バグで好感度8000%になったスペシャルウィークは愛されすぎて毎日が修羅場です 作:スペペペペ
中央トレセン学園は天下に名だたる日本一のウマ娘育成機関である。
この学園に通うことは全国のウマ娘にとって憧れだ。幼いウマ娘は誰もが一度はトレセン学園の制服に袖を通す夢を見ると言っても過言ではない――と言いつつ私のようなそんな夢を見たことがないウマ娘もいるのでやっぱり過言だったりするのかも知れないが。
けれどもウマ娘であれば皆が皆トレセン学園に入学出来るわけじゃない。悲しいかな人に比べれば絶対数の少ないウマ娘であれ、用意された椅子の数は遥かに少ないのだから。
その限られた椅子に座る為には全国の同世代と比べて頭の一つや二つ抜きん出た高い実力が必要なのは当然で、さらに持って生まれた才能、センス、運――本人の努力だけではどうにもならないような素質の部分までもを含めて認められる必要がある。
本来あまりにも高い壁なのだ、トレセン学園に入学するということは。入学試験であと一歩分、いや半歩分だけ速く走れれば――とほんの僅かな差で足切りされて涙を飲んだウマ娘がどれほどいたのか想像するに
まあ、だから、正直――こんなことを思うのはトレセン学園の入学に全身全霊を賭けて挑んだ数多のウマ娘に対して失礼で、横暴で、傲慢な考えだとはわかっているが――己が人かウマ娘なのか答えを探したい、という
晴れて入学式が終わって、クラス分けされた教室で初めてのホームルーム中に各ウマ娘の自己紹介が繰り広げられていく最中、私は慣れない眼鏡がやたらずり落ちて来るものだから迅速に眼鏡を戻しながら、ふとそんなことを考えていた。
だってきっと、多くのウマ娘はそれは高い志を持って入学して来たんだろうから。
探しものをする為に学園に来たウマ娘など、きっと私くらいで――。
「グラスワンダーと申します。アメリカ生まれですが、夢は大和撫子と呼ばれるようなウマ娘になること――そして、さる私の恩人のウマ娘を探すことです」
「私の名前はキングヘイロー。いずれ一流と聞けば誰もがこの私を思い浮べるようになるウマ娘よ! ――あと、とあるウマ娘を探してるの。こちらも一流の名に賭けて必ず見つけ出してみせるわ!」
「セイウンスカイだよ~気軽にセイちゃんって呼んでねー。のんびり楽しくやっていけたらいいなって思ってまーす――でも、私ちょっと会いたいウマ娘を探しててー、そっちはあんまりのんびりしたくないかなーって」
いや探し
もしかしてトレセン学園って私が知らないだけで遺失物センター的な役割も担っているのだろうか。まあ彼女達が探しているのは落とし物ではなくウマ娘なのだが。しかし同じ探しものを見つけにトレセン学園に来た
――しっかし気の所為か、どっかで見たことあるような気がするんだよね、あの三人……。
「ツルマルツヨシです! 夢は憧れの三冠ウマ娘! 全力出してがんばっ――ゲホゲホッ! し、失礼しました! 少しだけ体が弱いので、通院の為に度々学園に来れない日もあるかも知れませんが、よろしくお願いします! 当面の目標はまず――隣の席のウマ娘ちゃんと仲良くなることです!」
とツルマルツヨシと名乗った私の隣の席のウマ娘は、素敵な笑顔を浮かべこちらに向かってグッと親指を掲げサムズアップを決める。うーん、絵に描いたような明るくてフレンドリーなウマ娘だ。苦手なタイプだなぁ……まあウマ娘というのは基本的に同族に対して常に友情フリーWi-Fiいつでもアクセスウェルカムだから、よくあることだけど――私も頑張ろう。せめて隣の席のウマ娘とくらいは仲良くできるようにならねば。
さあ次は私の自己紹介だ。
「スペシャルウィークです。本当の自分を探す為にこの学園にやって来ました。まずこの学園でやりたいことは――隣の席のウマ娘ちゃんの目標を叶えることです」
よろしくね、という気持ちを込めて彼女の笑顔に報いるよう、できるだけ笑顔を浮かべてツルマルさんに向かってそういった。
「――――オ゛ッ」
「せんせー! ツルマルさんが倒れましたー!?」
