その光景を前に、私はただ立ちつくしていた
青風の息吹が吹き抜ける草原。
目を奪われるほどの剣捌きの後、片膝をつき、地面と水平に剣を
見間違える筈もない、ハイラル王家に古くから伝わる忠誠の儀。
どれほどの苦難。たとえどれほどの運命が待とうとも。命に代えて貴方を御守りする。
騎士の誓いと覚悟を前に、姫は剣へと触れることでそれに応えるーーそういう慣わしだった。
けれど私はーー
掲げられる剣を前に。降り注ぐ陽光のもと、燦然と煌めく対魔の剣に、伸ばすべき手を躊躇っていた。
目の前に跪くその人。
自分の知る
吹き荒ぶを荒野を越えてきたような猛々しい出立ちで。
ああ、なによりその瞳。
どれだけ凄惨な過去を乗り越えて来たのか。
いったい、どれだけ大切な
遥かに険しさと覚悟を帯びた眼差しに、気圧されるばかりで。
本当に私が、貴方の
息吹く大地の勇者の姿を前に、私はただただ佇むしかなかった。
■□■□
「ヤーごめんごめん、忙しいところに突然!ビックリしたでしょ、急にこんな所連れてこられて!」
気がつけば周囲一面、水平線まで続く白い世界に佇んでいた。
「事前にアポ入れたかったんだけどね!何せ今回は参加者が多いから挨拶回りも大変で!」
その世界に負けないくらい真っ白な出立ち。目の前に浮かぶ巨大な右手袋。
ゼルダの倍以上の巨体を持ちながら縦横無尽に空を飛びまわり。時折HUHAHAHAHA!と妙に耳に残る笑い声を上げるソレは、自らを乱闘の主催者『マスターハンド』と名乗った。
「え?なんのって?HUHAHAHA!流石はハイラル王女ゼルダ、前フリが上手でいらっしゃる!
ならば高らかに宣言させていただこう!」
軽薄でやたらテンションの高い声。
テレパシーの一種なのか、直接声が頭に響くというのに一切気にも留めない
戸惑うことしかできないゼルダを1人残し、右手袋は花火を打ち上げるかのように空高くへと飛び上がっていく。
「
今年もやって来たぜ乱闘の祭典!
今回はなんと全員参戦!
ニンテンドーオールスターズ!
大乱闘!スマァァァッシュ・ブラザァァァズSPECIAAAALL!!!」
Yeaaah!!!!と何処からともなく上がる怒号のような歓声を一身に受けながら、ビッと真っ直ぐにこちらを指差す右手。
「そう!今年が貴女が選ばれたんですよ神トラゼルダ様!!
例年はトワプリゼルダ様に参戦いただいてたんですけどね!今年は市場開拓&新規ユーザー獲得ってことでリンクと合わせて新しいメンバーに登場願おうかと!!」
「えっと……」
「いやー人気出ると思うんだよねー。魔法を駆使して戦うお姫様。優雅に舞いながら時にくりなされる雷撃のような
「その……」
「や、別にブレワイゼルダ様が可愛くないとか言ってるんじゃないのよ?んなこと言う奴ぁ俺が直接ぶちのめしてやるよ。お前らティアキン姫様見てから手のひら返すんじゃねぇぞって」
シュッシュ、と謎のシャドーを繰り出しながら1人騒ぐマスターハンド。ゼルダの浮かべる困惑顔などどこ吹く風である。
「まあそう言うわけだからさ!ゼルダ様も楽しみましょうこのお祭り!
