バグで好感度8000%になったスペシャルウィークは愛されすぎて毎日が修羅場です   作:スペペペペ

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2話「別れと甘さとファンサービス」

 立派な建築物が次々と現れては流れていく北海道の地元とは違いすぎる景色を座席から眺めて、私はトレセン学園の最寄り駅に向かう電車の中で――きっと都会の生活に少しだけ疲れて思わずうたた寝をしてしまったのであろうOLさんっぽいウマ娘に両サイドから挟まれ肩を枕代わりにされながら、私は今朝の光景を思い出していた。というか動けなかったので出来ることがそれくらいだった。起こすのも可哀想だから目的地に着くまでは別にいいのだけれど。

 

 

 東京行きの飛行機が待つ空港へ向かう前に、お母さんと地元の人達が私のトレセン学園入学の門出を祝おうとわざわざ集まってくれて……『頑張れ俺達のアイドル!』や『目指せ日本一!』という横断幕まで用意されていたのは、普段あまり感情が表に出ない私でも思わず涙ぐんでしまった。本当に優しくて、私の大切な『人』達――改めて思う、私は私を愛してくれて、そして育んでくれた人間が大好きなんだって。

 

 故に、私は己をうまくウマ娘と認識できないのではなく――人間が大好きだからこそ、人の輪の中で()()()()()()()()()()から自分は人間ではないかと惑い悩むのかも知れない。

 

「スペ、あんたはあたしなんかよりずっと賢い子だから、今更とやかく言えることはないけど……でもこれだけは言っておくよ。()()()()()()()のさ――人でもウマ娘でも、どっちのスペでも――私達の大切な娘なのは変わらないんだからね」

 

 もう1人のお母さんの遺影をしっかり私に見えるように腕に抱いて、お母さんはそう言った。

 

「あんたが元気で居てくれれば、それだけで十分な親孝行だよ。頑張ってきな、スペ!」

 

「――はい!」

 

 すでに色々あった人生だけれど、正確に言うとウマ生だけど――二人のお母さんがいて、二人のお母さんの子供になれて、私は間違いなく幸せだった。それだけは疑いようも迷いようもない胸を張って威張れる真実だ。

 

「元気でね! スペちゃん! 離れてたって私達、永遠に親友だよ……!」

 

 歳は上へ下へと違えども、小さい頃から一緒に育って来た友達の皆も、涙を堪えながら手を振ってくれていた。

 

「ズペ゙ぢゃ゙ん゙行゙がな゙い゙で゙え゙え゙え゙え゙え゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙ずっ゙どごごに゙い゙でえ゙え゙え゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙」

 

 涙を堪えてなかった子もいた。

 

「最後に私の隣に帰って来てくれれば別に向こうで浮気しても構わないからねー」

 

 

 

 本当に、良い人達ばかりに囲まれて私は幸せ者だったな……餞別品も沢山貰っちゃったし。私だと思って使ってね! と眼鏡っ子の友達から渡された巨大ブチ眼鏡とか、いろんな毛色がいるウマ娘達の中で私達を思い出して欲しいからこれを、と渡された黒色に髪を染める為のヘアカラーとか、どう使えば良いのかわからないものも沢山あったけど。しかし最後の発言に関しては適当に流したが、今考えるとなんだが凄く奇妙なことを言われていたような気もするな……気の所為だと言うことにしておこう。深く考えたら負けだ、多分。

 

『――次は東府中駅……次は東府中駅に止まります――』

 

 そんなアナウンスが鳴り響いて、ついに目的地へたどり着いた実感が湧く。正直な所、割と不安が大きいトレセン学園での新生活であるが――お母さん達が、そして皆が見守ってくれている。それだけで私は頑張って行けるような気がするんだ。

 

 まあ、しかし――ひとまず新生活を始める前にだ。

 

 まずは両肩にもたれ掛かって寝てるウマ娘のお姉さん達をどうにかすることから始めないとな……。

 

 

 ………

 

 

「本当にごめんなさい! なんだかとても居心地がよくて気づかないうちに眠ってたみたいで……」

 

「よかったらお詫びに私達にスイーツでも奢らせて貰えないかな?」

 

 お姉さん達に悪気があったわけではないようだし、さすがに少し肩を貸したくらいでいちいちスイーツを奢って貰っていたら今頃私はウマ娘からブタ娘と化しているくらい日常茶飯事だから丁重にお断りをして、私は目的の一つである東京レース場に来ていた。

 

 実を言うとトレセン学園の入学式は()()から。私のような遠い地方のウマ娘は前日から寮への入居を許可されていて、門限までに向かえばいいらしく、詰まる所まだまだ時間の余裕がある。

 

 だから一度、入学前にこの目で日本で頂点を目指すウマ娘の本気のレースを見学して起きたかった。テレビやネットの動画で中央のレース自体は何度も見たことはあるけれど、やはり画面越しと肌で体感するのでは全く持って違うのは当然だよね。

 

 しかも今日のメインレースで走るのは……()()()()()だ。

 

 私はウマ娘のことは正直苦手だけれども、だからと言って尊敬していたり憧れているウマ娘がいない――というわけではない。

 

