砂漠のバザーに到着したアリーナを待っていたのは……落胆だった。
確かに強力な武器は売っていた。
しかし、それはアリーナでは扱えなかったのだ。
クリフト
「私がこれを……」
ヒュンケル
「ああ。そのホーリーランスとやらはお前が使うといい……」
ブライ
「ヒュンケル殿は剣は達人じゃが、槍の心得はないのかな?」
ヒュンケル
「いや、槍の心得もある……が、剣程の腕ではないのも確かだ。それにこのホーリーランスの造りは。俺の槍殺法には不向きだ」
ホーリーランスは槍ではあるが、
ランスは基本的に刃物が付いておらず、円錐型で相手を突き刺して攻撃するのが最も効果的な槍である。
ホーリーランスは、先端に刃物こそ付いているが、やはり円錐型なので、振り回し辛く、薙ぎ払いや足払い、巻き上げや格闘戦の補助の用途には使い勝手が悪い。
アバン流は、もともとアバンがカール王国騎士団に所属していた時、王城に攻め入ってきた魔王ハドラーを退けた際にとっさに放った技を完成させたモノである。
アバン流の基本は刀殺法であり、それを応用し、槍、斧、弓、鎖、牙などの殺法が編み出された。
その為かアバン流槍殺法には、槍術の基本とも云える『
地雷閃も海鳴閃も斬撃であり、虚空閃は刺突と云えなくもないが、厳密にいえば穂先から闘気を発して相手を斬ると云った方が正しいだろう。
故に武器を選ばないアバン流でも、斬撃が出来ない馬上槍は不向きな武器と云わざる得ないのだ。
それでも、武芸百般のアバンならば上手く扱えるだろうが、ヒュンケルは師ほど器用ではなかった。
結局、武器はクリフト以外は収穫無しであった。
それでも、もの珍しい物が並んでいるバザーはアリーナの好奇心を刺激するので、それなりに楽しんではいるようだった。
しかし、そんな楽しみも長くは続かなかった。
サントハイム兵士
「あ!姫様、探しましたぞ!直ぐにお城にお戻り下さい!王様が、王様が大変なのです!」
★☆★
アリーナ
「お父様!どうして何も言ってくれないの?」
ブライの『
しかし、サントハイム王は何か言いたそうにアリーナを見るだけで、何も喋らなかった。
王の声が出なくなった事が国民に知れると、不安が広がる事を恐れ、この事を知るのは王の間にいる数人のみだった。
なぜ突然、王の声が出なくなったのか……王が声を取り戻す方法は……。
アリーナ達は、「裏庭の部屋に住むゴン爺ならば何かわかるかも知れない」という大臣の助言により、裏庭に向かった。
一方その頃、ヒュンケルはサントハイムの城下町ともいえるサランの町で時間を潰していた。
旅の連れとはいえ、ヒュンケルはサントハイム王家には直接関係がない為、城内に入る事を遠慮したのだ。
宿を取る前に教会に行くと、二階から美しい歌声が聞こえて来た。
いかにヒュンケルが武骨者とはいえ、美しいモノを美しいと感じる感性くらい持っており、誘われる様に二階に上がり、その歌を静かに聴いていた。
ヒュンケル
「…久しぶりにいいモノを聴かせてもらった…」
詩人
「ご拝聴ありがとうございます。私の名はマローニと申します」
ヒュンケル
「俺は歌の事はよくわからんが……それでもお前の声が美しい事は理解できる……昔からそうなのか?」
マローニ
「いえ、私は一度喉を痛め、声が出なくなったことがあるんです……この声が出る様になったのはその後なのです」
ヒュンケル
「何か特別な事でも?」
喉を痛めた事により、この様に聴き惚れる声に変声したのだろうか?
