バグで好感度8000%になったスペシャルウィークは愛されすぎて毎日が修羅場です   作:スペペペペ

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5話「赤面する乙女達」

「えー!? じゃあ遊べる所がなくなっちゃったからウマレボやってなかったの!? スペちゃん今までどんな秘境に住んでたのさ!?」

 

試される大地(北海道)かな……」

 

「うぅ~そういう事情なら怒るに怒れなくなっちゃうじゃんかー! ボクはキミが居なくて本当に寂しかったのに~!」

 

 つい先程までテンションが地に伏し、鬱々しい表情で何もかもがつまらないとナイフみたいに尖った思春期状態(ギザギザハート)だったワガハイちゃんはどこへやら。すっかり元気とやる気を取り戻せたようで、頭をスリスリと私の胸に擦り寄せながらハツラツと喋るこの人懐っこくて甘えたがりの子猫のような姿がトウカイテイオーという名前のウマ娘本来の姿なのだろう。

 

 しかしウマ娘特有の距離感の近さが標準装備(デフォルト)なのはわかっていたけれど、ギャラリーを焚き付けすぎたのか大騒ぎになって収まらなくなったゲームセンターを抜け出し近くの公園に避難して、立ち話もなんだからベンチに座って話そうよと誘ったら私の膝の上に座るどころか真正面から全身を使って抱きつかれるとは思わなかった。

 

 その姿から連想されるのは親にしがみつく子供のコアラ――どころの話ではなく器用に手と足を背中と腰に回しダブルホールドを仕掛けるその有り様はもはや樹木にへばり付く絶対に()さないという鋼の意思を宿したセミである。いや女の子をセミ扱いは大分失礼な話だけれども。ウマ娘の距離感、近いどころかついに零を記録(マーク)。今通りすがりの誰かに見られたらなんか変な誤解されないかな、これ……。

 

 ――まあでも、元気になってくれたのなら良かったとそれ自体は心から思う。

 

『あー……最近よく言われるかな。もっと元気で明るい子だと思った、って……実際、少し前まではそんな感じだったんだけどね……1年前くらいにさ、ウマレボのライバルがいたんだよ、ボクに。でもその子、ウマレボ辞めちゃったみたいでさ』

 

 彼女がワガハイちゃんだとわかってからの、ゲームセンターでの言葉を思い出す。

 

『それからなんだかさ、みんなみーーーんな、つまんなくなっちゃって……』

 

 それを聞いて――私はショックだった。私がウマレボを辞める前に想像していたワガハイちゃんというプレイヤーは、なんとなく生意気そうで、元気そうで、明るそうで……そしてウマレボが大好きでたまらないようなウマ娘なのだろう、と勝手に想像していた。私がウマレボを辞めたところで、きっと元気にスコアアタックを続けて、そしていつか私ができなかった99万9999点(パーフェクト)を達成してくれるだろうって。

 

 でも違ってた。私がワガハイちゃん――ことテイオーさんがいたからウマレボのスコアを競うのが楽しかったように、テイオーさんも私とスコアを競うのがとても楽しかったのだろう。だからライバルと認識してた私がいきなりプレイしなくなって、燃え尽き症候群のようになってしまった、と。

 

 そんな辛そうにウマレボを遊んで欲しくない、そんなつまらなそうにウマレボをプレイして欲しくない。だってあなたは、私のウマレボのライバルなのだから。

 

 テイオーさんにウマレボの楽しさを思い出して欲しくて、とにかくできる限りのことをやろうって――結果は大成功だった。必死に声を出して応援してくれたギャラリーの皆さんには本当に感謝だな……興奮に沸き立つ騒ぎが治まらず話を聞いてくれる様子がなかったので「皆さんありがとうございました!」と一応お礼を行ってゲームセンターは出たのだけれど、後日また改めてちゃんとお礼と、お店側にも大騒ぎにしちゃった事を謝りに行かないと。

 

「でもこれからはこうやって上京して来たんだから、毎日一緒にウマレボできるねスペちゃん!」

 

「毎日はちょっと厳しいよテイオーさん……」

 

「もー! 呼び捨てでいいって言ったでしょ呼び捨てで! さん付けなんて他人行儀やだ! ボクとスペちゃんの仲でしょー! それにボクの方が年下だし!」

 

 ウマレボ越しに半年の付き合いはあるとはいえリアルで出会ったのついさっきだよね私達?

 

「テイオーさ……テイオー」

 

「うんうんそれでよし! なんかスペちゃんに名前呼ばれるとさぁご機嫌な気分になっちゃうねーえへへ!」

 

 テイオーさんのことは勿論嫌いではないけれど、俺は東京生まれウマレボ育ち踊れる奴だいたい友達と言わぬばかりの心のドアフルオープンなウマ娘のフレンドリー文化はやっぱりちょっと苦手だな……。

 

「じゃあテイオー。私そろそろトレセン学園に行かなくちゃならないから、離れて」

 

なんで?

