戦場を駆けるスーパーウーマンと呼ぶにふさわしい女性の顔写真と、直筆の署名が載っている。
「よく残ってましたね」
百年前の署名の日付を見て、オウカがポツリと呟く。
「この人が軍の関係者だからかな。軍事機密を漏らされてもすぐ追跡できるよう、保管だけはしていたんだろうね」
オウカの疑問に答える少年の隣で、きりんがシラけた目で十七架を見つめる。
「なんで皇神がアメリカ軍の履歴書を見れるわけ?」
きりんの疑念は、「皇神ですから」の一言で一蹴される。「うわ、怖っ」と引っ込むきりんを一瞥し、十七架は咳払いして言葉を続ける。
「確かに、その手帳と百年前の履歴書の筆跡を照らし合わせれば、一致するかもしれません。ですが、国防省も皇神もオカルトを相手にしないでしょうね」
十七架が篇算者を睨む。純真な疑いの目だ。
篇算者と皇神がグルでないと少年はようやく確信に至る。
「仲間を亡くしたとも聞いてマス、リンク、ダッシュ、マーシャル、スティーラー、アックス……」
スラスラと出される名前に、十七架が忙しなく端末の画面を滑らせる。行方不明者リストのアルテミスの次のページから並ぶ特殊部隊の隊員と名前が全て一致していた。
出鱈目に挙げた五つの名前が、軍の行方不明者の名前と一致した事実を偶然の一言で片付けるのはあまりに横暴だ。アメリカの軍の情報をノワが知る手段はないし、篇算者にわざわざ教えるメリットもない。
「もう宜しいでしょうか?」
いよいよ異世界が現実味を帯びてきたところで、ノワが立ち上がって言葉を続ける。
「彼女たちが異世界から来たのは事実でしょう。でなければ、赤い竜の出現にも説明がつかない」
コートの男が爪を噛む。
赤い竜。その存在を監視衛星を持つ皇神ですら目撃したことはない。そもそも、この世界ではその巨躯は自重で潰れてしまう。この世界とは異なる異世界の理が、もしもあの竜にも働いているならば、目撃情報がない理由と重力の問題が一本の線で結べてしまう。
コートの男は頭を掻き、舌打ちしながら篇算者の言葉に耳を傾ける。理不尽ながらも反論の一つすらできないと言ったコートの男の様子を、少年はじっと眺めていた。
「皆さんが言う赤い竜、私タチはリオレウスと呼んでいマス。空の王者とも呼バレテいて、彼のような
「え?あれを狩るの?その弓矢で?」
素っ頓狂な声を上げるきりんに、青年が得意げに弓矢を掲げる。「アンタ、意外と凄いのね」と原始的な武器で怪物に挑む青年を、きりんは素直に称賛した。
「あのリオレウスは巣を作っテイルかもシレマセン」
「は、繁殖するつもり?」
「ええ、生き物デスから」
当前と言わんばかりに淡々と答える篇算者に、「根拠は?」と十七架が喰ってかかる。
「火竜リオレウスは乾燥地帯にアマリ姿を現しません。ですが、繁殖期の時ノミ緑火竜リオレイアが棲息する乾燥地帯にも姿を現します」
「突然の環境変化に戸惑っているとかはないのですか?」
オウカの疑問ももっともだった。
篇算者は腕を組んでしばらく考え込んだ後、首を横に振る。
「エサが少ない砂漠に留まる理由がアリマセン」
リオレウスは見た目通りの肉食だ。砂漠の遊牧民が飼う羊が
「一つ良いかな?」
少年が手を上げ、言葉を続ける。
「緑火竜リオレイア……と言ったかな?あの赤い竜と違うの?」
篇算者の語り口の中でサラリと出てきた聞き慣れない単語、リオレイアと言うリオレウスに近い名前の響きに、嫌な予感がして少年は話の腰を折った。
篇算者は肩から下げたスケッチ帳を下ろしてテーブルに広げる。描かれているのは良く似た二頭の竜、一頭は翼を広げて空を飛び、もう一頭は翼爪を地につけて羽を休めている。
地に足をつけた竜の足下に、丸い卵が三つ鎮座していた。
「大きさはホトンド同じで、緑色の甲殻を持つ雌個体です。リオレウスより飛行能力は劣リマスが、陸での動きはリオレウスより優れていて、陸の女王とも呼ばれテマス」
「空の王者と陸の女王か……」
二頭の竜を交互に指差しながら説明する篇算者を見ながら、少年は頷く。
描かれている内容が事実なら、あの巨体で三頭の子を産むことになる。成長すれば巨大な竜が計五頭、椋鳥のごとく我が物顔で空を飛び交うだろう。空の交通網は機能しなくなり、物流も滞り、世界規模の大恐慌が多くの失業者を産むことになる。
「今の話には、良いニュースもある」
コートの男が拍手しながら立ち上がり、テーブルの上のリモコンに手を伸ばす。突然の拍手に、「は?」と戸惑うきりんを余所に、コートの男はテレビが点かないことに舌打ちする。
「皇神の最新航空機が、今夜八時に空の王者と名乗る不届き者を殺処分する。赤い竜さえ倒せば、残った雌個体もついでに始末できそうで何よりだ」
「待ってください!」
篇算者がテーブルを叩いて立ち上がる。
「リオレウスを殺すつもりデスか?」
「バケモノの味方をするつもりか?」
