新一のいとこですけど......   作:ヤヤヤンヤ

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ポアロ

 

ただいまこちらは8月の初め、外の世界がいくら暑くても家の中は快適空間。

 

「卒業できてる。はぁ、学割が終わる……」

 

自室のPCで大学の学生専用サイトにログインし、

Graduation confirmed(卒業確定)という文字を確認できたので一息つく。イギリスの大学は日本と異なり3年制なので、日本の学生より一足先に女子大生の肩書きを脱ぐことになっちゃった……。まだ学割使いたかったぁ…!6月半ばに卒業試験を終えてまあ不合格は無いだろうと試験結果も出ないうちに日本への帰国準備を進め、全て合格していたので号泣して引き止めていた母とトーマスを振り切りびゅーんと飛行機で帰国してきたのが2週間前。ちなみに帰国は花ちゃんも一緒だった。2人には申し訳ないけれど、私は日本の方が好きだ。トーマスはイギリスの企業に就職が決まっていて、日本支部もある企業なので数年もすれば日本に来れるらしい。

 

まずは母に卒業したことをメッセージアプリで送り、自室を出て下のリビングに降りる。

 

「卒業しましたー」

「おめでと~!!」 

 

パァンッとクラッカーが鳴らされる。きれいに頭に降ってきた銀テープを巻き取りながらリビングのソファに座る。

 

「これで心置きなくロサンゼルスに行けるわね~!」

「誉、新一のことは頼んだよ」

「はいはい頼まれました」

 

優作さんと有希ちゃんは優作さんが脚本を担当する新作映画の撮影協力と演技指導でロサンゼルスに2年ほど移住することになった。本来はリモートで参加予定だったけれど、なんやかんやあれよあれよと短期間の移住が決まった。新くんには「2人きりになるね」と伝えたらなぜか顔を真っ赤にして怒られた。解せぬ。思春期男子って冗談通じないのかな。

(なおその時の誉は頬を赤らめて恥ずかしそうに言っていた(無意識)ので、新一には刺激が強すぎたようだ。)

 

「でもさ優作さんよくOKしたよね。移住費用は撮影会社持ちって言っても勝手にホテルやら決められてたんでしょ?アメリカに行く以外の選択肢無いじゃん」

「ほーちゃんったらそんな事言わないの!」

「確かに逃げ道を塞がれた気分ではあったね」

「やっぱりー」

 

気づいた時にはもう飛行機とホテルの予約を取られていたらしい。有希ちゃんに話聞いたときアメリカ人怖いって思った。いや、監督さんがヤバイ人なだけか。

 

「私もこの緋色の捜査官の制作には妥協しようとは考えていなかったんだよ。だからこそロスに行くんだ」

「……心広すぎぃ」

「そんなしわくちゃな顔しないのー」

 

優作さんの言葉にモヤモヤして顔をしかめると有希ちゃんが眉間のシワをつついてくる。

 

「アメリカ着いたら、小言1つや2つ……いや5つくらい言ってやれ!」

「まあ多少の融通は効かせるつもりさ」

「うむ、よかろう。あ、じゃあ有希ちゃんも出演すれば?」

「え、えぇ〜!流石に無理よぉ!最近はエステも行ってないしぃ」

「有希ちゃんはすっぴんでも美人だよ?」

 

日本中の男にガチ恋されてた人が何遠慮してんだか。

 

「私の中の美人ランキングじゃ、有希ちゃんが堂々の一位だけど」

「もう〜〜!!!ほーちゃんったらそんなにおだてても何も出ないわよ〜!!」

「おだててませーん、事実を言っただけでーす」

「きゃー!今日はほーちゃんの好きなグリンピースの炊き込みご飯とエビグラタン作るわね〜!」

「ふぁーい」

 

有希ちゃんに体当たりされながら頬擦りされてるので上手く喋れない。何が有希ちゃんを興奮させてるんだろ?

 

「有希子、今日の夕食は焼き鮭ではなかったのかい?」

「明日の朝食にするわよん」

「そうだな、明日は魚好きが来る。丁度良いだろう」

 

魚好き?

