バグで好感度8000%になったスペシャルウィークは愛されすぎて毎日が修羅場です 作:スペペペペ
マルゼンスキーさんの
本当ならウイニングライブも見学したい気持ちがあったけど、大トリであるマルゼンスキーさんのライブが終わる頃には寮の門限が過ぎてしまうので断腸の思いで諦める。生のウイニングライブも生のレースと同じように実体験でしか感じられないような違いがあるとは思うのだけれど……うーん、それにしてもウイニングライブか。
スマートフォンで現在時刻を確認。ライブを楽しむ時間はないが、しかし少しくらいなら余暇に浸る時間は残っている。地図アプリを起動し、付近を調べてみればすぐ近くにそれなりに大きな
もうかれこれ1年ぶりだろうか。久しぶりに、あのダンスゲームをプレイできるといいのだけれど。
………
『
しかしその完成度は凄まじく、難易度の一つである『G1モード』を完全クリアできるようになればなんと『そのまま
そんなわけで遊びながら本格的なダンスのトレーニングにもなるというこのゲームの人気は凄まじく、稼働開始してからかなりの年月が経過している今現在でも全国でプレイされ続けている名機中の名機なのである。
「……あった」
ゲームセンターの一角で、さすがに所々色褪せたり剥げたりしてしまっているけれど、きちんと稼働している二台のウマレボを見つける。久しぶりのご対面に思わず頬が緩む。何を隠そうこのゲームこそが私のダンスの先生だったのだから。
事の発端はおよそ2年前、トレセン学園に入学するつもりならダンスのトレーニングも事前に行っておいた方がいいのでは? レースとライブはワンセット、疎かにしていいわけではないだろう――と率直に思い行った私はダンスの履修を始めようと思ったのだけれど、しかし悲しいかな私の周りにはダンスを教えて貰える人も場所もなかったのである。なるほどこれが田舎の切実な現実、都会が憎いいずれ観光大使として活躍できるような立派な大人になって地元を盛り上げ恩返しをせねば……と私は密かに誓った。まあ私が観光大使になったところで人を呼び込めるかは
さてどうするか、と悩んでいる時にたまたま買い出しで連れてきて貰った隣町にひっそりと佇むゲームセンター……と呼ぶにはあまりにも質素で小規模で、いっそゲームコーナーと称したほうが適切だけれど、そこにあったのがなんと奇跡的に設置されていたのが件のウマレボだった。
ウマレボの評判を知っていた私はこれだ! と概ね週イチくらいの頻度でお小遣いを握りしめ、当時同じような目的でウマレボを求めてやって来てたとあるウマ娘と一緒に、レッスンがてら熱心に通い倒したものだ。幸いにも私はダンスの才能もそれなりにあったようで、どんどん腕前と振り付けのキレは上昇し、上から2番目の難易度であるG1モードならノーミスで
「懐かしい……結局、凱旋門モードは一度もパーフェクト出せなかったな」
ダンスを学ぶ、という目標は概ね完了していたのだけれど、せっかくここまで来たのなら上の難易度にも挑戦してみたい――ということですっかりウマレボにハマっていた私は、最高難易度『凱旋門モード』にも手を出したのだけれど……これが本当にやばかった。
なんせこの凱旋門モード、判定がさらにシビアになる上にG1モードから要求される振り付けと楽譜が大幅に増加し、かつサビパートからリズムに合わせては来るが
その殺人的な難易度たるや、ウマレボが稼働してから現在まで一度も
幸い2台共に空いていたので、私はお金を入れて、まずは肩慣らしにG1モードを選択する。曲はやっぱり『うまぴょい伝説』かな。
派手なファンファーレと共に疾走感溢れるイントロが始まり、ゲームが開始される。
『うーーーー (うまだっち) うーーー(うまぴょい うまぴょい) うーー(すきだっち) うーー(うまぽい) うまうまうみゃうにゃ 321 Fight!』
画面の中のアバターの指示する振り付けに合わせて激しく身体を動かし、流れる楽譜をステップで踏んでいく。ウマレボをプレイするのは1年ぶりだけど、それでも私の頭と身体に刻み込まれた感覚は失われなかったようで一度もミスすることなくスコアを加算させていった。
――そして曲が終わり、表示されたスコアはG1モードでの最高点数である『
「す、すごい! なにあの子、めちゃくちゃ上手いんだけど……!」
「あんなエモいウマ娘この辺りにいたっけ……! トレセン学園の新入生かな!?」
「
いつの間にやら先ほどまで散々としていたはずのウマレボの一角に、ざわざわと色めき立つ人とウマ娘のギャラリーの群れが。集中していて気づかなかった、ちょっと小っ恥ずかしい。まあウマレボに関しては相当な腕前――どころか一年前は
