バグで好感度8000%になったスペシャルウィークは愛されすぎて毎日が修羅場です   作:スペペペペ

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9話「どんぶりの上に天ぷらが乗った美味しいやつ」

 自分がウマ娘なのか人間なのかさえわからない白黒(どっち)つかずの私にだって、それでも正しいと思えることがある。ウマ娘だろうと人間だろうと関係なく大切なことがあるって。

 

 困っている人がいたなら理由を聞いてあげたい。泣いている人がいたなら手を差し伸べてあげたい。頑張っている人がいたなら応援したい。

 

 勿論それが時には余計なお世話になることだってあるだろうし、どんな時だってそうやって誰かに接してあげられるわけでもないけれど……私はそうやって大好きな人間(ひと)達に助けられてきたし支えられて生きてきた。だから私も出来るだけ誰かにそうしてあげたいと思うのだ。

 

 彼女(ミホノブルボン)は困っていたし、泣いていたし、頑張っていた。だから……たとえ彼女がとても苦手な栗毛のウマ娘ちゃんだとしても、そんなこと関係なしにどうにか元気づけてあげたかった、それだけなんだ。

 

 ――いやしかし、うまく景品取れて本当によかったな……ほぼ取れる、という確信はあったのだけれど万が一取れなかったらテイオーに絶対使っちゃ駄目だからね! スペちゃんだから教えるけど絶対普通の店じゃやっちゃ駄目だからね! とこっそり教えて貰った景品崩しを超える出禁必須の()()()を使わざるを得なかっただろう。

 

 人様の命運を賭けるように扇動しておいて取れませんでしたじゃいくらなんでも酷すぎて私の残りの人生を彼女の為に使って詫びる他あるまい。私に生涯纏わりつかれても迷惑だろうけど……それにしてもそこまで時間が経っているわけでもないがテイオーなんだか帰ってくるの遅くない? 混んでるのかな、はちみー屋さん。

 

「頑張れブルボン、頑張れ――」

 

 私はそんなことを考えながら、彼女の要望通り頑張れと彼女の名前を呼びながら頭を優しく撫でていた。彼女は小さい頃こうやって父親から元気づけられていたのだとか。親子愛、素晴らしいな。

 

 私が()()に頭を撫でられたら多分どつく。別に嫌っているわけではないんだけどね。ちなみに呼び捨てにしているのは彼女がぜひそうして欲しいと言ったからだ。あんまり慣れないな、年上を呼び捨てにするの。

 

「……ステータス『幸福』及び『安息』を確認――幸せ、です」

 

 目を伏せながら、無表情ながらも少しだけ頬を染めているのはきっと父親との温かい触れ合いを思い出して癒やされてはいるが、単純に年下に頭を撫でられているのが恥ずかしいのだろう。まあ彼女が安らぐのなら構わないのだけれど、程々に切り上げた方がいいかな。

 

 それにしても、身長自体はブルボンの方が少し高いくらいなのになんだか私よりずっと小さい子供をあやしているみたいだ。物凄い失礼なことを言っている自覚はあるけども。

 

 でもそう思ってしまうものは仕方ないじゃないか。北海道の地元で小さい頃から面倒を見ていた近所の――と言っても広い北海道の人口密度が壊滅薄い片田舎、家同士の距離的な意味で近所と呼ぶのは(いささ)か語弊があるのだけれど、とにかく近所の人間の少女を思い出すんだよね。

 

 子供の少ない田舎ではありがちなことだと思うんだけど、大きな子も小さな子もまるで兄弟姉妹のように一緒に過ごすことが多くて、彼女はよく私に懐いてきたしよく甘えてくる子供だった――特に抱きしめてあげると、どんなに不機嫌でもすぐに機嫌が良くなって、大きくなったらスペちゃんと結婚する! なんて言ってくれたりして可愛かったな。

 

 まあ大きくなったら私と結婚するって一緒に育った全員からよく言われたことなのでそれ自体に特別感はないのだが。田舎は不便なこともあるし住んでる人だって少ないけれど、そんな冗談を交わし合えるくらいみんな仲良しで温かいんだ……いつか都会を滅ぼしてやる

 

「全機能、オールグリーン。エネルギー充電100%――ありがとうございます。私はもう迷いません、折れません。オペレーション『三冠獲得』を再始動。夢に向かって進み続けます」

 

