暁からの此方に移転したのを除けば、約2年ぶりですかね。
武器を求めて
アリーナ達と別れてから数ヶ月が過ぎた。
エンドールで知り合った傭兵スコットの伝手で、傭兵稼業を始めたヒュンケルの名は、瞬く間に広まって行った。
傭兵と言っても、戦時下ではないので仕事の内容は護衛が殆どであるが、それを差し引いてもその業界では名を馳せていた。
護衛成功率99パーセントを誇り、その剣の腕は間違いなく超一流。
その腕に惚れ込む依頼者もかなり居り、専属で契約する事を望む者も数多くいた。
数ヶ月前に開かれた武術大会に出場していれば、優勝者であるアリーナ姫ですらも敵わなかったかも知れない…と、噂されていた。
その噂を耳にしたエンドールのモニカ姫は、彼が出場しなかった事にホッと息を吐いたとの事。
無論、彼がアリーナの関係者であることは知られていない。
傭兵稼業を始めて半年も経たない内に、ヒュンケルの報酬額は、5日間で3000Gとなっていた。
これは、スコットの400Gの7.5倍である。
何故、これ程の高額となったのか……理由はヒュンケルの強さが他の傭兵たちと段違いどころか桁が違う為、他の傭兵たちの仕事が激減してしまう恐れがあったからだ。
傭兵の商売道具は強さそのもの。
格下の実力と価格が変わらなければ、客は皆、格上の方ばかりに行ってしまう。
まあ、ヒュンケルの体は一つしかないから、彼が他の誰かに雇われている間は他の傭兵たちを雇わなくてはならないが……。
但しヒュンケルにとって、傭兵はこの世界で生きていく為の手段に過ぎず、傭兵ギルドに正式に加盟しているわけではない。
その為、ヒュンケルは相手が気に入ったならば、無償同然……建前として出世払い……で仕事を請ける場合もあった。
そんな中、ヒュンケルを悩ませる問題があった。
元の世界に戻る手段やダイがこの世界にいる可能性は殆ど憶測なので、数ヶ月で見つかる筈もないので置いておいて、深刻なのは武器の件である。
ヒュンケルが現在装備している『鋼の剣』は一人前の戦士が持つに相応しい剣である。
そう……『一人前』の戦士であって、『超一流』の戦士ではない。
市販されている大量生産品としては手頃なモノでしかない。
ヒュンケルは子供の頃は兎も角、大人になってからは自分に見合う最高の武器を常に使い続けてきた。
魔王軍の不死騎団長だった頃に大魔王バーンから下賜された魔界最高の名工ロン・ベルク作『鎧の魔剣』、そして、最大の強敵にして戦友ラーハルトから受け継いだ同じくロン・ベルク作『鎧の魔槍』。
ともに、あちらの世界では最強であるオリハルコン製の『ダイの剣』、『真魔剛竜剣』、『覇者の剣』に次ぐ超一流の武器である。
竜の騎士の『
激戦という程の闘いはしていなくても、数ヶ月で鋼の剣と鉄の槍はヒュンケルの技量に耐え切れず、ところどころ細かい皹が入っていた。
スコット
「そろそろ武器の替え時か……すまんな…俺たちが原因でもある」
ヒュンケル
「いや、気にするなスコット」
実はヒュンケルはそれ以外にもスコットや他の傭兵たちの訓練にも付き合っていた。
彼らもプロの傭兵としての意地があるので、商売道具である自らの腕を上げる必要がある。
そして、目の前に最高級の技量の持ち主がいるのだ。
彼の剣を学ぶのは流石に無理でも、模擬戦を行うだけでもかなりの経験値を得る事が出来るので、仕事が無い日などは訓練に付き合ってもらっていた。
ヒュンケルは剣に比べれば、槍は素人だが、それでもアバン流槍殺法を扱えるので並みの槍使いよりは遥かに技量が上である。
スコット