マローニ
「実は、『さえずりの蜜』というエルフの薬を飲んだ事が要因です。昔、砂漠のバザーの道具屋で手に入れましてね……今年のバザーでも売っているかも知れませんね」
アリーナ
「さえずりの蜜?」
ヒュンケル
「ああ、マローニという詩人が言うには、その薬を飲んでから今の様な声になったとのことだ」
ゴン爺から「マローニならば王の声を治す方法を知っているかも」と聞き、ヒュンケルと合流したアリーナだったが、本人に直接聞く前に、ヒュンケルが既にその方法を聞いていたので、それを伝えられた。
アリーナ
「砂漠のバザーで売っているんなら、明日直ぐにバザーに戻りましょう!」
ブライの『
砂漠は湿度がないので日中は暑いが、夜はかなり冷える。
当然、夜は店も閉まっているので、今日は宿を取り、明日の朝一に道具屋に赴き、さえずりの蜜を購入することになった。
そして、深夜。
アリーナ
「…ヒュンケル…起きてる?」
バザーの宿屋はテントなので、当然のことながらベッドではなく雑魚寝で、部屋が区切られていない。
ヒュンケル
「どうした?明日は早いのだろう…早く寝ないと起きられんぞ」
アリーナ
「ちょっと眠れなくて……だから眠くなるまで少し話しをしたいの…」
普段は元気一杯の少女だが、その心根は優しいので、父の事が心配なのだろう。
いつもは直ぐに眠りにつくのに、なかなか寝付けない様だった。
アリーナ
「お父様……周りの人たちを不安にさせない為に、今の状況を城のみんなに教えていないの…」
ヒュンケル
「…王がその様な状態になったことが知られれば、確かに動揺が拡がるだろうな……その為に緘口令を布いたか……」
アリーナ
「ねぇ……ヒュンケルのお父様ってどんな人…」
ヒュンケル
「俺は実の親を知らん……」
アリーナ
「えっ!?」
ヒュンケル
「俺が生まれた頃、地上はハドラーという魔王の侵略を受けていた。そして俺の生まれたパプニカ王国のあるホルキア大陸は魔王軍の拠点、地底魔城が在った為、その大陸の町や村は魔王軍の襲撃を連日の如く受けていた。俺の両親は、殺されたのかそれとも、俺を見捨てて逃げたのか解からんな…」
アリーナ
「……」
ヒュンケル
「だから、俺にとって親とは……俺を育ててくれたバルトスという男だ」
地獄の騎士バルトス
旧魔王軍最強の戦士であり、当時の魔王ハドラーが生み出した
それがヒュンケルの養父・地獄の騎士バルトスである。
流石に、人間ではなく怪物である事は口にしなかった……。
アリーナ
「…その人はお元気なの?」
ヒュンケル
「…俺が6歳の頃に逝った」
アリーナ
「……!?」
ヒュンケルは長い間
ヒュンケル
「…今でも俺は、父を尊敬している。あの人は正に武人の鑑だった…」
アリーナ
「ヒュンケルよりも強かったの?」
ヒュンケル
「…いや、今戦えば間違いなく俺が勝つ!」
所詮、バルトスは『地獄の騎士』という
当時のハドラーでは、『地獄の騎士』が精一杯で、上位種である『ソードイド』、最上位種である『デーモンソード』を生み出すことは出来なかったらしい。
そして、ヒュンケルは暗黒闘気によって不死系怪物を束ねる『不死騎団長』。
不死系相手に遅れは取らない。
それに六大団長はそれぞれの分野において、魔軍司令ハドラーを上回る力を持つ者が選ばれる。
ヒュンケルは当時、剣技と暗黒闘気に長けていたので、当然、作ろうと思えば『ソードイド』なども作ろうと思えば作れた。
しかし、父への敬意からか、父と同じ種の不死系怪物は一切作らなかった。
ヒュンケル
「しかし、強さだけが武人の全てではない。父はその精神こそが真の武人だった……」
アリーナ
「……本当にお父様の事が好きなのね…」
アリーナは、ヒュンケルの話を聞きながら、自分の父の事を想った。
ブライと同じ様に何かと口喧しいが、それもアリーナの事を思ってのことだというのは理解していた。
何だかんだ言いながらも、アリーナは父を尊敬し、愛していたのだから……。
父の言い付けに背き、城を抜け出して武者修行の旅に出てしまったが、やはり、出来れば父に正式な許可をとって旅立ちたかった。
だからこそ、何としてでも父を救いたい。
アリーナは、決心を新たにするのだった。