万丈目グループの乗っ取りを目論んだ老人達は、悪事が次々と暴かれ、数々のスキャンダルを公開された事で失脚。
富も名声も失い、逃げるように家と土地と財産を手放して、それぞれ息子や孫を頼って遠方へ去っていった。
実働部隊を指揮していた二世議員は、悪事が暴かれた事で3人の秘書とカバン持ちは辞表を提出して去ってしまった。
万丈目グループの全てを奪おうとした結果、全てを失ってしまった。
「くっ、ど、どうすれば、どうすればいい!」
何かあれば誰かに責任を押し付け、それでも解決できなければ金で解決してきた男は今までの人生のツケを払う羽目になっていた。
だが手持ちの現金もそう多くない。誰かを雇うにも、既に悪名が広まっている以上、それも難しい。
残ったのは、このシンクロデッキ。だが、スターダスト・ドラゴンのカードは無い。いつの間にか失われていた。
彼は、地下デュエルの世界に飛び込むことにした。その末路は、もはや語るまでも無いだろう…。
「迷惑をかけたな、庄司、準。」
「そんな事はないぞ、兄者。体は大丈夫なのか?」
「明日には退院する。」
元気を取り戻した長作議員は、弟達と話し合いをする。
病院に居るのだが、既に気力十分、むしろ疲れが取れて溌剌としている。
「それで、準。炎の悪魔は、また来ると思うか?」
「いや、もう来ないと俺は考えている。あいつは何かしら大きな存在の配下だと言っていた。主の器たりうる存在を探し求めているとか。」
てっきり事件は解決したと思っていた庄司の顔色が変わる。
「ま、待て!だったらまた来るだろう!今度はお前を」
「いや、俺はヤツの主の器には『不十分』らしい。」
「何だと!」
「まぁ、待て庄司。来ないというなら放っておけばいい。」
「だが兄者!万丈目グループに手を出した以上、落とし前は」
「落とし前ならつけさせる。今回、俺と妻に危害を加え、万丈目グループの乗っ取りを目論んだ連中にな。」
同時刻。
万丈目雷姫は、復学していた。
「おはよう。」
「万丈目さん?!しばらく休学すると。」
「今日から復帰する。」
「…何かあったの?政界と財界の大物が5人もスキャンダルが発覚して大騒ぎになっているけど。」
「私は何もしていない。」
事実、万丈目雷姫は失脚騒動には加担していない。
張りきったのは父と叔父上の庄司だ。
「万丈目」
ずいっ、と身体を乗り出してくる男子生徒、北條 一志(きたじょう いっし)に、雷姫は毅然と立ち振る舞う。
「何か用。」
「どうして休んでいたんだ?誰にも理由を言わずに。」
「お前には関係ない。私がどこで何をしようと勝手だろう。」
「勝手?」
何故この男子は自分に事あるごとに絡んでくるのか。
そして、この同性の友人は何故頬を赤らめているのか。
「私はお前に構っているような暇は無い。」
「デュエルを。」
「何?」
「デュエルを、始めたのか?」
そう言われ、雷姫は自分の足に目を向ける。
父を助けるために始めたデュエルモンスターズのデッキケースが、太腿に取り付けられている。
不自然な膨らみ故に気付かれたのだろう。
「だとしたら、どうする?」
「俺が。万丈目にデュエルで勝ったら。」
「勝ったら?」
「話を聞いてくれるのか?」
「デュエルをせずとも、今、この場で言えばいいだろう。」
「それでは意味が無い。」
もしも雷姫が通っている学校がデュエルアカデミアであれば、デュエルで決着を付けよう、という話になっただろう。
だが、彼女が通っているのは帝王学も扱う学問府。デュエルモンスターズの躍進は認めてはいたが、諸問題の解決にデュエルを用いるほど浸透はしていない。
「ならば話は聞かない。」
そう言って、雷姫はスッと北條の横をすり抜けると歩き出す。
その後ろを、友人が追い。
彼女の背中を、北條は拳を握りしめながら見続けていた。
…時が流れ、日本のある地域にて。
薄緑色のセーターに、ピンク色のロングスカートをはいたイリーナ・アトラスは、2歳になる我が子がようやく寝付いた事で、安らかにほほ笑む。
この子は生まれながらに奇妙な痣があった。
病院で検査しても詳細は分からなかった。ただ、この子の成長に支障がなければそれでいい。
そんな彼女は違和感を感じた。
足元が揺れている。近くを大型車両が通行した訳でもないのに。
「ああ、もう。また起きちゃう」
次の瞬間。大きな揺れを感知した彼女は咄嗟に我が子を庇う。
耐震基準を満たしているはずの新築が崩れ落ちる中、イリーナ・アトラスは咄嗟に我が子を庇った。
…意識がもうろうとする中、イリーナ・アトラスは眼をわずかに開ける。
生暖かいモノが床に広がっている。急速に、自分の中から『ナニカ』がこぼれていく。
息子は、無事だった。
だが同時に、自分はもう助からない事を理解した、してしまった。
良かった、この子だけでも生き延びてくれて。
「…ジ…ック…いき、て…わたしの、分……も」
後に、ゼロ・リバースと呼ばれる惨劇。
これはその渦中で起きた、「ありふれた出来事」の一つである。
というわけで、万丈目雷姫の物語はこれで終わりとなります。
ジャックの母親はいかがでしたか?私の中では「ジャックの母親はこういう最期を遂げた」と思っています。
クロウと鬼柳さんの場合は違う理由なのではないか?とは思いますが。
まぁ、ジャック・アトラス本人にとって母親とはマーサの事なのでしょうが。