カラスが我の元にやってきてから1月を過ぎたある日のことだ。
カラスは1月の間に、周囲に落ちていた水晶のカケラや生えていた草を使い、簡易的な巣を作っておった。
元人間だというのになかなか様になる巣を作ってくつろいでおったのは流石の我でもなんと言えばいいのかわからなかったが……
その日も我らが語らっていると、唐突に一つの魔物が我らの近くによってきているのが確認できた。
(ん?なんかきたよヴェルドラ)
(ふむ、あれはスライムだな。ここは魔素濃度が濃いゆえ、来られる生物も限られておるのだが……お前のようなイレギュラーなのかもしれん)
(ふーん……じゃあ、僕みたいに接してみれば?なんか帰ってくるかも)
(うむ)
そんな話をしてると、遠くにいたスライムが地底湖に落ちた。
(あっ、落ちたね)
(ちょうど良い。知性があればあの湖から這い上がってくるであろうよ)
そう我が念話で答えた直後、スライムが勢いよく地底湖から飛び出し、我にぶつかってきた。
(…………)
(なかなかアグレッシブな子だね、この子)
(うむ)
このスライムもまたカラスと同じ特殊個体か?
スライムは知能のない魔物だが……同時に、強者などからは本能で逃げ出す生き物であったな。
我から漏れ出た瘴気に魔物が気が付かぬはずもない。
故に、我は念話でカラスにやったようにこのスライムにも話しかけてみたのだ。
(聞こえるか、小さき者よ)
すると、確かに反応があった。手応えを感じ、再び声をかけてみる。
(おい、返事をするが良い)
(無茶言うなハゲ!!)
(はげっ……ほ、ほほぅ……貴様死にたいらしいな)
言うに事欠いて我がハゲだと!?この暴風龍たる我に!?
(プッ!あははははははっ!ハゲ、ハゲだってよ!!確かに毛はないけどさぁ!!)
(わ、笑うな!!我は仕方ないであろう!!)
カラスめ、笑いおって……!!
(す、すんません!スキル相手以外に心で思っただけで返事できるとは思わず……というか、2人いる?)
まぁ二人ではなく二体なのだが、この言い方ならばこの者もカラスと同じく元は人間のようだな。
(うむ。そうだな、2人いるぞ?そして、これは念話という)
(自分、目も見えない状態でして……ええと、貴方がたは……)
(む、我が名は……)
(待ってよ、見えるようにしてから自己紹介した方がいいと僕は思うよ)
カラスからの名案である。
(む、確かにな。よし、小さき者よ。見えるように手助けしてやろう)
そうして我はスライムに『魔力感知』を教えた。うまくいったらしく、スライムは嬉しそうに跳ねておる。
なかなか飲み込みが早いな。
(じゃ、改めて僕たちも自己紹介しようか)
(はい!よろしくお願いしま──)
振り返るスライム。
そして、眼前にはこの我。
(我が名はヴェルドラ!!この世に4体のみ存在する竜種が1体である!!クァーーーーハハハハ!!)
(!!!???)
(そして僕は、ヴェルドラの魔素溜まりから生まれた
(りゅ、竜とカラス???)
その後はなんだかんだと話し、我とカラスとスライムは仲を深めた。
(へえ、カラスさんも転生者なんですね)
(うん。といっても、僕は転生してくる前は学生でね。そんなに畏まられても困るんだけど)
(ああ、うん。わかった、楽に話すよ)
……我にだけ畏まるというのもあまり快くないな。
(我にもそう話すがよい)
(えっ……あ、ああ、わかったよ)
(スライムさんの前世の名前は?)
(俺の前世の名前は、ミカミサトル。カラスさんは?)
(ヤナギダアオイって名前だったよ)
ふむ、我にはあまり聞き馴染みのない名であるな。
(えっと、女性?)
(あはは、昔から名前が中性的だし、喋り方も男っぽくないから間違われてたけど、前世は男だよ)
(あ、そうなのか……ごめん)
(いいよいいよ。あんまり気にしてないからね)
ほう……カラスの名前のアオイとやらは、女にもつける名前らしい。それはそれとして、
(ふむ?お前、男だったのか?)
(……えっ?なにそれ、気がついてなかったの?)
(いやなに、お前の今世は雌のようだからな)
(…………はっ?????)
(まぁ傍目には分かりづらいな。解析鑑定でそう出ておるぞ)
(えっ)
そう、封印された我の使える数少ない力で、このカラスは雌であるとしっかりわかっていたのである。
しかし、カラスは分かっておらなかったようだ。
……とても落ち込んでいるな……
(あ、あのー……大丈夫か……?)
(う、うむ……すまん、お前がそんなに衝撃を受けるとは……)
(い、いや気にしないで……性別の一つや二つ変わっても……僕の自意識は男、そう思えば男だから……)
(そ、そうであるか……?)
(あ、ああ……まぁ、多様性の時代だしな……問題ないんじゃないか?)
(そういうものなのか……)
多様性とはなんなのだろうか……難しいものだ。こやつらのいた世界はかなり色々なことが進んでいるらしい。
(まあ、何はともあれ、異世界人はこの世界にいるんだな?ヴェルドラ)
(うむ、もしかしたら貴様らの同郷のものとも会えるかもしれんぞ?)
(そっかぁ……僕も少し会ってみたいなぁ)
そんなことをカラスが言い出した。
……カラスにはスライムという仲間もできた、潮時であろうか?
(むぅ……行ってしまうのか、貴様ら)
(あ、寂しそう。ヴェルドラはここから動けないもんね)
(え、ヴェルドラ動けないの!?)