 

「え、お客さん来るの?」

「あぁ、知り合いのブリーダーがね」

「ブリーダー?」

 

ブリーダーってペットショップでは売られていないような珍しい種類や純血種の子達を売る人だよね?まさか動物絡みの事件じゃ……。

 

「私達がいない間、誉と新一が寂しいだろうと思ってね」

「ワンちゃんを飼うことにしたのよん♪」

「えぇーーー!!!い、犬!?」

「ほーちゃんずっとゴールデンレトリバー飼いたいって言ってたでしょ」

「言ってたけどぉ……」

 

それにしては突然すぎるよぉ!!しかも大型犬のゴールデンレトリバーだなんて。

 

「私は大丈夫だけど、新くんに何て言うのさ」

「安心しなさい、新一にはもう言ってあるよ」

「へ」

「ほーちゃんには大学卒業のお祝いってことで、サプラーイズ!!!どう?驚いた?」

「ひぇぇ……」

 

翌日優作さんの言っていた通りブリーダーさんが生まれて2ヶ月ほどのゴールデンレトリバーを連れて尋ねてきた。大人しく人懐こい女の子だったこの子を「きなこ」と名づけた。そして卒業式のため一時イギリスに行き、また号泣しながら引き留められたけど振りきり日本に帰国し、入れ違いで優作さんと有希ちゃんはロサンゼルスへと飛び立った。

 

新くんはというと学生なので両親がいなくても基本的には生活リズムが変わることはなかったみたい。でもまさか私が授業参観に出向くとは思ってなかったらしい。22歳にして中学生の授業参観のために公立中学校に入るのは不思議な気分で、制服姿の蘭ちゃんや園子ちゃんはかわいすぎてやばかった。大学卒業後には自分がバタバタと忙しくて中々2人と会えていなかったけど、どうしてあの子達は幼少期と変わらずピュアピュアなの?お姉さん2人が悪い大人に誑かされないか心配だよ……。そして中学生になってさらに大人っぽくなった新くんが、友達とはしゃぐ姿を見てこの子はまだ子供なんだなぁと感慨深くなった。小さき命達、私が守るからね……!!こんな感じで米花町に戻ってきても事件にも事故にも巻き込まれずに暮らしている。

 

そうそう、私社会人になっているにも関わらずずっと家にいますが絵本作家兼画家としてちゃんと在宅で仕事してますからね!留学中も絵本作家活動を続けていると編集部の小堺さんに画集を出してみないかと提案され、いいですよ~と軽く返事をして既存の絵と何枚か新作を加えた画集を出版していた。書店以外にもオンライン販売もしているという話は聞いていたけれど私はそこまで売れないだろうと思っていた。しかしある日小堺さんからメールがあり、画集が飛ぶように売れていて重版が決定したと書かれていた。元々絵本のファンだった人達が画集が出たとSNSで紹介していて、そのツイートを見て気になった人が買う、またその人がSNSで紹介する、そしてそのツイートを別の人が見るという数珠つなぎで書店やオンラインストアで欠品が続いているんだそう。絵本のファンがそんなにいたと知らなかったし私に入ってくる収入もこんなものなのかなとしか思っていなかったけれど、小堺さんが言うには絵本でこれほど売れる人はなかなかいないそう。だって大ベストセラー作家が身近にいるんだからわかんないよ……。前世アルバイトしてたときよりは若干多いなとはおもってたけど比べてる人が優作さんじゃだめだったんだね……。そりゃだめか。画集が売れたことで絵本作家を続けながら画家としても活動を始めた。画家と言ってもバンバン作品を出すわけでもなく、気が向いたときにオンラインストアで新作を販売したり、値段は上がるがオーダーを受け付けてたりしていて、流石にこの家を絵具まみれにするのは嫌だったので幼少期過ごした別荘を改装しアトリエとして使っている。

 

「ほーちゃん、快斗もうすぐ着くって」

「はーい」

 

ウェブ会議アプリで絵本の次回作の打ち合わせを終わらせ自室からリビングに降りると新くんがきなこを撫でながらテレビを見ていた。きなこは生後5ヶ月経つがしば犬くらいには大きくなっていて、5ヶ月でこれだけ大きいなら成犬になるとどれだけ大きくなるんだろう。まだ散歩には行けないけれど外慣れのため車でドライブに連れて行ったりしている。