大丈夫すぐ慣れるから!怖いのは初めだけで、すぐ相手をブッ飛ばす感触が快感に変わるから!さあさ遠慮せずに!ゼルダ様も一緒にLet,s スマッシ「やめなさい」」
パァン!!と。突如空より降り注ぐもう一つの巨大な手。
その強烈な平手により右手袋はトマトのように叩き潰され。弾け出た右手の中身(?)が顔にかかり、ヒュッと息が喉奥から漏れる。
「……申し訳ありません。馬鹿な右手がお見苦しい様をお見せしました。
以後、お見知り置きをと。丁寧にぺこりと手首を傾ける左手袋。
テレパシーで伝わってくるのは理路整然とした落ち着きのある女性の声なのだが……。先ほどの凶行。加えて時折、ピクッ!ビクビクッ!と重度の腱鞘炎を患っているかの如く痙攣する様は、どこか狂気を感じさせる。
「というよりゼルダ様のこの御様子……そもそも情報が伝わっていないのでは?貴方まさか招待状を出し忘れたんじゃーー」
「いやいやちゃんと送ったぜ?手紙。
あれっ!?もしかして届いてなかった!?」
ポン、と何事もなかったかのように復活するマスターハンド。どれだけ出鱈目な存在なのか。先ほどの
「手紙、ですか?」
「そそ、赤い蝋印を押した白い封筒。案内とか色々同封しとったんだけどもーー」
おそらく相方から冷たい視線を浴びているのであろう。ワタワタと慌てて説明するマスターハンドの姿に、「あっ」と記憶が呼び起こされる。
「そういえば以前にインパが……私の寝室にいつの間にか置いてあった手紙。差出人不明、内容も意味不明、加えて怪しい魔力まで感じる便箋を事前に処分したと言っていましたが……」
「ああーあの婆さんか……。しまったなぁ、基本的に参加者以外には内容分からないように魔法かけてるから」
「彼女にも
であれば致し方なしと、パチンと指を鳴らす左手袋。ポンと軽快な音と共に例の白い封筒が現れ、改めてどうぞと手渡される。
「ではまず初めに紹介させていただきましょう。私たちの主催する“スマブラ”がいったいどういうものなのかをーー」
それからマスターハンドにクレイジーハンド、両手袋達は滔々と話し始めた。
“スマッシュブラザーズ”という名の祭典。
数年に一度催される一大行事。
作品の枠を越え、多くのキャラクターが一堂に会する。創造神サークライが織りなす“お祭り”なのだと。
……正直信じてよいか怪しいものも多かったが、それでも手渡された
決戦場に集う多くの
手に汗握る攻防は観客達を沸かせ、耳が割れんばかりの応援コールが鳴り響く。
誰もが活き活きとした表情に溢れ、元いた世界のしがらみも感じさせない、宿敵同士でさえ共に手を取り合うこともしばしば。
その中には見知ったようで、けれどどこか違う緑の
加えて我らの脅威、あのガノンドロフまでが在り、剣を使う姿に逐一驚かれたり、元気にドリャアー!!している姿を見ると、”お祭り“と語った彼らの大会趣旨も十分に理解できた。
「いやーもうホント大人気でさー。大会開催を発表するだけで国内はもちろん海外ニキ達も大盛り上がり!
「ロックマンの実装が決定した時は凄かったですね。地鳴りのような歓声が響いてました」
「コラボによる作品間での掛け合い!任天堂以外のキャラも突然参戦!」
「過去作品の知名度・収益共にアップ。ユーザーも主催者側も楽しめてwin-winのウハウハです」
ピンッ、と2人合わせてダブルピースを作る
手袋達を他所に、じっと画面の中の映像を見つめるゼルダ。
乱闘の他にも、アトラクションのようなミニゲームにも参加できたりと、とても楽しそうではあるが……胸に湧く不安も一つ。
「私に、務まるでしょうか。魔法の力は多少使えますが、このように直接闘う経験はあまり……」
「まあ不安も尤もだわな。
「貴方は『ファイター』という今より遥かに頑丈な体を持って、向こうの世界に召喚されます。ある程度の優劣はありますが、基礎的な身体能力は平均化していますので、他の参加者と比べても遜色ない動きが可能になるでしょう」
「
「貴方の持つ知恵のトライフォースを元にした魔法の力です。ディンの炎。フロルの風。ネールの愛……また他作品の縁として鎧甲冑ファントムも召喚できるようにしています」
攻守共にお役立てくださいと、その言葉と共にデンデンデン!三段重ねで組み上がっていく巨大な紫の鎧。
手をかざし思い描けば、自分の望むように動いてくるのだから驚きだった。
「まあそれでも慣れるのには時間がかかるでしょう。
ですから私たちは今回、貴方をレクリエーションの場にお呼びしたのです」
「レクリエーション?」
「チュートリアル、って言ってもいいかな。ファイターとして簡単なステージやミニゲームに挑戦して貰って、体の動きに慣れてもらう……そういうβ版的な?