(うむ……300年前に勇者に封印されて以来このままだ)
(勇者とかいるんだ)
(うむ!我を倒した勇者は────
──で、負けたわけではないのだぞ!!)
むっ、カラスめ……聞き流しておったな?まぁ話が長くなってしまうのは否定はせんがな。それだけあの勇者が我に与えた影響というものは大きかったのだよ。
(よし、じゃあ俺と友達にならないか?)
!?!?!?
(発想の飛躍!?どうしたの急に)
(ス、スライムの分際でこの暴風竜ヴェルドラとトモダチだと!?)
(ヴェルドラもテンパってる……)
(嫌なら別にいいんだけど……)
(バカお前!誰も嫌だとは言っておらんだろうが!!)
(お、おう……)
(というかさ、僕はもうヴェルドラとは友達だと思ってたんだけど、どうなの?)
そんなことをカラスがきいてきおった。
……そう言えばこやつとはもう親しい仲のように話していたような気もする。
(むっ?うむ……うむむ?確かにそういえばそうだな……我も貴様とは何故だか気さくに話しておった)
(じゃあ友達だね)
(う、うむ)
(あのー……おれは?)
(……ならば貴様も我の友としてやろうではないか!)
(決まりだな!よろしく、2人とも!)
(うむ!)
(うん)
こうして、我に始めてのトモダチというものができたのだ。
(さて、じゃあこの封印をどうにかしなきゃな)
(えっ?スライムさんできるの?)
(そりゃわからないけど、なんとかやってみたくないか?友達を助けたいし)
(……確かに)
そんな簡単にいくものではないのだが……まぁ、我が友がそういうのならばやってみようではないか。
その後紆余曲折しつつ、スライムが我を胃袋の中に格納して解析鑑定を行う、という方針に決まった。
(じゃ、俺の『捕食者』でお前を喰うけど……)
(待て、その前に我からお前らに名を与えよう)
そう、我とこ奴らには今繋がりがない。故に、名を通じて繋がりを持つべきだと思ったのだ。
(名?名前か?)
(いいの?ヴェルドラ。あんなに懸念してたのに)
(なあに、心配はいらん。我らが同格ということを魂に刻むのだ。貴様らも我の名を考えよ)
トモダチ、だからな!!
(ふむ……なるほど、名字ってことだな)
(なるほどね?じゃあ、考えようかスライムさん)
(暴風竜だろ?暴風……嵐……テンペスト?)
(僕の種族も
(じゃ、ヴェルドラ。『テンペスト』、でどうだ?)
テンペスト……テンペストだと!?
(素晴らしい響きだ!!今日から我は、『ヴェルドラ=テンペスト』だ!!)
(おー)
ふふふ、そして我はこやつらをみた時からずっと名を考えていたのだよ。
(そしてスライムよ。貴様には、『リムル』の名をやろう)
そう、カラスには合わない名だと思った『リムル』をスライムに授けたのだ。この者にリムルと名付けると決めた時、非常にしっくりときたからな!
(『リムル=テンペスト』か!ありがとうな、ヴェルドラ!)
(うむ!そして、カラスよ。お前には……)
我は、カラスにずっと与えようと思っていた名を告げる。
(『サリア』の名を与える!!)
(『サリア=テンペスト』……うん、ありがとう、ヴェルドラ。いい名前をもらえて嬉しいよ)
うむうむ、しっかりと名が定着したようだな。
(うむ。そして、サリアには我の力を分けてやろう)
(えっ?)
クックック、驚いておるようだな。
(テンペストを我に刻んだのは厳密にはリムルだ。その主導権はリムルにある。つまり、名前を交換したことによるサリアと我の間の関係は曖昧だということだ)
(な、なるほど?)
(つまり、ここで我がお前に力を与えることで繋がりを強固にするということだ!!)
(で、でも力の回復とか……)
(なに、お前のスキルがやってくれるのだろう?)
そう、こやつのスキルがやってくれるというのならば我に心配はないのだ。
そうこうしていると、我からサリアに力が流れていく感覚がある。
ぐぅ……なかなかの量を持って行ったな、サリアよ……我をしてこれほどの力を持っていかれるとは思わなかったぞ……
それと同時に、サリアの肉体に力が漲り、特濃の魔素に覆われて変質が始まる。
(だ、大丈夫かサリア!?)
(心配するなリムルよ。あれは進化だ)
(進化……)
身体は大きく、より強く。よりしなやかに、頑丈になっていく。
羽毛は元のただの黒い羽根から、暗黒を感じさせるような深い闇の色に。
嘴は鋭く、脚は強く、鉤爪も発達した。
(どうやら終わったようだな)
そうしてしばらく待っていると、突然サリアが狼狽えだした。
(どうしたのだサリア?)
(いやあ、進化したのはいいんだけど……進化のリソースを使って、『法則操作』を『嚮導者』に追加したらしくて)
(なに?『法則操作』か……なかなか強力な力を得たようだな?だが、お前の強さで進化するならさらに伸び幅があるはずだが)
(あと、『人化』と『物理攻撃耐性』をもらったかな)
(ふむ、ならば納得だ。『人化』は本来お前の種族では持っていないものだ、リソースも多く使っただろう)
(なるほどー)
そうして進化の終わったサリアは、見違えるほど強くなっておった。
(じゃあ、進化も終わったことだし、ヴェルドラともお別れだね)
(さっさと『無限牢獄』から脱出してこいよ?)
(うむ、任せておけ!そんなに待たせず相見えようぞ、サリア、リムルよ!!)
こうして我は、リムルの胃袋に収まり、無限牢獄からの脱出を図ることとなったのであった。