朝露の滴る木々の合間。
ゼルダは周囲の様子を探るために、朝早くから散策に出ていた。
ファイターとしての体を手に入れたからか。整備されていない獣道を幾ら歩いても息切れさえ起こさない。
時に巨大な倒木、高い石垣等を飛び越えては、自身の体の感触を確かめるように一歩一歩踏み締めていくゼルダ。
(やはり、この森を通り抜けては行けないようですね)
鬱蒼と生い茂る森の前で立ち止まる。
肌に触れる魔力の風。森から漂う不思議な気配は、ゼルダの世界にある『迷いの森』のソレとよく似ていた。
一度足を踏み入れれば、正しい道筋を辿らない限り進むことも戻ることも叶わない。永遠に彷徨い続けるしかない死の森。
加えて、木々から漂う波打つような魔力はこの森の不安定さを物語っており……おそらく正解のルートでさえ秒単位で変わり続けている。迂闊に入るのはそれこそ自殺行為に等しいと伺い知れた。
マスターハンド達が示した、この旅のゴール。
今は遠くに望むことしか出来ないキノコ城へは、この森を抜けて進むのが1番早いのだろうけど……やはり迂回は避けられないようである。
これ以上の深入り、焦りは禁物。何よりきっと[[rb:彼 > ・]]が許してはくれない。
(どうしてこうなってしまったのでしょう……)
マスターハンド達の思惑とは異なり、多くのトラブルを抱え、始まってしまった今回のレクリエーション。
召喚されたファイターの複数に異常が見られ、迷いの森も含め、ステージギミックまでもが当初用意したものから大きく変わってしまっているのだと言う。
だからこそ、少しでも現状を確認するため。早くこの体に慣れるため。
戦闘経験の少ない私が役に立てるようにと、率先して始めた探索なのだけどーー
「あの……リンク?大丈夫ですよ?魔物の気配もありませんし、少し見回る程度ですから」
「……」
自身の常に三歩後ろ。
無言のまま付き従い、離れることなく控えるリンクの姿に遠慮がちに声がける。
「いえ、護衛が迷惑というわけではなく、その……っああ、そんな畏まらないで。すぐに跪かないで」
ぬかるんだ大地に膝を突き、深く頭を垂れようとする彼を慌てて制す。
ここでは同じ[[rb:身分 > ファイター]]なのだから、礼節は要らないと何度もお伝えしているのだが……遣いの騎士としての責任感がそうさせるのか、傍に仕えることを決してやめようとしないリンク。
ここまでも道中においても、高い段差などを越えようとする度、何度も”危ないことはおやめください“の無言のオーラが背中に刺さっていた。
畏まらないでとお願いする私の姿に、心底不思議そうに首を傾けるリンク。
まるでそう[[rb:在るべき > あれかし]]と訓えられた行動を妨げられたように。浮かぶ表情は戸惑い気味でさえあった。
(……あちらのゼルダ様は、よほど厳しいお方だったのでしょうか)
あるいは時代が?当時のハイラル王が?と。
頭の中で疑問符ばかりを浮かべていると、すっくと目の前で立ち上がる彼。
「っ……」
ああ、やはり私の世界のリンクと比べて随分と背が高い。
少し高い所から見つめる青い瞳。その精悍な眼差しに触れると、記憶とのギャップもありどうしてもドギマギしてしまう。
恥ずかしさを隠すように振り返り。急ぎ足で歩き出せば、やはり背後にはつかず離れずついてくる彼の気配。
(リンク……貴方はーー)
耳に蘇るマスターハンド達の言葉が、ズキリと胸に棘を刺す。
どれほど走ろうと早まらなかった鼓動が、どうしてか今だけは、鳴ることをやめてはくれなかった。
□■□■
「記憶喪失ーーーですか?」
リンク達と出会った翌日。私は再度あの白い空間へと連れて来られていた。
「いや、そーなのよ。なんかのバグ?設定上の不具合?みたいな感じで、記憶の一部が欠落しちゃってるみたいなんだよね。
おまけにリンクだけじゃなく複数のキャラクターに同じ症状が出てるときてる」
「ゼルダ様はいかがですか?ご自身の記憶に異常を感じたり、何か思い出せないことなどは?」
「いえ……おそらく、大丈夫だと思いますけど」
何かを忘れていること、そのこと自体に気づけていないかもしれない。
そう思うと、不安に少しだけ曖昧な答えになってしまう。
何かあればすぐに仰ってくださいね、と神妙に呟く[[rb:クレイジーハンド > 左手袋]]に対し、[[rb:マスターハンド > マスターハンド]]は呆れ気味に大きな溜息を吐いた。
「ったく、こんな初っ端からトラブルとかよ。β版じゃなかったらホントどうなってたことか。
まーたお前がなんかやらかしたんじゃねぇだろうな」
「何ですか、またとは。何もしてませんよ」
「だってお前が[[rb:スカウトした > 連れてきた]]連中ばっかり問題起きてるじゃんかよ。
リンクだろ?ドンキーコングだろ?星のカービィにソリッド・スネーク……。というかそもそもマリオはどうしたよ。1番の古株が姿さえ無いんだが?」
「……わかりません。招待状は出して、確かに此方に送った筈なのですが」
こんな筈では……と。責任を感じているのか、あるいは予想外のトラブルに苛立っているのか、重い雰囲気を纏う声。手の痙攣も普段にも増して激しくなっている気がする。
「……まあリンクやスネーク以外は元々喋れないから、それほど影響は無さそうだけど。基本その場エンジョイ勢でなに考えてるかもよく分かんないし」