特に↑Bとか必須だから。これ出来ないとホント話になんないから」
「新規メンバーとの顔合わせを含めた親睦会の意味も兼ねています。今回は小規模なレクリエーションなので参加者は限られていますが……名も顔も知らぬ相手と急に
え?顔見知りの方が戸惑う?関係ありません、殴れ」
「んで、ある程度好評だったら、そのままスマブラSPのアーリーアクセスとしてプレイヤーに配布してみたり?
老若男女誰もが楽しめるように難易度は低めで。ミニゲームのルール設定とかステージ作成とか、もろもろ頑張っちゃいました」
「あくまで“お祭り”ですからね。参加者であるファイターの方々にも負担があってはなりません。
この世界の出来事も、貴方にとっては夢のようなもの。時間の経過も無く、目が覚めればいつもの日常が待っていることでしょう」
「大会中の
「それぞれの世界を守るための防護措置としてご了承ください。
ゼルダ様におかれましても、日頃忙しい政務から解き放たれ、羽を伸ばす良い機会になればかと」
説明は以上です、と。ペコリと頭(?)を下げるクレイジーハンド。
握っていたSwitchも煙となって消え失せ、また一面真っ白いだけの世界へと戻る。
「質問は?……といってもまだ分からないことだらけでしょうね」
「ま、詳しいことは先に島に着いてる先輩達に聞いておくれ。リンクは今回初参加だが、マリオとか歴代のファイター達にも顔出してもらってるから」
「リンク……」
聞き慣れたその名を呟くと同時。パチンっと鳴らされる指に、足元へと浮かび上がる光の輪。
ハイラルのソレとは様式が異なるが、一種の転送魔法だと窺い知れる。グルグルと輪の回転が早まるほどに、体の浮遊感も増していく。
「実はそのリンクなのですが……いえ、参戦ファイターの数人に少し異常が……」
「おん?」
視界を覆っていく光。
小声で話すマスターハンド達を残し、私の意識は瞬く間に暗転して行った。
■□■□
頬を撫でる柔らかな風に目をあける。
気がつけば青風の香る大地。一面と広がる草原の中に1人立っていた。
澄み渡るほどの雲ひとつない蒼い空。どこかの孤島なのか。遠くを望めば白い海岸線が広がり、微かに響く波音が耳をくすぐる。
「ペポ?」
その視界の隅。覗き込むように見上げる、小さなピンク色の影。
「貴方は確か……星のカービィさん?貴方も参加されるのですね」
「ポヨ?」
何やらよく分からないという表情で小首を傾げる彼(?)。
そのまま何処かから漂ってきた美味しそうな匂いにスンスンと鼻を鳴らしては、引き寄せられるようにフワフワと飛び発ってしまう。
「あら?今回のゼルダさんは随分可愛いらしい方なのね」
背中にかかる女性の声。振り返れば、同じくピンク色のドレスに身を包み、優雅に日傘をさし歩いてくるブロンドヘアーの女性の姿があった。
「キノコ王国のピーチよ。同じプリンセスとして、仲良くしましょ?」
「は、はい。よろしくお願いします」
「ん。初々しくてよろしい。
私の知るゼルダ様は、シークに変身したり魔法で闘ったりと結構武闘派だったんだけど……あなたは大丈夫そう?結構荒事も多い……というか荒事しかないような
確かに周りを見れば他の参加者達の姿がちらほら映り。やはり皆、自分よりは遥かに戦い慣れていそうな印象を受ける。
天使の羽で空を飛ぶ少年に、それを面白そうに追いかける大きなゴリラ。