 

今日と明日は黒羽夫妻が2日ほど出張で家を開けるのでその間快くんを預かることになっていたのだ。ピンポーンとチャイムが鳴ったのでインターホンに向かって入ってきて〜と言って急いで玄関に向かう。

 

「はいはーい、快くん久しぶり〜」

「誉ちゃん久しぶり~」

 

重そうなキャリーケースを持った快くんが登場した。……なんで2泊3日でそんなに大きいキャリーケースが必要なの。マジックで使う物が色々入ってるんでしょうね。快くんに先に洗面所で手を洗うように言い、自分は千影さんに快くんが着いたことをメッセージアプリで送りキッチンに行ってお茶菓子を準備する。

 

「誉ちゃん手洗った~」

「ジュース持っていくからリビング行ってな」

「へーい」

 

ケーキ3つと紅茶の入ったティーポットとカップをトレーに乗せてリビングに行く。

 

「男どもケーキだぞー」

「やったー!」

「2人ともどれがいい?」

「俺モンブラン!」

「フルーツタルト」

「はいどうぞ」

 

2人にケーキを乗せた皿を渡しテーブルにカップを置く。私は残りのショートケーキをいただく。

 

「ワフ?」

「きなこは食べれないよ」

「ワフ」

 

わかったって言ったのかな?食べる物が無いとわかると撫でろと頭を擦り付けてくる。

ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙がわ゙い゙い゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙!!!!きなこが満足するまで撫でさせていただきます……!!

 

「ここほーちゃんとこの出版社の近くじゃねぇの?」

「ん?」

 

新くんがテレビを指さしていたので見ると、空きビルでガス漏れがあり爆発事故が起きたらしい。ニュースキャスターが慌ただしく事故の内容を説明している。

 

『本日11月6日に米花町〇〇地区で爆発事故が発生しました!現在警察により現場検証が行われているものと思われます!只今ヒルデスデスを変更し爆発事故が起こったビル上空の映像をお送りしています!』

 

「ホントだ」

「うわ、屋上ボロボロじゃん」

「連絡は?」

「LIMEしてみる」

 

小堺さんに安否確認のメッセージを送る。数分経っても既読がつかない。流石に避難してるか。

 

よほど事故が気になるのか新くんはニュースを噛りつくように見ている。新くんは今も探偵になりたい夢は変わっておらず、一方快くんは将来盗一さんのようなマジシャンになりたいとずっと言ってる。会う度会う度ずっと言ってる。ちなみに黒羽夫妻は怪盗KIDについて話していないのに快くんが高校生になったら2代目怪盗KIDにさせるらしい。強制なんだよね……。優作さんと盗一さんは息子達には2人の遊びの延長が工藤優作vs怪盗KIDになっていることを話さずにいる。理由は真剣に探偵VS怪盗をしてほしいんだって。男の子って何歳になっても楽しそうだよね……はは……。私は何も言うまい。

 

「新一テレビ変えようぜー。おもろくなーい!」

「そうだそうだー、録画したタイ○ニック見たいー」

 

快くんと2人でテレビ変えろーと言っているとぐぬぬぬと顔をしかめながら新くんが録画したタイ○ニックに変えてくれる。

 

「新くんやさしー。優しい子には誉さんがハグしてしんぜよー」

「いらねぇしっ!きなこにしろよ!」

「ふーふー!新一君ってば照れてやんのー」

「バ、バロー!そんな訳ねぇだろっ!」

 

君達本当に仲良いね。お姉さん嬉しいです。

言い表せない嬉しさで2人同時に抱きしめる。

 

「ほーちゃん!?」

「なんで!?」

「2人とも大きくなるんだよ…!」

 

よし、決めた!!新くんを江戸川コナンにさせない!

新くんも快くんも私が守る!!

2人を危険な目に合わせない!!

