宿屋に泊まっていたサントハイムのお姫様が攫われた。
その情報は、直ぐに村中に広がった。
村中が騒然となる中、ヒュンケルは道具屋で薬草を購入していた。
村の子供
「お兄ちゃん」
そんなヒュンケルに、犬を連れた子供が話し掛けてきた。
ヒュンケル
「……なんだ?」
村の子供
「さっき犬のコロがこんな手紙を銜えてきたんだ…どうもお姫様のことらしいからお兄ちゃんにあげるね」
子供はヒュンケルに手紙を渡すと、飼い犬と共に駆け出してて行った。
手紙にはこう書かれている。
『姫を返してほしくば、明日の夜、この村の宝 黄金の腕輪 を町の墓場まで、持って来い』
ヒュンケル
「…やはり身代金目的の誘拐か…」
宿に戻り、先ほど暗黒闘気によって傷付いた少女が休んでいる部屋に入ると、少女に神官が『
神官
「何故…何故…
老人
「奇怪な…これは一体…???」
神官がいくら回復呪文を唱えても、少女の傷は消えず、体力も回復しなかった。
ヒュンケル
「…薬草を買ってきたから、これを使え…」
ヒュンケルは少女に薬草を渡すと、半泣きになっている神官を宥めた。
神官
「私の
ヒュンケル
「別にお前が未熟だという
老人
「なんと!?それはどういう事ですかな?」
ヒュンケル
「この娘は、暗黒闘気によって傷つけられた。暗黒闘気で受けた傷は回復呪文では治らん。薬草などで時間を掛けて治すしか方法がないのだ」
神官・老人
「「…暗黒闘気!?」」
『暗黒闘気』の説明を受けると神官と老人は憂いた表情で少女に視線を向けた。
ヒュンケル
「ところで、犯人側から要求があったぞ」
少女
「犯人はどんな要求をしてきたの?」
ベットで横になっていた少女が体を起こし、ヒュンケルに詰め寄ろうとした。
神官
「無理をしてはいけません…!」
ヒュンケル
「こいつの言う通りだ、お前は安静にしていろ!明日の夜までにこの村の宝である黄金の腕輪とやらを要求してきた…」
老人
「…黄金の腕輪じゃと…!?」
『黄金の腕輪』とは、フレノールの村に伝わる腕輪で、災いを齎すと云われ、フレノールから南に位置する洞窟に封印された曰く付きの代物である。
噂では暗黒の力を宿していると云われている。
ヒュンケル
「……解せんな…?」
少女
「…何が?」
ヒュンケル
「あの覆面男は兎も角、黒ずくめの男たちならば、わざわざ姫を攫わなくとも手に入れられる筈……何故、誘拐などというまどろっこしい事をする必要があるのだ?」
対峙して分かったが、あの黒ずくめの男たちの実力は、魔王時代のハドラーと遜色ない実力を持っている。
それに奴等の口ぶりからして、人間では無い様だし……。
村に保管されていようと、洞窟に封印されていようと、あの2人ならば、力ずくで奪える筈…。
ヒュンケル
「その黄金の腕輪とやらは、特別な方法でないと手に入れられない物なのか?」
老人
「いや…ただ南の洞窟の奥深くの宝箱に入っておるだけに過ぎん…ただ、その洞窟はそれなりに強力な怪物モンスターが徘徊しておるが……」
ヒュンケル
(奴等ですら、手こずるほどの怪物が棲息しているのか?)