 彼女の夢は、とても果てが見えない程の険しい壁の先にある。心・技・体全てを兼ね備え更に幸運までもを味方につけてようやく辿り着ける頂き。誰も保証なんて出来ない、誰も確約なんて出来ない、誰も予測なんて出来ない。

 

 得られるかなんてわからない、報われるかなんてわからない、救われるかなんてわからない――それでも彼女は駆けるのだ、それが彼女の夢だから。

 

 私は、どこか面影が重なる故郷の少女にしてあげたように、ブルボンを抱きしめる。さすがに無作法がすぎるだろうか? まあウマ娘同士なんだからいいか。

 

「頑張ってください。あなた(ミホノブルボン)を知らない誰かが決めた常識なんて――ぶっ飛ばしちゃえ」

 

「――エネルギー、充電FFFF%(オーバーフロー)……です……」

 

 私の腕と身体から伝わる彼女の温もりは、決してロボットには宿らない生命の息吹を感じる温かさで満ちていた。

 

 

 ………

 

 

「スペちゃんおまたせー! 参ったよもー! はちみーがまさかの突発半額セール中でさー! もう物凄い長蛇の列!」

 

「それでも並んで買って来てくれたの? テイオーは優しいね、ありがとう」

 

 つい先程、テイオーと入れ替わるようにブルボンは宇宙戦闘機の景品を大事そうに抱きしめて、『早速新しいトレーナー探しから始めようと思います。トレセン学園で、また必ず』と言い残し学園に戻っていった。彼女の夢を手助けしてくれる良いトレーナーが見つかるといいのだが。

 

「お礼と言ってはなんだけど、これあげる」

 

「えーなになに……うわっ、これアニメのかっこいいやつじゃん! ボク小さい頃見てたよ! ありがとっ! でもどうしたのこれ?」

 

「さっきそこのクレーンで取った」

 

 運良く2つ取れたから、この戦闘機をよく知らない私より欲しがってたブルボンに2つとも渡そうとしたのだけれど、1つで十分、もう1つは私に持っていて欲しいと言われれば断る理由がない。

 

 そこで元々適当な景品とはちみーを交換する予定だったしテイオーにプレゼントというわけだ。テイオーも喜んでくれているようだしこれで貸し借りはなし――と言いたいとこだったけど、長蛇の列にも関わらずわざわざ並んで買ってきてくれたのでは適正な等価交換にはならないかなぁ。

 

「これがはちみーか。どれどれ……」

 

 意外とずっしりとした重さを感じるカップに驚きつつも、ストローを口をつけて飲もうとするが――成る程、結構ゼリー状というか固形に近い? それなりに力を入れて吸わないといけないらしい。

 

 ちゅー、と吸い上げて、ようやく中身が口に入れば――。

 

 美味しい!

 

 えっ何これめちゃくちゃ美味しいんだけど。蜂蜜をベースとした自然な甘さがありつつも絶妙な配分で混ぜられているレモンの風味がすっきりとした清涼感と爽快感を与えていて、しかしそんな要素に相反するかのような独特なコクがありいつまでも口の中にはちみーの素晴らしい後味が残り続けるような……。

 

「テイオー、これ物凄く美味しい」

 

「でっしょー!? 並んだってそれ以上の価値があるのがはちみーだからね! うーん、最高!」

 

 いやマジで美味しいな。都会を滅ぼしてもはちみー屋だけは助けようはちみー屋さんの場所、あとでテイオーに教えて貰わないと。絶対しばらく通っちゃうよこれ。

 

「でもスペちゃんと一緒に飲むとさらに美味しいねー! 無敵のボク達にぴったり! あっそうそう、それとさっきからちょっと気になってたんだけどさー!」

 

 

 

 

 

 

 

なんでスペちゃんに他のウマ娘(おんな)の匂いがべったりしてるの

 

 

 ………

 

 

 いや、まあね。

 

 わからないでもない、確かに。私とテイオーはライバルであるけれど、同時に友達でもあるだろう。リアルで出会ってまだ二日目だけど。

 

 だからまぁ、一緒にゲームセンターに遊びに来た友達の為にわざわざ飲み物を買いに行ったというのに、その間にその友達が自分を差し置いて知らない他の人と遊んでいたら、確かに面白くない気持ちはわかる――いやそれにしたってあそこまでキレる普通?