草原の中に不自然にポツンと佇むダンボール箱。そこに群がり叩きまくる赤・黄・青色の小さな生き物達と指示を飛ばす宇宙服姿の男性。
それを捕まえようと躍起になってモンスターボールを投げつける少年と中々にカオスな光景である。
「が、頑張ります」
両手をギュッと握って応えるも、大丈夫でしょうか……と胸に沸く不安は早々消えるものではなかった。
「……まあ、いざとなればリンクがいるから大丈夫よ。貴女お付きの騎士だもの。マリオやキノピオも悪くはないのだけど、やっぱりそういの憧れちゃうわー」
頬に手をあてながらぼやいては、遠く、海岸へと目を向けるピーチ。
「リンクーー!!ゼルダ様、着いたわよー!!」
「……」
リンク。聞き慣れたその名に胸にのしかかる不安が少しだけ軽くなるのを感じた。
ピーチさんの呼びかけが届いたのか、遠い海岸から急ぎ駆け寄ってくる少年の姿。隣にはご馳走でもしていたのか、先ほど飛び立って行ったカービィさんも引き連れて。
遠目に見えるハイリア人特有の尖った耳。装束は私の知る緑の物ではなく、空を思わせるような青色の外套を纏っていたけれど……陽光に揺れる黄金色の髪が、記憶にある彼のものと重なる。
元はハイラル城郊外に住んでいた鍛冶屋見習いの少年。
森の妖精を思わせる緑の装束。私より少しだけ背が小さく、よく朝寝坊をしては親方さんに怒られていたという彼だけれど……「勇気のトライフォース」を胸に、果敢に魔物へと立ち向かう姿はまさに勇者と呼ぶに相応しく。
勇ましくも優しい。そして時折浮かべるあどけない笑顔が、可愛らしい少年でもあった。
正確には、私の知る彼とは別世界の存在なのだろう。
それでも、トゥーンリンクや
きっとそれが、リンクという人が持つ気質なのだろう。
だからこれから出会う彼とだって、きっと何の
「えーーー?」
そう、思っていた。
歩速を緩め、目の前で足を止めた青年の姿に、思わず言葉を忘れる。
記憶にあるものより、遥かに高く。見上げることでしか望めない相貌。
真一文字に唇を結ぶ表情は、険しさと厳格さに満ち。荒々しい荒野を乗り越えてきたかのように所々渇いた金髪は、けれど彼の持つ精悍さをより一層際立たせる。
何より。私を真っ直ぐに見つめるその瞳。
そのあまりに深く。多くの覚悟を宿した蒼玉の瞳に、私はーー
「ーーっ……」
驚愕か。動揺か。あるいはそれ以外の何かか。トクントクンと早鳴るばかりの胸。
まるで時が止まったかのような錯覚さえ覚える。
言葉も見つけれられないでいる私を前に、何かを思うように数歩後退る彼。
背中より引き抜かれる
輝く陽光のもと、鋭く艶やかな光線を残し、舞うように繰りなされるソレはーーーハイラル王家に古くから伝わる誓い儀。
剣を掲げ、目の前で跪く彼。
騎士として。護るべき相手として、精一杯に捧げられた誠意を前にーーけれど佇むことしか出来ない
草原を跨ぎ、清々しい大地の息吹が吹き抜ける。
訪れた異界の地。そこで果たされた、決して交わる筈のなかった運命。
ああ、それが。私と彼の、初めての出会いだった。
何を血迷ったか、神トラゼルダxブレワイリンクという名の特級呪物。
誰かが書いてくれると期待してたのに誰も出さないというのなら、我自ら業を背負う他なし。
マイナー好きおじさんが出す呪いみたいなものとして、生暖かい目で見下してて欲しい所存
基本ギャグメインで10話以下の短い話になる予定。
ブレワイゼルダ様とミファーに内臓齧られながら描いていきます