「わー!? ツヨシちゃん大丈夫!? 顔がトマトみたいな色になってる!」
「ツヨシしっかりしなさい!」
「誰か救急車ー!!!」
――私は一目散にツルマルさんの気道を確保してすぐさまお姫様抱っこの要領で抱え上げて保健室にダッシュ。入学パンフレットで校内の地形を把握していて本当に良かった。
いや、というか……体温
………
クラスメイトが高熱でぶっ倒れるという珍事件が起きつつもなんとか無事に――いや惨事が起きたのだから全く無事に済んではないのだが、それでも入学式の段取りは一通り終わって、学園の説明や
私はマッハでトレセン学園を脱出した。
いや、覚悟はしていてもやはり苦手なウマ娘だらけの場所に長時間いるというのはまだ辛い。一対一ならそれなりに余裕があるのだけれども。ついでに何だが自意識過剰かも知れないがクラスメイト達が私の方を向いてソワソワしていた気もしていたし、グラウンドでは君良い身体をしているね! うちのチームに入らないかい!? と沢山の先輩ウマ娘が新入生のチーム勧誘に動き出していた為どちらにせよあのまま居たら碌なことになってなかったと思う。ちなみにツルマルさんは高熱が治まらなかったらしくそのまま早退。多分風邪だろうけど良く休んでまた元気に隣の席にいて欲しいものだ。
「あはははは! スペちゃん眼鏡似合ってなさすぎでしょそれー! しかも本当に毛色が
「好きでやってるわけじゃない……」
そんなわけで今日も今日とて昨日の今日で、私はゲーセンの前でテイオーと再会していた。うるさい笑うな。ちなみに当たり前だがこの前とは違うゲーセン、いくら変装しててもあのゲーセンはしばらく行けない……テイオー情報によると今現在進行形でバズりまくって再生数がポチポチと更新する度に狂ったように跳ね上がっているあの動画の関係で取材が入ったりウマレボファンが押し寄せ人混みが凄いことになっているらしいし。
ちなみにテイオーと会っているのは、元々テイオーのセミホールドから抜け出す条件として入学して落ち着いてからまたリアルで会う約束をしてしまったので、まあ釘を刺しておきたい事もあって丁度いいかと電話をかけると僅かワンコールどころか0.1コールで電話を取って即了承。そして今に至るというわけだ。
「変装するならボクみたいに大きな帽子でも被ればよかったのにー」
普通の格好でいたら動画を見た目撃者に見つかって面倒なことになりそうだったから、私はテイオーにも変装するように言ったのだけれどテイオーは言葉の通りウマ耳もすっぽりと隠れ、太く大きなつばで顔の半分ほど隠れてしまう優れものを用意していた。これならまあ、確かにバレない。しかもデザインも格好良くて、不思議とちんまいでかわいい系の癖にどこか凛々しいテイオーにやたらと似合っている。これだから都会人はズルい、みんななんかナチュラルにオシャレさんだもん。滅びろ都会。
「私に帽子はテイオーほど似合わないよ」
「えっボク似合ってる? ほんとー?」
「うん、格好いい」
「……えへへっ。そっかーボクかっこいいかー! そりゃボクだもんねー!」
テイオーは甘ったるい笑い声を出しながら私の腕に自らの腕を絡ませてくる。うーんさすがウマ娘の距離感。腕組んだり手を繋ごうとするの好きだよね、本当。これがウマ娘の
「ちなみに今日はウマレボはやらないからね」
「えー!? なんでなのさー!?」
「私達が本気でウマレボしたら変装しててもプレイでバレるでしょ」
「ぶー! そりゃそうだけどさぁー」
「その代わり色々ゲーム教えてよ。私、ウマレボ以外やったことないからさ」
「仕方ないなー! プロゲーマーテイオー様が直々にレクチャーしてしんぜよー!」
「はいはい光栄の極みだよテイオー様」
というわけで私達が最初に向かったのはクレーンゲームで、テイオーいわくここの設定はとても甘くて穴場らしい。設定ってなんだろう、と疑問に思っていると――。
ふと、1人のウマ娘が直立不動でじーっとクレーンゲームの景品を見つめているのに気がついた。普通なら気にする事もないようなものだけど、何故私が気になったかといえば毛色が栗毛だったからである。わぁ、栗毛さんだぁ……。