 

 だって別にテイオーが居る時にほっといてブルボンと遊んでたわけじゃないんだよ? 待っててねって、テイオーがそう言ってはちみー買いにいったから、その間の時間潰しみたいなもんじゃん? いわば自由時間(フリータイム)じゃん? あと嗅覚良すぎテイオー。ウマ娘って人と比べれば聴覚や嗅覚が、鋭いらしいけどさ。

 

 でもそんな理屈はテイオーは全く納得できなかったらしく「浮気者」だとか「ウマ娘(おんな)たらし」だとか清廉潔白に生きている私にそんな事実無根の罵倒を浴びせながらわんわん泣き(むせ)ぶし、私からなぜ他のウマ娘の匂いがべったりしているのか正直に吐け! と言われれば特に後ろめたいことは何も無いので普通に事情を説明したら「一億歩譲って一緒に遊ぶだけならまだしも手と身体を重ね合わせながら一緒にクレーンゲームとか本気で意味わかんない! まだボクにもそんなことしてくれたことないじゃん!」ってガンガンガンガンと床を叩きながら怒り狂っていたのはテイオーの手が傷んじゃうからさすがに止めた。

 

 まあブルボンの可哀想な電子機器破壊体質は確かに意味がわからないが……というか一般的なウマ娘の距離感から言えば身体がくっつくくらい近くで遊んだところで普通じゃんね? 挙げ句にはそんな機械油みたいな匂いボクの匂いで上書きしてやる! と再び全力セミホールドの刑である。ほら、テイオーだって距離感近いどころかもはや『無』だよ。

 

 っていうか本気で抱きしめられ過ぎて体中の骨が折れそうだった。本格化も程遠い身体でこのパワーなのだからウマ娘とは恐ろしいものである。あとブルボンは別に機械油みたいな匂いはしてない、普通にいい匂いでしょ。

 

 もうどうしようもないのでわかったよ、じゃあテイオーにもやってあげるから……とブルボンと同じようにクレーンゲームをプレイしたりハグしたり、また一緒に遊ぶからと約束も取り付けどうにかテイオーの機嫌を取って解放されたのがつい先程の話である。

 

 うーん、テイオーはかなり嫉妬深いのかも知れない……まあ、ああいう子供っぽいところはかわいいとは思うのだけれど。

 

 

 

 と、そんな顛末を振り返りながらたどり着いた寮の入口に差し掛かれば……。

 

「――スタンバイモード解除、1時間24分52秒ぶりの再会にステータス『歓喜』を確認。先程ぶりですね、スペシャル」

 

 そこに直立不動でさながら番犬のように待ち構えていたのはブルボンだった。再会早いな。しかし呼び捨ては全く構わないのだけれど私をスペシャル呼びをする人物は極稀なので何だが新鮮。

 

「はい、先程ぶりですね。どうしたんですかこんなとこで?」

 

「報告事項があります。早急にあなたに伝えるべきだと判断し、待機していました」

 

「報告……?」

 

 はて、なんだろう。まさかもう新しいトレーナーが見つかった……なんてわけではないだろうし。

 

「ミッション『ニューマスターの確保』が完了したことを報告します」

 

 クラシック三冠RTAでもやってんのかこの人。

 

 

 ………

 

 

『俺は黒沼。精神は肉体を超えられる――を信念にトレーナーをやっている。どんなウマ娘にも距離適性ってのは絶対にある、生半可なトレーニングじゃ変えられねぇし揺るがねえ、それは事実だ。ウマ娘の絶対的な最高速度も持って生まれた素質に大きく左右されるのもまた事実。だがスタミナと根性だけは、血の滲むような鍛錬を経た果てに……どんなウマ娘だろうが手に入れられると俺は信じている』

 

『その信念に同意します。黒沼トレーナー』

 

『俺は前からお前に興味があった。どんなトレーニングだろうと弱音一つ吐かずにやり遂げる根性、トレーナーと喧嘩別れさえも辞さず、たった一人になっても走り続ける己の夢に殉じられる覚悟――その心の強さを持ったお前ならできるかも知れねぇ、短距離ウマ娘(スプリンター)がクラシック三冠を制覇するって常識破りの偉業をな。スカウトだミホノブルボン、俺にもその夢――見させてくれねぇか』

 

『……訂正箇所を認識。修正させてください』

 

『なんだと?』

 

『私は、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『……どういうことだ』

 

