そうさく部!〜天才と出逢ったので、ゲームを作ろうと思う〜 作:藍間道逸
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パサ、と紙を置く音。
非常に心臓が痛く、前を見れず机のシミを意味もなくなぞる。
「驚いたわ」
その言葉に僕はおそるおそる顔をあげる。
先輩はまっすぐに僕の方を見ていた。
「え?」
「この子、私が描いた子?」
少しだけ興奮した様子の先輩。
その指先は、原稿のあるシーンをなぞっていて、僕は頷く。
「はい。入学式のときに見た先輩のイラストの男の子です」
「へぇ〜。すごいわ。……この子こんなこと考えてたのね。」
そう言って、先輩は手に持った青色のペンで何やら原稿を書いていき、やがて
「あ」
と声をあげて気まずそうな声をあげて僕を見た。
「か、描いちゃダメだったかしら?」
「いえいえ、全然!でも、何書いてるんですか?」
気になって、チラリと覗けば波線や棒線といったマーカの他にその文章にあった表情のキャラクターが簡単に描かれていた。
「ふふ。ここの主人公が庭で剣を振るシーン。私好きだわ」
あ、笑った。
なんて。
僕に分かりやすいように先輩は、少しだけ原稿を傾けて話してくれているのに僕は全く話に集中できていなかった。
「こことか本当に凄い。私が頭の中でイメージしてたのと全く一緒!」
いけない。
本来の目的は先輩を誘うために、そのイメージを伝えるために書いただけなのに。
「あ、それとこの主人公が村を出るシーン。これきっと、私が書いたあのイラストのシーンよね?ふふ、一目でわかったわ。でも凄いわ。文章読んだだけで、イメージが頭に湧いたもの」
生唾が、喉を通る。
それと同時にどうしようもない多幸感が中から押しでてきて、溢れないように蓋をした。
「あ……でもこのシーン。このシーンは違うわ。この子はこんなこと言わないわよ、このシーンならきっとこの子なら……って聞いてる?」
ーーけど、我慢なんて無理だった。
そう呟いて先輩は、はじめて顔をあげる。
そしてすぐに、驚いたようにギョッと目を丸めた。
「な、なんで泣いてるのよ貴方」
「え?」
指摘されて袖で目元を拭う。
見れば確かに袖は濡れていて、自覚すればもうその涙は止まることはなかった。
「あ、あれ?おかしいな。すみません」
「わ,私こそごめんなさい。その、何か失礼なことを言ったのよね。謝るわ」
「違うんです」
「ち、違う……って何笑ってるのよ!」
わたわたと、分かりやすく目線を泳がしてる先輩がどこかおかしくて思わず笑いが漏れる。
「あはは、すみません。でも、泣いてる理由は先輩のせいじゃないですよ」
「じゃ、じゃあなんで泣いてるのよ」
なんで。
そう聞かれると少し困る。
困ると言うか、少し恥ずかしい。けれど僕は正直に言うことにした。
それが正解だと思ったから。
まっすぐに先輩の目を見る。
先輩は相変わらず、目をぱちぱちとさせ絶賛混乱中なのが見てとれた。
「嬉しかったんです」
「嬉しいって、今のこれのどこにそんな要素があったのよ」
どこにって、それはまた変なことを聞く。
そんなもの決まってるだろうに。
「そりゃあ、先輩もクリエイターだから分かるでしょう?誰かが自分の作品を見てくれて、その作品に熱中になってくれて、夢中で話をしてくれるなんて、作者としてそれ以上の嬉しいことなんてありませんよ」
しかし、僕の熱弁に先輩は首を傾げるばかりだった。
そして衝撃の事実を先輩はいう。
「はぁ。そういうものかしら?」
「そういうもの……じゃないんですか?先輩もネットとかに絵を投稿してそれが評価されたら嬉しくないですか?」
「……わからないわね。私人に自分の絵を見せたことないもの」
「え」
「えって、そんな変なことかしら?」
「いやいやいや、一度くらいはあるでしょう?ほら、部活とか」
「中高と帰宅部だし。何より絵を描き始めたのは高校からよ」
高校……いや今はそんなことはどうでもいい。
「じゃ、じゃあ今まで描いた絵はどうしてたんですか?」
「どうって……、どうもしてないわよ。」
「描いて、ただ終わりですか?」
「描いて、ただ終わりね。何を勘違いしてるのか知らないけど私のコレはただの趣味よ?」
そう言って先輩は、ぱんぱんと、恐らくイラストが描かれたノートを叩く。
だけど違う。僕が言いたいのはそういうことじゃない。
「せっかく作った作品なのに?」
「作品って、大袈裟ね。私はただ描くのが好きなだけだもの。出来上がった絵やキャラを見るのも好きだけど、それ以上特に思うことはないわ」
「誰かに見てほしいって思わないんですか?」
「……なんで?」
今僕はそんなに難しいことを言ってるだろうか。
作ったものを誰かに見て欲しい。