「経験や戦闘力も初期化されているのは大きな痛手です。ステルス迷彩や無限バンダナを手に入れるのに私がどれだけ苦労したと」
「いや、後者はともかく乱闘にステルス迷彩を持ち込むのはどうよ」
「カービィさんに至っては……」
ドン⭐️
0% 0% 0%
「うん。知ってた」
「見慣れた光景」
「むしろもう一度始めから遊べることにお得感すらあります」
また格闘王への道が始まっちゃうなーと謎に楽しそうなマスターハンドを残し、想うように深い溜息を吐くクレイジーハンド。
「先ほど確認しましたが、レクリエーション用に用意した各種ステージにも大きな改竄の後がありました。記憶のことといい、マリオの消失といい、何者かの悪意が働いているのは確実です」
「まさか、またタブーが暗躍してるとか?お前さん操られてねぇだろうな」
鎖がついているように見えますか?と互いに睨み合う両手袋達を前に、おずおずと手を上げるゼルダ。
「あの……それでリンクは?」
「ああ、すみません。話が脱線していましたね。
要するに、いま彼は記憶の大部分を失っているのです。
ーー加えてあのリンクは、元の世界においても。瀕死の重症を癒すため、回生の祠という装置の中で100年にも及ぶ長い年月を眠りにつき……それまでの記憶のほとんどを失っていました」
「100、年……?」
「ええ。自分がいったい何者であったのか。かつて共に戦った[[rb:英傑達 > とも]]のこと。守るべき姫の姿さえ……朧げにしか思い出せないほどに」
明かされる事実に、ドクンと胸の奥が騒つく。
同時に思い出す、彼の浮かべた表情の真意。
どこまでも険しく、厳格さに満ちていて……ああ、けれどどこか寂しさも宿した、深い青色の瞳を。
「彼が現状、どれほどの記憶を保持出来ているのか。それは私達にでさえ把握できていません。
もしかしたら、彼はーー」
思い出す。
胸の前、捧げられたマスターソード。
「命を賭してでも護る」と示してくれた、貴方の誓いを。
「彼は、貴女のことを。自身が救うべき[[rb:あちらのゼルダ姫 > ・・・・・・・・]]と、混同しているのかもしれません」
*****
登場人物紹介
・リンク(ブレスオブザワイルド)
本作の主人公であり我らが英傑様。
本来ならマリオと並び、クレイジーハンドが連れてきた最終決戦兵器の一人であったが、
度重なる記憶喪失のせいで重いデバフをくらっている。
それでも身に沁みついた剣術や卓越した戦闘技術は他のメンバーと比べても群を抜いており、
斬って良し、射って良し、爆破して良し、けどちょっと復帰は弱めと、今パーティにおける最高戦力に位置していてる。
真面目なシーン以外ではとことん喋らないので、何を考えてるのかイマイチ察せない。
ブレワイのシステムに基づいた突飛な行動をとることもしばしば。
よく野生の獲物や果物を狩ったり採ったりしているのでカービィやスネークあたりと仲がいい。
扱うプレイヤーによっては災厄にも成り得る本リンク。
クレイジーハンドがブレワイ本編における、どの時点での彼を連れてきたのかは不明。
少なくともマスターソードは既に引き抜いているようだが……?
・ゼルダ姫(神々のトライフォース2)
本作品におけるメインヒロイン。スマブラSPにおいてトワイライトプリンセスのゼルダに代わり参戦したニューチャレンジャー。
元居た世界ではハイラル王国の姫として表立って戦う機会がなかったが、
それでも王国を襲う危機を察知し、事前にリンクへとマスタソード解放のために必要な勇気の紋章を授けたりと、知恵のトライフォースの所持者に相応しい聡明な女性である。
が、本作品においては初めてのスマブラ時空やギャップ満載のリンクの存在もあって年相応に戸惑いがち。
↑Bのフロルの風による復帰も練習中なので、これから頑張っていきたいところ。
変人だらけの今パーティーにおける貴重な常識人枠でもある。
・マスターハンド
本作における黒幕その1。
ふわふわ浮かぶ巨大な右手袋の姿で、時折上げる悪役染みた高笑いが印象的。素材はウール100%。
初代スマッシュブラザーズから登場し、そこではラスボスとして皆にボコられ。続くXではタブーに操られたりと結構不遇な扱いを受ける彼であるが、それでもスマブラ世界を盛り上げようと日夜奔走する影の立役者でもある。
テレパシーで伝わる声はひどく軽薄な男性のもので、その場のノリを重視する楽観主義者。
CERO指定を常に気にしており、ホムヒカの衣装を事前に変更したりとキッズ達の性癖を歪ませまいと躍起になる様は多少病的ですらある。
始めはおふざけ枠として登場するも、それ以上に濃い他のメンバーに押されて次第にツッコミ枠へとなり下がっていく。
・クレイジーハンド
黒幕その2。マスターハンドと対を成す巨大な左手袋で、常にピクピクと痙攣を起こす様が印象的。素材はシルク100%。
合理主義者にして行動主義者。加えて非常に負けず嫌いな性格でもあり、過去マスターハンドとの間でトラブルを起こすこともあったとか。
テレパシー越しの声は理知的な女性のものであり、奔放なマスターハンドを諫める場面も多く、常に冷静な自分を演じているが……時折現れる度が過ぎた言動や破壊行動からは、隠し切れない狂気が滲み出ている。