 

「私、2人に彼女ができるよう応援してるから!!」

「「はぁ!!?」」

「急に何言ってんだよ!!」

「誉ちゃんが壊れたー!!」

 

自分の決意を示すかのようにもう一度ぎゅうっと強めに抱きしめる。

 

「ちょっ!?ほーちゃん当たってる!当たってるから…!」

「や、やわ…!」

「ワフ!」

 

きなこも一緒に応援しようね~。満足したので2人を離し、タ○タニックの続きを見る。

 

「普通にテレビ見始めた……」

「諦めろ快斗、ほーちゃんを理解するなんて絶対できねぇからよ……」

 

レオ様イケメンすぎでしょ……。そりゃ世の女性がガチ恋するわけだ。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

「新くん忘れ物ない?カイロ持ってる?」

「大丈夫。行ってきます」

「うん、楽しんでね!」

 

新くんは今日から修学旅行で山形に行く。生徒手作りの旅行のしおりを見るとスキーをするらしく、原作のゲレンデ推理対決の回だと思う。じゃあ優作さんと有希ちゃん帰ってきてるんだね、私に何も言わず、私を誘わず、2人だけで山形に行ってるんだね。修学旅行当日まで何も考えずにいたけどイライラしてきた。無言で優作さんに高級サクランボ買ってきてとメッセージを送る。有希ちゃんには許さないとだけ送る。精々雪女に怖がってろ!!

 

♪~

 

電話の着信音が鳴った。画面を見ると母の文字。

 

「もしも~し」

『誉、今良いか?』

「うん大丈夫だよ。どうしたの?」

『今空港でな、今家にいるか?』

「い、いまから!?家にいるけど、急だね…」

『すまない、連絡しておきたかったんだがトラブルがあってな』

 

その後二言三言話し電話を切る。

 

「きなこー、今から私のお母さんが来るからね」

「ワフ!」

 

それにしても急だけど、空港ってトラブル多そうだし連絡し忘れることもあるよね。玄関を軽く掃除してお茶の準備をしているとチャイムが鳴る。新くんを見送った後門扉を閉じていたので開けようと玄関に出ると母と後ろにもう1人誰かいるのが見えた。背が高くてガタイがいいから男性ぽい?でもキャップを深く被っているから顔はよく見えない。お客さんいるんだ。

 

「ごめん!今開けるから!」

 

母とお客さんを通そうと急いで門扉を開けるとおもむろに腕を掴まれ引っ張られる。

 

「!?」

 

腕を掴んできた男性の方を驚いて見上げると緑色の瞳と目が合う。

 

エ゙ッ゙!!!???

 

「陣、誉を離せ。手荒く扱うな」

「チッ」

 

ジン!!!??

なんでここに!?しかも黒づくめじゃない!!!ショート丈のダウンジャケットにジーパン、い、今時な格好してる。足長。いやいやていうか本当にジンなの?長髪じゃないし、長髪だったとしてもあの髪の量をキャップの中に収納できるわけないし……。いやでもママがじんって言ってたし。はっ!!!?ママって黒づくめの組織だったの!?

 

混乱して固まった私に痺れを切らしたジンが引っ張って家に入る。そのまま手を引かれて勝手知ったるようにリビングに連れていかれ、リビングに着くと無理やりソファに座らされる。

 

「なんで間取り知ってるんですか!?」

「さあな」

 

ジンがキャップを取ると、やっぱり短髪だった。でも顔はジンニキなんだよなぁ……!!なんでママは来ないの!?この人について説明が欲しいよ!!

 

「黒澤陣」

「へ、あ、は、はい、くろさわさん…。あ、えと、く、工藤誉です!」

「よく知らねぇ男に自己紹介すんだな」

「え、くろさわさんも自己紹介されましたよね?」

「偽名かもな」

「偽名なんですか!?」

「本名だ」

 

な、何なんだこの人……。

 

「陣、そのくらいにしろ」

 

カップとティーポットを乗せたトレーを持って母がリビングに来る。やっと来てくれたぁ!!

 

「ままぁ…」

「ハッ、コイツが真面目ちゃんなんだよ」

 

鼻で笑われたんですけど!?

