導かれし魔剣戦士   作:神鳥ガルーダ

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告白…別れ

 武術大会が終わり、エンドールではアリーナの優勝を祝う宴が催されていた。

 調子に乗って姫を優勝者と結婚させると言ってしまい後悔していたが、優勝者が女性である為、それが流れ、エンドール王は大層ご機嫌になり、臣下達全員に一時金(ボーナス)を、城下町の住人全員には給付金を与えられ、その日の飲み食いの代金はすべて国から出されるという、大判振舞いを行った。

 流石は世界一の大国……その財力も隣国とは比べ物にならないだけあり、それだけの金を使っても、国庫には充分余裕があるようだ。

 この宴の主役であるアリーナは、探し人を求め町をさまよい歩いていた。

 時々、エンドールの貴族や町の有力者などから声を掛けられたが、表面上は礼儀正しくしながら適当に切り上げていた。

 いかにお転婆とはいえ、一国の王女である為、社交界にはなれており、その手の対処もお手の物であった。

 

アリーナ

「ヒュンケル……どこにいるのかしら…」

 

 短い付き合いだが、ヒュンケルの性格はある程度理解出来ている。

 彼は、こういう宴に積極的に参加などしないだろうから、どこか人気(ひとけ)の無い場所にいるのではないか…と、そういう場所を探していた。

 予想通りヒュンケルは、今は無人になっている店舗の裏に腰掛け、1人で飲んでいた。

 

ヒュンケル

「アリーナか…」

 

アリーナ

「こんなところにいたの?」

 

ヒュンケル

「騒がしいのは苦手でな…」

 

 アリーナはヒュンケルの横に座ると、持っていた酒瓶を差し出した。

 

ヒュンケル

「……何だ?」

 

アリーナ

「さっき、この国の元・将軍だというおじさんに貰ったのよ……かなりの銘酒で秘蔵のモノだったらしいけど…」

 

 確かに将軍という雰囲気の精悍な男で、アリーナの実力に感嘆したとの事だ。

 

ヒュンケル

「その様な貴重な物をあっさりと渡すとは……なかなか気前の良い将軍のようだな」

 

アリーナ

「それに、若い頃痛飲したのが祟って、今は医者から一滴も飲んじゃ駄目って言われているらしいわよ」

 

ヒュンケル

「しかし、そんな銘酒を俺に渡していいのか?」

 

アリーナ

「……今日で、しばらくお別れだし……一緒に飲もうと思ったの…」

 

ヒュンケル

「……そうか…ならば御相伴に預からせてもらおう」

 

 ヒュンケルは酒瓶を開封すると、アリーナの自分のグラスに注ぎ、口に含んだ。

 確かに秘蔵の銘酒というだけあり、口当たりもよく、悪酔いなどしそうもない上品な味わいの一品だった。

 しばらく無言で、酒の味を楽しんでいると、アリーナが自分に熱い眼差しを向けている事に気付いた。

 

ヒュンケル

「……アリーナ…酔ったのか?」

 

アリーナ

「うん。ちょっと酔っているけど、意識ははっきりとしてるよ……最後にヒュンケルに伝えたい事があるの…」

 

 これからヒュンケルに伝える事は、初心なアリーナにとって闘いに望む以上に勇気が必要で、酒の力を借りなくてはとてもではないが言い出せない事だった。

 

アリーナ

「ヒュンケル……私…ね……ヒュ……ヒュンケルの事が……す…好き…」

 

ヒュンケル

「…!?」

 

 突然の告白に、ヒュンケルは目を見開いた。

 まさか、一国の王女であるアリーナが、自分に対しそんな感情を持っているとは思いもよらなかったのだ。

 

アリーナ

「ヒュンケルは、この世界の人間じゃない……そして、方法を見つけたら、元の世界に戻ってしまう事もわかっている……もしかしたら、これが最後の別れになるかも知れない……だ…だから…伝えたかったの…」

 

 本音を言えば戻って欲しくない。

 自分がヒュンケルと並び立てる程、強くなったら……ずっと自分の傍に居てもらいたい。

 それが駄目なら自分も連れて行って欲しいとも思わないわけではないが、国と父を捨てる事に抵抗がある。

 王女の身分はどうでもいいが、自分を愛してくれる父を哀しませたくない。

 父の声が出なくなった時、自分がどれほど父を慕っていたのを、思い知らされたのだから。

 

ヒュンケル

「…アリーナ……俺はお前に相応しい男ではない…」

 

 アリーナの突然の告白に戸惑ったが、ヒュンケルの返事は決まっていた。

 ヒュンケルは、自分は人を不幸にしか出来ないと思っている。

 ましてや、一国の王女であるアリーナに対し、呪われた魔剣戦士であった過去を持つ自分などとその様な仲になって良いはずがない。

 

ヒュンケル

「俺は罪深い男だ……かつて、この身を憎悪に染め、師や弟弟子を殺そうとし、人間を滅ぼそうとしたのだから…」

 