「しかし、武器を替え時とはいえ、このエンドールではお前に見合う武器が無いぞ…何しろここの兵士なんぞ、正規兵でありながら『銅の剣』を使っている有様だからな…」
ヒュンケル
「…………」
世界一の大国の兵士の装備がそれでいいのか…と、いう疑問が出るがこれはある意味仕方が無い。
何しろこのエンドールは現在、深刻な武器不足に悩まされているのだ。
隣国ボンモールに向かう橋が何者かに壊されて以来、武器の輸入が難しくなったのだ。
他の大陸からの定期船も滞りがちで、次に来るのはサントハイム地方の砂漠のバザーが終了した後との事だ。
ちなみにカジノには『隼の剣』という一流の武器が景品に出されているが、現在、休業中のため、手に入れる事が出来ない。
そもそも、ヒュンケルはそれ程運が良いわけでもないし、賭け事には余り興味が無いので、難しいだろう。
ヒュンケル
「鋼の剣を買う金があっても現物がなければ手に入らん。やはり、隣のボンモールに行かなければならんか」
スコット
「しかし、橋が壊れて……」
ヒュンケル
「別にあの程度の河など橋などを渡らなくても軽く越えられる」
スコット
「……泳ぐのか?」
ヒュンケル
「季節的に好ましくないな」
今は秋の中ごろ。
寒中水泳というほどではないが、河の水温は、かなり冷たい。
リザードマンであるクロコダインの様に水陸両用の獣人ならともかく、人間であるヒュンケルには少しキツイ。
スコット
「…じゃあ…」
ヒュンケル
「跳び越えればいいだけだ」
エンドールとボンモールを分ける河は大河というわけではないが、それなりに広い。
しかし、ヒュンケルはそんな河を易々と跳び越えてしまった。
そう、河の岸から岸までは流石に無理でも、橋の壊れた部分の端と端くらいならば、ヒュンケルの跳躍力を持ってすれば容易かった。
スコット
「……やはり実力の違いを思い知らされるな…」
★☆★
エンドールの隣国に位置するボンモール。
そこは、エンドールとは逆に武器が豊富で、防具が不足していた。
その為、国自体が防具を定価よりも高く買い取っていた。
そして、豊富は武器は……。
ヒュンケル
「最高が鋼の剣か……これではまた数ヶ月しか持たんな」
確かに鋼の剣は一人前の戦士が持つ武器として攻撃力も値段もお手頃なモノだが、数ヶ月に一度交換していては、流石に出費が激しい。
ヒュンケルも人間である以上、生活にも金が要るし、元の世界に戻る為の情報収集にもそれなりの金が必要である。
ヒュンケル
「あと1ランク上の武器が欲しいな……中古品でもいいから」
???
「それならば、北方にあるレイクナバを訪ねてはいかかでしょうか?」
ヒュンケル
「お前は?」
???
「私は旅の行商人です。北方にあるレイクナバの町の武器屋は、普段はこの檜の棒や棍棒、銅の剣しか売っていませんが、たまに掘り出し物を売るときがあります。運が良ければ、いい武器が手に入るかも知れませんよ」
ヒュンケル
「……なるほど、駄目だったら『鋼の剣』で我慢すればいいか。礼を言う」
旅の行商人
「いえいえ、ところで何か買って行かれませんか?」
ヒュンケル
「ちゃっかりしているな。まあいい、『薬草』と、あと『キメラの翼』を貰おうか」
旅の行商人
「毎度あり!」
こうしてヒュンケルは、僅かな期待を求め、レイクナバに向かうのだった。
旅の行商人
「……異世界の戦士、ヒュンケルよ……その村で貴方は新たなる『導かれし者』に出会うでしょう……どうかマスタードラゴン様の望みを叶えて下さい」
ヒュンケルを見送った旅の行商人の背中に翼が生え、天空に向かって飛び立った。
さて、次回はついにあの男とヒュンケルが出会います。