とりあえず、村の宝だろうが何だろうが、姫の命には代えられないので、ヒュンケルは南の洞窟に向かう事にした……のだが、何と少女が同行すると言い出した。
神官と老人も少女を止めようとするが、少女は聞き分けない。
ヒュンケル
「その体で何が出来る…俺に任せて養生した方が良い」
少女の傷は決して軽くは無い。
『闘魔傀儡掌』によって受けたダメージは、命に別状は無いもののそれなりに深い。
少女
「でも、私はどうしてもあの
ヒュンケル
「……別にお前の力は必要ない…俺だけで充分だ」
少女
「でも、あの娘は私の身代わりに攫われた様なものだし……私が助けるのが義務なの!」
老人
「な…なりませんぞ!それ以上、話しては…!!」
突然の少女の告白に、老人が焦り割って入ろうとしたが、それをヒュンケルが遮った。
ヒュンケル
「…身代わり…だと!?ま…まさか…」
少女
「……私の名前はアリーナ。サントハイムの王女よ!」
★☆★
ヒュンケル
「……なるほど…つまり、攫われたのは偽者だった・・・という訳か」
目の前のサントハイムの王女を名乗る少女……アリーナは確かに何処か気品の様な物を持ち合わせている。
そして、神官の名はクリフト、老人の名はブライと言い、アリーナの従者との事だ。
ヒュンケル
「道理で妙だと思ったが…偽者ならば納得だ…」
アリーナ
「…妙って!?」
一国の姫君ともあろう者が旅をするのに護衛が2人などあり得ない。
最低でも一個分隊くらいで護衛する筈である。
少人数の護衛ならお忍びの旅となり、安全を考えればそもそも正体を明かさない。
レオナ女王も、かつてダイとポップを伴いベンガーナに買い物に行った時、自分がパプニカの姫である事を明かさなかった。
正体を明かしていれば、『ドラゴンキラー』のオークションの時、あんなにも見縊られなかっただろう。
ダイとポップは護衛としても申し分ないし……当時のポップは少し心もとないかもしれないが……。
村全体に広がる様に正体を明かし、護衛が――碌に戦えない――たった2人等、余りにも不自然過ぎるのだ。
クリフト
「言われてみれば確かに……我らも正体を隠していましたしね…」
ブライ
「一国の姫がお忍びで旅をするのじゃ、それくらいの配慮はせねばな」
ヒュンケル
「話を戻しましょう……姫君…」
アリーナは断固、自分が『黄金の腕輪』を取りに行くと主張する。
ブライ
「…姫様が責任を感じる必要はないでしょう。責任は『騙り』を働いたあの娘達をあります」
クリフト
「確かに、あの人を見捨てるわけにはいきませんが、傷付いた姫様が無理をしてまで……」
アリーナ
「でも、私が城を出た事が原因でしょう?城を出た事は後悔してないし、帰るつもりはないけど……私が助けるのが筋だわ!」
ヒュンケル
「……言っても聞かないようだな。問答をしている時間も惜しい…やむをえません…着いてくるのは構いませんが、決して無理はしない事…その御供の御二方から離れない事…勝手な行動を取らない事…この事を守って頂けますか?」
アリーナが了承したので、仕方無しに連れていく事にした。
自分が発端となった事件を、人任せにしたくない様だ。
正直、いくらアリーナが城を出た事が遠因とはいえ、姫君の名を騙って詐欺を働いた事に変わりはないので、情状酌量の余地もないのだが…。
まあ、偽者と解っても助けないという選択は、ヒュンケルにもなかった。
彼女が根っからの悪党ならば見捨てても良かったが、どうやらちょっと魔が差しただけのようだし、今回の件で充分報いを受けただろう…。
ブライ
「あの偽者が悪党ではないとは、どういう事ですかな?」
ヒュンケル
「この村に住むの老人が、偽姫に自分の蓄えを貢ごうとしたのだが、彼女達に断られたらしい…」
クリフト
「成る程、姫様の名を騙っていても、金品を巻き上げるような真似はしていないというわけですね」
ブライ
「ふむ。大方、姫様の名を騙ったら皆がチヤホヤしてくれたので調子に乗った…と、いうことですな…」
アリーナ
「じゃあ、もう反省はしているだろうから、助けてあげましょう」
こうして、ヒュンケルとアリーナ一行は、フレノールの村長の許可を取り、『黄金の腕輪』を手に入れる為に南の洞窟へ向かうのだった。