コートの男が篇算者を睨む。その瞳に宿る猜疑心が濃くなる。排斥せんばかりに威圧するコートの男を見て、青年が篇算者の肩を掴んで制止しようとする。篇算者はその手を振り払い、負けじと睨み返して主張を続ける。
「彼らは迷い込んできたダケ。まだ、被害を出したわけじゃない」
「これから被害が出るんだ」
「私たちの世界に還すべきデス」
テーブルから身を乗り出し、二人の口論は更に白熱する。
「君たちは狩人だろう?持って帰るなら、死体でも良いじゃないか?鮮度が必要なら、クーラーボックスを用意させよう。干し肉が欲しいなら、一流のシェフと最高級の胡椒を用意させよう」
「私たちは殺戮者ではありません!人間と自然の調和を図る、モンスターとの共存が第一です!」
篇算者がテーブルを叩いて、更に身を乗り出す。
生態系の頂点に胡座をかきながら文明を発展させた世界の人間と、生態系と共に文明を発展させてきた世界の人間が真っ向から互いの信念をぶつけ合う。
「これがカルチャーショックと言うやつか」
先に動いたのはコートの男だ。クックッと首を揺らしながら笑う。「いいかね」と咳を払ってコートの男は言葉を続けた。
「象牙が欲しいと象を虐殺し、絶滅するまで狼の狩猟を楽しみ、発展という大義名分の下に動物の住む森を一本残らず切り倒し、海が全て浄化すると盲信して廃液を垂れ流してきた。それがこちら側のニンゲンだ。生態系の頂点に立つ我々強者には、弱者から搾取する権利がある」
コートの男はポケットから端末を取り出し、テーブルに投げる。
「それに、タイムリミットだ」
壁にかかった時計に目をやる。八時を指し示している。
端末の画面にLIVEの文字と砂漠に佇むアナウンサーと軍人の姿が映る。
「アヌビス隊長、今の心境をお聞かせください!」
「キャプコムの戦闘機は必ず成果をあげてみせます!古代の生き残りなぞ墜落させてみせようぞ!」
画面内では、キャプテン•コムバットの思考AIを搭載した武装ヘリ、愛称、「
そして、画面はコクピットから見た映像に切り替わった。
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「南西の風、秒速二メートル、視界オールグリーン」
機械音声が的確に空の様子を伝える。
カメラを地上に向け、砂漠の青空を翔ける武装ヘリを見上げる羊の群が映る。衝撃波に恐れおののく羊飼いをカメラが捉え、その人物の顔と名前と国籍が表示される。その羊飼いは国際指名手配犯ではないらしく、データが瞬時に画面から消え去る。
マッハ5で空を飛ぶ飛行機が一瞬で地上の民間人とテロリストを識別し、攻撃の是非を判断する。各国の軍が注目するところであろう性能は瞬く間にお披露目を終え、いよいよ目標と対峙する。
「目標発見、攻撃を開始します」
無人武装航空機の真正面から、リオレウスが迫る。すでに臨戦態勢のリオレウスを、二十ミリ機関砲の雨霰が襲う。ガトリングの嵐の中を、リオレウスは目を細めるだけで突き進む。
「FIRE」
空対空レーダーミサイルが一直線に飛ぶ。
左に旋回したリオレウスをミサイルの弾頭レーダーが捉え、ミサイルの尾に付いた全遊動式尾翼が動き出し、リオレウスの背中を追う。背後に視線を送ったリオレウスが空中で振り向き、その口から火球を放つ。内蔵した遠赤外線で熱源を察知したミサイルが右に反れる。
ブレスを放ち硬直したリオレウスに、二発目のミサイルが放たれる。一発目のミサイルはすでに旋回を終え、リオレウスの左翼へ飛び立つ。
二発の追尾ミサイルによる挟撃だ。
リオレウスの逃げ場は真上しか残されていない。
それはすでに学習済みだ。果てなき機械学習を終えた人工知能を搭載したミサイルの演算結果の通り、リオレウスは真上に飛び立つ。
右と左から来たミサイルが哀れ正面衝突とはならず、真上に進路を変える。ブレスで同時に焼き払われないように、射線をずらして飛ぶミサイルには、生きた軍人のような連携を思わせる。
だが、弾頭の先にリオレウスの姿はない。
リオレウスの十八番、空襲蹴り。
目にも止まらぬ速さでマッハで飛ぶ武装航空機を鷲掴みにする。航空機のコクピットを映した画面が危険を知らせるランプで赤く点滅を始めた。
足下でジェット噴射で逃げようとする武装航空機を睨むリオレウスの頭上から、二基の追尾ミサイルが迫る。
リオレウスが足下にブレスを放つ。
武装航空機が瞬く間に炎に包まれ、リオレウスは身体を捻り、それを空に投げ捨てた。
生物が大地に背を向けながら飛ぶ異常事態。
それを人工知能には予測できなかった。
長さ十メートルに及ぶ機体が二基のミサイルの進路を遮る。
ミサイルが武装航空機に着弾する。
武装航空機、パンジャング•D。
小話
落とさなきゃ(使命感)
長らく温めていた墜落回ですが、ノリで書いたらリオレウスが負けていたという事実。
三菱重工の軍用機スペックを参考にしましたが、ガンヴォルトの未来世界では型落ちに該当するのか、追尾ミサイルってどう動くんだとか考えることが多すぎました。
お約束をノリで書く時は気をつけよう!