まだプレイしていたかったけど、これだけ人数が集まっては次に遊びたい人もいるだろう――と筐体から降りようとすると「もう止めちゃうんですか!?」という声が。
「えっ……まだやりたいけど、順番があるから……」
「その! 私達もっと貴女のダンスが見たくてですね……! 次、この中でやりたい人います!?」
フーッフーッと耳と尻尾をピーンと立てて謎に興奮状態なウマ娘さんのそんな問いに、ギャラリーは合わせたように首を横に振って「もう一回やって欲しい!」だとか「私も見てたい!」と騒ぎ立てた。凄い熱気だ……まあ私もウマレボにハマっていた時は動画サイトなどで上手いプレイヤーの動画を見て感服したりワクワクしていたから気持ちはわかるけど。それにしてもみんなウマレボ熱がやたら高い、これが都会のゲームセンターということか。
しかし誰もやらない、というのならお言葉に甘えてもう一回プレイさせて貰おう。そもそも隣にもう一台空いているのだから、やりたい人がいたらそっちを使って貰えばいいか。肩慣らしが済めば今度は凱旋門モードだ――けどその前に。
ウマレボはオンラインで全国と繋がっているので全国ランキングが見れるのだけれど、その中の凱旋門モードの最難関楽曲と名高いうまぴょい伝説の累計スコアを確認すれば――全国ランキングNo.1は、スコア97万5200点、プレイヤーネーム『ワガハイちゃん』であった。凄い、難攻不落と言われた曲の
――このワガハイちゃんというプレイヤーは、私にとって少なからず思い入れがある存在だった。
一年前、だいたい半年間くらい凱旋門モードに挑み続ける私と常に全国ランキングのトップを競っていたのが、このワガハイちゃんだ。私がワガハイちゃんのスコアを抜けば、1週間後には私のスコアはワガハイちゃんに抜かれていて――というレースさながらのデッドヒートを繰り返した。私がウマレボにドハマりした要因の一つは、このライバル関係のようなワガハイちゃんがいたから、という理由も大きかっただろう。
当時はこの一週間事のランキングバトルを楽しみにしていたものだが……残念ながら一年前に不況、少子化、人口減少、跡継ぎ不足というどうにもならない負のスパイラルが重ねってウマレボを置いていた店はあえなく閉店。私の愛したウマレボはどこか遠くへ売り払われてしまったし、同時期に一緒にウマレボでダンスの特訓をしていたウマ娘も家の都合でお引っ越ししてしまい別れた。ウマ娘は苦手だが、彼女はあまりウマ娘特有のフレンドリーさが少なくてそこまで避けたい相手でもなかったのだけれど。彼女もトレセン学園へ入学することを夢見ていたので、ひょっとしたら学園で再会することもあるだろうか?
そんなこんなで、わざわざウマレボの為だけに更に遠くの街まで行くのは大変だし、そもそももうダンスを覚えるという目標は達成している――諸々のウマレボをやりたい理由よりやらない理由の方が多くなれば、すーっとウマレボ熱が自然と引いていくのも当然で、私はウマレボの引退を決意した。ありがとうウマレボ。フォーエヴァーウマレボ。ウマレボをいつでも遊べる都会滅べ。
ちなみに私が当時使っていたプレイヤーネームは本名のスペシャルウィークをもじった『ご機嫌な日々』である。プレイヤー情報を記憶してるICカードは実家に置いてきてしまったので、仮に今新記録を出したとしてもご機嫌な日々としてランキングに残らないのが残念だが。それと私の記録も確認してみたが、当時叩き出した89万点がランキング2位のまま残り続けているので、数字上だけで判断するなら私よりウマレボが上手いプレイヤーはワガハイちゃんだけらしい。
さあ、思い出を振り返るのはもうこれくらいでいいだろう。もはやカンスト寸前であるワガハイちゃんのスコアを一年前のように抜くのは難しいだろうが、しかしあれからダンスの練習は続けていたし、他の分野でも成長して視野が広がっているはずだ。狙っていくぞ、
――と、意気込んだ矢先。
「ねぇ、キミ。凱旋門モードやるなら、ボクと勝負しない?」
別に見ず知らずの相手の挑戦を受ける義理はないのだが、隣で違う曲を遊ばれてもそれはそれで感覚が狂ってしまいそうだし、いっそ一緒にプレイした方が集中できるか。
「……いいですよ。うまぴょい伝説で構いませんか」
「いいよ。それにしてもうまぴょい伝説ね……さてはキミ、ウマレボ凄くやりこんでる?」
具体的にいうとやり込んで
「でもま、ウマレボだったらボクは絶対に負けないけどね。なにせボクは――無敵のテイオー様だから」
プレイヤー情報の読み込みが完了し、画面に表示された名前を見て――私は一瞬、1年ぶりの
眼の前の小柄なウマ娘は、かつてランキングを競った
暗くて、怖い!