母から紅茶の入ったカップを渡されたので落ち着くために一気に飲む。……ふぅ、紅茶美味しい。

 

「陣、誉に説明したのか?」

「あぁ」

「名前しか聞いてないです」

「はぁ…。陣、名刺をくれ」

 

くろさわさんが懐から名刺ケースを出してテーブルに1枚置く。黒澤陣って書くんだ。原作と一緒だ。

……ん?

 

「……陸上自衛隊秘密情報部隊所属?」

 

自衛隊?黒の組織じゃなくて??

 

「えと、黒澤さんは自衛官…?」

「あぁ、陣は本来陸上自衛隊所属だ。だが今は別の仕事をしているんだ。…………」

 

母がくしゃくしゃに顔を歪める。

 

「あ、聞かない方がいいんだね。うん、大丈夫、何も聞かない。黒澤さんと会っても知らないフリする!」

 

黒澤さんは赤の他人。黒澤さんは赤の他人。本当は陸上自衛隊に所属していて今は黒の組織っていう犯罪組織に潜入してるなんて、私全く知らない。うん、私は裏のことなんて知らないただの米花町市民。

 

「おい、その黒澤さんって呼ぶのどうにかしろ」

「じゃあなんて呼べばいいんですか。ていうかまだ母とどんな関係なのか聞いてません」

「あぁ?」

「そんな顔しても怖くないですよ!」

 

母も秘密部隊に所属してて黒澤さんと同僚とかかな。

それならルパンさん達と知り合いだった理由もわかる。

 

「コイツは俺の上司。俺とお前は異母兄弟だ」

「………………ん?」

 

1文目は理解できた。想像通りだし。でも2文目はよくわからなかったなぁ。

 

「黒澤さん……陣さんと私が異母兄弟」

 

そういえば陣さんと私の目元が似ている。若干顔つきも似てる気がする。そして陣さんがジンニキなら日系ロシア人のはず。あ、私の生物学所の父親もロシア人だ……。

 

「もしかして父親の名前って……み、みはいろ」

「ミハイロ・グルキンだろ」

 

し、真実はいつもひとつ……ってこと!?(いやどういうこと!?)

 

そして陣さんに色々話してもらったけど、い、一旦整理しよう。

 

まず私と陣さんの父親であるミハイロ・グルキンについて。

彼はロシアの政治家でロシア国内では悪い噂で有名らしい。陣さんはミハイロの愛人の子供で6,7歳くらいまではロシアで暮らしていたが、身代金目的のテロリストに誘拐された。命からがら逃げだしたところに偶然母と陣さんが所属している秘密情報部隊の司令さんがいて話を聞いた長官さんは陣さんを日本に連れ帰った。その理由は子供の諜報員が欲しかったから。倫理観の欠片も無い……。一通りの戦闘技術を仕込まれた陣さんは10歳の頃から仕事をし始め、仕事を任されるようになってから当時鬼と呼ばれていた母と知り合ったらしい。鬼という名前の由来は仕事が鬼早くて鬼のように容赦がなかったから。ちなみに母と陣さんは知り合ってもう20年は経つんだって。ママが世界を飛び回っているのはアパレルの仕事だけじゃなかったんだね。いつもお疲れ様です。…………待て待て、聞かないつもりだったのに秘密情報部隊について若干知ってしまったような……。日本の裏のことなんて知りたくないんだけど。

 

「じゃあルパンさんと紛争地域で知り合ったのは、任務で紛争地域に行ってたからなんだね」

「私が負傷して動けずにいた時ルパンに助けてもらったんだ」

「……なんか壮大な話すぎて頭が追いつかない」

「生憎だがこれが現実だ。んで、だ」

「?」

 

……また目で会話してる。秘密部隊の隊員は全員これができるの?

話が終わったのか、母が持ってきていたトートバッグからA4サイズのクリアファイルを取り出して私の前に置く。

 

「機密事項って書いてありますけど……」

「工藤誉、お前を秘密情報部隊にスカウトする。喜べ、司令直々の要請だ」

「嫌です!!!!!」

「諦めろ。決定事項だ」

「ママ!!!!」

「私から司令に話した」

「ママ!!??」

「6年前を覚えているか、あの作戦はただの女子高生が立てるものではなかった。臨時隊員として頭脳面での支援が欲しい。そこで誉に力を借りたい」

「そ、そんなこと言っても私戦えないよ!?すぐ死んじゃうよ!?」

「絶対に危険な任務はさせない。働いてもらうのも作戦室で、だ」

「ぅぅぅ……!!!」

 

はい。皆さんの想像通り、権力には勝てませんでした。即落ち2コマって言った人誰!!?

