火の鳥はそのまんま
「………女だったか。しかも少年もいる、と」
初対面であった。
と言うのも今までのやり取り全て無線か通信の類でやってきたのであり、強化人間を保存しておく樹脂パッケージのせいで容姿が見えなかったということもあり、実際に顔を合わせるのは初めてであった。
二人とも、歩くことなど出来ない。故に歩行装置を付けているが、片や髪の毛をバッサリと剃られ、頭に大きな手術痕の残る、C4-621。彼は、子供だった。あるいは大人なのかもしれないが、ガリガリに痩せた、どこにでもいそうな少年だった。
そしてもう片方はと言うと、たっぷりとした赤毛の、妙に体付きの豊かな女であった。強化人間の大半は痩せていて、髪の毛などないに等しいのが普通だが、617はそうではないらしい。
強化人間には二種類いる。戦闘に駆り出されるものと、買い主の趣味であれこれ弄られるものだ。前者が621ならば後者は617だったのかもしれなかったが、もはや正確な記録などないのだ、追尾のしようがない。
『おんな?』
『少年?』
二人そろって声帯機能をほぼ失っていることもあり、文章的には相当未熟な文がハンドラー・ウォルターの端末に送り込まれる。
ハンドラー・ウォルターは二人を見遣ると、自室を案内することにした。
「お前たちには自室を用意してある。もっとも狭いところだが……」
自室。聞きなれない単語だった。617からするとどうしてここまでよくしてくれるのか理解が出来ず、621も同様なのだろう。目をパチクリしている。
『ハンガー?』
文脈で言えば、ここが俺たちの格納庫化と言う意味だろう。621が単語を送信していた。
ハンドラー・ウォルターは腕を振った。
「そういうならそれでいい。ひとまず休め。それがお前たちの仕事だ。食事は定時に輸液される。その自立補助器を付けている限りは飢え死ぬことはない」
なんと便利な事だろうとあっけにとられるも、既に621は自室とやらに行ってしまった。
仕方がないので、自室とやらに向かってみる。簡素な部屋。しかし、今まで樹脂パッケージで寝て冬眠していた彼女からすると余りに豪勢だった。ベッドに寝転んでみる。
「………」
彼女の端正な顔は何一つ表情を浮かべていなかったが、しいて言うならば困惑していた。
人権のじの字も無い状態からこの扱いである。夢でも見ているのではないだろうか。
覚醒して時間が経っていることもあり、 思考能力が戻って来た。しかし記憶が戻ってこないので自分が何者かと言うことがわからない。休め、休めと言うのは寝ろと言うことなのだろうか。寝ようにも、コーラルデバイスのオンオフで意識を切り替える程度だが。
体内通信を使い、傭兵管理システムへとアクセスする。
『登録番号Rb24 識別名カロンブライブ 機体名ファイアバード 傭兵支援システムオールマインドへようこそ あなたの帰還を歓迎します』
オールマインドという傭兵支援システムがあるらしい。とにかく情報を漁ってみることとする。
だがすぐに飽きた。傭兵を眺めているだけで何かわかると言うわけではない。しいて言うならシミュレーションシステムで機体の挙動を確認できるが、素寒貧すぎて買える装備も無い。
仕方がないので、もう、これは何かコンテンツでも楽しんで時間を潰すか、『機能』をシャットダウンしてしまうしかなかった。
二択。とりあえずコンテンツを探してみたところ、ハンドラー・ウォルターが用意していたであろうものがいくつかデータベースに該当した。
おとぎ話だった。それを本にしたものらしい。
『黒い、鳥の……物語……?』
『早速だが仕事を取って来た。確認しろ、621、617』
さあ、仕事の時間だ。短い休息を取ったのち、二名は機体へと向かい乗り込んだ。機能は死んでいるとはいっても、歩行補助装置さえあれば、動くことくらいは可能だ。逆に言うとこれを外されると、歩くことはおろか動くことさえままならなくなる。
コア閉塞。各種装備がアームによって握らされる。装備は二名共に一緒だ。
RF-024 TURNER ベイラムの普及型アサルトライフル。
HI-32:BU-TT/A タキガワハーモニスクのパルスブレード。
BML-G1/P20MLT-04 ファーロン・ダイナミクスの開発した4連装ミサイル。
コアの拡張機能も無ければ、内装も貧相な探査型。そもそも想定として戦闘が主目的ではないような、機体構成をしている。装備している武装だけは、ハンドラー・ウォルターが厳選して買い集めたものなのだろうか。メーカーに拘らず装備できるのは独立傭兵の強みと言える。
617の装備が変わっているのは、恐らく、あくまで恐らくであったが、渡航費を稼ぐために売却してしまったのだろう。コア機能、アサルトアーマーなどに関しては用途はいくらでもあり、高値で売却できるからだ。
黒い機体、ターニッシュド。赤い機体、ファイアバードが大型ヘリ内部のハンガーから簡易型の懸架式カタパルトへと移動していく。
『早速だが仕事の時間だ、621、617。ルビコン進駐を行った星外企業勢力のひとつ、ベイラムグループから公示が出ている。大多数に向けられたばら撒き依頼だ』
体内通信により、ブリーフィングモードが起動する。
ハンドラー・ウォルターのエンブレムは、無数のタグを握りしめた手という独特なものだ。あるいは、“手綱に雁字搦めにされている手”だろうか。意味深なそれについて聞きたいことはあったが、今はミッションに集中する。
『独立傭兵の諸君! ベイラム同盟企業 大豊による依頼を公示する!』
威勢のいい声だった。
『ルビコン解放戦線が汚染市街外延部に拠点を構築した。大型の砲台を有し、我が方としても近寄りにくい状況が続いている。そこで諸君らにはこれを掃除してもらいたい。大型砲台の破壊が主目的だが、破壊した兵装によって報酬金を上乗せする』
『これは諸君らの名前を売るチャンスだ! 奮闘を期待している!』
『……だ、そうだ。報酬金が高く設定されている。危険な任務だ。露払いになればいいと思っているのだろうが』
ハンドラー・ウォルターが言葉を一瞬詰まらせる。
620を失ったのも同じような任務だった。今回、似たような任務を選んだのは、彼らを試すためだ。
617はいい、似たような任務を経験している。だが621はどうか。乗り越えられるのか。
それを試したいのではないか。
『621はこれが最初の本格的な戦闘任務になる。あるいは、どこか別のところで経験済みかもしれないが……617、621と共に陣地を突破し、砲台を破壊しろ』
懸架されていた機体が汚染市街地の外周部、木々が生い茂る場所へと投下される。木々を縫い、二機がゆっくりとブースターを吹かして減速しつつ着地、カメラアイを光らせた。
【メインシステム、戦闘モード、起動】
【Main system combat mode active.】
【DISPLAY LATENCY】
【OVERBOOST CAP】
【WPN FCS】
【EN RECYCLING】
褪せたもの。あるいは……
『ミッション開始』
ハンドラー・ウォルターが号令を出すや否や、二頭の猟犬が疾駆した。