………
トウカイテイオーは不機嫌だった。
少なくともここ半年以上は、彼女の明るく前向きな性格を知るものからすれば信じられないと口を塞ぎたくなる程、とてもとても機嫌が悪い。理由は一つ、人生で初めて出来たライバルが
トウカイテイオーは10年に1人――否、100年に1人と賞しても過言ではないような、天から数多の才能を与えられてこの世に生まれ落ちた紛れもない『天才ウマ娘』である。己を無敵のテイオー様と自称するなど普通に考えれば自惚れの強いウマ娘と捉える者も少なくないだろう。しかし彼女のそのあまりの才能、そしてそれに胡座をかかずひたむきに努力を続ける姿を知る者からすれば、その自己評価はいっそ適切であると納得するしかない。
そんな彼女だからこそ、ふと物心ついた時から思っていたことではあったが……己の人生に全くと言っていいほど
彼女にとってこの世で一番尊敬してやまないウマ娘である『皇帝』シンボリルドルフのような存在はいるが、競い合う対象かと言われれば話は違ってくるし、現役で活躍中の
――もう少し大きくなってトレセン学園に入れば、ボクにもライバルと呼べる相手に出会えるのかな?
全国から選りすぐりのウマ娘が集まる場所なら、きっと……と、心の片隅に一抹の虚しさを抱えながら過ごしていた彼女であったが――そんな日常に異変が起こった。
走ることの次くらいに大好きなゲームで、それも得意なジャンルである『
「嘘でしょー!? ボクのスコアが抜かれるなんて……! どこの誰!?」
ランキングを覗けば、それは【ご機嫌な日々】という見知らぬ名前。新しくウマレボを始めたプレイヤーだろうか? 少なくとも、ウマレボ界で名の知れた存在ではないことは確かなようだ。
「ぐぬぬぬー! 負けられない……!」
トウカイテイオーは自身と競い合えるライバルが欲しかったが、しかしそれはそれとして別段自分より強い相手と戦って負けたいわけではない。自分より強い相手に戦って勝ちたいのだ。翌日、颯爽とテイオーはいつも以上に必死に、そして真剣になってウマレボをプレイし――存外あっさりとご機嫌な日々の新記録を抜いた。
「いぇーい! 見たかご機嫌な日々! やっぱりワガハイは無敵のテイオー様なのだー!」
今までの自分のスコアやご機嫌な日々の新記録と比べても、その新たなハイスコアはかなり手応えを感じるもので、きっとせっかくのハイスコアを一瞬で塗り替えられて悔しがっているであろうご機嫌な日々というプレイヤーの見知らぬ顔を想像しながら気分上々にテイオーは帰路につく。
約1週間後――。
「えー!? またボクのスコアが負けてるー!」
僅かな差ではあったが、再び自分のハイスコアがご機嫌な日々に抜かれている。それはテイオーにとって初めての経験であった。今まで自分が本気を出して相手を突き放せば、誰一人として再び並び立てる相手なんて存在しなかったのだ。それなのにご機嫌な日々は、ついてくるどころかあっさりと自分を突き放していって――。
「~~~~! くっそー! 負けてたまるかー!」
それから、テイオーのプレイヤーネームである『ワガハイちゃん』と『ご機嫌な日々』の戦いは熾烈を極めた。どうやら相手は一週間に一度程度しかウマレボをプレイしていないようで、些か勝負にタイムラグがあったけれど――抜いたり追い抜かれたり、無限に続くかのように決着のつけられない日々。
楽しかった。
楽しくて楽しくて、仕方なかった。全身全霊をかけて競い合い、時には負けて歯ぎしりをして悔しがることが、時には勝って握りしめた拳を空へ向けるそんな日々が――たまらなくテイオーにとって愛しく思えたから。
間違いなくご機嫌な日々と競い合ったその半年間あまりの期間は、テイオーにとって人生で一番――いや、憧れのシンボリルドルフと僅かながらも触れ合ったときの思い出と比べると、どちらが一番なのか本気で首を捻じ曲げて悩んでしまうが――それくらい、テイオーにとって楽しく幸せな日々だったのだ。
「――あれ?」
しかしそんな楽しい時間も、終わる時はあっさりだった。
初めて、自分のランキングが更新されていない。
当初は、そんな日もあるか。むしろ自分がとてつもないハイスコアを叩き出してしまったから、ご機嫌な日々は超えられなかったのだろう、いえーい無敵のテイオー様二連勝! 二冠達成! と寧ろ喜んでいたのだが……。
もう一週間待っても、更新されない。
もう一ヶ月待っても、更新されない。
もう半年待っても、更新されない。
というか――そもそも、ご機嫌な日々が、ウマレボをプレイしていない。
なんで?
なんでなんでなんで。
なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで。
きっと自分には知り得ないような、何か理由があってウマレボを遊ばなくなったのだろう。
そもそも元々ご機嫌な日々とは知り合いだとか友達だとか、そういう関係でもなんでもない。ただ広いこの日本のどこかで、同じダンスゲームでスコアを競っていただけの間柄でしかないというのもわかっている。
それでもトウカイテイオーは、初めて出来たライバルに――酷く裏切られたような気持ちがした。
3話「ワガハイちゃんとご機嫌な日々」おわり
尚、IFスペシャルウィークの本来の特性であった絆ゲージが上がり難い代わりに友情トレーニングによるボーナスが大幅に上昇するという効果自体はこの世界でも常時発動しているので、ウマ娘と大体何かするだけで大幅にステータスが上がっていく超ハイスペックウマ娘と化している。
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