だって拒否したら国外追放もあり得るかもとか言われたらサインするしかないじゃん!!

 

「でもさ…、なんで今なの?ルパンさん達と会ったの6年も前じゃん」

「最近まで大きめの仕事があってな。秘密情報部隊全体で多忙だったんだ。それと流石に学生は雇えないからな」

 

思わず陣さんを見る。

 

「俺は例外なんだよ」

 

さいですか。

 

「隊員は就学後の成人が採用条件だ」

「うん…、わかった」

「隊員として承認され次第、健康診断、体力検査、知能検査が行われる」

「あい……」

「臨時隊員といっても射撃訓練と筆記試験は受けることになる」

「しゃげき……?」

「訓練と言っても、誉は短距離用、中距離用、長距離用それぞれの拳銃の適性を見るだけだ」

 

気になるところそこじゃないんだなぁ。

 

「……その訓練はいつあるの?」

「今からだ」

「え゙」

 

いまから?

 

「承認が下りた」

 

陣さんが携帯を見て言う。

 

「早いな。司令も期待しているということか」

「だろうな。妹よ、良かったな」

「よくないーー!!」

 

いやだーー!!と暴れていたのに陣さんに素早く抱えられ、いつの間にか留められていた車に押し込まれる。車に押し込まれると多分隊員さんだろう人に目隠しをされた。母も一緒だと思っていたけれど声がしないのできなこの面倒を見てくれるんだろう。ありがとうママ!!きなこをよろしくね!!(泣)

 

ブーンと車が進んで行く。ウッウッ…!新くんがいればっ!新くんがいればサッカーボールで戦ってくれるはずなのに!

…………あ。新くんが修学旅行で家にいないから今日来たんじゃ。くそっ、嵌められてる!これもそれもあれも全部有希ちゃんが山梨に誘ってくれなかったからだ!!!やるせない気分のまま体感30分、40分経つと施設に到着してしまったらしく、車のエンジンが切られる。そして目隠しのままなぜか車椅子に乗せられどこかを移動していく。目隠しのまま椅子に座るの難しいんだね。

 

「目隠し外しますね~」

「あ、はい」

 

女性の声の後目隠しを外され眩しくて目を細める。徐々に周りの景色が見え始めると私がいるのは会議室のような場所だとわかった。目の前には移動式のテーブルに紙と鉛筆が置かれている。そしてスーツ姿で60代から70代くらいの男性がテーブルの前に立っていた。

 

「こんにちは工藤誉さん。いやお久しぶりです、と言うべきかな」

「マスター……」

 

目の前にはポアロのマスターが見慣れないスーツ姿でいた。

 

「改めまして、陸上自衛隊秘密情報部隊司令の黒澤新(くろさわあらた)です。一応階級は1佐になります」

「……田中太郎は偽名ですか」

「はい。山田太郎はシンプルすぎると言われてしまいましてね。……さて、今回工藤3佐から貴女を推薦されました。本来であれば訓練や試験を受けることになりますが、どうしますか?」

 

まるで私に選択肢があるかのように言うんだ。

 

「どっちも受けます」

 

ここまで連れて来られたからには私もただでは帰らないぞ!!

 

「そうですか。では始めましょうか」

 

マスターがそう言うと後ろで足音が私から離れていき、ドアが開閉する音がした。……2人きりになったのかな。

 

「早速試験を始めます。問題は貴女の前世について、です」

 

目を見開く。

 

「前世ですか」

「はい。前世です」

「く、黒澤さんは前世があると思っているんですか」

「はい。私は、貴女も西暦2000年以降の日本からこちらの世界にやって来たと考えています」

 

あなた、も?

