ヒュンケル達は、サントハイム王の失われた声を取り戻すために必要な『さえずりの蜜』を求め、砂漠のバザーから西にある搭を訪れていた。
詩人マローニの話では、『さえずりの蜜』は砂漠のバザーの道具屋で手に入れられるとの事だったが、あいにく昔、マローニが飲んだ分しかなく、エルフが訪れるという西の搭で手に入るかもしれない…という藁にも縋る思いで……。
この搭に棲息する『鬼小僧』、『鶏冠蛇』、『鎌鼬』、『ポイズンリザード』、『蝿男』、『人食いサーベル』、『プテラノドン』、『ドラゴンバタフライ』、『スペクテット』などが次々と襲いかかってきたが、父を救う為に必死になっているアリーナ達の敵ではなかった。
不意打ちをかけてくる怪物もいたが、それは後背を守るヒュンケルに阻まれ、アリーナ達に手を出す事は出来なかった。
あえて問題点を挙げると、高所恐怖症のクリフトが階を上がるに連れ、ぐちぐち泣き言を呟くのが鬱陶しかったくらいであった。
そして、最上階に辿り付いたアリーナ達は、水に囲まれた美しい花畑で戯れるエルフの姉妹であった。
アリーナ達に気付いたエルフは、嫌悪感を隠そうともせず、すぐに立ち去って行った。
その時、リースと言う名のエルフが薬を落としていき、それこそがアリーナ達の求める『さえずりの蜜』であった。
ヒュンケル
「それにしても……随分と嫌われたモノだな…」
ヒュンケルの世界にはエルフと呼ばれる存在は、天界以外にはいないので、ヒュンケルも会った事がなかった。
ブライ
「無理もありますまい……エルフたちからすれば我ら人間など、厄介者以外の何者でもないですからな」
アリーナ
「どういう事?」
ブライ
「エルフたちが流す涙は、『ルビーの涙』と呼ばれる宝石で、高値で取引されます。その為に欲深い者達によって地上に住むエルフ達はは迫害を受けておるのです。無論、そのような人間ばかりではありませんが……エルフたちからすれば、そんな区別はつかないでしょうからな」
ヒュンケル
「…………」
ブライの言にヒュンケルは自分達の世界の人間たちの事を思い浮かべた。
かつてまだ大魔王バーン率いる魔王軍が行動を起こす前、ダイの親友である『
ダイは、デルムリン島の怪物達を引き連れ偽勇者たちを倒し、見事ゴメちゃんを救出した。
これにより、ダイはロモス王に『未来の勇者』と認められ、パプニカ王女レオナとの出会いや勇者アバンへの弟子入りに繋がる事となる。
人間すべてが、そのような者達ばかりではない。
ブライの言う様に、ヒュンケルの仲間たちにそんな者は1人もいない。
偽勇者たちも、
ブライの『
サントハイム王
「…………ん?あー、あー……!おおっ!?こ…声が出るぞ!治った治った!」
病気が治った事を喜んだサントハイム王は、薬を持ってきてくれたアリーナ達に感謝すると、事の経緯を語り始めた。
王はここ最近、悪夢を見続けていた。
それは巨大な怪物が地獄から蘇り、すべてを破壊しつくすという、とてつもなく恐ろしい夢であった。
始めは誰にも語らず、己の胸の内に秘めておくつもりだったが、連日連夜同じ夢ばかり見る故、不安になってきたのだ。
サントハイム王家には代々、未来の事を夢に見る能力を持つ者が現れる。
王もその能力を持っており、この夢は予知夢なのではないか?
そう思った王は、大臣にその夢の事を話そうとしたのだが、その矢先に声が出なくなってしまったのだった。
サントハイム王
「アリーナよ。わしは、もう止めはせぬ。その目で世界を見てまいれ」
アリーナ
「ありがとうお父様」
サントハイム王
「うむ。それでは出発は明日にして、今日はこのまま城に滞在せよ…」
アリーナ
「はい、お父様」
ブライ、クリフト
「「御意!」」
その夜。
サントハイム王は、自室にブライを呼び寄せた。
ブライ
「何か御用でしょうか陛下?」
サントハイム王
「うむ。実はな……お前にだけは教えておこう思ってな。恐ろしい夢を見る前……アリーナが城を飛び出す前に、あやつに関する夢も見たのじゃ」
ブライ
「まさか!?姫様の身に何か起こるとでも」
サントハイム王
「いや、確かに一大事だが、どちらかと言えば個人的なことじゃ……」
サントハイム王が見たアリーナに関する夢とは……それはヒュンケルにも関係する事だった。
ブライ
「はあっ!?……鯉……淡水魚がどうかされましたか?」
サントハイム王
「現実逃避は止めぃ!『恋』じゃ!!」
ブライ
「あのお転婆の姫様が『恋』ですと……」
サントハイム王
「うむ。アリーナが銀髪の戦士を相手に恋をするという夢じゃ……こちらも何度も繰り返し見たのでな。心当たりはあるか?」
銀髪の戦士と聞き、ブライに思い当たる人物は1人しかいなかった。
確かに、アリーナは旅の間、何かとヒュンケルに視線を向けていた。
おそらく本人も気付いていないだろうが…。
サントハイム王
「その男が、アリーナの婿に相応しい男ならば良いのだが……」
サントハイム王にとって、アリーナの結婚に関しても頭の痛い問題である。
何せあのお転婆姫を任せられる者など、国の有力貴族には存在しない。
勿論、国のためには何れ、誰かを婿に取らなければならないだろう。
しかし、親として娘を任せるに相応しい相手を婿に迎えたいと願うのは当然と云える。
ブライ
(…確かにヒュンケル殿ならば、ひょっとしたら姫様を御せるかも知れん……しかし…)
サントハイム王
「ブライよ。もしその男が現れたら、アリーナに相応しいかどうか見定めよ。そして相応しかったら、わしに知らせるのじゃ」
難儀な命令である。
ブライは、ヒュンケルの事が嫌いなわけではない。
むしろ、敬意を払っている。
しかし、異世界の人間をアリーナの婿に迎える事が出来るのだろうか?
そもそも、あれほどの戦士なのだ。
元の世界に待っている女が居ても不思議ではない。
それに戦士としては確かに超一流だが、サントハイムの王位を継げるかどうかは別問題。
そちらも見定めねばならず、ブライの気苦労は絶えなかった。