この気持ちはクリエイターとしてなら、誰しもが持っているものだと、そう思っていたのだが……
「?」
「まじか」
先輩を見るとどうやらそうでもないらしい。
先輩は小さく首を傾げてている。
しかし、それなら話が早い。
誰にも見せたことがないというのなら、誰かから評価される喜びも知らないということ。
それに、先輩ほどの絵を描ける人が誰にも知られず終わっていくなんてそんなの、僕が許容できない。
だから
「やっぱり僕、先輩とゲームを作りたいです」
気づけば、驚くほど自然に言葉が出ていた。
打算も計画もない。ただの願い。
「先輩。この物語面白かったですか?」
「……えぇそうね。とても読んでて楽しかったわ」
先輩の言葉に多幸感でいっぱいになるが、今は気にしないように言葉を続ける。
「この物語、もっと面白くなるはずなんです。僕では伝えきれないイメージが、色が、音があるんです」
「……」
「だから先輩、この物語に色を塗ってください。」
キーンコーンカーンコーン。
タイミング良いのか、悪いのか、図書室に8時を知らせる鐘が鳴る。
僕はまっすぐに先輩を見て、先輩もじっと僕を見る。
「……話」
「え?」
先輩はふいと目線を逸らして、何かを呟くが小さすぎて聞き取れない。
まぁでも、どうせダメだろうなと思ってたから次の計画を考えてたところでもあったり
だから、本当に驚いた。
「とりあえず、話を聞くだけなら……「本当ですか!?」……な、ち、近いわ離れなさい」
思わず食い気味に反応してしまった。
しかしそれもしょうがないだろう。しかし、この機を逃すわけにはいくまいと、僕は先輩に言われるがまま席に戻る。
ゆっくり、冷静に、落ち着いて。
「い、いつにしましょう?」
そう思ってはいるものの今の僕はきっと、さぞ滑稽なことになっているだろう。
それくらい今の僕は興奮と緊張でぐちゃぐちゃだった。
しかし、それを先輩が気にしてる様子はない。
「別に放課後ならいつでもあいてるわ」
「え、ほんとですか?その……友だちと帰ったりとか遊んだりする予定は今週はないですか?」
「……えぇ、大丈夫よ」
なら、と言葉が出かけて一度喉に詰まる。
流石に今日の今日は、まずいだろうか、なんて。
別な気にしないでもいいはずの考えなのに、どうしてか、上手く言葉にでない。
そんな感情を理論で煽ってなんとか声に出す。
「今日、とかどうですか?」
「今日?」
心臓が早鐘を打つ。
「さ、流石に今日の今日は無理ですか?」
「いえ、別にいいわ。むしろ先延ばしになる方が嫌だし、じゃあ今日の放課後駅前のカフェ、分かる?」
「え、あ、は、はい。あの個人店のところですよね?」
「そう。じゃあ放課後そこで落ち合いましょう。今日私6限だから、先に待ってて、じゃ」
一体何が起こったのか。
気づけば、先輩は机の上の荷物を片付け終えて席を立っていた。
「あ、これ借りてっていいかしら?」
その手には僕の原稿が入った封筒。
呆気に取られて僕はただ頷くことしかできない。
「あ、はい。それは全然大丈夫ですけど」
「そ。それなら借りてくわ。じゃあ私朝テストがあるからこれで失礼するわ」
そうして、先輩はあっという間に図書室からいなくなってしまった。
ーーシン、と静まり返る図書室。
あれ、こんなにここって静かだっけかなんて場違いな感想が頭に浮かぶ。
呆、と机を見つめていれば次第に思考も追いついてきた。
え。
「え?」
え?
「い、いったい何が起こった?えっと、僕が勢いで書いた原稿を渡して、それを先輩が見て、それで……」
止まらない独り言。
「それで、先輩が僕の書いた物語を褒めてくれて……う、嬉しかったなぁ、って違う違う。そうじゃなくて大事なのはその後で、そうそうだよ、それで、いつも通り先輩を誘ったら、話を聞いてくれるって言ってくれて、それで気づけば今日の放課後カフェに集合?」
嘘だろ?
いやしかしどうやら真実らしい。
「え、御都合主義展開きた?」
言葉にしてみても、未だに実感がない。
口説き続けて1ヶ月。
正直半年はかかるだろうと思ってたが故に、思考が上手く追いつかない。
だからとりあえず。
「よっしゃあああああああああ!」
気づけば、そう雄叫びを上げていた。
勿論、時刻は既にホームルームが始まる30分前である。
「ふふ」
「あ」
真上にあげた両手。
その横で事務員さんのおばちゃんが微笑ましそうにこちらを見ていた。
◆
どうも、藍間です。こんばんは。
合理的な先輩、感情的なトビラ君、果たしてこの2人が交わることはあるのでしょうか。
ところで、なのですがもしよろしければ評価や感想などを頂けると嬉しいです。やる気が……でます。
それでは。読んでいただきありがとうございました。