該当データ無し
バラ撒き依頼をこなしていく。拠点を破壊しろ、敵を破壊しろ、そんな任務ばかりであるが。ベイラム、アーキバス、そしてルビコニアン解放戦線。
とにかく、依頼を受けまくる。とにかく、名前を売ることに専念した。
ある時は、ヘリを叩き潰し。ある時は陣地に突撃し。あるときは……。
そうしてある時はアーキバス系列シュナイダーからの依頼でテスターACを潰したこともあった。
ここまでは、ある意味普通であろう。ここまでは、だが。
『621、617。お前たちは、違うのかもしれないな』
任務を受けるうち、ろくに被弾もせず帰って来ることに安心感を覚えて来たのか、ある時、ウォルターがそんなことを言った。
『ありがとう』
いまだに喋ることなど出来なかったが、言語野の機能はかなり改善されてきていた。出撃し、帰って来ることに一種の満足感さえ覚えている。
621はオールマインドを、617はレムナントを利用してトレーニングにも励んでいた。あらゆる敵と戦い、これを打倒していく。まさに、ゲームの如くである。
通信。これは、621と617は知らないものだ。
酒焼けしたような、声。ダンディズム溢れるハンドラー・ウォルターとは異なる声が通信に響く。
『いつ以来だ! ハンドラー・ウォルター!』
G1ミシガン。ベイラムの専属AC部隊レッドガンの総長、事実上のエースパイロット。歩く地獄の異名を取る男。ファーロン・ダイナミクスの指揮官を経て、ベイラムへ移籍後、レッドガンを設立した男である。
歩く地獄。文字通り、彼が往く戦場は地獄になる。敵にとっての。
『貴様の猟犬にはクソほど煮え湯を飲まされた。よくも抜け抜けと連絡してこれたな』
部隊を壊滅させたこと数度ほど。テスターACまで撃破しているのだ。独立傭兵とて、思うところくらいある。
『ミシガン、こちらの提案だが』
だがハンドラー・ウォルターはビジネスライクに言葉を言い切った。まるで古い友人に語り掛けるようだった。
『うちの役立たずどもと同じ扱いで構わんのだな?』
『第四世代は感情の起伏に乏しい。あの二人には、外からの刺激が必要だ』
『“また”か』
そのまたという返答にはハンドラー・ウォルターは答えなかった。
『ならば、いい。決まりだ。うちからはヴォルタとイグアスを出す。貴様の新しい猟犬、レッドガンの流儀で迎えよう』
機体に乗り込む。しっくりくるというものだ。
戦う為に作り替えられた体が悦んでいるのがわかる。
通信。ハンドラー・ウォルター。
『617、仕事だ………知らない間に通信をしていたのか? 傭兵組織レムナント。聞いたことがない組織だが』
『謝ったほうがいい?』
『いや、責めているわけではない。だが通信先は慎重に選べ、617』
『ミッション内容を確認する。現地に赴き、対象ACを排除しろ。場所は汚染都市郊外。ここに、拠点があるらしい。ミッションはこなしただろう、617。機体構成について考えておけ』
『了解』
機体構成。まともな人間であれば機体の構成を変えた場合、慣熟するのに時間がかかる。だが強化人間は違う。まるで自分の体であるかのように扱うことができる。
早速パーツを取り寄せる。構成など決まっているようなものだ。正面、至近距離からの撃ち合い。これだ。ウォルターが最初に選んでくれた装備を取り寄せて、ジェネレーターとブースターを切り替えていく。
右腕、ガトリング。左腕、パルスブレード。左肩部、パルスシールド、そして拡散型バズーカ。内装、アサルトアーマー。これだ。これが一番しっくり来る。
だが内装は変えるべきであった。初期の型式は古く、旧世代型であった。そもそも戦闘を想定していなかった。
ジェネレーター『AG-E-013 YABA』。
BAWSの開発した現行世代AC向け内燃型ジェネレータ。
ブースター『BST-G2/P04』。
ファーロン・ダイナミクスの開発した第2世代ブースター。
「あ……」
資金が尽きた。いかんいかんと首を振る。己は、己を取り戻すために戦っているのに夢中で装備を買いあさって資金切れを起こしてどうするのか。しかし……戦っていくには、どうしても装備と言うものが必要だった。
塗装は赤。内装を変え、外見はほぼ変化がない、多少のグレードアップが図られたAC『ファイアーバード』が再誕した。
『都市区画外で降ろす。お前に一つ言葉を送ろう。不測の事態を予測しろ、617』
『了解』
大型ヘリの懸架装置が解除、機体が急速に降下していく。ブースターを吹かし減速しつつ地上に降り立つ。
【メインシステム、戦闘モード、起動】
【Main system combat mode active.】
【DISPLAY LATENCY】
【OVERBOOST CAP】
【WPN FCS】
【EN RECYCLING】
着地。木々を引き倒しながら前進していくと、そこに確かに拠点らしきものがあった。
『突然の通信失礼します』
急につながった通信。
すぐさまハンドラー・ウォルターが切り返す。
『どうやってこの周波数を知った?』
『それは大した問題ではありませんよ。我々としては、この対象を始末していただければそれでいいのですから』
酷く慇懃無礼な口調だった。
データが送信されてくる。ウィルスの類ではないようだがと躊躇していると、先にハンドラー・ウォルターが確認したらしい。ファイルが展開される。
どことも付かぬ有機的なフォルムの機体。『TRANSCRIBER』という名称が表示される。
『どこのメーカーだこれは……見覚えのない機体のようだが』
照合をかけているのだろうか、ウォルターが困惑しているのが口調でも分かった。
『ケイト。ケイト・マークソンという名前を名乗っているようです。彼女を消していただきたい。報酬は弾みますよ、では』
通信は一方的に打ち切られてしまった。
どうすればいいのだろうかと躊躇していると、ウォルターの言葉が続いた。
『反省する必要があるな、617。真の意味で不測の事態が起こると人は固まってしまうらしい。暗号化方式を切り替える必要があるな……とにかく先に進め。敵を排除しろ』
アサルトブースト起動。スキャンモード。敵機を検出するべく暫く飛んでいると、熱源を検出した。岩陰に隠れるようにこっそりとヘリがおり、その傍らに受け取ったデータと同じ機体が佇んでいる。
『…………!? あなたは……』
戦闘開始。様子を見るべく拡散バズーカを遠距離で発射。
『…………どうしてここが………ライセンス照合……識別名、カロンブライブ……』
女の声がした。だがそれがどうしたというのだ。
ケイトなる人物。それを消せばいいのだろう。
この、なんてこともない任務。それがルビコンを揺るがす事象の始まり。あるいは終わりであることを、彼女は知らなかった。