 

「じゃあマスターも……!?」

「ご想像の通りです。私は前世ではあああああという名前で暮らしていました」

「あの、お名前をもう一度いいですか?」

あああああです」

 

聞き取れない……。何か喋ってはいることはわかるけれど言語として認識できない。試しに私の前世の名前も言ってみよう。

 

ううううう

「これは……」

 

やっぱり。私の名前も聞き取れないみたいだ。神様かなんかが前世の名前だけ聞かれないように魔法でも使ってるんだろうか。でも何で名前だけ?

 

「マs……黒澤さん、私は前世通り魔に殺されました。次に目が覚めると赤ん坊でした。黒澤さんはどうやってこの世界に来ましたか?」

「私は……何もしていません。夜眠り、朝起きると知らない少年になっていました。強いて言うならば、前世も陸上自衛隊の自衛官として勤務していました。ですがその日は非番でしたから、特段変わったことはありませんでしたよ」

 

私達2人に共通点は無い。いや本当に無いの?何か同じことが起こってたとか、思ってたとか。いやマスターは非番って言ってたし、私は殺されてる。殺人なんて普通じゃなさすぎる出来事だし……。

 

「あ。……私、変わりたいって思ってました」

「変わりたい、ですか」

「私前世では貧乏な大学生でした。毎日毎日バイトと大学だけで生きるのに精一杯で。だからあの時バイト明けで疲れてたからか、こんな生活変えたいなって思ってました。そのすぐ後に刺されて死んだらここにいました」

「なるほど……」

 

思い出さずにいたけど、マスターと話していて思い出した。前世では心身が疲弊していくのを感じながら日々過ごしていた。異世界転生系のアニメを見ていたのもあってか、異世界転生して今の生活を手放したいと思う時もあった気がする。

 

「黒澤さんはどうですか」

「……私は、あの日々を変えたいとは思っていませんでした。同じ部隊の仲間と切磋琢磨する日々を変えたいほどの想いは無かったはずです」

 

そっか……。じゃあ本当いい共通点は無いのか。

 

「…………黒澤さんは戻りたいですか?」

「昔は戻りたかったです。ですが、今は自分がわかりません。案外この世界も楽しいと思っているんですよ」

「そう、なんですね」

 

自分が前世に未練がなさすぎて戻りたいなんて全く思ったことがなかった。でもマスターは違う。前世、いやマスターは並行世界になるのかな?元の世界にいた時も充実していたんだろうと思うと、私はこの世界でずっと暮らしていたい、戻る方法なんて考えたくないとはマスターに言えなかった。

 

「ありがとうございました。改めてまたお話を伺うことがあると思いますが、よろしいですか?」

「はい、大丈夫です」

「では私はこれで失礼します。あぁ、もう車椅子から降りていいですからね。射撃訓練には徒歩で構いませんよ」

「あ、はい」

 

マスターが出てからすぐにさっきいた女性の隊員さんが部屋に入ってきて、射撃場に案内される。

 

「私ぃ桜小路花美(さくらこうじはなみ)って言いまーす。よろしくお願いしまーす」

「よろしくお願いします」

「ちなみにぃ階級は1尉なのでーほまほまと一緒になりますよー」

「ほまほま?……もしかして私がほまほまですか?」

「はーい誉ちゃんなのでほまほまですよぉ」

 

なんか掴めない人だな。はなはな(桜小路さんに呼べと言われた)に案内されてプレートに射撃場と書かれたドアを開けると海外映画の射撃場のような空間が広がっていた。

 

「ほまほまお好きなの選んでくださーい」

「こ、ここからですか!?」

「はーい。小さいのでもー大きいのでもなーんでもいいですよぉ」

 

壁に面したテーブルに無造作に色々な銃が置かれている。何でもいいと言われても……。でも映画で見てた赤井さんの長いやつ、確かスナイパーライフル……だっけ?あれ打ってみたい気もする、ような。

 

「あの長いの行きますぅ?マクミランTAC-50っていうだいたいどこの軍にもあるライフルですねー。じゃー準備しますねぇ」

 

気づけば準備が終わっていた。ライフルは地べたで打つものらしく、構え方やリロードの仕方を一通り教えてもらう。

 

「お好きなタイミングでどーぞー」

「は、はい」

 

訓練だし、気軽に、気軽に。深呼吸をゆっくりと1回する。

耳栓をしてスコープ越しに人型の的の中心を狙う。

 

パンッ

 

「!!」

 

は、反動がすごい……。ちゃんと構えてないと押されてしまう。反動で耳栓が落ちる。

 

「……。ほまほまー、もう一回お願いしまーす」

「わ、わかりました…!」

 

床に転がった耳栓を拾って付け直してもう一度的の中心を狙う。

 

パンッ

 

ぐぅ……これに毎回耐えてるんか、あの赤い人……!