 少なくとも彼女だけは、私にとってどこか運命的な何かを感じる特別なウマ娘なのだから。

 

 

 

『速い! あまりにも速いマルゼンスキー! これは強いぞマルゼンスキー! 独走! 独走です! 後ろからは誰も来ない! マルゼンスキー圧勝!!!』

 

 見に来なければよかったかも知れない……。

 

 いや、勿論マルゼンスキーさんのレース自体は素晴らしいものだった。マルゼンスキーさんの走りは、まさに彼女の異名である『スーパーカー』の名に劣らないどころか勝っているかのような圧倒的で、破壊的で、しかしそれでいて繊細さが感じるような、ウマ娘としての自己認識が薄い私ですらああなりたいと焦がれてしまう程に胸が熱くなるものがある。

 

 圧勝劇で霞んでしまっているけれど、他のウマ娘だって決して貶されるようなレースをしていないのは2着の普通なら立派なタイムを見れば明らかだ。マルゼンスキーさんの逃げ切り作戦がドンピシャにハマって、結果的にこういう形になっただけだろう。

 

 ではなぜ見学に来たことを後悔しているかと言えば――単純に、果たしてこれから私が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という現実をありありと認識してしまったからだ。無論、まだ本格化の兆しどころかターフで走ったことすらないようなポニーちゃん(ひよっこ)が悩むような話ではないのだろうし、いっそ自惚れるなよと胸ぐらを掴まれても仕方ない話だろう。っていうか私はまず人なのかウマ娘なのか自己認識に白黒つけろ、現状ウマ娘というよりはシマウマだぞ私。

 

 ――こう見えても、私はかなり走りの才能がある……という密かな自覚があった。本来、トレセン学園は入りたいで入れるような場所ではない。なにせ全国から天才・鬼才と将来を期待される優秀なウマ娘をかき集める日本一の学園だ。にも関わらず私が入学許可を貰えたのはその素質を認められたからで――。

 

 地元の近隣で開催されるようなレースがなかったから、知り合ったウマ娘との模擬レースを除けば今までちゃんとしたレースに出たことはなかったけれど、ネットで調べた同世代のウマ娘の公式大会だとかの優勝タイムと比べて見れば()()()()()()()()()()()()()。それだけ、たったそれだけの理由で――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()お母さん達の思いに報いられる、と思っていた。

 

 思って、しまっていた。

 

 別にお母さんにスペは日本一のウマ娘になれ! と言われたことはない。私が比較的幼い頃からウマ娘と人の狭間を彷徨ってる悲しい存在だとわかってくれていたからだ。でも、本当の思いは、私に強くて速い()()()()()()()()()になって欲しかったのだろうということは、なんとなく感じていて。お母さんの自己流ではあるけれど走ることへの特訓は物心ついた頃から一緒にやっていたし、生みのお母さんは事情があって公式レースに出ることが叶わなくて――という話も珍しくお酒で酔った時に話してくれたのを覚えている。

 

 甘かった。

 

 正直言って――私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。同世代より走るのが速いのだからなんとかなるんじゃないか、なんてあまりにも楽観が過ぎるでしょうに。

 

 映像越しに見るレースと、肌で感じるレースの空気感はこれほどまでに違うものなのか。頭ではわかっていたつもりだったのに……お母さん達、現実にそびえ立つ壁は、私の想像の何十倍も高かったようです……。

 

 ――ふと、盛大に落ち込みながらもターフへ目線を上げてみれば、奇跡的にウイニングランで観客に手を振るマルゼンスキーさんと目が合ったような気がした。多分気の所為。

 

 するとマルゼンスキーさんは悪戯っ子のような笑顔を浮かべ、右手の中指と人差し指を唇に添えてチュッ❤――と背後にそんな擬音が浮かぶのが幻視できてしまうような、愛らしい仕草で投げキッスという突然の追加ファンサービス。「きゃああ~~!!!」と耳をつんざくようなマルゼンスキーさんのファンであろう黄色い悲鳴が上がる。多分今のファンサで何人か確実に興奮で失神したと思う。気持ちはわかる。

 

 間違いなく、レースを初めて見に来たような私に向けての投げキッス(ファンサービス)ではないのだろう。というかおそらくはレースを応援してくれた観客全員へのファンサだ。

 

 しかしそうであればせっかくのマルゼンスキーさんのファンサービスを無下にしてはいけない――と私もマルゼンスキーさんへ向けて、人差し指と中指だけを立ててから手を仰向けにし、顔の前に突き出してゆっくりとそのまま唇へ持っていくように二本の指を動かして素敵なファンサ受け取りました! ありがとうございます! という意味合いの気持ちを伝える。

 

 いや、マジで感謝しかない……かなり落ち込んでたけれど、あなたのお陰で元気が出てきました。やっぱりマルゼンスキーさんは私にとって憧れで、そして速くて強くて気高いウマ娘の目指す姿なのだろう。本当、素敵な方だな……。

 

 なんだか一瞬、動きがとてもぎくしゃくした気がするけど。  

 

 2話「別れと甘さとファンサービス」 おわり




尚、好感度8000%補正×運命的な何か補正によるスペシャルウィークのファンサ返しはトレンディで激マブな大人の女性すら動揺させる破壊力である。

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