 

 

 ………

 

 

「一応、滑り込みセーフ――かな? 前日入居組の中で、君が最後のウマ娘だよスペシャルウィークくん?」

 

「ぜぇ、ぜぇ……す、すみません……」

 

 現在時刻ジャスト門限(18:00)。危うくトレセン学園へ入学する前から門限破り(タイムオーバー)という珍レコードを生み出すところだった。私と離れたくないと泣き喚くテイオーを説得するのは本当に骨が折れそうだったよ……何なら『ボクも今からトレセン学園へ入学する!』と無茶苦茶な事まで言い出して聞かなかったからな……。

 

 これから毎日アプリや電話で連絡を取る、入学式が終わって落ち着いたら一緒に遊ぶなどの約束を取り付けてようやく開放されたものの、それでも門限ギリギリだったから死ぬ気で走ってなんとか間に合った。足の速いウマ娘に産んでくれて、そして育ててくれてありがとうお母さん達……。

 

「でも、ギリギリ間に合ったから良いという問題でもないね? 遅れることは勿論よくないけれど、君が一番にやるべきだったのは全力疾走よりも遅れそうなら学園へ連絡を入れることだった。こう見えても私や他の人達も、とても心配していたんだよ?」

 

「返す言葉もございません……」

 

 道理である。心の中で平身低頭しながら頭を深々と下げて謝った。完全にテンパっていたとしか言いようがない。なんなら今だってテンパったままである。

 

「私はフジキセキ、これから君の帰る場所となる栗東の寮長を任されている者さ。まったくいけないポニーちゃんだね――これは、()()()()が必要かな?」

 

 と、俯く私の顎に細い指が添えられて、クイッと顔を持ち上げられれば、ニコニコ笑顔のフジキセキさんと視線が強制的に交差する。

 

 お、お仕置き……!? 成る程、日本一のウマ娘トレーニング機関となれば規則、規律は当然遵守される事柄でありそれを軽々しく考える者へは体育会系的制裁(かわいがり)も辞さないというわけか。これがトレセン学園の厳しさ……! 田舎を出てから己の甘さを認識させられることばかりだ。

 

 だとするなら私は甘んじてお仕置きを受け入れなければならないだろう。遅れたのは私が原因じゃない気も若干するけれどそんな言い訳をしていては到底ここでやってはいけまい――でも普通に怖い。

 

 お仕置きって、何されるのかな……お説教とかだったら精神的に参るくらいで済みそうだけど、こう……痛いこととか、されたり? うううぅ……私はフジキセキさんの手を掴んで、そっと爪先立ちでフジキセキさんの耳元へ顔を近づけ、恐怖に震える心を隠さないまま全力で懇願(おねがい)する。

 

「――優しくしてくださいね

 

 怯えすぎて変な声でちゃった……。

 

「……ッ!」

 

 ガタッと何故かフジキセキさんは狼狽し、たたらを踏むように後ずさって手の平で口元を覆い隠す。え? どういう反応なんですか、それ?

 

「……いや、あの……冗談――だったんだけど……お仕置き、する?」

 

 気まずい様子で、頬を赤く染め目を背けながらそう呟くフジキセキさんの言葉を聞き、私もまた羞恥で酷く赤面した。

 

 

 ………

 

 

 お母さん。トレセン学園での新しい生活、幸先悪すぎてお先真っ暗です……。

 

 それでもフジキセキさん――フジ寮長はとても優しい方で、本当にお仕置きされると思っていた私の勘違いも快く許してくれて、今夜は私の部屋で一緒に寝るかい? とウマ娘特有の距離感バリアフリージョークで気まずさを和ませようとしてくれる程だった。

 

 綺麗さとイケメンさを兼ね合わせたような風体は格好よくてスタイル抜群も抜群、さっき耳元に近づいたときはとてもいい香りがしていたので思わず「今度フジ寮長が使ってる香水、教えてくださいね。私、とても好きな匂いなんです」と聞いてしまった程だ。トレセン学園のウマ娘たるや大人の女性へのステップアップも抜かりなく学べるらしい。何故かまたとても狼狽していたような気もするけど。

 

 まあそれはさて置いて、現在私はとある部屋の前へとたどり着いていた。

 

 この部屋こそが、私がこれから何年もお世話になる予定の二人部屋であり、そしてこれから共同生活を始めるウマ娘がいる場所である。

 

 ――はー、緊張する。ウマ娘が苦手な私が、果たしてウマ娘と一つ屋根の下でうまくやっていけるのだろうか? まあ最悪、共同生活がうまくいなかったら学園長へ直談判してどうにか一人部屋を与えて貰えるようにするとか、手はあるのかも知れないが。無理と言われたらどこかでテントでも張ってキャンプ生活でも送ろう、豪雪で家の出口が埋まったりヒグマが出没する故郷に比べれば都会のテント生活であれば苦労もしまい。

 

 いや、いや、いや。最初からネガティブに考えていては駄目だよね。そもそも私はここに己が人なのかウマ娘なのか、何者であるかを知るために来たという初心を忘れてはいけない。

 

 言うなれば私は変わるためにここに来たのだ。苦手だからとウマ娘との関わりを最初から避けるようでは自分を変えることすら出来やしない。頑張ろう。

 

「すぅー、はぁー」

 

 私は深く息を整える。そして心の中でできれば栗毛のウマ娘さんじゃありませんようにできれば栗毛のウマ娘さんじゃありませんようにできれば栗毛のウマ娘さんじゃありませんようにできれば栗毛のウマ娘さんじゃありませんようにできれば栗毛のウマ娘さんじゃありませんようにできれば栗毛のウマ娘さんじゃありませんようにできれば栗毛のウマ娘さんじゃありませんようにできれば栗毛のウマ娘さんじゃありませんようにできれば栗毛のウマ娘さんじゃありませんようにできれば栗毛のウマ娘さんじゃありませんようにと十回唱えて、意を決して「失礼します!」と力強く部屋の扉を開けた。

 

「えっ」

 

「あ」

 

 ――部屋の中には、とてもスレンダーで綺麗な栗毛のウマ娘が立っていた。全裸で。

 

 5話「赤面する乙女達」 おわり




尚、スペシャルウィークの好感度補正による耳元での甘い囁きは有名声優耳かきASMR80作分に相当する破壊力を有している。

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