 ヒュンケルは、己の過去を語った。

 孤児となり、怪物(モンスター)に育てられた事を…。

 父を殺した勇者を憎み、かたきを討つ為に勇者に師事した事を…。

 そして、師が父を殺したのではなく、父を生み出した魔王(ハドラー)が真の仇であり、師は父に自分の事を託されたのだという事を…。

 そうとも知らず、『魔王軍、不死騎団長』として、不死系怪物(アンデットモンスター)を率い、パプニカ王国を滅ぼした事を…。

 

アリーナ

「じゃあ、以前に言ったお父さんというのは……」

 

ヒュンケル

「…『地獄の騎士』という不死怪物だ……だが、以前に話したように不死怪物でありながら、武人の鑑であり、今でも『父』だと思っている」

 

 ヒュンケルにとって養父であるバルトスと師であるアバンの二人は、最も尊敬する存在である。

 

ヒュンケル

「レオナ姫……いや女王によって既に裁かれてはいる」

 

 氷炎将軍フレイサードの手より、レオナを救い出した後、パフニカ王国を滅ぼした事に対する裁きを求めたヒュンケルは、『これよりアバンの使徒として、正義の為に生きろ』という裁きを受けた。

 過去に囚われ、己の未来(みち)への歩みを止める事を禁じられた。

 故に、ヒュンケルは立ち止まらない。

 しかし、だからといって罪が消えた訳ではない。

 その罪を背負い、『アバンの使徒』としての道を歩む。

 それが生涯、ヒュンケルに課せられた贖罪の道なのだ。

 

ヒュンケル

「それに俺は人を幸せには出来ない…不幸にしか出来ないんだ。だから……俺への想いは忘れた方がいい」

 

 ヒュンケルは、かつてポップとエイミに言った台詞を言い残し、アリーナから離れて行った。

 

アリーナ

「……」

 

 ヒュンケルの過去を聞いたアリーナは、流石に驚愕していた。

 怪物に育てられ、勇者に師事しながらも、人間の敵となり、一つの王国を滅ぼした。

 一般論から見れば、その様な男が一国の王女の恋の相手には相応しくないのだろう。

 自分だったらどうだろう?……と、アリーナは考える。

 そんな『罪』を背負いながら、前を進んでいけるだろうか?

 ヒュンケルは、どれだけ無様であろうとも、泥を啜っても『贖罪の道』を生き続けようとしている。

 果たして、自分にそんな真似ができるだろうか…。

 あっさりと命を絶って、『罪』から逃げようとするのではないか?

 

アリーナ

「ヒュンケル……やっぱり私は今のままじゃ貴方に相応しくない…。もっと強くなって……罪を背負う貴方の支えになれる様に…」

 

 アリーナは立ち去っていくヒュンケルの背中が見えなくなると、そう呟いた。

 ヒュンケルの過去を知っても、その想いは消えなかった。

 むしろ、ますます膨れ上がっていた。

 『罪』を知るからこそ、ヒュンケルはどこまでも優しくなれる。

 どこまでも強くなれるのだろう。

 しかし、それはとても苦しい事だ。

 ヒュンケルが『罪』を忘れる事は許されないだろう。

 忘れていいほど、軽い『罪』では無いと、アリーナも思う。

 しかし、その苦しみを少しでも和らげざせてあげたいと思うのはいけないことなのか?

 贖罪の道を歩く彼を支える者が『王女』であってはいけないのだろうか?

 彼を赦し、贖罪の道を指し示したのが王女ならば、道を歩む彼を支えるのも王女であっていい筈だ。

 

アリーナ

「だから……私は忘れない…」

 

 しかし、運命は非情であった。

 エンドール王に挨拶を済ませ、父王に武術大会優勝の報告に戻ろうとしたアリーナ達の前に、傷付いたサントハイムの兵士が訃報を持ってきたのだ。

 慌てて戻ったアリーナ達を待っていたのは、無人となったサントハイムの城であった。

 サントハイムの人々はどこに行ったのか……。

 その謎を探る為、アリーナはヒュンケルへの想いを必死に押さえながら、旅にでるのであった。 

 

 

 

 

 

 

 そして、サントハイムの訃報は、傭兵としての生業を営む事にしたヒュンケルの耳にも届いた。

 

ヒュンケル

「……まさか!?」

 

 ヒュンケルの脳裏に、武術大会を放棄し、魔物と共に去ったデスピサロの事が浮かんだ。

 時期から見ても、その関連性が疑える。

 

ヒュンケル

「くっ……あの時……あの男にトドメを刺しておけば……すまん…アリーナ…」

 

 あの時、デスピサロを取り逃がした事に後悔を感じるヒュンケルであった。

 

第一章 お転婆姫の冒険……完

 




 今回で、「第一章 お転婆姫の冒険」編が終わります。

 次回から、「第二章 武器屋トルネコ」編が始まります。

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