クレーンゲームの景品は……なんだあれ? 戦闘機? こう、宇宙が舞台のSFアニメとかに出てきそうな感じの。
「じゃあスペちゃんまずは見ててねー! クレーンゲームの景品はこうやって取る! 無敵のテイオー様にかかれば確率機なんて関係ないんだよっ! いっくぞー!」
確率機ってなんだろう。まああの栗毛さんの事はいいか。触らぬ栗毛に祟りなしってね。
………
それからかなりの時間が立って、私はテイオーにゲームのレクチャーを受けながら楽しい時間を過ごしていた。いや、どのゲームも奥が深くてかなり楽しい。特にゾンビを撃つゲームはウマレボの次に気に入ったかも知れない。血飛沫と悲鳴を上げながらゾンビがばったばったと死んでいく爽快感――たまらない。元々死んでいるゾンビが死ぬというのもおかしな話だと思うが。例の動画の騒ぎが収まるまではこれで遊んでいようかな。
「スペちゃんゲーム上達するの早すぎだよ!? おかしくない!? ボクでもノーコンテニュークリアなんて一週間はかかったのにー! くっそーさすがボクの永遠のライバル! そうでなくちゃねっ!」
「私、ゲームの才能が凄くあるのかも知れない……でも、そろそろ休憩しない? 喉渇いてきちゃったし」
結構な数のゲームをぶっ通しでやっていたからか、先程から喉が渇いて仕方ない。多分もう1時間は経ってるか。
「それならねっ! この辺にさ、はちみーの屋台があるんだよ!」
「はちみー?」
「うんっ! ボクがこの世で一番好きな飲み物なんだー! 絶対スペちゃんも飲んだら気に入るよ! ボクが特別に買ってきてあげるから、ちょっと待っててねー!」
ぴゅー、と風のような速さでテイオーが駆け出していく。一瞬で姿が見えなくなった。
相変わらず軽快な身のこなし。私じゃなきゃ見逃しちゃうね。っていうか別に一緒に行ってもよかったのに。まあこう見えても私はテイオーの一つ年上なので気遣ってくれたのか――いや、『買って来てあげた』という
ふっ、だったらこっちにも手はあるってもんさ。例えば適当にクレーンゲームで景品を取り、はちみーとやらと交換で「ご苦労さま、ありがとうね。これお礼」と笑顔で差し出す。これでプラマイゼロ、お互いに気を使うことのない平和な世界の完成だ。まさに完璧な作戦だね。
そうと決まればクレーンを覗いて来よう、と私はクレーンゲームのコーナーに移動して――そして、デジャブでも見たかのような完全再現のままの姿で同じ景品を直立不動で見つめている先ほどの栗毛のウマ娘を発見する。
――えっ怖っ。
待って、あれから一時間は余裕で経過してるんだよ? もしかしてあの栗毛のウマ娘さん、ずーーーーーーっとああしてるわけ? えっ……怖い! 不審者ならぬ不動者! 動かざること山の如しにも程がある。
何か、あったのかな。いくらなんでも怖いけどさすがに気になる。
うっ……普段ならこういう場合、例え苦手なウマ娘相手でもおせっかい焼いちゃう方なんだけど……栗毛……いや、いや、いや。昨日から相部屋で共同生活を始めたスズカさんが栗毛なんだ。栗毛が苦手だからと避けていたらいつまで経ってもあの心優しい私の非礼を許してくれたスズカさんとも馴染めないじゃないか。
頑張れ頑張れ頑張れ私。勇気を出して前進せねば物事は何も進展しない。なーに、何だかんでウマ娘はみんな優しい人達ばかりだったじゃないか。とって食われるわけじゃない。すぅーはぁー……。私は心の中で深く深呼吸をして、栗毛のウマ娘さんに声をかけた。
「あの、どうかされたんですか? 先ほどからずっとここにいるようですけど……」
「――呼び声を探知。思案モード解除、意識の覚醒を更新――起動。……異常ありません、ただずっと、この宇宙戦闘機を眺めていただけです」
成る程。ガチでやべぇ奴かも知れないこの
7話「未知との遭遇」 おわり
尚、ミホノブルボンの口調を真似るのは難しい。
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