『マスター……以前のトレーナーにも見放され、孤独になった時……私の心にはいくつものエラーが発生し、()()()()()()()()。ずっと見ていた夢も、それまで信じていた努力も、()()()()()()()()()。私の心の強さは、ギアが一つ外れれば、それで壊れてしまうただ我慢強いだけの物だったのかも知れません』

 

『何が言いてぇ』

 

()()()()()()()()()。私は――とあるウマ娘にグッドステータス『慈愛』を貰いました。その慈愛は、私の心に永劫インストールされ二度と消去されることはありません。私は二度と折れません。私は二度と諦めません。全ての運命も常識も覆し私は――三冠ウマ娘になる』

 

『……ほう』

 

『どんなミッションであろうとどのようなトレーニングであろうと、全てコンプリートしてみせます。黒沼トレーナー、あなたは私に3000mの長距離を走りきれるスタミナを与えることができますか? できるのなら――私と、担当契約を所望します』

 

『……ふっ、確かに、以前とは別人みてぇだな。全くどうしたことか、聞いていた話とはまるで違うじゃねえか』

 

『聞いていた? 具体的な情報の共有が必要だと判断します。誰にですか』

 

『本当は、これに関しては言わねぇでくれと口止めされていたんだが――以前からお前に興味があったのは事実だが、それでもお前のようなスプリンターが菊花賞を取れるようなスタミナを手に入れるには、スパルタチームと知られる俺でもさらに過酷な相応の無茶をお前にさせなくちゃならねぇ。それこそ身体を壊しかねないほどのな……正直、迷っていた。それでもお前をスカウトしようと思ったのは――とある堅物のベテラントレーナーにお前を頼むと頭を下げられたからさ』

 

『――それ、は』

 

『あのウマ娘はサイボーグと呼ばれる素顔の下で、ただ純粋無垢な心で我慢してガムシャラにやっているだけなんだ、あれほどのウマ娘がまた私のようなトレーナーの手に渡り潰されるのはあまりにも忍びないってな。それと、こうも言ってたぜ……ブルボンの眩いスプリンターの才能に執着するあまり、トレーナーとしてウマ娘にあるまじきことを言ってしまった、出来ることなら訂正したいってよ』

 

『マスター……』

 

 

 

「――というわけです」

 

 ……ブルボンの話を聞く限り自分の担当を罵って契約解除するとかめちゃくちゃ最低で、私は人間大好きだけどその人は好きになれない絶対――と思ってたけどいいとこあるじゃないかブルボンの前のトレーナー。

 

 腐ってもこの日本で一番なるのが難しいと言われる栄えある中央トレーナーだということか。いや元々クラシックレースで実績出してた人らしいし腐ってもはさすがに失礼だな、そもそも部外者の私がとやかく言うことでもない。まあでも。

 

「よかったですね、ブルボン」

 

「私は……自分の小ささを認識しました。誰も夢をわかってくれないと、誰も私をわかってくれないと――でも、何もかもわかっていなかったのは私の方でした。私はこれから大きくなります。強くなります。速くなります――スペシャル、あなたに希望します。これからの私を見ていてください」

 

「私でいいのなら喜んで」

 

 運命も常識もぶち壊すその歴史に残る一幕を特別席で見届けられるなんて光栄なことだ。寧ろこちらからお願いしたいくらいだよ。

 

 私にはこうして、きっとブルボンの走りを見守ることしかできないだろう。見届けることしかできないだろう。見送ることしかできないだろう。

 

 それでも、精一杯に応援することは出来る。頑張れって、負けるなって。誰かの心の底からの声援(エール)が力になることを、私は知っているから。

 

「頑張ってくださいブルボン」

 

「ミッション『頑張る』、デイリー目標に設定しました。それとスペシャル――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてあなたから纏わりつくような他のウマ娘(おんな)の匂いが感知されるのでしょうか。説明を要求します」

 

 9話「どんぶりの上に天ぷらが乗った美味しいやつ」 おわり




尚、ブルボンはスペシャルウィークとお揃いで宇宙戦闘機を所有できることを大変喜んでいたが、まだ手に持っていないことに気づいていないから大丈夫。

※補足 三大ヤンデレウマ娘の内トウカイテイオーがその1人と明かしましたがあとの2人は後半まで明かす予定がないのでどんなウマ娘が出てきても明言してないだけです。
 ひょっとしたらミホノブルボンがそうなのかも知れないしそうじゃないかも知れない…明かされるその日までご期待願います。

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