 

「ありがとーございまぁす。訓練はこれで終わりでーす」

 

またしても気づけば綺麗に片付けられてしまっていた。次は健康診断体力測定のためどこかの部屋に連れて行かれる。

 

「ここでーす。あとは中の看護師が説明するのでぇ私の出番はーここまでです」

「あ、はい。ありがとうございました」

「いえいえ〜」

 

では〜と振り返らず手をひらひらさせながらはなはなは去っていった。

その後特段変なこともさせられず、普通の健康診断と握力や腹筋など学校で行うような体力検査をさせられた。それが終わればまた車に押し込まれて今度は目隠しされずに家まで返された。私と入れ違いで母は車で去って行ってしまった。

 

「きなこ、散歩行こうか」

「ワフ!」

 

疲れたけど散歩は行かなきゃだもんね。

ていうか、秘密部隊ってなにするんだろ?臨時ならそんなに任務とかにも駆り出されないだろうし、母はああ言ってたけど痛いのは嫌だなぁ。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

「あんな素人も素人が2発的中だと!?は、はんっ、まぐれだろ…!」

「でも2発撃って2発当ててるんですからぁ的中率100%ですよぉ。先輩の方が下手ですねー」

「ばっ!誰が下手だ!!」

 

司令室と書かれた一室では男女6名が各々立っている者やソファに座っている者がいる。

 

「誰ってぇ先輩ですよー」

「てんめぇ!!」

「おい止めろ、司令の前だぞ」

「はーい」

「チッ…!」

 

立っている者達3人の中には桜小路花美もいる。

 

「お前知ってたのかよ」

「……いや、誉は生まれてから一度も銃なんて触っていない」

「サバゲーとかしてないんですかぁ?」

「そういった類の物は怖いからしないと言っていた」

「んなら天性の才能ってやつですか!?」

「ハッ、あながちそうかもな。兄弟揃って銃の才があるとは難儀なもんだ」

 

陣がタバコをふかしながら呟く。

 

パンッ

 

司令室の部屋の主が突然手を叩く。

 

「彼女の成績は申し分無さそうですね。この中で工藤誉さんの部隊所属に意義を唱える者はいますか?」

 

誰も手を挙げず一言も話さずにいる。

 

「では彼女の部隊所属を承認します。桜小路1尉、工藤誉1尉についてお任せしても?」

「了解しましたー」

「はい、ではこれにて会議を終了します」

 

黒澤新司令の一言で隊員達が退出する。

 

『私は前世通り魔に殺されました』

 

黒澤は先ほどの誉の言葉を思い出していた。そして無意識に工藤誉と書かれた文字を指でなぞる。

 

「……誉さん、貴女は神にでも愛されているんでしょうか」




ここまでお読みいただきありがとうございました。
なんか色々出てきましたね。原作キャラ達がゲレンデで推理対決してる一方で誉さんは大変な目にあっていました。
そしてやっと登場させることができましたジンニキ!!!みんな大好きジンニキですが味方キャラで登場させてます。
秘密部隊はモロvivant見て思いつきました。面白いですねあのドラマ。
それ以外にも色々オリキャラを何人か出しましたが、これから関わる時は諸伏さん救出とかゼロシコ編書く時とか黒の組織壊滅編とかですかね。(黒の組織とかは書くことができるかわかりませんが)
マスターは今でも普通にポアロのマスターとしても働いてますので、これからポアロに行けば普通に会えます。今後誉さんがポアロでバイトさせられるかもしれないませんね。

ではではまた次回までお待たせするかもしれませんがよろしくお願いします。
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